第9話 あれから-1
あれから2日かかってやっとたどり着いた屋敷はおとぎの国の王様の住むような屋敷だった。
庭は広く一本屋敷につながり脇には鑑賞をするための木が等間隔柄植えられ、小道には赤・青・紫のかわいらしい花々が寄せ植えられていた。花壇はところどころにあり、丸い形のレンガ造りで、花の無い葉ばかりの固まったキャベツのような、しかしピンクや紫のきれいな色の植物がぎっしり植えられているもの、シンプルな陶器の盛り土の花壇にはユリに似た袋状の花を持った茎の細い植物が植えられていた。
奥には堂々たるレンガ屋根、白い壁の豪邸が見え、両脇にも何棟か離れのような建物が見える。離れのさらに奥には馬車が幾台も止めてあり、さらに奥には低い屋根の小屋のようなものが見える。動物を飼育している小屋のようだった。
悠の感覚で言うと、これは屋敷というかもはや城だ。森の中に突如現れる開けた景色、まぶしいばかりの白い屋敷。
ラウールとルナに続いて固く閉まった門の脇の小さな通り道(使用人用の通路である)を通り抜けると悠々と庭を歩き、やがて屋敷の扉の前に立った。
鉄と木で作られて扉の脇にある動物の形をした鉄製のドアノッカーをルナが引っ張りたたきつけると、ゴーンと大きな音があたりに響いた。
と、間もなく中から執事のような老人が出てきて、ラウールとルナを見ると口元にかすかに笑みを浮かべて中へ入るように促す。
悠たち一行は難なく応接間のようなやたら広い部屋に通され、ミルクのたっぷり入った紅茶をふるまわれていた。
「サナニエル・ノワティエです。旅の方々。妻もお会いしたがっておりましたが、あいにく今日は気分がすぐれず臥せっておりまして。」
主人のサナニエルは気安く挨拶をする。まずエルフィールに握手を求め、次に悠の手を取り軽く額に仰ぎ(この世界流の挨拶だろうか)、最後にバリュバルに右手を差し出し握手し、その手を両手で握り笑顔で「お見知りおきを。」と言った。
「さて、ご一行様。そちらにいらっしゃるのがわが父の親愛なるお従弟様のエルフィール・ド・リディアル殿ですね。先馬でお知らせだけはいただいておりました。遠路はるばるようこそおいでくだされた。」
「ええ。お会いするのは初めてですね。ノワティエ公。王都にいらっしゃることはあまりありませんか。」
「ありがとうございます。今年のパーティにも出席したい気持ちはありましたが、何分妻が身重で離れるのを寂しがるので。」
「ああそれは。後ほどぜひご挨拶と祝福を述べさせてください。」
と、ひとしきり和やかに領主の公爵とエルフィールの会話は進められた。
装飾された一本木のテーブルにはこれまた同じ色合いの小粋な椅子が備え付けられており、色とりどりの菓子が置かれている。
ちなみにラウールとルナはそちらに座っていない。途中まで立ったまま話を聞いていたが後ろに控えた使用人が気を利かせて悠たちの座るよりは地味だがかわいらしい布の張り付けた小椅子をさっと2脚差し出してくれているので少し離れたところで腰掛けている。
一息ついたところで、サナニエルが目くばせした。要件を促している瞳に、エルフィールはほほえんで、「お先に悠様からどうぞ。」とレディファーストで促してくれた。




