第25話 マルティナと屍竜使い15
「な、何……!? 先程までとはまるで――て、手を抜いておったのかえ!?」
「そんな事はせんわい! 今この場で強くなったんじゃあ!」
――『百烈突き』!
ガガガガガガッ! ガガガガガガァッ!
今度はドルミナの方に、衝突点が寄って行く。
「く……!? そんなデタラメな話があるかっ……!?」
「苦節60年! 長いこと修業したからのう!」
「黙れ! そんな僅かな時間で――っ!」
怒りに顔を染めるドルミナ。その体がワシの突きの威力に押され、大きく吹き飛ぶ。
「ぐうっ……な、なんと……!」
「今じゃあっ!」
ワシは遠のいた間合いに構わず、剣を薙ぎ払う。
途中で剣はグンと伸び、姿勢を乱したドルミナの手の内にある聖剣を撃つ。
その衝撃で、聖剣はドルミナの手からすっぽ抜け、床に落ちる。
――位置的にはバーヴェルが最も近い。
「今じゃバーヴェル! 聖剣を取り上げるんじゃあっ!」
「おう! 任せいっ!」
バーヴェルが床に落ちた『聖剣セイクリッドティア』に手を伸ばす。
バヂッ!
それを拒否するように、聖剣は光を放ちバーヴェルの手を弾いた。
「ぬうっ!?」
「愚か者が――! 聖剣が魔の者に触れられる事を許すと思うかえ!?」
聖剣はふわりと浮いて、ドルミナの手の内に飛んで戻ってしまう。
「バーヴェル! 大丈夫かの?」
ワシは一度、バーヴェルに駆け寄って合流する。
「ああ問題ない。が……ドルミナめ……! 借り物の力でいきがりおって……! 屍竜の力も聖剣も、貴様はいつも何かを奪い、利用するのみ……! 気に喰わん!」
「ふふっ……ならばそれらしく――出でよ屍竜魂!」
いくつもの青白い半透明の竜の首と顔が、ドルミナの背から生えるようにして現れる。
グオオオォォォォォ……!
それぞれがウネウネとのたうち、何か苦しんでいるようにも見える。
「な、何じゃあ――? こやつら、苦しんでおるのか?」
「力ある竜ほど、誇り高く他者に操られることを良しとせぬ。彼等は力だけを利用され、苦しんでいるのだ――」
「ククク……そしてその怒りと怨嗟こそが、新たな力を生む……! 竜共が頑固者ゆえ、囚われた魂が延々と負の力を生むのぞえ」
それを聞き、ワシはバーヴェルに向けて囁く。
「……胸くその悪い技じゃのう……!」
「ああ――! ヤツはこの場で討たねばならん……!」
「しかし勢い余って、ティナの体を傷つけてくれるなよ? ワシはティナを取り戻しに来たんじゃ……!」
「そうは言うが、そんな余裕があるのか? 何か手は――?」
「ある……! 一瞬だけでも奴に近づき、動きを止める事が出来たなら――!」
はじめから、そのつもりだった。
先程、聖剣降臨の儀が完成する直前のヤツの会話――
向こうはまんまと時間を稼いだつもりだろうが、ワシも決定的な情報を得ている。
だから勝算はあった。自信がある。
「ほう――ならばその言葉、乗ってやるとしよう……!」
「すまんのう、頼むぞい!」
ワシとバーヴェルの間で話は付いた。
半透明の竜の首と顔に囲まれたドルミナは、不敵な笑みを見せている。
「ククク……この憑代の身には相当な負担になろうが――仕方のない事よな、さぁこの体を案じるのならば、大人しく殺されるがいいぞえ!」
竜の首が一斉に動き出しこちらを向くと、それぞれに青白い弾を吐き出した。
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