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第25話 大賢者を完全消滅させてみた。


 ダーク・バーストの爆心地には、ボロボロのスケルトン……大賢者メビウスが倒れている。

 ピクリとも動かないが、きっと気絶しているのだろう。


 俺はアイテムボックスからヒキノの大槌を取り出した。

 以前、【付与効果除去】で《手加減S+》を消したものだ。

 文字通り、手加減なしの巨大ハンマーとなっている。


「先制攻撃を仕掛けてくる。2人はあとで来てくれ」


 俺はアイリスとリリィにそう告げると、黒竜の背中から飛び降りた。

 2人の驚いたような声が、後ろから聞こえてくる。


「コウ!? うそ、この高さから飛び降りるなんて……!」

「コ、コウさん……!? え、ええっと、ケガに気を付けて、ください……」


 大丈夫だ、問題ない。 

 飛び降りる高さとしては、4階建てのビルと同じくらい。

 俺はいま「ディアボロス・アーマー」を装着しているし、着地の衝撃は《物理ダメージ遮断B+》で十分に防ぎきれる。


「はああああああああああっ!」


【器用の極意】が発動し、俺は流れるような動きでハンマーを振り上げる。

 重力加速度を味方につけた完璧なフォームで、メビウスへとハンマーを叩きつける……つもりだった。


 だが、メビウスは幸運にもこのタイミングで意識を取り戻した。

 俺の姿を見つけると、怯えたような叫び声をあげた。


「う、う、うわああああああああっ!? く、来るな! 来るなあああああっ!」


 メビウスは大慌てで立ち上がると、両手を高く掲げた。

 次の瞬間、魔力のバリアが発生する。

 ガーディアンゴーレムのバリアと似たようなものだろう。

 

 だが、脆い。

 あまりにも、脆すぎる。


 俺がハンマーを叩きつけると、まるで薄氷みたいにパリンと割れた。

 

 ただし、バリアを破壊したとき、狙いがすこしだけ逸れてしまった。

 ハンマーは大地を直撃し、足元がグラつくほどの震動を生み出した。


 メビウスはその揺れに足を取られ、派手に転んでしまう。

 腰を抜かしたらしく、上半身だけを起こした姿勢でこちらに視線を向けてきた。


「ば、ば、バリアを破壊しただと……! あ、ありえん! そんなことがありえるものか!」


 ありえないと言われても、困る。

 大賢者を名乗るなら、「ありえない現象」を目の前にして(自分のピンチにも関わらず)大喜びするくらいのマッドさを見せてほしい。


「き、貴様は、貴様はいったい何なのだ!」


 メビウスは感情を露わにして、大声で怒鳴る。


「貴様はなぜ我の邪魔をする! 我は5000年に渡って力を蓄えてきた、偉大なる大賢者メビウスなのだぞ!」

「……知るか」


 文句があるなら、俺みたいな人間をチート付きで異世界転移させたヤツにでも言ってくれ。

 神か悪魔か分からないが、俺への苦情はそいつにお願いしたい。


「メビウス、俺がおまえの邪魔をするのは、ただの成り行きだよ」

「成り行き……?」

「そもそも、俺は今日の昼過ぎまで何も知らなかったんだ。おまえが蘇ろうとしていることも、『古代賢者の息吹』なんて秘密結社の存在も、まったく気づいていなかった」


 本来なら、スリエの街なんて素通りして、さっさと港町に向かっていたはずなのだ。


「けれど、アンデッド使いがおまえの生贄を集めるために街で暴れた結果、俺はここに辿り着いた。……せめて明日か明後日にでも、計画をズラしていたら、俺に邪魔されずに済んだかもしれない」


 そういう意味じゃ、メビウスはとても運が悪い。

 今日という日にアンデッド使いが動いてしまったせいで、すべての歯車が悪い方向に噛み合ってしまった。


「我が5000年は、貴様の1日に劣るというのか……!」

「1日と言うか、半日だな」


 俺がアンデッド使いと交戦したのが今日の昼過ぎだったから、そこからカウントすると7時間ほどが経過している。

 半日どころか、半日以下だ。


「くっ……! だが、黒竜が討伐された以上、我の復活をこれ以上遅らせることはできなかった。……こうなっては仕方ない。貴様を打ち破り、その魂を食らってやる!」


 メビウスは立ち上がると、何やら意識を集中させ始めた。

 魔法を使おうとしているらしい。

 どうやら闇魔法ではなさそうだ。

 ディアボロス・アーマーの付与効果……《暗黒の王S+》で扱えるのは闇魔法だけだ。

 それ以外の属性だと、介入はできない。

 

 まあ、他に対抗策はいくらでもあるけどな。

 

「くははははははっ! 得意なのは闇魔法だけか、若造!」


 メビウスはまるで勝利を確信したかのように高笑いする。


「終焉の氷河よ、我が敵に永遠の眠りを与えたまえ、エターナルブリザード!」


 名前から考えるに、氷属性の魔法だろう。

 膨大な魔力がメビウスから放出された。

 きっと物凄い威力に違いない。


 だが、無駄だ。


 俺の左腕には、腕輪に偽装した「黒竜の盾」が装着されている。

《偽装S》を解き、盾を構える。

 

 ……《魔力反射S+》が発動し、エターナルブリザードが反転した。


 局所的な吹雪が吹き荒れ、メビウスの身体を氷漬けにしてゆく。


「ま、魔法を弾き返すだと!? や、やめろっ! やめて、く……れ…………」


 もう遅い。

 メビウスは物言わぬ氷像となり、数秒の空白を置いて、粉々に砕け散った。

 とはいえ【エネミーレーダー】を発動させると、すぐ近くにメビウスの反応が残っている。

 魂というか、怨霊となって生きているのだろう。

 俺はわざとそれに気付かないフリをしておく。


 ほどなくして、黒竜がやってきた。

 アイリスとリリィも一緒だ。


 俺は、2人に対して左手を振ってみせた。

 

 ……これはひとつの合図だ。

 俺はあらかじめ、2人に対してこう説明していた。


 ――左手を振ったら、メビウスはまだ倒しきれてない。けれど、そのまま気付かないふりをして喜んでくれ。

 ――右手を振ったら、メビウスは完全消滅している。安心してほしい。


 アイリスもリリィも、頭の回転は悪くない。

 俺が左手を振ったことの意味をきっちり理解したらしく、どちらも小さく頷いてから、こちらに駆け寄ってきた。

 

「コウ! メビウスを倒したのね! あの大賢者に完全勝利するなんて、さすがじゃない!」

「よかった、です……。メビウスは消滅したんですね」


 2人ともぎこちない演技だが、まあ、及第点レベルだろう。


「ああ、倒したぞ。魔法を反射されての自滅だ。大賢者とは思えない最期だったよ」

 

 俺が煽るように言うと、そのとき、高笑いが響いた。


「ヌハハハハハハハハハッ! 油断したな若造、我はまだ生きておる! 我が末裔よ、その肉体をよこせ!」


 空に、赤黒い霧が生まれた。

 それは年老いた男の顔みたいな模様だった。

 

 霧はものすごい速度でリリィへと向かっていく。


 ……すべて、俺の予想通りだ。


 アイテムボックスから「英雄殺しの大剣」を取り出す。

 この剣には《月の加護S+》が付与されており、月の光を受けることで、その真価を発揮する。


 月は出ているか?


 出ている。


 満月は澄んだ輝きで、地上を照らしている。


 大剣が、輝きを放つ。

 まばゆい黄金色の光だ。


 メビウスの動揺したような声が響いた。


「英雄殺しの大剣だと!? それは5000年前に我が破壊したはず……!」


 そういえば英雄殺しの大剣に『5000年前に失われたはずの武器』なんて説明が書いてあった。

 なるほどな。

 5000年前に破壊したはずの武器で、今度はメビウス自身が滅ぼされる。

 因果応報とはこのことだろう。


 俺は英雄殺しの大剣を振り下ろした。


 瞬間――


 黄金の輝きがまるで激流のように放たれ、メビウスの怨念を呑み込んだ。


 

ここまでお読みいただきありがとうございます。

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