鳥もどきとケーキでお祝い
ガリミムスとオルニトミムスが美味なのかは未知数です()
それからの1人と1匹と1本の生活はというと、
特に何も変わらなかった。
モンブランはすくすくと成長し、3パーシヴァル(1パーシヴァル=180センチメートル)ほどの全長になった。
ほぼ成人恐竜と同じ大きさだ。
パーシヴァルは、モンブランを連れて狩りに行くことが増えた。
日々の食糧を得るために毎回ロンの魔力を使っていては、いざ肉食恐竜に襲われたときに対応できない可能性もある。
アンキロサウルスは鎧竜とも言われ、背中の硬い皮膚と尖骨は肉食恐竜の鋭い牙すら通すことのない頑丈なつくり。いわば移動型の小型要塞だ。
また、骨塊のついた尾は振り回すことで強力なハンマー攻撃をお見舞いすることができる。
草食恐竜でありながら、攻守揃った強めの存在。それがアンキロサウルスであった。
とはいえ、やはり草食恐竜なので性格は至って温厚である。
モンブランはパーシヴァルとロンゴミニアドによく懐き、かわいい花を見つけると喜び、背中の硬い甲羅に鳥を休ませては一緒に昼寝をするような子だった。
狩り以外のときには決して生き物を襲ったりはしない。
パーシヴァルはモンブランの背に乗り——そのまま乗ると骨の突起が尻穴に刺さるので、葉を重ねたものをクッションのようにしてその上に尻を鎮座させた——、今日も狩りに出かけていた。
ディナーの献立を考えながら揺られるパーシヴァル。
「久しぶりに肉の串焼きにするか」
「ぎゅわ~……」
モンブランの意気消沈した泣き声。彼女は草食恐竜なので肉は食べられない。
パーシヴァルは笑いながら彼女の背骨を叩いた。
「安心しろ、モンブラン。お前の大好きなくるみケーキも作ってやるぞ!!」
「ぎゅわわっ!?」
モンブランはパーシヴァルにその大きな目を向ける。
常に潤い、大きく世界を映し出す黒い瞳がキラキラと輝いている。
モンブランはくるみが大好きなのだ。
「本当にお前はかわいいなあ」
パーシヴァルは巨大な娘の頭を撫でた。
すでに何種類かの恐竜をテイスティングしたパーシヴァルだったが、総じて恐竜の肉はまずかった。
だが、その中でも「これはイケる」と思ったのがオルニトミムスとガリミムスだ。
オルニトミムスとガリミムスはいずれも「ダチョウ恐竜」「鶏もどき」などと呼ばれる恐竜で、ようはでかい鳥のような格好をしている。ほぼダチョウである。
しかしとんでもない速さで走るので、狩りの難易度は高い。
モンブランは戦闘能力は高いが体が重く走るのも遅いので、パーシヴァルがロンゴミニアドの魔力で滑空し、一撃必殺を狙わなければならない。
肉は若鳥のように柔らかく、さっぱりとしていながらもジューシーな肉汁が口に広がる。
めちゃくちゃ美味い。だって鶏肉みたいなものだから。
パーシヴァルもロンもこの肉が大好きだったので——槍がどうやって食べるのかというのはまあいろいろあるってことで——今夜は久しぶりにご馳走にありつきたかった。
鶏もどきたちは見晴らしの良い平原を走っていることが多い。
パーシーズハウスから森を抜けると、草原が広がっている。朝に家を出発し、モンブランの足でのっそのっそとゆったりと歩いていった。ピクニック気分である。
草原にたどり着いたのは太陽の高い頃合いだった。
モンブランから降りたパーシヴァルはロンを手に持ち、あたりを見回す。
「モンブランはここで待っていろ。今からロンと精神統一をするから話しかけないように」
「ぎゅっ!」
モンブランは頷くとそのまま丸くなった。こうなるとただの岩である。
どんな肉食恐竜もこの殻を破ることはできない。
パーシヴァルは槍を地面に立て、そこに両手を添えて目をつぶる。
鶏もどきの気配を探る。彼らはとても素早く一瞬で見失ってしまう。
だからこそ“精神の目”でその存在を探り、見つけた瞬間に魔力を叩き込むのだ。
凪いでいる。
風と、鳥の声が聞こえる。
自然の鼓動。
そして———、
長い首に長い足。
風に揺れる羽毛。
大きな目とくちばし。
いた!!!!!!
パーシヴァルはカッと目を開けた。
「聖槍よ、我が声に応えよ!空を奔り我が敵を撃つ、divine thunder!」
パーシヴァルとロンゴミニアドに向かって大きな雷が落ちた。その雷を帯びたままの聖槍を、パーシヴァルは力いっぱい投げつける。
まさに“串刺し”にするかたちで、パーシヴァルは並んで走っていたガリミムスを2体、感電死させた。
(よっしゃよっしゃ。今日はうまい肉が食えるな~~~。楽しみだ)
格好良い技を披露したばかりの聖槍が欲望だだ漏れの声を発する。
「肉食恐竜のように力が優れた者もいれば、こいつらのように異常に素早い恐竜もいる。彼らの狩りはコツが必要だから、ある意味魔族と対峙しているときよりも戦いの技能は上がったかもしれん」
(それは一理あるな。パーシー、お前の精神力はかなり鍛えられているぞ)
「なに、本当か」
(ああ。肉食恐竜などは下等魔族に比べればずっと強い。この時代で生きるための狩りをすることがお前を強くしている)
思わぬ修行効果があったということか。
だが考えてみれば当然のことかもしれない。
「魔族との戦争は、ただひたすら目の前の敵と戦えばよいだけであった。だがこの時代には何もない。住む場所を作るために重い木々を運び、どんな木の実であれば食べられるかを目や舌で確認し、ときにはhot springで体を整え、ロンやモンブランが喜んでくれるような美味い調理法を探す。
生活すべてが体力、腕力、精神力、洞察力の鍛錬になっているのだな」
(経験を全て自分の力の糧とする。さすがは俺が選んだ男だ、パーシー)
「家を作ることも料理も、この時代に来るまでは専門の人間に任せていたからな。未知の経験は刺激につながる。そして、刺激に満ちた生活はやはり楽しいよ」
ニッコリと槍に笑いかけるパーシヴァル。
もう一人の家族は……とモンブランを見ると、やはり丸まったままだった。おそらく昼寝をしているのだろう。
苦笑しながらも、パーシヴァルは今日のご馳走であるガリミムス2体を麻袋に詰め込んだ。
◇
パーシーズハウスに帰る頃には空も暗くなっていた。
パーシヴァルは鶏もどきの羽毛を取り除き、食べやすいサイズに切った肉を串刺しにして火で焼き始めた。
火が通るまでは別の料理も平行する。
モンブランが尾の骨塊で殻を割ってくれたくるみの実と新鮮な葉っぱを切り刻んだものを混ぜ合わせ、そのあたりに生えているツル植物の根っこを砕いたものを加える。
このツル植物の根っこは、砕いて水を入れるとのり状になる。その特性を生かして、くるみと葉っぱのホールケーキを作る算段だった。
肉が焼けた。そしてちょうどよいタイミングで、くるみケーキもばっちり固まったのである。
「さあ、今日のディナーだ!」
(おおーっ!)
「ぎゅわわわわ~~~!」
1本と1匹は大喜びだった。それを見てパーシヴァルの心は温かくなる。
嫁を取らない今の自分に守るべき家族はいない。
代わりにこの1本と1匹に教えてもらったのだ。家族と共に過ごすことが刺激に満ちていて、とても温かいものだということを。
別に魔王を倒さずとも、世界最強にならずとも、どんなところで暮らし、日々何を食べるか、それだけでも十分にスリルに満ちた生活を送ることができる。
特にモンブランは、子どものいない自分にとって娘のようだった。
両手に満たない小さな命。それが今や鎧竜である。肉食恐竜とも渡り合える。
パーシヴァルの心は穏やかだった。
「モンブラン」
彼女の名を呼ぶ。
くるみケーキに食らいついていた彼女は、口に大量のくるみをつけたままパーシヴァルを見た。
「お誕生日、おめでとう」
「ぎゅ?」
(モンの生まれた正確な日にちは分からないから、今日がお前の誕生日ということで俺とパーシーで決めたんだ。俺たちとは時間の流れが違うが、お前にとってはあの日からだいたい1年が経過した頃らしい)
あの日。
アロサウルスに荒らされた巣の中で、唯一生き残っていたモンブランを見つけた日。
時間の経過については先日、hot springに入りに来た魔術師マーリンに聞いて分かったことだった。
「君は今日で1歳だ。生まれた日は家族みんなで、ケーキとプレゼントでお祝いするんだよ」
パーシヴァルは後ろに隠していたプレゼントを、モンブランの頭に乗せる。
花冠だった。
ピンクや黄色、オレンジなど可愛らしい花々で作られた冠。
モンブランの大きな黒い瞳が頭の上の花冠を覗き込もうとするが、うまく見られずもどかしそうにしていた。
パーシヴァルとロンがその様子を見て笑う。
「とっても似合うよ、モンブラン。やっぱり女の子だな」
(お前は恐竜一の美人さんだ!)
一人と1本の声を聞き、モンブランがきょとんとする。
瞬間、花冠が落ちた。それを見るモンブラン。黒い瞳に花の鮮やかな色が移り込む。
「ぎゅ……」
「ん?どうした、モンブラン」
「ぎゅ、れ……シい……、ぱし」
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