安息の学校
「…そうか、お前達の学校は安全なんだな?」
直人は運転しながら聞いた。
「はい、多分」
信二は力なく答えた。実は信二も、自分達の学校が安全だとは思い切れない。感染者は恐れを知らない連中だ。きっと、板で塞がっているバリケードだって破るに違いない。でも、なぜか言ってしまった。
サイドミラーで後ろを見た。感染者はもう追ってきていない。
信二は気分を変えようと、ラジオをつけた。
『……渋谷区は危険地域に指定されました……』
信二は聞いた。
『自衛隊は渋谷区を厳重に封鎖しました。東京は依然、巨大な壁に覆われており、中の様子が確認できません。この騒ぎに、都内感染説まで流れ出しました。政府関係者、および陸上自衛隊の正式発表はありません』
渋谷、すなわちここは、危険地に任命されたのか……てことは、ここは感染現地…
その時、後ろから奇声が聞こえた。
サイドミラーで後ろを見ると、数十人の感染者がワゴン車を追っていた。
「織邨さん!追ってきてます!」
「つかまれ!!」
直人はスピードを限界まで上げた。車のエンジン音が大きくなった。
だが、感染者も速度を上げた。
感染者たちは追い続けた。獲物の首筋を食いちぎるまで、彼等は追い続ける。
「連中は陸上選手か!」
直人はそう怒鳴った。車に追いつけるのは、信二が知ってる限り、どこかのジャマイカ人だ。
感染者は、どこかのジャマイカ人ほどではないが、かなりのスピードで追っていた。
突然、直人は急ブレーキを掛けた。車は音を立てながら止まったが、感染者たちは急には止まれなかった。全力で走ったまま、何人か車体にぶつかって倒れた。
直人はすかさず車を走らせた。
感染者たちは追跡を中止した。
「なぜあいつら止まったんだ?」
直人はサイドミラーで感染者の行動を見ていた。
信二は窓を開け、顔を出して外を見た。
感染者たちの中心に、フードを被った居た。
信二は目を擦った。どこかで見たような……!
信二は思い出した。感染者が学校を襲ったときに居たフードの男と同じ格好をしていた。
「あいつ、何なんだ?」
信二は、フードの男の正体が気になった。感染者のリーダーか?
「車で行くには目立ちすぎる。一旦安全な場所で捨てて、徒歩で行こう」
直人は、ビルの裏で車を止め、全員を降ろさせた。
信二は茜を背負った。
少女は、真人に背負われた。
直人は先頭に立ち、歩き始めた。
ビルから出ると、案外学校が近くに見えた。
「あそこか?」
「はい」
直人は銃を構えながら歩き始めた。信二たちが学校に行くまでの間、不思議に感染者と遭遇することはなかった。
直人は、職員玄関を開けた。玄関の手前では、バッドを持った青年が見張っていた。
「じ、自衛隊…!」
明らかに恐れていた。
「1人負傷者が居るんだ。保健室へ連れて行ってくれないか?」
「わ、分かった」
青年は茜と少女を抱えて、職員玄関のすぐ横の事務所の横にある保健室に入った。
「案外あっさり終わったな。この旅」真人はさりげなく呟いた。
「俺は職員室に行くか」直人は階段を駆け上がって、職員室を探した。
信二、真人、立花は、自分のクラスの教室に戻ることにした。
廊下や教室内は、大勢の生徒、市民、教師が居た。
皆、状況を把握しきれて居なかった。
渡り廊下で紀子が待ち構えていた。
「あなた達、どこに居たの?」
「病院っすよ」真人はいい加減な感じで答えた。
「病院?」
「薬を取りに」
「……まあいいわ。とりあえず、戻りましょう」
紀子は信二達を連れ、教室に戻った。
教室では、多くの生徒が自席に座っていた。信二たちも、自分の席に座った。
「大丈夫、信二君?」真希は心配そうに聞いた。
信二は、気まずい気持ちで答えた。「ぴんぴんしてます」
ぴんぴんしてるって言ったら、ぴんぴんしてる。
まあ、しばらくここに居れば安心かな?




