第35話 温泉郷と伝説の城4
「アッシュ! 良かったぞ、すごく良かった! 皆がアッシュの強さに度肝を抜かれている! こんなアッシュが見たかったんだ! いやあ、我慢して我慢して我慢して長い間待っていた甲斐があったなぁ! こんな楽しい老後が待っているとは……! これからもどんどん、世の中の少々腕が立つ程度でイキり倒している未熟者共を叩き伏せてやろう! な!?」
「いや……それは結局ワシが一番イキっておる事になるような……ティナは自分でやらんのか?」
「ああ! 私はアッシュが皆の度肝を抜く所を見るのが好きなんだ! 自分でやってもつまらない! 複雑な乙女心というやつだな♪」
ティナはニコニコと可愛らしい笑顔で、ワシの顔を胸に抱き寄せて言う。
「ははは、複雑というか、歪んでおると言うか――」
「何を言うんだ。夫を立てる妻の鏡と言って欲しいぞ」
「物は言いようじゃのう」
「そうだな。伊達に年は取っていないぞ」
そんなワシらの前に解放されたドワーフの少女がやって来て、深々と頭を下げてくる。
「ありがとうございますだ! 本当に助かっただ!」
そしてワシの手をぎゅっと握った。
「アッシュくんって言っただか、人間の子供はまだスキルさ覚えねえから弱いって聞くべが、アッシュくんはめちゃくちゃつええだな~!」
嬉しそうにぶんぶんと振る。見た目より結構力強い。
「ほっほ。まあ大した事はありませんがの~。それより怪我はありませんかの?」
「ねえだ! あははっ、アッシュくんはおかしな喋り方するだっぺなあ」
「……いや、お互い様じゃと思いますがのう」
まあこの少女の場合、ドワーフとしては標準語なのかもしれないが。
「おら、ドナっていうだ! ドワーフだべ。 敬語とかは堅苦しいから普通に話して欲しいだ!」
明るく健康的な笑顔が、なかなか好印象である。
「ならそうさせてもらおうかの」
「こっちのお姉さんは、アッシュくんのお友達なんだべか?」
と、ティナに顔を向ける。
「マルティナだ、よろしく頼む。恋人。婚約者。妻。まあ、どれかは想像に任せよう。な、アッシュ?」
「ま、まあそうじゃの――」
別に文句は無いが、少々気恥しさを覚える。
「ええぇぇっ!? ちょ、ちょっと年が離れ過ぎてねえべか? マルティナちゃん、それはまずいんじゃ……」
「はっはは。気にする事は無いぞ。愛があれば見た目上の年の差など」
「は、はあ……まあ本人達がいいなら、おらが口挟むような事じゃねえべが……」
「それで、何故ドワーフのドナが冒険者ギルドで取り押さえられておったのかのう? 事情を聴かせてくれんか?」
ドワーフは人間と敵対する種族ではないが、地下トンネルを掘りそこに自分達の里を作って暮らしている者が殆どだ。
鍛冶職人としての能力が高いため、そういう意味での交流や交易はあるが、それはごく少数の者だけだ。やはりこういう場所で見るのは珍しい。
「実は――おらたちの城を攻撃しないようにお願いしに来たんだべ」
「城……? そんなもん、どこかにあったかのう……?」
この温泉郷に城など無かったが――?
「地上に無いとなれば、地下か? ドワーフは地下を好むものだ」
と、ティナが推測する。
「うんだ。確かにここの地下に、おら達ドワーフが発掘した城が来てるんだべ」
「来ておる……じゃと?」
そのドナの表現がワシには気にかかる。
その表現ではまるで、城が地下を移動してきたように聞こえるが?
「もしや、地下にある城を移動させて来たと言っておるのかの? ドワーフの技術は凄いものなんじゃのう」
「いいや、そうじゃねえべ。おらたちも城は発掘しただけなんだべ。ある日勝手に喋り出して動き出して、散々あちこち連れまわされた挙句、ここまで連れてこられちまっただ」
「城が喋る……!? 動く……!?」
荒唐無稽な話だ。が、世の中何があるか分からないもの。
ワシの【収納】スキルも、熟練度9999に到達していきなりとんでもない強さを発揮するようになったのだ。
何があっても不思議ではないのだ。
「んだ。信じられねえのはよく分かるべ。おらもこの目で見なきゃ信じられなかったべ」
「それはもしかして……城騎士の事かも知れないな」
ティナがぽんと手を打つ。
「うんだ! あの城もそう言ってただ! マルティナちゃんは物知りだべ!」
「ふふん。伊達に【大賢者】もやっていないぞ」
「ティナ、城騎士とは何じゃあ?」
「伝説の勇者の居城だと言われているぞ。自らの意思を持ち、陸海空を自由自在に動き回ったと伝わっている。世界を巡り邪悪と戦う勇者には、機動力と頑強さを兼ね備えた移動要塞が必要だったんだ。神が世界に遣わせた天使の一種と考えても良いと思う」
「ほぉう……! そいつは凄いものじゃなあ、是非いっぺん見てみたいものじゃ」
歴史のロマンというやつだ。最高の観光になるだろう。
「しかし……ではこの温泉郷の温泉が出なくなったのは、地下に城騎士がやって来たせいか? 恐らく、それで地層が変わってしまったんだ」
「うんだ。地下で城騎士が温泉のお湯を堰き止めちまってるんだべ」
「ふむぅ……? なるほど、それで上に温泉が出んのか――」
「アッシュ。ならば直接見に行ってみるのがいいかも知れないぞ」
「そうじゃのう、どんなもんか、興味もあるしのう」
「いや、それは止めて欲しいんだべ!」
と、ドナはワシ達を制止してくる。
「下手に刺激したら、城騎士が暴れ出して大変な事になるかも知れねえべ! このまま放っとけば、きっと飽きてまたどこかに行くだ! だから暫く静かに我慢を……ここの皆さんは地下を掘って調べようとしてるみたいだけど、それも止めて欲しいんだべ! 先には城騎士の生み出したガーディアンがいるだ! 襲われちまうだよ! もしそれを倒したとしても、城騎士を疲れさせて、余計に動かなくなっちまうだ!」
しかし温泉郷の側としては、そう言われてはいそうですかとは従えないだろう。
温泉が湧かないのは死活問題である。
原因が分かったのならば、一刻も早く何とかしたい、と思うだろう。
「ふざけんな! そんな事言って俺達を諦めさせようったって、そうは行かねえ!」
「そんなバカみたいな話! 実際見なきゃ信じられねえんだよ!」
「こいつを捕まえて仲間を脅せば、温泉を戻せるかもしれん!」
案の定、聞いていた周囲の冒険者からは異論が上がっていた。
「で、でも……! 本当に危ないべ! 伝説の城騎士って言ったって、決していい奴じゃねえんだべ! おらの仲間達も無理やり……!」
ドナは危険を伝えに来たが、それが信じて貰えない――というわけだ。
確かにドナの主張が正しいかどうかは、実際見てみなければ分からない。
だがドナとしては、近寄るな見るなと言っているわけで――
「ふうむ……」
とワシが唸った直後――
ドガアアアアアァァァンッ!
唐突に冒険者ギルドの、屋根の部分が崩壊する。
「!? な、何じゃあ……!?」
大穴が開いて見えるようになった外の景色の中には、巨大な影が佇んでいた。
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