第38話 温泉郷と伝説の城7
「とうっ……!」
ぽこんっ!
まるでタケノコのように、地面からワシの体が半分飛び出した。
先程手に入れたばかりの『土遁』を試してみた結果だ。
体がずぶずぶと地面の中に埋まって行く感覚は中々不思議で、その後土の中では自分の意志で移動する事が出来た。息が苦しい、という事も無い。
とりあえず少し移動して、こうして顔を出してみた次第である。
「わっ! 地面からアッシュくんが生えただ……!?」
「ほほう、これは――地中を自由に移動できるようじゃ!」
「おお……! また新しい特技を覚えたんだな? アッシュ?」
「そうじゃ、さっきの石の巨人を収納して――な。土の中を潜って動き回れそうじゃぞ」
「なるほど――さっきの奴も土の中を潜航して現れたのかも知れないな。その特技をそのままアッシュが【収納】したわけだ……って、アッシュ? どこだ?」
ティナがきょろきょろとした時、既にワシは地面の中だった。
真後ろに回って、驚かせてやろうというちょっとした悪戯だ。
土中から見上げると、地上の様子はほぼ見えない。
よく分からなかったが、だいたいの目測を付けて――
ぽこんっ!
「……!?」
ぼふっ。
目の前が薄暗かった。
「きゃっ……!? な、何をするんだアッシュ……! いきなりスカートの中に顔を突っ込むなんて……!」
「す、すまん……! わざとではなかったのじゃが……!」
ワシは慌てて、ティナのスカートの中から抜け出した。
「べ、別に謝る必要はないんだぞ? アッシュならいくらでも私のスカートに顔を突っ込んでくれて構わない。ただ――人前では少し恥ずかしいかも知れない。宿に帰って二人きりになったら、ゆっくりスカートに顔を突っ込んでくれ」
「い、いや、今のは事故でじゃな……! ワシはそんな……! と、とにかくティナも一緒に地面に潜ってみるかの? なかなか面白いぞ」
「ん……? おお、私も連れて行けそうなのか?」
「分からん。だから試してみるのじゃ。さぁ――」
ワシが差し出した手を、ティナは笑顔できゅっと握り締める。
「よし! 面白い。行ってみよう、アッシュ!」
「おうさ!」
ワシと手をつないだティナの体が、まるで水に沈むように地面に潜行した。
ぽこんっ! ぽこんっ! ぽこぽこぽこぽこんっ!
ワシとティナの顔が、ドナの周囲のあちこちに、ポコポコと顔を出す。
「おお……! ティナも連れて行けるようじゃな」
「地中移動は不思議な感じだな! なかなか面白い!」
「あはははっ。二人がぽこぽこ顔出して、モグラ叩きみたいだべ」
そう言って笑顔を見せるドナとひとしきり戯れていると――
地中に潜ったタイミングで、ティナが下方向を見てワシに囁く。
どうやら地中で会話もできるようなのだ。
「アッシュ。このままこの力で下へ下へと潜って行けば、城騎士のいる場所に出るんじゃないか? 先程の化物もこの力で上がってきたはずだ」
「そうじゃな。遠くから騒ぎも聞こえず、いきなり街中に現れたようじゃからな」
あれが街の外から陸上でやって来たのなら、街が大騒ぎになってそれが耳に入っていたはず。だがあの瞬間、そのような様子は無くいきなり建物の壁が破壊された。
つまり、地中からいきなり出てきたため、騒ぎになる間も無かったという事だ。
「……行ってみないか? 大きな被害が出る前に、騒ぎを収めるべきだ。怪我人が出るのもそうだし、温泉が止まったままの宿が潰れてしまうのもまずい」
「そうじゃな――善は急げと言うし、ティナの治めたこの国のためじゃ」
「迷惑をかけてすまない。アッシュ」
「なんのなんの。ワシには五十年以上も待たせた借りがまだまだある。ティナのためなら何でもするぞい」
では一度地上に出て、ドナとも話をしておくべきだろう。
「アッシュうぅぅ~。大好きだぞ~♪」
ぎゅっと抱き着いて、頬に熱烈なキスが飛んで来る。
「こ、こりゃティナ。あまりくっつくと上手く地上に出られ――」
ぽこんっ!
「ひゃんっ!?」
むぎゅっ!
ふらふらしながら地上に出たワシの顔は、何か柔らかくて弾力のあるものにぶつかっていた。
「あ、アッシュくん……! だ、ダメだべ、そんな事しちゃあ。女の子のお尻にいきなり抱き着くなんて――」
ドナが少々顔を赤らめながら、困り顔を浮かべている。
「うぉ!? す、すまん、目測が狂ってしまっての――」
「そりゃ仕方ねえべが、こんな事してマルティナちゃんに怒られても知らねえだよ?」
「ん? 今のは、不可抗力だろう? そんな事で正妻は動じたりはしないぞ?」
ゴゴゴゴゴゴゴ――――!
笑顔のティナを、光のオーラのようなものが包み始めていた。
「ひっ!?」
何か異変を察知したドナが、声を上げる。
「ドナ……『聖剣セイクリッドティア』を知っているか? いかに伝説の遺物と言えど、時折は手入れをしてやらなければいけないんだ。実戦で切れ味を試しておく事もな――ふふふ……その相手になってくれないか? ふふふ……」
「ま、待つんじゃあティナ――! こんな事で聖剣なぞ……!」
「……分かっている。冗談だぞ冗談」
しかし顔は思い切り拗ねているが、とりあえず思い止まってくれたので良しと――
「ん……? いや、そうじゃ聖剣! 聖剣じゃ――!」
ワシの脳裏に、閃くものがあった。
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