第34話 温泉郷と伝説の城3
「が、ガーディさん。何もあんたが相手しなくてもいいんじゃないか?」
「そ、そうだぜ――あんな子供なんだからさ……」
「あんた加減を知らねえから、子供が死ぬ所なんて見たかねえよ……」
どうやら名乗り出た男はガーディというらしい。
その登場に、他の冒険者連中は慄いている。
「愚か者が。あれを見てまだあの子供の力が分からんか。あのアレンという男が、貴様等の中では一番の実力者だっただろう。それがあの扱いだぞ――」
どうやらその口ぶりから、流れ者の冒険者が最近このギルドに居ついているという様子だろうか。
冒険者にもいろいろあり、一つのギルド支部に拠点を置いて長く活動する者もいれば、各地を転々として、色々な支部に顔を出す者もいる。
熟練度9999に到達する前のワシは前者。この男は後者だろう。
「普通、スキルは15歳にならねば授かれん。子供というのは無力なはず。それがあの力とは、余程規格外の天才か、あるいは人の皮を被った魔物か――いずれにせよ、常識では測れん相手だ。ならば、私が出張る価値はある……」
「どっちもハズレですじゃ」
正解は、子供の皮を被ったジジイである。
「はん! 何を大物ぶっているのか知らんが、お前などアッシュの引き立て役に過ぎん! さっさとやられてしまえ!」
ティナが物陰に隠れながら、汚い野次を飛ばしている。
「…………」
ガーディという男は無視をしたが、こめかみがぴくっと動いていた。
多分、少々怒っている。
「ティナ。何で隠れておるんじゃ?」
「か弱く儚い少女が戦う思い人を見守るのは、物陰からと相場は決まっている! この方が気分が出るんだ! ああ、楽しい、楽しいぞ……!」
どこがか弱く儚いのだろうか?
【聖戦士】と【大賢者】のダブルスキルを極めた、歴史に名を残すレベルの偉人が。
そもそもそんな清純派は、汚い野次は飛ばさないと思うのだが――
「す、済みませんのう。旅が久しぶりで、興奮しておりますのじゃ」
「……構わん」
「しかし魔物扱いは心外ですのう。ワシはこの通りちゃんとした人間の冒険者ですぞい」
ワシは懐からゴールドの、Sランクの冒険者カードを取り出して見せる。
「おおお……!? あのカード――!?」
「Sランク……!? なら、アレンがやられたのも頷ける……!」
「だ、だったらガーディさんだって油断できねえぜ、何せ同じSランクだ……!」
周囲がざわつく中、ガーディという男はすらりと腰の剣を抜いた。
やや反りのある、切れ味の鋭そうな曲刀である。
「ならば遠慮はいらんな――私はガーディ・ガッド。スキルは【剣豪】熟練度61! さあ、お前も剣を抜くがいい!」
ワシの武器は、背中に背負った『黒竜鱗の大剣』である。
ドルミナと戦った時に破壊されてしまったが、バーヴェルがもう一本くれたのだ。
あの戦いですっかり気に入ってしまい、【収納】はせずに普段使いである。
ワシは『黒竜鱗の大剣』の柄に手をかけ――ようとしたが、やめておいた。
「いや、このままでええですわい」
「何……!? 私を舐めようというのか――!?」
今度こそ明確に、ガーディの顔に怒りが浮かぶ。
だが仕方ないだろう――ワシはガーディの流儀に合わせて、名乗ってみる事にする。
「ワシはアッシュ・アルバルト! スキルは【収納】熟練度9999!」
「何……!?」
ガーディが目を見開く。
「や、やっぱ子供なのにスキル持ってんのか……!?」
「あの外れの【収納】……!?」
「けど熟練度9999ってとんでもねえ数値だぞ、聞いたことねえ……!」
周囲もざわつくが、外れスキルの代名詞的存在と、超絶的な高熟練度の組み合わせという情報に戸惑っているようだ。
「あと、【天才】熟練度99!」
「だ、ダブルスキル……!?」
「ああ、けど所詮【収納】だぞ……!?」
まだ困惑中のようだ。
「もう一つ、【屍竜使い】熟練度99!」
「と、トリプルスキル……!?」
「な、何だそりゃ!? そんな事あり得るのか……!?」
「そもそも【屍竜使い】自体聞いたことがねえぞ――!?」
困惑が確かな驚きと、畏怖へと変わっていく。
このガーディという男と今のワシでは、スキルの肩書だけでも違いがあり過ぎるのだ。
『黒竜鱗の大剣』などまともに使ってしまえば、一瞬で斬り伏せて命を奪ってしまうだろう。さすがにそこまで血に飢えてはいない。
これは舐めたわけではなく、必要不可欠な手加減である。
「馬鹿な……!? デタラメだ! 私は世界中を旅して強者を見てきたが、そんな者は聞いた事が無いっ!」
「試してみればよかろうですじゃ。さあ、かかって来るがええ!」
「ならば喰らえッ! 『ソニックブーム』ッ!」
ガーディの剣が衝撃波を発する。
ワシは避けずに、その衝撃波に向かって、すたすたと歩き始める。
「何!? 避けもせんだと……!?」
と、動揺するガーディの前で、衝撃波はワシを撃つが――
何事も起こらず、シュンと消滅してしまう。無論【収納】したのだ。
「な……!? 『ソニックブーム』が消えた!?」
向こうが戦慄している間も、ワシはすたすた歩んで近づいて行く。
「う……! うおおおぉぉぉぉっ!」
『ソニックブーム』を連打。しかし全てが消えていく。
この程度の威力の『ソニックブーム』ならば、使用率も殆ど上がらない。
「そ、そんな馬鹿な……!? い、一体何が起こって――!?」
「ですから、言いましたじゃろう? さて……もういいですかのう?」
ワシはガーディの肩に、ぽんと手を置いた。
そこまで最接近していたのだ。
「!?」
「ほいっ!」
ずどむっ!
肘打ちをガーディの脇腹に叩きこんだ。
「ぅごああああぁぁぁぁっ!?」
勢い良く吹っ飛び、薄いギルドの壁を突き破って外の通りに飛び出してしまった。
仮にもSランク冒険者のようだから、この程度では死なないだろう。
「さて――ではそちらの娘さんの話を、皆で聞いてみましょうかの?」
ワシが周囲に呼びかけると、皆は驚愕し固まった顔でこくこくと頷いていた。
様子が違うのはティナだけで――
「アッシュぅぅ……っ! かっこいいぞぉぉぉ~~!」
目をキラキラさせて、ぴょんぴょんと飛び跳ねていた。
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