ティラノサウルス
この回でヒロインが出るはずだったのだが!?
パーシヴァル。この物語の主人公である。
原始時代にいたころは全裸もしくはコシミノスタイルで過ごしていた。
だが忘れてはならない。
彼は円卓の騎士。金髪碧眼の甘いマスク。鍛えられた彫刻のような肉体。
相棒でもある聖槍ロンゴミニアドを持ち、赤い甲冑を纏う。颯爽と騎馬にまたがる姿は壮観で、世界を救った騎士に相応しい勇姿だった。
「100年戦争で戦った我らが同胞よ。束の間の平和が過ぎ去ろうとしている。だがアーサー王に忠誠を誓った我らログレスの騎士は何度でもその闇を打ち払おうぞ! 道は俺が切り拓いていくから、どうか一緒に戦ってほしい」
パーシヴァル隊の男たちは熱い涙を流している。
聖槍を持つ“我らが隊長”は、カリスマなのだ。
魔王が討たれたため、ここ最近は騎士の出撃事案と言えば森の野獣退治などが主であった。それに、肝心のパーシヴァルが大量のお見合い攻撃に嫌気が差し、原始時代に逃げ込んでしまったという経緯もあった。
だから、再びパーシヴァルの元で戦うことができる部隊の男たちの感激はひとしおだった。
「隊長! 魔族なんてすぐにやっつけてやりましょうぜ!!!」
「パーシヴァル様とロンゴミニアド様がいれば、ログレスの勝利は確実です」
「隊長、後でサインもらっていいですか!? 前回の戦争のときにはもらい忘れて……」
ひとしきり盛り上がるパーシヴァル隊を横で見るボールス。
「相変わらずパーシヴァル様の部隊はむさくるしく燃えてるなあ」
士気が低いわけではないが、ボールス隊は静かである。隊にはそれぞれの特色があるのだ。
アーサー王の命を受け、パーシヴァルとボールスは北東の村へと向かった。キャメロット城からは半日でつく距離だと聞いていたので、途中で休憩を一度挟んだ。
小高い丘の上にあるため、途中からなだらかな坂を上る。騎馬の様子を気にしながら進んでいたパーシヴァルだが、顔を上げた瞬間、わずかに霧が出ていることに気付いた。
「………それほどの標高ではないはずなのに、霧か」
(少し魔力を含んでいるな)
ロンが指摘する。パーシヴァルも薄々感じていた。
「もうすぐで目的地の村に着く。警戒しながら進むぞ」
村の入口に着いたときには、目の前も見えないほどの霧があたりを覆っていた。この濃霧の中を馬に乗って進むのは危険だと判断し、隊員は村の入口に馬を繋ぎ、武器を片手に奥へと進み始めた。
「私はアーサー王の指示により、この村の魔族を退治しにきた聖騎士・パーシヴァルである! 村の者はいないか!?」
大きく叫ぶが、特に反応はない。
霧がわずかに晴れたタイミングでは、家屋や水車、樽や石畳などが見えた。
ここが目的地の村で間違いはないはずだが……。
「僕が来たときにはこんな霧は出てなくて、動物姿になった村人が僕たちに窮状を訴える様なかたちで近づいてきたんですけどね~……」
当時との違いにボールスも首を傾げていた。
「北にあるとされる物資の塔に向かってみますか? キャメロット城に訪れた村人はそこに魔族がいる、と言っていましたが」
戸惑うパーシヴァルにボールスが提案する。
「ああ……」
若干渋りながらも、それが一番有効だと判断したパーシヴァルは踵を返す。
そのとき、同じ隊の隊員の声がした。
「村の中央広場にて、大きな魔族の影を発見! 至急援軍を……うわあああああ」
パーシヴァルとボールスは一目散に駆け出した。
(! これは……)
「どうした、ロン」
駆けながら相棒に声をかけるパーシヴァル。
(パーシー、魔力を蓄えておけ。これは……大きい!!)
「そんなに巨大な魔族なのか」
(これは魔族ではない。この時代にいないはずの生き物だ)
パーシヴァルは目を見開いた。
それはもしや。
(まだそうと決まったわけではない。それに、こちらに害をなそうとする強い意思を感じる。騎士としての責務を忘れるな、パーシー)
村の広場に行くと、すでに数人の隊員が血を流して倒れていた。
「みんな!大丈夫か」
ボールスが駆け寄る。傷は深いが、まだ息はあるようだ。ほっと安堵する。
「ボールス様、すいません。油断、しました……」
「喋るな!すぐに救護の者を呼ぶ」
「ボールス様、パーシヴァル様。敵は、魔族は、とんでもない化け物を連れています……」
「何……?」
ボールスの膝の上で騎士が意識を失うのと同時に、広場の奥から耳をつんざく咆哮が聞こえた。
「グワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
声が村を、大地を、揺らす。
川の水が氾濫し石橋に亀裂が入る。
周辺の物影に隠れていた小動物に変身した村人たちも、慌てて近くの建物へと走り出す。
「な、なんだこの声は!?」
「魔族の声とも違う……聞いたことがない」
戸惑う隊員たち。パーシヴァルがロンゴミニアドを掲げて一歩出る。
その表情には闘志がみなぎっていた。
「まさか現代に帰ってきてこの声を聞くとは思わなかったぞ……!」
霧が晴れる。
そして、
分厚い鱗に覆われた、真っ赤な肉食恐竜が姿を現した。
成人男性ほどもある巨大な顔とその顎。鋭い牙は長剣の剣身のように長く、大きくて分厚い。落ちくぼんだ小さな目はまっすぐにパーシヴァルを見ている。
最強の生物、ティラノサウルスと再び相まみえたパーシヴァルだった。
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