始まりの森
ログレスの都周辺に蔓延る魔族の掃討作戦は、それぞれ騎士の隊が各村落に向かい、個別に撃破するかたちで進められた。
というのも昨今、魔族の数は日を追うごとに続々と増えており、隊を集中させるほどの兵力がなかったからである。
アーサー王配下の円卓騎士を隊長とした部隊も全員が都を離れるわけにもいかず、遠方の魔族征伐に向かった部隊は戻ってくるまでに時間もかかる。
都を守備する兵力を温存させた上でやりくりできる最善の策であった。
「ここ最近の魔族の増え方は尋常じゃない。近く、魔王軍と正面からぶつかるときが来るだろう。今回の掃討作戦はその肩慣らしと考えてくれ」
玉座の間にて、首を垂れる3人の騎士に向かってアーサー王は神妙な面持ちで告げる。
その隣にいるマーリンは腕を組んで難しそうな表情をしていた。パーシヴァルはその魔術師の顔をじっと見ていた。
◇
王に収集される少し前、パーシヴァルはマーリンの部屋でモンブランの呪いについて話を聞いていた。
「呪いを解く方法? 呪いをかけた本人に術を解かせるしかない」
モンブランの呪いを解く方法を聞いたパーシヴァルに対し、マーリンは即座に答えた。
「マーリン殿にも解けない強力な呪いなのか!?」
詰問するパーシヴァルに、マーリンは憮然と答えた。
「ルシフェルの呪いがそんな簡単に解けてたまるか。あれは魔王軍のナンバー2とも言われる強力な術師だ。それに、今回あの村の住人が動物の姿にされたのは魔王の“食い物”にするためだと言われている。おそらく特別な呪いなのだろう」
「食い物……」
「魔王がその力を取り戻すには、別の種族の生き物を摂取するのが一番だとされている。復活したばかりの魔王にとって人間は食べにくい。代わりに、適度に栄養も取れて食べやすい家畜あたりを所望したのだろうな」
「では連れ去られた村人を早く救出しなければ魔王の餌食に!?」
「そういうことだ。しかもルシフェルは現代に迷い込んだティラノサウルスまでも味方にしてしまった。前回はまだあやつとティラノとの連携がうまくいっていなかった隙を突いて貴殿が勝つことができたが、ルシフェルの魔術とティラノの破壊力が合わさった場合、かなりの強敵になることが予想される」
前回魔王軍と戦ったときよりも戦況は厳しいものになりそうだと2人は顔を見合わせていた。
◇
「パーシヴァル」
アーサー王に名を呼ばれ、パーシヴァルはハッと顔を上げた。
「そなたもランスロットやガウェインとともに円卓の騎士の誉高い英雄である。どうかログレスの人々を安心させてやってほしい」
パーシヴァルは再び深く頭を垂れ、力強く応答する。
「御意にございます! 騎士パーシヴァル、必ずや陛下の期待にこたえてみせましょう」
都周辺の魔族が征討できた暁には、魔王の居城に攻め込む段階に入る。
愛しいモンブランのためにも、一刻も早く魔王を倒しその呪いを解きたいパーシヴァルであった。
「ただね、パーシー」
アーサー王は最後の最後に普段の言葉遣いに戻り、大切な部下兼友人に注意を促した。
「モンブランちゃんの呪いを解きたい気持ちは分かるけど、焦りは禁物だよ。ランスロットやガウェインと協力して魔族と戦うように。いいね?」
進軍を開始した騎士3人の部隊は、それぞれ西、北、東の方角の村落を目指した。パーシヴァルの部隊は西の村落へ。そこには強力な魔術を使う魔族が現れ、森に狩りへ出かけた村人に襲い掛かるという情報が寄せられていた。
魔術を使う魔族とはルシフェルのことではないかと推測したパーシヴァルは西への進軍を申し出た。ランスロットとガウェインは北と東の村落を目指しており、魔族討伐が済んだものから北の街道路に合流する手筈となっている。
「でりゃりゃりゃりゃりゃ~~~~~~~~!!!!!!!」
そして、アーサー王が最後に漏らした懸念は見事に的中していたのである。
パーシヴァルはロンゴミニアドを振り回し、破竹の勢いで進軍していた。
(パーシー、ちょっと気合い入れすぎじゃないか? その調子だとすぐに魔力が切れてしまうぞ)
「だがロンよ、仮に先の村落にルシフェルがいたとしたらモンブランの呪いを解く好機ではないか。逃してしまう前に倒さなければ」
(それはそうだが……。どうもモンブランのことが絡むと最近のパーシーは様子がおかしくなるな)
ロンに指摘されて、パーシヴァルは首を傾げた。自覚は全くない。
「そうか?」
(原始時代に行く前のパーシーはもっと脳筋だったというか……悩み事など皆無な性格だった。だが今はモンブランをどうするか、呪いをどうするかで悩んでばかりだ)
先日はランスロットにも「愛に悩んでいるな」などと言われた。
パーシヴァル自身には自覚はなかったが、周囲の人間から見ると今の自分は相当おかしいようだった。
(なるほど……これが人間の「恋」というやつか)
ロンが突然達観したことを言い始めた。普段はただの管を巻く槍なのに、そういう発言をするときだけ聖槍めいた輝きを伴う。
「恋だと……? 何を言うかロン、俺にとってモンブランは家族同然の」
(パーシー。もしモンブランが人間の姿のまま戻らず、他の男の嫁に行くとなったらどうする?)
「許さん。モンブランは俺の家族だ!!!」
(そういうことだよパーシー。ふつう、父親は娘を喜んで送り出すものだ)
「………そうなのか?」
(家族愛だったものが形を変えてもおかしくはない。モンブランは今までパーシーの周囲には存在しなかった「恐竜」であり「女性」だ。スリル好きのパーシーがその新鮮さに惚れこんでも驚かないね、俺は)
ロンゴミニアドの説明には説得力があった。さすがは長年ともに戦ってきた相棒である。
馬上で未だに首を傾げ続ける相棒に、今度は聖槍がため息を吐く番だった。
西の村落に続く森に入った瞬間、パーシヴァルは魔族の気配を察知した。
「この森に魔族が潜んでいるようだ! 隊列を崩さずに進むようにせよ!!」
不気味な森だった。見たことのない木々や鳥の声が聞こえる。
ログレスの都付近にこんな森があっただろうか。
全方向に最大限の注意を払い、パーシヴァルの部隊はゆっくりと進んだ。
「なんだこの森は……? 魔族の気配はするものの、どこにいるか皆目検討がつかん」
パーシヴァルはひとりごちる。
村の方向へ進めば進むほど、霧が深くなってきた。
霧。
先日、村人が動物化させられたあの場所と同じ。となるとこの霧もルシフェルの仕業かもしれない。
パーシヴァルの違和感は晴れることはなかった。
むしろ、森の奥へ進めば進むほど全身に緊張が走る。
こんな森は知らない。
いや、
知らないのではない。
知っているから、おかしいのだ。
この森は、現代の森ではない。
(まずいそ、パーシー……!)
「まさか、この森は……!?」
ロンゴミニアドとパーシヴァルがその違和感の正体に気付いて声を上げたのは同時だった。
「アンキロサウルスの巣があった森か!?」
それは現代に存在するはずのない、原始時代の森。
アロサウルスと出会い、ティラノサウルスと出会い、そして赤子のモンブランと出会ったあの森に間違いなかった。
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