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第5話 街を出るので、片っ端からフラグを回収してみた。

 

 オーネンで有名になりすぎてしまった俺は、しばらく気ままな旅に出ることにした。

 ひとまずの目的地は王都だが、まあ、適当に寄り道しながら目指すとしよう。


 ミリアさんも冒険者ギルド本部に用事があるらしいので、タイミングがよければ、王都で会えるかもしれない。


 ……目的地が同じなら一緒に行きませんか? と提案することも考えたが、それは冒険者と受付嬢の距離として近すぎるというか、下心アリアリで付き纏っているような感じがするのでやめておいた。


 ともあれ、今後の方針も決まったことだし、さっそく動くとしよう。


 朝、『静かな月亭』のロビーでレリックを見つけたので声をかけ、オリハルコンゴーレムの残骸を買ってもらう件について詳細を詰めることにした。


「ええっ!? コウさん、王都に行っちゃうんですか!?」

「ああ。それでゴーレムの残骸をどうしようかと思ってな」

「……でしたら、ひとつクエストを受けていただけませんか?」


 レリックの依頼は「オリハルコンゴーレムの残骸を王都のアカデミーまで運んでほしい」というものだった。

 

「ボクがここで残骸を受け取っても、ひとりじゃ持ち運びもできませんし……。かといって、他の人に輸送を頼むのも不安なんですよね。その点、コウさんだったら持ち逃げの心配もないですし、魔物や盗賊に襲われても絶対に勝ちますよね」

「……ずいぶんと信用されてるんだな、俺」

「当り前じゃないですか! 強くて、礼儀正しくて、しかも考古学に理解がある! ボクからすれば夢みたいな人ですよ! 正直、オーネンでの最大の収穫って、古代遺跡を見つけたことより、コウさんに出会えたことだと思ってます」

「……そうか」


 俺はレリックから視線を逸らした。

 こうもストレートに好意を表現されると、その、なんだ……。

 正直、照れる。


「あっ、王都のアカデミーにはボクの姉がいるんですよね。ボクよりも変人ですけど、たぶん、コウさんなら仲良くなれると思うんでよろしくお願いします」

「レリック、自分が変人って自覚あったんだな……」

「当り前じゃないですか! みんなと違ってそれでいい、ボクの信条です!」


 話が終わったあと、俺とレリックは冒険者ギルドに向かい、クエストの発注と受注を済ませた。

 受付にミリアさんがいたので、王都に向かうことを伝えておく。


「コウさんも王都に……!? わ、わかりましたっ。わたし、こう見えて王都には詳しいんです。向こうでお会いしたら、王都をご案内しますね。案内して案内して、案内しまくりますよっ!」

「お、おう……」


 なんだかミリアさん、やたら嬉しそうというか、気合いが入ってるな……。

 いったいどんなところを案内してくれるのだろう。

 今から楽しみだ。

 

 ギルドマスターのジタンさんや教官のギーセさんにも挨拶を済ませ、俺は建物の外に出る。

 そこで、思いがけない相手とばったり顔を合わせた。

 

 ピンク髪と蒼髪。

 以前、俺がヒールポーションで助けた2人の少女だ。


「こ、この前はありがとうございました! お礼が遅くなってしまってごめんなさい!」

「あなたは命の恩人、とても感謝している。……クマの格好は、もうしない? 残念」


 ピンク髪の子は明るくフワフワした感じで、人懐っこい雰囲気を漂わせている。

 アニメや漫画だったらメインヒロインを張ってそうなタイプだ。

 

 蒼髪の子はマイペースな不思議系といった印象で、こちらはなんというか、サブヒロインっぽい。

 

「あ、あのっ、《竜殺し》さん!」


 ピンク髪の子は、ちょっと遠慮がちに、けれども勇気を振り絞るような様子で声をあげた。


「そ、そのっ、あつかましいお願いかもしれないんですけどっ、えっとえっと……わたしと握手、してもらえませんか……?」

「握手……? ああ、別に構わないが……」


 俺が右手を差し出すと、ピンク髪の子は両手でぎゅっと俺の手を握った。

 なんだかアイドルになったような気分だ。

 

「ありがとうございます! この手はもう洗いません!」

「いや、清潔なほうがいいと思うぞ」


 俺はついつい冷静に突っ込んでしまう。


「わかりました、じゃあ清潔にします!」


 意見変えるの早いな!?

 これが若さというやつだろうか。

 俺みたいなおっさんにはまぶしすぎる。


 蒼髪の子が羨ましそうにしていたので手を差し出したら、恥ずかしがっているのか、もじもじしながら手を握ってきた。ちょっと可愛らしい。


 

 * *



 他にも挨拶に行くべき相手がいる。

 たとえば、俺がこの世界でいちばん初めに助けた人……大商人のクロムさんだ。


 俺はクロムさんの屋敷を訪ね、オーネンの街を出る意志を伝えた。

 

「おお、それでしたら都合がいい。王都にスカーレット商会の本部がありまして、息子もしばらく滞在しているはずです。紹介状をお渡ししますので、ぜひ、会ってやってください」


 クロムさんの息子か。

 スカーレット商会の商会長を引き継ぐ予定らしいが、どんな人物なのだろう。

 俺と同い年らしいが、会うのがちょっとだけ楽しみだ。


 ああ、そうそう。

 俺はいま『静かな月亭』に滞在しており、1ヶ月分の宿代はクロムさんが払ってくれている。

 それを途中でキャンセルするわけで、ちょっと申し訳ないし、お詫びの品をプレゼントしておく。


 ヒキノ製の食器、テーブル、イス、それからパンチラビットの毛糸で作った服などなどだ。

 付与効果は、想定外の事故を避けるため【付与効果除去】で外しておいた。

 とはいえ最高級の品には違いないので、使い心地はいいはずだ。


「これはクロムさんが使ってみてください。息子さんから、俺のアイテムを取り扱ってもOKって話が出たら、あらためて売るぶんをお渡ししますので」

「おお……! すみません、お気遣いありがとうございます。きっとメイヤード伯爵あたりには羨ましがられるでしょうな」


 あとでクロムさんから聞いた話だが、メイヤード伯爵はどこからかこのことを聞きつけ、クロムさんの屋敷まで訪ねてきたという。

 俺が作ったイスやテーブルを見て「これを英雄殿が手掛けたというのか、素晴らしい……!」と感嘆のため息をつき、「売りに出たらすぐに教えてくれ!」とクロムさんに頼み込んだらしい。



 

 ともあれ、オーネンの街を出るにあたっての準備はテキパキと進んでいった。

 荷物はアイテムボックスに詰め込めばいいし、万が一、忘れ物があったとしても【空間跳躍】で戻ってこれる。

 ほんと、スキルって便利だな。


 

 数日後の夕方、俺はアイリスと待ち合わせて、とある居酒屋へ行くことになった。

 黒竜と戦った日にアイリスが連れて行ってくれたものの、閉店していたあの店だ。


 店は裏通りにあり、なかなか落ち着いた雰囲気だ。

 じっくりと飲むにはちょうどいい。


「ここ、料理がすごくおいしいのよね。だからちょくちょく食べに来てるの」


 アイリスの言う通り、料理はどれも絶品だった。

 とくに『オーネン地鶏の赤ワイン煮込み』はコクの深い味わいが舌を楽しませてくれた。

 

 アイリスは普段あまり酒を飲まないらしいが、この日はアルコール低めの果実酒を注文していた。

 ただ、やはり酒には弱いらしく、すぐに酔いが回っていた。


「……コウ、あなた、街を出るのよね」


 アイリスはぐでーとテーブルに顔を付けながら、俺のほうを赤い顔で見上げている。


「で、いつごろ出発するの?」

「明日だな」

「……えっ、ちょっ、早すぎない!?」

「荷物も少ないし、アイテムボックスがあるからな」

「そっか……だったら、あたしものんびりしてられないわね……」


 のんびりしていられない?

 いったい何の話だろう。


 よく分からないが、俺は俺でやり残した用事を済ませるとしよう。

 俺はアイテムボックスから、ヒールポーションを3本取り出した。


「前に、ヒールポーションを譲るって話をしたよな。受け取ってくれ」

「……ううん、これは、コウがまだ持ってて」


 アイリスはそんなことを口にすると、コップに残った果実酒を飲み干した。

 酒のせいか、潤んだ瞳をこちらに向けてくる。


「あたし、まだコウのこと、護衛できてないし。対価に見合う働きをしてないのに、報酬なんて受け取れないわ。……だから、あたしがちゃんとコウの役に立てたとき、改めて渡してちょうだい」

「いいのか? 俺はもうオーネンを離れるし、ヒールポーションを渡すのはずっと先になるぞ」

「だったら、あたしも行く」

「……ん?」

「あたしも、コウと一緒に行く。……あなた、自分で言ってたじゃない。山奥で暮らしていたから一般常識がない、って。それをフォローする仲間が必要と思うんだけど」

「まあ、それは、そうだな」

「でしょ!?」


 アイリスはなぜか満面の笑みを浮かべると、テーブルの向こうから身を乗り出してきた。


「だったら、ほら、約束ね! 約束! 明日、あたしも付いていくから!」

「わかったわかった。城門のところで待ち合わせな」

「うんっ! えへへ、よかったぁ……」


 なにがそんなに嬉しいのかよく分からないが、ともあれ、アイリスも同行してくれることになった。

 冒険者としては先輩なわけで、この世界を旅するにあたって心強いのは確かだ。


 話がまとまったあと、俺たち2人は店を出た。


「コウ、これからどうする?」

「そうだな……」


 ここで俺はひとつ、オーネンでやりのこしていたことを思いだした。

 そういや、ダイス・ムーブって人からカジノの招待状を貰ってたっけ。


 オーネン最後の夜だし、パーッと遊ぶのも悪くない。

 

 よし。

 行ってみるか。

 


 * *



 この時の俺はまだ気付いていなかった。

 カジノのあれやこれに対しても【器用の極意】が発動するとは、夢にも思っていなかったのだ。


 

 

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