第39話 温泉郷と伝説の城8
【2022/06/28追記】
(注意)すごく久しぶりに更新させて頂くにあたり、以下の設定変更を行っています。
・マルティナの若返り後の年齢設定を10歳⇒17、8歳に変更
・若返り後のマルティナの口調を変更
上記変更の影響範囲は以下の話になります。良かったら見直してみてください!
■ 第29話 マルティナと屍竜使い19
■ 第30話 マルティナと屍竜使い20
■ 第31話 マルティナと屍竜使い21
■ 第32話 温泉郷と伝説の城
■ 第33話 温泉郷と伝説の城2
■ 第34話 温泉郷と伝説の城3
■ 第35話 温泉郷と伝説の城4
■ 第36話 温泉郷と伝説の城5
■ 第37話 温泉郷と伝説の城6
■ 第38話 温泉郷と伝説の城7
数時間後――
ワシとティナとドナの三人は、『土遁』の追加特技の効果で地下深くに潜っていた。
目指すのは、ドナの言っていた城騎士本体がいる場所である。
元々、ドナは元々触らぬ神に祟りなし派だ。
城騎士が飽きてどこかへ行くまで放っておいた方が危険は少ないと言っていた。
が、ワシらの力と作戦を聞いて協力する気になってくれたようだ。
こちらも、ドナや仲間のドワーフ達の力を借りる必要があるため、それは助かる。
「もうすぐ見えてくると思うだ……!」
「よし、このまま真っすぐ下じゃな……!」
「何か聞こえて来るな」
ティナの言う通りだった。
フンフーン、フフンフーン♪
みたいな鼻歌が土の中を進むワシらにも聞こえて来る。
余程大きな声の鼻歌だ、という事だ。
「しかしヘタクソな歌だ」
ティナはバッサリ切って捨てていた。
「ま、まあのぉ……」
「マルティナちゃん、そんな事あいつの前で言ったら怒らせちまうべ? あいつが暴れ出したら手が付けられねえし、気を付けた方がいいべよ?」
「なあに大丈夫だ。諸々全部含めて、アッシュが何とかしてくれるさ。アッシュの立てた作戦は完璧だぞ? 何せアッシュが立てたんだからな?」
「あははは……まあマルティナちゃんがアッシュ君が大好きだっちゅーのだけは、めちゃんこ伝わってくるべなぁ」
「ん……!? 見えてきたぞい、空洞じゃ……! 飛び込むぞ!」
「ああ、行こうアッシュ!」
「よ、よし……! 行くべ!」
ワシらは地下空洞の側面から、内部に飛び出した。
あちこちに大小の岩塊が散らばった殺風景な光景。
だが温かい湯気で充満しており、視界が曇りそうなほどだった。
その中央の広大な空間が、湯気を立てる温泉の湯船のようになっている。
そしてそのお湯の中に、巨大な城が浸かっていた。
「お、おお……! 本当にでっかいのう……!」
「あれが城騎士か――!」
「ああ……! そうだべ……!」
これが魔王と戦う勇者のための要塞。歴史のロマンの塊だ。
城騎士というだけあって城の外壁の部分から大きな岩の手が生えていて、それを湯船の外に放り出している。城部分の底面から生えている足も同じだった。
その姿勢は、風呂に浸かってダラダラしているオッサンそのものである。
鼻歌まで歌って、何ともゴキゲンな様子だった。
「ははっ。何だか気持ちよさそうにしておるのう」
「だが奴があそこに陣取っているせいで、上に温泉が出なくなっているんだろう?」
「んだ、もう何日もあのまんまだべ」
「そいつぁ、長風呂じゃのう」
「あんな石や岩の塊が温泉に漬かってもな。無駄な事をする奴だ、それにやはりヘタクソな歌だ」
ティナが呆れたようにため息を吐く。
「るせえぇぇっ!」
鼻歌が止まり、空気がびりびりと震える大音声。
一体どこから出しているかは分からないが、城騎士の声だ。
こちらの話声も聞こえていたようだ。
「俺様はお疲れなんだよ! それはもうありがたい勇者様のお城だぞコラァ!? 敬って崇め奉りやがれっての! てめえらには世界を救って貰った感謝っちゅーもんがねえのかよこの恩知らず共があぁぁぁっ!」
「いつの話をしている。過去の栄光に縋るだけの老害はみっともないぞ。過去は過去、常に今の自分で勝負をするのだな。それが出来んなら、人に迷惑を掛けずに静かに隠居していろ。それが潔いという事だ」
ティナが結構芯を食ったような説教をして見せる。
昔ワシといた頃は結構口下手で、舌足らずな面もあったものだが。
見た目とノリが若い頃に戻っても、隠し切れないものがあるという事か。
この可愛らしい見た目ではっきりとした威厳を漂わせるティナは、正直少し、いやかなり魅力的に映る。とても新鮮だ。
「……おいねーちゃんよ、ちょっと可愛いと思って優しくしてやりゃあつけあがりやがって、人の風呂場に乗り込んでくるような奴は痴漢って言うんだぜ……!? 場合によっちゃあ殺されても文句は言えねえ、分かってんのか……!?」
ティナは肩にかかった髪をかき上げる仕草で、フンと鼻を鳴らす。
「やってみるがいい。やれるものならな」
ここでティナが城騎士の注意を引くのは、作戦の一環でもある。
ここはあえて、ワシは成り行きを静観する。
「いい度胸だコラァ! ハダカにひん剥いて、古来より伝わる伝説のあのセリフを吐かせてやるからなァ! 覚悟しとけえぇぇぇ!」
城騎士は自分の体の中に手を突っ込むと、何かを取り出してこちらに投げて来る。
それは、見覚えのある石の巨人だ。
ワシのアイテムボックスにも【収納】している食人鬼の化石だ。
それがゴミを放り投げるように、何体も次々に。
あっという間に十体以上になり、ティナやワシ達を取り囲んだ。
「ではアッシュ、ここは私に任せるんだ……!」
「ああ、だが思ったより数が多いんじゃが……大丈夫か?」
「大丈夫……! あちらが勇者の城ならば、こちらは勇者の剣だ――!」
ヒュイイイイイイィィィィィンッ!
ティナの足元に、神々しく輝く魔法陣が展開しどんどん広がって行く。
その緻密な文様が高速で広がって行く様は、それだけでもはや芸術だ。
「何いぃぃぃぃ……ッ!? それは聖剣の魔法陣じゃねえか……!?」
「聖剣、降臨ッッ! 出でよ『聖剣セイクリッドティア』よ!」
魔法陣の中心部分が歪んで、その中からゆっくりと、剣の柄が浮かび上がって来る。
続いて煌びやかな装飾と、透き通るような半透明の刀身も。
とにかく美しい、見る者を魅了するような剣である。
それに負けない魅力を持つティナが握ると、余計にそう思える。
魔法陣から巻き起こる風が、ティナの髪やスカートの裾を揺らす。
むちっとしたふとももが覗いて、その先が見えそうで見えないのもまた魅力的だった。
――そんなところに注目してしまうワシも情けない限りだが。
だが本能には逆らえなかった。申し訳ないが。
と、ティナが二、三歩移動してすぐ傍の岩塊の上に乗る。
……角度が修正され、見えそうで見えなかった領域が見えた。
「ティ、ティナ……!」
「?」
「そ、そこは下りた方がいい。そのう……中が見えて――」
「見せているんだ! どうだ? 興奮したか?」
ティナは満面の笑顔でそう返して来る。
「いや……それを言ってしまったら、効果半減というかなんというか……」
「ほら、遠慮するなアッシュ! もっと近づいて思いっきり見ていいぞ?」
「わ、分かった分かった……また今度そうさせてもらうとしようかの」
聖剣もこんな事に利用されて怒らないだろうか?
だがワシの心配をよそに、キラキラと輝く聖剣は、ティナの手の中で満足そうな輝きを放っている。
「そうだな。邪魔者を片付けてからゆっくりしような?」
「いや邪魔はしねえ……! 暫くそのままそこに立ってていいぞ……!」
その声は、城騎士のものだ。それはティナの足元のほうから聞こえる。
オーガの石像が一体、ティナが立つ岩の側に寝ころんでいた。
その目線の先は、角度的にどう見てもティナの――
「貴様あああああぁぁぁぁぁッ!」
ティナが眉を吊り上げて、聖剣を一閃。
ヒイィィンッ!
聖剣波動がオーガの石像にぶち当たり、顔面を弾き飛ばした!
さすが『聖剣セイクリッドティア』。
さすが聖剣を使いこなす【聖戦士】であるティナだ。
「アッシュ以外の者が私を汚すなど、絶対に許さんぞ……! こうなれば勇者の遺物だ歴史のロマンだなどは関係ない……! 貴様の存在をこの世から抹消すれば、私がアッシュだけのものである事実は保たれる……! ふふふふ、覚悟しろおおおおぉぉぉッ!」
ティナが聖剣を振り翳し、オーガの石像の群れの中に飛び込んで行く。
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