第33話 温泉郷と伝説の城2
「おう、ここじゃな」
冒険者ギルドの看板が掛けられた建物。
規模としては、恐らく中程度。ワシのいたキリヤの街とそう変わらないだろう。
冒険者ギルドというのは、一つ一つはそれほどでなくとも、世界中のあちこちに支部がある。総合すれば、そこらの国一つを遥かに凌駕する組織規模だろう。
だが、肝心の冒険者たちに連帯感は薄く、依頼と報酬という形でしか意思統一が出来ないのが玉に瑕。
最も、そういうゆるい組織であるからこそ、土地土地を支配する王国貴族も冒険者ギルドの存在を容認する事が出来るのだろう。
冒険者に身分は関係ないので、身分は低いが優秀なスキルを持つ者達の受け皿として機能するというのもある。いわばガス抜き役だ。
「私の冒険者カードはまだ有効なのだろうか?」
と、ティナはSランク冒険者の証である金のカードを取り出して眺めていた。
ずいぶん昔のものなので、少々色褪せてしまっている。
「そんなもの出して大丈夫か? ティナはこの国では超の付く有名人じゃろ?」
何せ、少し前に退位したばかりの元女王である。
「大丈夫さ、この見た目では気付くまい。それに、私が冒険者をやっていたのは何十年も前なんだ。当時を知っている者も殆どいないだろう。まあ、行ってみるとしよう」
「うむ。そうじゃの」
ワシとティナが冒険者ギルドの建物に入ると、一斉にその場の注目を浴びるだろう。
その心構えはしておく。
人がスキルに目覚めるのは15歳。
必然的に、冒険者になるのも15歳以上となるのが常識だ。
なので10歳の子供がやって来ても、場違いと見做されてしまうのだ。
「「たのもー」」
示し合わせたわけではないが、ワシとティナの声が揃った。
一緒にギルドの建物へと足を踏み入れる。
だが、何の返事も返って来ず、誰もワシらに注目しなかった。
「「……おや?」」
と覚えた疑問も、すぐに解決した。
「わーーーー!? 何すんだべ……!? 止めてけろ! こっちは話し合いに来ただけなんだべ! きゃーーーー!? 放してけろ、どこ触ってんだべ!」
変わった話し方をする17、8歳の少女が、冒険者の男達に取り押さえられてバタバタと暴れていた。
薄い桃色がかった髪色が、見た事の無い色合いだった。
「うるっせえ、大人しくしろ!」
「散々大暴れしやがって!」
「お前のせいでこんな事になってんだろ!?」
何人かの男達は、彼女にのされたのか、壁にもたれかかってうずくまっていた。
暴れる彼女を、冒険者の男達が取り押さえようとした?
それとも、襲って来る冒険者達に、彼女が抵抗している?
どちらとも取れるが――?
「あの口調、髪色に土の刻印の髪飾り――ドワーフだな……!」
「ほほう、あれが……? 初めて見るのう」
女のドワーフを見るのは初めてだったが、人間の少女とあまり変わらず、可愛らしいものだ。
「おいお前達、大の男がよってたかって何をしている? とても堅気の人間の所業とは思えないぞ」
と、ティナが進み出て男達に声をかける。
「お姉ちゃんは黙ってな! ここはあんたみたいな美人が来るところじゃねえんだよ!」
「そうだ!」
「他所を当たりな!」
「たっ、助けてくんろ! おらは何にも悪いことしてねえだよ……! お願いだべ、そこのめんこいお姉さあ……!」
男達は威嚇を返し、ドワーフの少女は助けを求める。
「……とにかく、冷静に話し合ったらどうだ? そこの少女は、話し合いに来たと言っているぞ」
「そんな場合じゃねえんだよ! とにかくあっちに行って……ろ――っ!? あぎゃぎゃぎゃぎゃ……!?」
男が悲鳴を上げたのは、ワシがその手を掴んで捻じり上げたからだ。
気が立っていたのか、ティナを突き飛ばそうとしたため、割り込んで止めたのだ。
既に八魔将のバーヴェルとドルミナの二人と戦って成長を遂げたワシには、この程度は造作も無い事だった。
むしろ勢い余って腕を折ってしまわないように、細心の注意を払うレベルだ。
「済みませんのう、連れに乱暴は止して下され」
「わ、分かった……! 分かったから離してくれ――っ!」
「では」
ぱっと放すと、男は涙目で腕をさすっていた。
「な、何だあの坊主……!?」
「普通じゃねえぞ、あのアレンがあんなにあっさり……!?」
「か、かなりの高等スキル持ちか……? いやでも、どう見ても15歳も行ってねえ子供だぞ……!?」
ざわつく冒険者達に、異様にキラキラと目を輝かせたティナが呼びかける。
「ふふふふ……どうだ? アッシュにかかれば、お前達など赤子も同然――少しは頭を冷やすがいい、ぶっ飛ばされんうちにな。まあ、もしぶっ飛ばされたい奴がいれば、遠慮せずに名乗り出るがいい!」
「お、おいティナ。無駄に煽らんでもええじゃろうに――」
「少しくらい、いいじゃないか。私は強いアッシュに守って貰いたかったんだ! 昔はいつも、私がアッシュに絡む奴等をぶっ飛ばしていたから……ああ新鮮だ。これこそ私の求めていた理想の姿っ! ああ……!」
「……やれやれ」
あまりにも嬉しそうで楽しそうで恍惚の表情をしているので、何も言えない。
「ふっ……面白そうな子供だな。ならばこの私をぶっ飛ばして貰おうではないか」
と、右手の奥の壁際から、名乗り出る声がした。
頬に傷のある、いかにも武芸者という風体の男だった。
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