第18話 メビウスの研究室を奪い取ってみた。
本日2回目の更新です(日付が変わったことから目を逸らしつつ
極滅の黒竜 (ミニサイズ)は、あっというまに12体のオリハルコンゴーレムを全滅させた。
経験値は俺に入り、レベル57になっていた。
戦いが終わったあと、頭の内側に機械的な声が響いてくる。
……その内容は、なんというか、首を傾げたくなるようなものだった。
『オリハルコンゴーレム、残存0体。
排除に失敗しました。
エラー、排除失敗時の対応が設定されていません。
処理を終了します、お疲れさまでした』
なんだそりゃ。
この遺跡を作ったのは大賢者メビウスなのだろうが、オリハルコンゴーレムが負ける場合をまったく想定していなかったらしい。
遺跡はそれっきり静まり返ってしまう。
……とりあえず、中に入ってみるか。
俺はネクロアースを解除する。
黒竜の身体はただの土に戻り、その魂はふたたび俺のところに還ってきた。
横でリリィが、ハッ、と息を呑んだ。
「コウさんは、魔術師としても超一流、なんですね……」
「急にどうしたんだ?」
「ネクロアースで使った魂は、普通、二度と回収できないんです。学院で、そう教わりました……」
「まあ、俺はいろいろと規格外みたいだからな……」
黒竜の魂を回収できたのは【魂吸収】のおかげだろう。
本当にチートだらけだな、俺。
ありがたい話だ。
ともあれ、遺跡に入ってみよう。
扉のむこうは細い洞窟となっており、身をかがめながら奥へ進んでいく。
行き止まりに辿り着いたところで、脳内にいつもの声が聞こえてくる。
『【異世界人】スキル内サブスキルの取得条件を満たしました。【マスターコード】が解放されます』
【マスターコード】は、古代文明の遺跡などに対し、その管理権限を奪い取るスキルのようだ。
早速、使ってみる。
『【マスターコード】発動、この遺跡のマスター権を強制的に奪取します。
……処理終了。この遺跡のマスターは、メビウス・メギストリスからコウ・コウサカになりました』
これでメビウスの遺跡は、俺のものになった。
【遺跡掌握】で調べてみたが、ここは研究室と倉庫だけの小さな遺跡らしい。
俺は【空間跳躍】を使い、研究室へと向かった。
もちろんリリィも一緒だ。
「ええっと、コウさん、ここはどこ、ですか……?」
「メビウスの研究室だ。……まあ、所有権は奪い取ったけどな」
「なんだかもう、驚きすぎて頭がぼーっとしてきました。コウさん、なんでもできるんですね……」
「スキルのおかげだ。俺はただのおっさんだよ」
「29歳はおっさんじゃないと思います……」
さっきも同じようなやりとりをしたような気がするが、それはさておき、メビウスの研究室は古びた図書館のような場所だった。
たくさんの本棚が並び、そこにはいくつもの古文書が収まっている。
五千年前の本がいまだ風化していないのは、古代のテクノロジーか何かだろうか。
リリィは一冊の本を手に取ると、ページをパラパラとめくっていた。
やがて困ったように俺のほうを見た。
「……読めません」
「まあ、大昔の本だしな」
俺はリリィに近寄ると、横から本を覗き込んだ。
「ええと、『たとえ肉体は滅びても、他者の魂を食らえば、魂のみで生き続けることが可能である』……?」
「コウさん、古代語が読めるんです、か……?」
「読めるみたいだな」
そういえば俺、【言語習得】ってスキルを持ってたっけ。
それが発動しているらしく、古代語なんて見たこともないのにスラスラと読めてしまう。
「けど、片っ端から読んでいくのは面倒だな……」
俺が小声でボヤいたのと、脳内に声が響いたのは同時だった。
『【アイテムボックス】スキル内サブスキルの取得条件を満たしました。【書籍情報処理】が解放されます』
どうやら新たなサブスキルが使用可能になったらしい。
【書籍情報処理】は、本をアイテムボックスに収納すると、内容の自動検索が可能になるようだ。
ここでの“書籍”の定義については検証が必要だが、他にもいろいろと便利な機能がついている。
これを利用しない手はないな。
俺は【範囲採集】スキルを発動させた。
研究室が手狭だったこともあり、一歩も動かず、すべての本を収納できた。
研究室内の本がいきなり消えたことで、リリィは「ひゃっ!?」と小さく悲鳴を上げた。
「こ、コウさん!? 本が、本が……!」
「大丈夫、アイテムボックスに入れただけだ。問題ない」
俺はそう答えながら【書籍情報処理】を発動させた。
どうやらパソコンの検索機能と異なり、いろいろと融通の利くシステムらしい。
たとえば「大賢者メビウスが何をしようとしているのか教えてくれ」と念じると、1秒ほどの間をおき、各書物の該当する部分が、パパパッ! と脳内に浮かぶ。
それどころか、該当部分をわかりやすくまとめた文章まで自動作成してくれる。
ものすごい親切機能だ。
俺は【書籍情報処理】に感謝しながら、まとめの文章に目を通す。
頭のなかに表示された文章を読んでいく……というのは、ちょっと不思議な感覚だ。
けれども人間、慣れれば慣れるものらしく、やがてスラスラ読めるようになっていた。
……なるほどな。
アイテムボックスに収納した書物のなかに大賢者メビウスの手記もあり、突っ込んだ内容も含め、いろいろと納得がいった。
俺は自分が理解した内容について、情報共有も兼ねて、リリィに説明しておく。
「5000年前、この大陸の人々は『極滅の黒竜』に対抗しようと必死だったらしい」
「当然です、よね……。放っておいたら、何千人、何万人も死ぬわけ、ですし……」
「でも、大賢者メビウスは『勝てるわけがない』と最初から諦めていた。ひとりだけ別のことを考えていたんだ」
メビウスは自分の手記に、こんな言葉を残していた。
――黒竜との戦いでは、たくさんの人が死ぬだろう。
――その魂を集めて取り込めば、永遠の命が手に入るのではないか?
――いや、それどころか神に等しい存在になることだって可能なはずだ!
要するに、やたらスケールの大きい火事場泥棒だ。
人類と黒竜が争っている横で、その死者の魂を横取りしていく。
「逆に言うと、メビウスとしては人類が黒竜に勝つと困るわけだ。……だから5000年前の戦いじゃ、メビウスは人類の脚を引っ張りまくったらしい」
結果、人類は黒竜に破れ、古代文明は壊滅的な被害を受けた。
大戦犯のメビウスがどうなったのか詳細は不明だが、闇の秘術で魂だけの存在となったようだ。
「黒竜は1000年ごとに現れる。そのたびにメビウスは犠牲者の魂を横取りしていたんだろう」
「でも、黒竜はコウさんが討伐したんです、よね?」
「ああ」
俺はリリィの言葉にうなずく。
「だが、まだ事件は終わっちゃいない。メビウスは消えたわけじゃないし、『古代賢者の息吹』って組織も残っている」
もし可能なら、衛兵や領主とも協力して対応にあたるべきだ。
幸い、この一帯の領主……メイヤード伯爵とは懇意にしている。
『古代賢者の息吹』は明らかな反社会的勢力なわけだし、撲滅には手を貸してくれるはずだ。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
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