第20話 夏の終わりの花火に思いを寄せて…
未来世界のネメシス財団本社ビルに併設するカフェでは、アルファとダークミラージュが何かを話している。
「ねえ、聞いて」
「何よ?」
「もうすぐ新曲が出されるの」
「本当に!?」
アルファはダークミラージュが新曲を出すことに驚く。
しかし、
「前回はマイナーコードの曲だったから、今回はメジャーコードの曲になっているわ」
「すごいですわ!」
「じゃあ、期待して」
「そのことを後輩たちにも伝えますわ!」
と驚いたアルファ。どうやら近頃のネメシス財団では、メンバーたちの話題がそれに持ち切りとなっているようだ。
一方、2019年の横中では、楽しかった夏休みも今日で終わろうとしている。
「そろそろ二学期が来ちゃう…みんな、夏休みの宿題はもう終わった?」
「終わったよ」
「私も!昨日やり終えたばかり」
「夏休みの思い出は?」
「マリンワールドに行ったことかな」
「僕は北海道へ家族旅行に行ったよ」
「すごいね!」
「君にそんなことを言われちゃうと、照れちゃうな」
つぼみと晴斗がこうやりとりしていると、
「花火大会、今晩やるみたいだよ。ねえ、一緒に行こう」
「うん!」
「じゃあ、夕方に坂下公園前に集合だ」
「分かったよ」
といつの間にか花火大会の話題に変わり、つぼみは晴斗からの誘いを引き受けるのであった。
「つぼみちゃん、晴斗君と一緒に花火大会に行くのね!」
「どんな感じになるのか、気になります」
沙奈とアリスは、そんなつぼみと晴斗の様子をそっと見つめていた。
時刻が夕方になったころ、浴衣に身を包んだつぼみは坂下公園前にいる。
「晴斗くん、遅いね…」
と待ち合わせていると、
「お待たせ」
と、晴斗が現れた。
「今日は、花火大会日和だね」
「ああ」
と喜び合う二人。
「つぼみの浴衣姿、かわいいな」
「どう?似合うでしょう?実はね、ママのおさがりなんだよ!」
「僕もそう思う」
「それはよかった!」
晴斗は、初めて見たつぼみの浴衣姿を気に入ったようだ。
「会場はどんな感じなのかな?楽しみだね!」
「さあ、行こうか」
「うん!」
つぼみと晴斗は、坂下公園に入る。
「あっ、かき氷!」
「じゃあ、頼んでみる?」
「うん!」
早速、かき氷が売られている屋台に向かうつぼみと晴斗。
その頃、浴衣姿の怪盗トリオのアルファも坂下公園に潜入している。
「あら、晩夏の横中で古くから代々伝わる伝統行事である花火大会が坂下公園で開かれていますわ!毎年多くの人々が来場すると聞いてびっくりしていますもの」
と会場の雰囲気に圧倒される。
そんな中、
「明かりがいっぱいありますわ!」
と祭り提灯を発見。
「これにしましたわ!」
アルファは早速魔獣の生成に取り掛かる。
「かき氷、私はイチゴ味だよ!」
「僕はメロン味」
「冷たいけれど、おいしいね!」
「夏の暑さを忘れるような冷たさだ」
つぼみと晴斗がかき氷を食べていると、突然坂下公園の明かりが完全に消えてしまう。
「停電なの!?」
「真っ暗になって見えにくい」
と困惑するつぼみと晴斗。
「ご来場の皆さん、ただいま、場内の街灯がずべて消えています。なお、花火の打ち上げは現在のところ予定通り実施の意向を示しています。あらかじめご了承ください」
と場内アナウンスがあった。
すると、
「大変だ!怪しい予感がする」
とチララがつぼみと晴斗の目の前に現れる。
「この停電は、きっと魔獣の仕業であることに違いない!晴斗くん、ここで待っていて!」
「分かった!」
つぼみは、晴斗をその場に残して魔獣の居場所へと向かう。
そこで待っていたのは、アルファだった。
「あら、またお会いすることができて光栄ですわ。では、本日の魔獣ちゃんはこちら!ライトの魔獣ですわ!」
アルファの合図で、頭部にLEDの豆電球をつけたチョウチンアンコウをかたどったライトの魔獣が現れた。
「さあ、変身よ」
つぼみは、プリンセスミラーでラブリーピンクに変身する。
「ピンク・ジュエル・パワー!ドレスアップ!」
つぼみをピンクの光が包む。
「愛のプリンセス・ラブリーピンク、見参!プリンセスステージ、レッツスタート!」
ラブリーピンクが現れると、魔獣がこちらに向かって襲い掛かる。
「さあ、やっちゃいなさい!」
「ど、どうしよう…」
ラブリーピンクは魔獣に悪戦苦闘してしまう。
すると、チララは何かを思いつく。
「いいか、この魔獣は凶暴な性格をしている。その怒りを鎮めるには、キミの歌が必要なんだ!」
チララからのアドバイスを受けたラブリーピンクは、
「できるなら、やってみる!」
と覚悟したうえで、魔獣の鎮静化に挑む。
「暗くて深い 闇の向こうに」
「一人さびしく たたずんでいた」
「だけどもう 怖がらないで」
「それは迷いを 断ち切ったしるし」
「春風に向かって 旅立っていく」
「さあ 夢の扉を開こう」
「輝く未来に向かって 放つよ私だけのメロディ」
「愛を守るため みんなを守るために」
「きらめく世界に奏でる 私とあなたのハーモニー」
「あなたのそばにいる それがプリンセスなんだから」
すると、魔獣の怒りは収まった。
「さあ、今だ!」
「うん!」
チララはラブリーピンクに合図を送る。
ラブリーピンクは、ルビーのマジカルストーンをプリンセスミラーにセット。その力をプリンセスバトンロッドに授けると、
「プリンセスステージ、ライブスタート!」
ラブリーピンクによる魔獣の浄化が始まった。
「Tell me 私に」
「愛の本当の意味を」
「答えてくれるのなら」
「きっと変わるはず」
「たとえ遠く離れても」
「会えなくなってしまっても」
「心の中でつながっている」
「君に向けて I love you」
「向かい風に吹かれても」
「君を感じて I feel you」
「私だけのLove Song」
「ルビーの輝きでパワーアップ!乙女の愛!ルビー・スイート・ハート!」
プリンセスバトンロッドでマゼンタのハートを描き、魔獣に向けて放つ。すると、魔獣は消滅した。
「ちゅ、ちゅ、ちゅっぴー!」
とマジカルストーンの気配を察知した。マジカルストーンが落ちていく方に行くと、
「キャッチ!」
とチララがマジカルストーンを回収することに成功した。それをつぼみのプリンセスミラーに認識して、
「蛍石。銀色のマジカルストーンだ」
「それではまた次回、輝く世界でお会いしましょう!プリンセスステージ、ハッピーフィナーレ!」
ラブリーピンクが勝利宣言する一方で、
「もう!また負けちゃったんじゃないの!」
アルファはこう吐いて、未来世界へと帰っていった。
すると、坂下公園の明かりが再び点いた。
「ご来場の皆さんにお知らせです。先ほどまで停電がありましたが、現在は復旧しています。皆さんには、多大なるご心配とご迷惑をおかけしたことを深くお詫び申し上げます。引き続き、横中市花火大会をお楽しみください」
と会場内に明かりが戻ったことを確認した。
しばらくすると、花火が打ちあがってくる時間になった。
「大変長らくお待たせいたしました」
のあと、つぼみと晴斗は花火が一番見える場所に向かう。
「ねえ、もうすぐ花火が打ちあがるよ!」
「ああ。つぼみはこの時を楽しみにしていたんだな」
「うん!」
つぼみと晴斗は、花火を見る。
「すごくきれいだね!」
「キラキラとときめく夏の夜の光景だ」
つぼみと晴斗が打ち上げ花火に見惚れていると、突然その場に沙奈・アリス・プラチナが現れた。
「やあ」
「待ってったわ!」
「つぼみさんと晴斗さんまで、ここにいましたのですね!」
「みんな!」
「じゃあ、一緒に見よう」
「せっかくそろったことだから」
「ひと夏の思い出にしよう」
つぼみたちは花火をみんなで見ることに。
「大きな花火も綺麗だね!」
「夜空に咲く大輪の花です!」
「夏休み最後の夜に、最高の思い出ね!」
「みんなで見る花火は、とてもよい思い出になることに間違いないからね」
つぼみたちは、花火にうっとりしているようだ。
「じゃあ、みんなで写真を撮ろう!」
「いいアイデアね!」
「賛成です!」
「じゃあ、花火と一緒に」
「準備はできたか?」
つぼみのスマートフォンで花火と共に映った記念撮影をする。
「では、行くよ!」
「はい、チーズ!」
「カシャ」
「いい感じ!」
「みんなで最高の思い出を作れてよかったな」
「つぼみ、ありがとう!」
「沙奈、アリス、晴斗くん、王子、こちらこそありがとう!」
「つぼみちゃん」
「つぼみさん」
「つぼみ」
「つぼみ」
「みんな!」
つぼみは、沙奈・アリス・晴斗・プラチナととった記念写真をプリスタグラムに投稿するのであった。
「今日も楽しかったね!」
「それじゃあ、学校でね!」
「また明日、元気にお会いしましょう!」
「つぼみ、晴斗も気を付けて」
「では!」
「じゃあね!」
つぼみと晴斗は、沙奈・アリス・プラチナと別れるのであった。
「じゃあ、帰りは地下鉄かな」
「行きはバスだったからね」
つぼみと晴斗は、横中市営地下鉄の中町・中華街駅に向かう。
帰り際での横中市営地下鉄でのこと。
「この地下鉄、今日で『横中市営地下鉄』としての運行を終える」
「どうして?」
「明日から第三セクター鉄道の横中はまかぜ鉄道の子会社になることが決まっている。名前も『横中メトロ』になって民営化するらしい」
「そうね。夏の終わりと同時に一つの時代に幕を下ろすんだね」
「ああ。時代の終わりだな。国鉄がJRに変わったみたいに」
つぼみと晴斗は、しみじみと終着駅の北横中駅までの電車に揺られる。
そこで降りると、
「またね」
「また明日ね」
と帰路につくのであった。
その後、自宅に帰ってきた晴斗は、自分の部屋でパソコンを起動する。
「さあ、動画を見るとするか」
晴斗がインターネット上の動画サイトを開いた途端、ダークミラージュが映っている動画を発見する。
「あれが、今巷で噂になっている例の少女だ!しかも、タイトルは『黒いダイヤモンド』となっている!前は『Time Romance』だったのに!」
と動画をじっくりと見る。
「きっと誰かが救いの手を」
「差し伸べてくれるのなら」
「私は構わないわ」
「街に灯るネオンの光」
「もう見飽きちゃったの」
「そう 私はもう」
「見慣れた私ではない」
「生まれ変わるのだから」
「今」
「探しているの ほしいもの」
「時を超えて 空を超えて」
「まだ見たことない宝石」
「それが黒いダイヤモンド」
若干中学生ながら腹部を露出した黒いセクシー衣装を身にまとい、ピンヒールを吐いているダークミラージュが新曲を歌っている。
するとミュージックビデオに、黒いバラに囲まれた背景をバックに、ラベンダー色の下着姿をまとうプリンセスドールズと同じくらいに大人びた彼女の姿が映った。
「あの曲、ダークミラージュの新しいミュージックビデオであることに違いない!しかも、ネメシス財団の公式チャンネルで配信している!早くプラチナにそのことを伝えなければ!」
晴斗は、ダークミラージュのさらなる企みに警鐘を鳴らすのであった。




