そんな事故起こしたら普通クビ
パーシヴァルが目を覚ましたときに見た天井は、不格好に整えられた木材と藁で作られたものではなく、石工が綺麗に磨き上げ、それをはめ込んで作られた頑丈なそれだった。
つまり、城である。
寝台からバッと上半身を起こす。と、腕に激痛が走った。
左腕だ。力が入らない。さらに遅れてめまいに襲われた。
頭を抱えたパーシヴァルに、横から声をかける者がある。
「パーシヴァル卿! お目覚めになられたのですね」
ガウェインとボールスだった。
2人ともパーシヴァルとともに魔族との100年戦争をともに戦った円卓の騎士である。
今、パーシヴァルに声をかけたガウェインはアーサー王の甥。王と同様に落ち着いた声で喋るが、中身は全く落ち着いておらず持ち前の馬鹿力でたびたび騒動を起こしている。だが根はいい奴である。
もう一人のもじもじしているボールスはもじもじしている騎士である。恥ずかしがり屋さんだ。城の人間は困ったことがあるとボールスにお願いするし、お願いされれば喜んで快諾するお人よしでもある。
「ガウェインにボールス……! 2人がいるということはここはキャメロット城なのだな……?」
「ええ。卿は原始時代から呼び戻されたのだとマーリン殿がおっしゃっていました。大怪我をされているそうですから、当分は安静にしているようにと」
意識を失う直前に大きな魔法陣を見た覚えがある。
あれで呼び戻されたということだろう。
そうだ、記憶が徐々に鮮明になってくる。
確かモンブランを森に帰そうと思っているうちに、ティラノサウルスに襲われたのだ。
ロンゴミニアドが反応しなかったため、身一つで立ち向かっていったのだが腕に怪我を負った。それで倒れたところをモンブランが………。
「そうだ! モンブランは!?」
大声を出して体に響く。パーシヴァルの額に脂汗が滲んだ。
「パーシヴァル様、無茶をしないでください……! もう少しで命を落とすところだったと医師も言っていました。今はとにかく横になって」
2人の心配そうな顔に根負けして、パーシヴァルは横になった。
「陛下とマーリン殿は?」
「夕刻には顔を出すそうです」
そのときにモンブランはどうなったのかも聞けるかもしれない。
パーシヴァルは2人に頷きながらも、睡眠を求めているその体はすでに半分眠りの世界に入り込んでいた。
◇
「おい、スリル狂ゴリラ。来てやったんだから起きろ」
マーリンの声だった。
パーシヴァルはカッと目を開く。
「こわ。目の開き方こわい」
「パーシー! 大丈夫か!?」
マーリンが怯えている横で、アーサー王がパーシヴァルの手を握る。
「陛下……。このようなお見苦しい姿を陛下に見せてしまうとはなさけない限りです」
「いいのだパーシヴァル! お前が無事なだけでもよかった」
アーサー王はパーシヴァルがキャメロット城に戻るまでの様子を簡単に説明した。
マーリンからパーシヴァルが重傷を負ったことを伝えられ、城の最上階にある魔法陣の間に行き帰還魔法を実施した。
そのときのパーシヴァルは左腕をティラノサウルスに噛まれており、普通の人間であれば痛みで即死していたほどの傷だった。だがまだ息があったためマーリンの回復魔法で体の組織の一部を修復し、すぐに寝台で安静にさせた。
おおよその組織は復活しているが、抹消組織は自然に元通りになるのを待つしかないとのことであった。また、血量も不足しているため以前のように体を動かせるようになるには1週間ほどはかかるという。
「しかしお前ほどの騎士がいくら恐竜相手とはいえそこまでの怪我をするとは……正直驚いたぞ」
困り眉の王が言う。
そうだ、パーシヴァルは肝心なことを思い出した。
「マーリン殿! あの時代に置いてきたアンキロサウルスはどうなったのですか」
「あ?」
「あの魔法陣が発動したとき、私を守っていた草食恐竜です。無事に森で過ごしているとよいのですが……」
中途半端な別れになってしまったことには若干の後悔があるが、いずれは別々に生きる運命だった。
せめてティラノサウルスから逃れ、無事に生きているかどうかだけでも知りたかった。
のだが、
マーリンの発言は予想外のものであった。
「分からんのだ」
「は?」
マーリンは髭のはえた顎をボリボリとかきながらさらに衝撃的な内容を告げた。
「お前がいた原始時代から、あのとき魔法陣のそばにいた恐竜の生体反応が2つ消えている。もしかしたらお前を呼び戻す際に巻き込んでしまったかもしれん」
「ちょっと待って」
パーシヴァルは戸惑った。戸惑ったあまりちょっと待ってなどと言ってしまった。
「ということはアンキロサウルス……いや、モンブランがこの時代に来てしまったと、そういうことですか?」
「ああ、その可能性が高い」
なんということだ!!!
パーシヴァルは頭を抱える。
あんな図体のでかい生き物が突然現れたら民衆は恐怖に包まれるに違いない。
そして百歩譲ってそれは仕方ないとしても、問題はモンブランのほうだ。
モンブランは見た目はごつく、歩く要塞のような格好をしているが、根は優しく人間を襲うことなどしない。
しかし、恐竜を見たことのない人々にそんなことが分かるわけがない!
危険な化け物と判断されたモンブランが攻撃される可能性がある。
捕えられ、石を投げられ、泣きながら辛い目に遭うというのか?
あんなに優しい子が!?
パーシヴァルは寝台を降りようとしたが、ふらついてその場で倒れてしまった。
「パーシー! 無理をするな!!」
アーサー王に肩を貸してもらったパーシヴァルだったが、じっとしていられない。
「陛下! 私を守ってくれたモンブランは……草食恐竜は私の大切な家族なのです。今この瞬間に、この世界のどこかで彼女が困っているのを思うと、私は涙を堪えることができません!」
「パーシー……」
ここまで激しているパーシヴァルを見たことはない。王は強く頷いた。
「分かった。私が命を出して草食恐竜探索の兵を派遣させよう。民も困っているかもしれんしな」
「陛下……!かたじけのうございます」
ゆっくりと寝台に座ったパーシヴァルに、今度はマーリンが腕を差し出した。
「忘れものだ」
そこには、聖槍ロンゴミニアドがあった。
「ロン!」
(パーシー……。俺のいない間に死にそうになるんじゃねえよ。俺はもう、お前以外の人間には仕えないと決めているんだからな)
「ロン。心配かけたな。すまなかった」
しかし、なぜマーリンがロンゴミニアドを持っているのか。
確かロンは、パーシヴァルがティラノサウルスに襲われたとき、その下顎に突き刺したままこの時代に転移してきてしまったはずだが―――。
パーシヴァルが疑問を呈すると、マーリンはぶすっとしながら答えた。
「俺がロンゴミニアドに念を送ったら、すぐに居場所が分かった。それで魔力を送り込んで転移させた」
「原始時代からですか? さすがマーリン殿」
「いや違う。現代だ」
ん?
パーシヴァルは首を傾げる。
マーリンは苦虫を数十匹噛み潰したようなひどい顔をした。
「言っただろう、“恐竜の生体反応が2つ消えている”と。最強の肉食恐竜もこの時代に来てしまったんだ。問題としてはこちらのほうが大きい」
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