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ステ振りと強くなる絆

 話は戻り、2人はモンスタールームで手合わせを行っていた。体育館の半分ほどの室内では『ヒュン!』という空気を斬る音が聞こえたり、『カン! キン!』と金属がぶつかる音が鳴っていた。


「(現状では、リナの方が剣撃力が強い……。技術に関しては、LVを含めても俺の方が数段高い感じか……)」


 シオンはリナと実剣による訓練を行っていた。剣術のレベルが上がっていたのは理解していたが、進化による成長を確認する意味合いもあった。SPの振り分けもこの時に行っていたので、バランスよく調整するのにかなり手こずっていた。


振り直しが効かないところが正直、辛い。


「があ! 受けるの!!」


 シオンの振り下ろす剣を受け止めるが、体格が大きくなったことにより重心が安定し、盾をしっかりと構えられるようになった。


 重心が安定した効果は、剣を振っている最中にも出ており、バランスを崩す事も少なくなっていた。


 筋力が高くなっているので、簡単に弾き飛ばされる事もない。


 体力が高くなる事により、相反する『攻』と『防』のバランスが良くなった。スタミナ不足が改善された。


 良い事ばかりだと言いたいところだが、その反面でリナは【魔力】が低い──いや、『0』である事実が怖い。【指南書】に書かれていた説明が重くのし掛かってきていた。



『魔力』……高いほど、魔法がたくさん使えます。また、魔法に関する『威力』『抵抗力』が高まります。



 魔法が使えない……問題ない。使えても威力が低い……『使えない』事を前提に考えたら、全く問題ないと言える。


 1番問題なのが、魔法に対する『抵抗力』が低い事である。


 シオンは『魔力:0=抵抗力:0』ではないと思っているが、これから先の探索中に魔法を使うモンスターが出現しないとは限らない。もし、魔法を使うモンスターの中に、混乱させたり出来る『精神系魔法』を使ってきたらと、考える度に恐怖心が煽り立てられていた。


 現時点で魔法に対する対抗手段は、スマホの情報にも載っていない。魔法を使えるモンスターを使い魔にするのが条件でいいのかが分からないままであった。


 魔法は自力で覚えるわけではなく、スキルを購入する事で初級魔法を覚え、使い続ける事により"上位"の魔法を使えるようになる。


 魔法を使うモンスターと戦って、「強烈な反撃を受けました」では済ませられなかった。死に戻りは経験したい出来事ではない事ではなく、した事もないのでシオンは悩んでいた。


「があ? ご主人様、どうしたの?」

「あ。盾は、受け止めるだけじゃなく、受け流すのにも利用できるぞ?」


 リナからの問いかけに考え事から復帰したシオンは、話の矛先を反らす為にアドバイスを口にした。実際、ゲームに盾で攻撃を受け流す、反らすの知識(モノ)があったからだ。


 真剣に話を聞いているリナの盾を受け取り、日本芸能の『能』のように非常に遅い攻撃をしてもらい、盾で剣の流れを反らしたり、弾いたりする動きを見せた。


 盾というモノは、単なる防具の1つではない。『攻防あわせ持つ1種の武器』であると、シオンはゲームから学んでいた。ゲームからだけではなく、小説などの情報も後押ししていたが……。


 実演と話を聞いていたリナは、こんなことを聞いてきた。


「があ。盾って、そんな使い方があったの?」

「どうだろうな。コイツは、正式な使用方法ではないだろうからな──」


 剣術にしろ、リナに教えている盾術も、ゲームから学んだモノが大半であるからだ。実際、過去にVRゲームに誘ってくれた友人に、感謝しているシオンでいた。


「それじゃあ、盾を教えた方法でも使用してみてくれ」

「があ! わかったの!」


 部屋の中央で剣を構えた、シオンとリナの間合いは10mほど、シオンは両手で剣を構え、左半身を前に出している。いや、左手は剣の柄の先に添えられている。対する、リナは逆だ。左手に持っている盾を前に出し、盾の後ろに体を隠すようにして、剣は中腰で構えている。


 ダン!!


 ほぼ同時に駆け出す。シオンは正眼に構えていた剣を横に構えた。左手を腰の辺りで真っ直ぐ伸ばし、その上に剣を触れないように乗せる。


 見る人が見れば分かる、『居合い』の構えである。昔のマンガの言葉を使うなら、『抜刀術』と言った方が分かりやすいだろう。


 もっとも、『なんちゃって抜刀術』であるわけだが。


 一瞬、疑問に感じたリナであったが、問題ないと考えたのか、突進する速度をさらに上げた。このまま進むと、正面衝突しか思い浮かばない。さらに速度を上げてきたのは、シオンの教えたある技(・ ・ ・)が原因である。


 シールドバッシュ


 聞いたことがある人が多いであろう、盾を利用した突進である。リナの足の早さを生かした、体力の高さを考えればこれ以上ない先制攻撃であろう。


 衝突する間際、さらに盾の方に重心の移動を行った。


 盾に影に隠れていた為、その時のシオンの顔に笑みが浮かんでいた事に気付かなかったリナであった。基本的に2人の組手は『何でもあり』で行っている。これは実戦に、綺麗も汚いも無いからだ。


 シオンの行っていた抜刀術の構えは、『なんちゃって』どころか、完全な『フリ』であった。この組手が『何でもあり』である以上、騙すのもアリと言うことだ。実際、リナもシオンを騙したりしている。


 今回はシオンに軍配が上がった。騙されたリナは、ぶつかる寸前に体重を乗せて、吹き飛ばそうとしていた。しかし、その思惑は外れ、リナはバランスを崩す事になった。


 その隙に脇をすり抜けたシオンは左手で、倒れそうになっていた背中を押した。優しくであったが、微妙なバランスのところに、加重が加わったのだ。


 堪えきれなかったリナは、正面から床に倒れる事になった。うつ伏せ状態になった白色の首筋には、シオンの持つ剣が添えられた。


「がぁ……。完璧に、騙されたの」

「いや、教えた直ぐに使うなよ……」


 シオンはリナの言葉に顔を覆った。使うかもしれないレベルで考えてはいたが、愚直に使ってくるとは思わなかったからだ。逆に、リナの突進がフリだった場合、逆に攻撃を受けていただろう。


 それに"バランスを崩した"のが嘘だったら、回避が頭から抜けていた状態であり、攻撃を受けていただろう。フェイントではないと思ったのは、背中を押した時点であった。


「今日は1日かけて、どんなことが出来るか確認するぞ?」

「があ。わかったの!」


 リナに手を伸ばし、起き上がるのを手伝った。白魚と言えそうな手はとても柔らかく、剣や盾を持っているとは思えないくらいであった。


 シオンが手の柔らかさに、意識を奪われていた時間は短かったが、リナの『乙女センサー』は誤魔化せなかった様である。ちょっとづつ呼吸が荒くなってきている。慌てて手を離すが、ちょっとばかり遅かったようである。


 白に近かった顔は、ほのかなピンク色に変わり、瞳はトロンとしていた。唇はハリとツヤを増し、体からは何故か嗅ぎ取れた甘~い匂いを発していた。ヤバイ! と本能が警告を発するくらい、発情していた。


「リナ! それは、今じゃない。夜だ! 寝るときだ!!」


 両手を突き出し、必死になってリナの説得を行う。結論を先に言うと、それは悪手でしかなかった。この時点で、きちんと対応していたら、涙で濡れた枕で目覚めずに済んだであろう。


 リナの説得を成功したと思ったシオンは、戦いながらステータスにSPを1ポイントづつ振り込んでいく。最終的なステータスはこうなった。



 ─────────────────────

 シオン

 LV13


 筋力:10(+5)

 体力:6(+6)

 速さ:6(+6)

 魔力:0


 SP:21➡4(-17)

 DP:700


 スキル

 〈剣術〉LV4

 〈体術〉LV4

 〈罠解除〉LV2

 〈精力増強〉LV3

 〈忍耐力〉LV4


 称号

【蹂躙される者】


 ─────────────────────



 うん。称号以外は、納得できる感じかな? 内心で頷いた。


 ステータス値がリナより低いのは、もう諦める他ないのかもしれない。SPを全て振るのは、「もしも」を考えると悪手としか思えず、今回も振り切らずに残すことにした。


 SPを振って組み手をした感じでは、現状で『互角』ぐらいだった。ベッドの上では勝てないが、戦闘では勝てるってのは納得出来ない。この称号を無くす方法はないものだろうか……と、その顔は語っていた。


 その日の夜、シオンは昼間の選択を後悔することになった。訓練による疲れも、食事による満腹感もリナに太刀打ち出来なかったのだ。




 目覚めは、ひんやりとした感触から始まった。気分は、最悪と顔に書いてある。


 うむ。昨夜は、何時も通り? 泣き叫んだ様である。


 シオンに「覚えてないのかって?」聞いても、ムリな話だろう。人間、辛いことは、忘れたい生き物だからだ。


「リナ、今日からダンジョンの探索を再開するぞ?」

「があ。わかったの」


 朝食はパンと焼いた肉と簡素である。今日の探索では、ダンジョンの2階の半分をマッピングしたいと意気込んでいる。ホブゴブリンほどではなくても、強いモンスターと戦闘経験を積みたい心境であった。


 食べ終わったら食器を洗い、お互いの防具の装備を手伝った。リナの変化した防具を見て、少し考えてしまう男がいた。


『リナの革の鎧は、リナの体の成長に合わせ、【革のビキニアーマー(上)】になった』


 何でこんな変化をしたのか、関係者に理由を聞きたくなる。そして、効かないで欲しい効果に悩んでしまう。リナのボイインな肉体が、ムダなまでに強調されているのだ。実際に関係を持っているだけに、堪え辛いことこの上ない仕打ちであった。


 転移する前に意識を切り替えて、探索方向を【Dマップル】を見ながら考えた。数日前の探索では、階段から左方向に向かっていた。そっち方向で開示されているマップは、多く見積もっても1割~2割と言ったところだ。


 全体図で見ると、このフロアの広さが朧気ながら見えてくる。前のフロアの約1.5倍はあると考えた方がいいだろう。



 マップを眺めながら、今回はどれに進むか考えているシオンの背後に、リナがソッと近付いてきた。あまり音を立てない歩き方な上、スマホを覗き込んで集中していた事もあり、簡単に後ろから抱き締められてしまう。


「!! リ、リナ?」


 突然の事に、ビクンと体が跳ね上がったシオンである。


「があ! ご主人様、右が良さそうなの!」


 手に持っているスマホを覗き込み、自身の意見を告げた。進化前の2人の会話は、シオンが問いかけ、リナが反応を返す形であった。それが進化を経て、会話が出来るようになった。進化というモノは、不可思議なものである。


 夜の事に関しては、利かん坊ではあるが、日常においては相談して決められるようになってきていた。シオンはリナからの意見を少しの間考え、元々マップを完全に埋める気でいたので、受け入れることにした。


「そうだな。リナの言う方向に進んでみようか」

「があ。嬉しいの!」


 喜びのあまり、抱き着いていた腕に力を入れた。そうなると密着度はさらに上がる事になる。


 シオンの鼻元には、リナの甘い香りが漂ってきた。安心させられるが、欲情を促される匂いである。自身の気持ちを誤魔化すように、頭を撫でた。その表情は、とても嬉しそうである。


 指に当たるサラリとした薄い水色の髪は、絹のように触り心地がとても気持ち良い。髪を鋤かしていたシオンは、髪の毛をケアするアイテムが必要なことに、たった今気付いた。遅すぎである。


「(ヘアブラシとかの入った、セットみたいなモノは無いかな?)」


 早速、スマホの【D商店・売買】を起動させた。まず探すのは、日用品コーナーからである。検索機能があれば楽なのだが、何故か付いていない。まあ、商品は細分化されているので、探すのは楽なの方なのが救いだ。


 見つかった商品は、『乙女の身嗜みセット』と『淑女の嗜みセット』であった。何が違うのか? と商品の詳細を見てみるが、基本的に何も変わらなかった。唯一、違っているのはDPで、500DPと、1000DPであった。


 金額的に買えるのは『500DP』の方だけだったので、迷わず購入する。内容は、ちょっと高級なシャンプー、コンディショナー、トリートメントと様々な小物関係が入っていた。


「(これを使ったら、もっとサラサラになるんじゃないか?)」


 トリートメントを見て、そんな感想を心の内で持った。道具を見つめていても、何も始まらないので、行動する為に立ち上がった。


「リナ、イスに座ってくれるか?」

「がぁ? わかったの」


 シオンは自身の座っていたイスに手を置き、リナに座るように指示をした。全く理解できていないリナは、頭に『?』マークを浮かべていた。


 サラサラな薄い水色の髪に、ブラシの穂をサックっと通す。抵抗感と言う言葉が無いように、スーっと付け根から毛先まで流れていった。意外に気持ち良さそうな、リナの顔をシオンが見ることはなかった。


 リナの髪を鋤きながら、シオンは自分が出来る髪型を思い浮かべたが、精々出来そうなのが結ぶだけの『ポニーテール』であった。セットの中に入っていたヘアゴムを取り、リナの髪を留めた。


 初めてした作業だったので、あまり綺麗に纏められなかった。それでも頷き、満足そうな表情を浮かべた。入れ箱の中に入っていた手鏡を出し、リナに差し出す。鏡に映っているのは、頭から1本の尻尾を垂らした少女の姿だった。


「あまり可愛くないだろうが、これで勘弁してくれな?」

「があ! ご主人様、ありがとうなの!!」


 鏡に映る自分の姿を確認し、花の咲くような笑顔でリナは微笑んだ。それを見たシオンの顔は、茹でダコのように一瞬で真っ赤になったのだった。


 全ての準備を終わらせた2人は、転移を開始した。より強くなった絆を胸にして。

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