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何ももらえずに異世界に飛ばされたので何かやることないですか、なんてそんなぁ。  作者: 秋野PONO(ぽの)
第一章 それぞれの出会い

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第4話 混ぜるな危険!

そろそろ村に着こうかというところだった。


悠は耳に手を当てて、遠くの音をその方向で拾った。ガラスをたたくような鈍い、重い音。

2人は顔を見合わせた。

「剣撃だ。」

「うん。村の方だね。」

方向としては、と目だけでうなずく。二人はお互いを横目でジッと盗み見た。

面倒なことには巻き込まれたくない

と二人とも思っていた。なかなか気の合うことを自覚する2人だった。

「村の方だよねぇ。今日はベッドで眠りたいですよねぇ。」

ため息をつきながら悠は言う。何も言わないがバリュバルだってそうしたい。長剣を悠から返却されると、そのまま木々の先、音のする方へ駆け出した。そのあまりの速さ、木々を避け、地面にせり出した根を、ふわっと飛ぶように避けあっという間にその姿が消えてしまった。

「バルさん、速ーい!」焦りながら悠はあとを追う。バリュバル、という名は悠にとって発音しづらい。


悠がやっとのことでバリュバルに追いたころ、村は騒然としていた。

村、というほどの大きさがあるかわからないが古ぼけた木の柵、中には数件の粗末な木造りの家が見える、柵の東側は見事になぎ倒されていた。

「ひえ・・・」

悠は小さく声を上げる。子供の身体ぐらいはあるだろうか。黒茶色に光る身体を持ち上げ威嚇するように前足を振り上げる、一匹の蟻のような生物、柵を突き破り入ろうとしたのだろう、頭部には細い切れ込みのような、おそらく目と威嚇する顎には牙まで見える。

数人の村人が不安そうに遠巻きに取り囲んでいるがどうやら柵のところで押しとどめられているようだ。一人の青年が長剣で蟻の前足を受け止めていた。

「武装蟻か。やっかいな。」

隣で見ていたバリュバルがつぶやく。

「ど。どうしましょう。」

バリュバルはさっと青年のそばまでいくと「借りるぞ。」と腰のダガーを抜き取った。そのまま流れるような動作で蟻の胴体を蹴り倒し、青年を軽く後ろに突き飛ばした。

蟻はどさっというおとを立てて地面に横倒しにたたきつけられる。素早くその胴を体重をかけての乗り上げ、右手の長剣を柄の部分でたたきつけ蟻の両前足を地面に拘束した。素早い肉食獣のような動きだと悠は思った。

「おい。誰か、ぼろ布を持ってきてくれ!」

バリュバルが叫ぶ。遠巻きに震えながら見ていた女性がはっとしたような駆け出ししばらくすると茶色い布を持ってきた。くるくると巻いて放られたそれを蟻の頭部に包むようにかぶせる。この間蟻の上に乗り上げて蟻の動きを止めたままである。

「おいそこの!」

呆然と佇んだままの青年に声をかける。

「は。はい!」

この、と先ほど青年から半ば奪い取ったダガーを突きつけ顎で指し、

「それで、頭部と身体の間を切断しろ。布の上からだぞ。」

青年は両手で押し切ろうとするが、なかなか刃を貫通させることができないでいる。見ていたバリュバルはちっと、大きく舌打ちしながら言った。

「使えんやつめ。こっちを抑えてろ。」

長剣を青年に預けると開いた手でダガーを奪い、布の上にあて、

「はっ!」と足でけりこんで刃を埋めていく。ぶしゅと嫌な音がして布はみるみる紫に染まっていく。

「武装蟻だ。体液が厄介だ。仲間を呼ぶ。腹の部分は手を付けるな。」

蟻はしばらくぴくぴくと痙攣していたが、やがて静かになった。

「だ、大丈夫です?」悠は蟻が死んだことを確信できたので近づいた。

「エルフィール。無事か。」

青年にも近づいてきたものがある。白髪の背の高い男だった。

「あ。ああ。無事だ。」

青年は白髪の男に向けて言った。それから悠とバリュバルの方を、否、バリュバルの方を見て言った。嫌な口調だった。

「魔の民だな。こんなところにも湧いて出るかよ。」

そして悠の方をちら、とみるとますます不機嫌そうな声で言った。

「リィンザエル。解呪だ。」

悠には何のことかさっぱりわからなかったがリィンザエルと呼ばれた男の動きは速かった。左手を悠の方に突き出すと何やら悠には聞き取れない言葉を発した。

そのとたん、青い光のようなものがふわっと悠の方に発せられた。その光は一瞬の間に悠の頭を包んだ。

…が、それだけだった。そのまま光は消えた。

「不発か?」

「なんでしょうね。効くにしろ効かないにしろ光は最も持続する想定だ。はて、ちょっと強めにやっててみるか。」

そういって再度同じ動作をした。

「ちょっと・・!」訳が分からず悠は言うが瞬くまに同じ動作をとる。

「やめろ!。」

イラついた様子でバリュバルは間に入りろうとするが、一瞬早く、今度は先ほどの何倍もの強さの光が悠に走る。そのまま悠の胸にぶつかり、今度はどんっ、という音がして悠の身体は後ろにはじかれた。光は悠に反射し、間に入ろうとしていたバリュバルに向かった。すんでのところで長剣で光を退けるが、まるで重いものに吹き飛ばされたように反動でどんっと弾き飛ばされてしまい、そのまま後ろの柱に鈍い音を立てて頭をぶつける。

「あ。」幾人かの声が重なった。

あたりどころが悪かったのだ。そのままバリュバルはのびてしまった。

「何を!!!!」

悠は青年につかみかかった。黙っていた白髪の男が落ち着いた口調で言った。

「エルフィール殿。彼女は多分大丈夫だぞ。伸びてる青年に謝った方がいいのでは?」

エルフィールとよばれた青年は目を真ん丸にして悠に襟を引っ掴まれてゆさゆさ揺られていた。


※※


バリュバルが目を覚ましたのは昼過ぎだった。

村の女性たちには次々のお礼を言われ、一軒の家を自由に使って構わないからと言われて、悠とエルフィール、リィンザエルは家の扉をくぐった。バリュバルは村の男が担いで二階のベッドに運んでくれた。

悠は謝られたエルフィールから、あらかた事情を聴き終えていた。誤解だったと。

曰く、あの男は盗賊に違いないと。最近ここらでは小さな子供を拐かしての奴隷売買も多発しているので、と早とちりが発動して拐かされたかわいそうな女性を、助けようとした善意であったと。

「しかも、魔の民です。瞳を隠しているみたいですが、私の目はごまかせません。特徴的な赤い瞳にブルーの目の魔術具を使うとちょうどあんな感じの色になるのです。あなたは知らないんですね。数々の伝承でも言われる赤い目の悪魔そのものの特徴的な容貌!やつらのやっかいなことに「魅了」チャームの魔法は時間がたてばたつほど解きにくくなる。」

「申し訳ないことをしました。私もてっきり・・と思い。自分の早とちりを悔やむばかりです。」

白い髪の青年は悠に丁寧に謝った。それを見て怒りで不機嫌になっていたエルフィールと呼ばれた青年も、態度を改めた。失礼な態度だったことにやっと気づいたらしい。

「そうです。申し訳ありませんでした。貴女を怖がらせてしまい。私はエルフィールと言います。ノワティエ公の屋敷に向けて旅の最中でした。」

「悠です。あの、特にあの、上で寝込んでいる人にたぶらかされてるわけではないとは思いますが。旅の途中でして」

と、悠はかいつまんでこれまでのことをエルフィールに説明した。

「ということで、私達もノワティエ公の屋敷を目指してる最中です。こんなことに巻き込まれるとは思っても見なかったですが。」

一度ため息をつき核心に触れた。

「で、さっきは、助けるかため?私に何をしました?」

気づけば猫のメルセデスも、悠の側に寄り添い、膝にパッと飛び乗り、くつろぎながらエルフィール達の方をジロりと睨んでいる。

漂ってくる怒りの気配に怯む2人。

「ディスペルだな。」

声の方を振り向くとバリュバルが階段を降りてくるところだった。

「だ、大丈夫?」

「頭がくらくらする。」

「誤解でした。」

目を合わせず、聞き取れないくらい小さい声でつぶやいたのはエルフィールだった。主に悠に向かって、すみません、と聞こえた気がしたが小さすぎてバリュバルまで届いてない。

「ちょっと。態度がよろしくないですよね。あなた。バルさんに助けてもらったんですよね。だいたい…」と言いかけたのをバリュバルが手を向けて遮る。

「ああ、いい。慣れている。」

そのまま戸棚をガサガサと探るとティーカップを取り出し、角の水がめから水を取り手に持っていた茶葉に注ぐ。茶ができると一杯注いで空いていた椅子に、ドカと音を立てそうなほど乱暴に座る。

「で、にぃさん。天の上の人 オリアルラだな。なんか色々混ざり物のように見えるが。仲良くしたくないのはよく分かるよ。なぜなら俺もあんた達が好きではない。礼儀知らずで強欲だからな。」

馬鹿にしたような口調にエルフィールの顔が赤くなる。

「なにをっ。どちらがっ。」言いかけるが隣のリィンザエルにちょっと!と制されて言いとどまる。

「か弱い女性が拐かされ連れ回されているようなら助けるのが最優先ですからね。最近このあたりの森も物騒だそうだ。残念ながら魔物以外の脅威でね。その品のない色の髪を隠そうともしない、どうせ盗賊上がりの冒険者か、よしんば野盗そのものではないかな、と思っても無理はないと思わないかね。」

「なるほど。王都の六公の公爵さまの坊っちゃんは自分の過ちでも謝るのはお嫌い、と」

「なに。なぜ分かる。」

バリュバルはエルフィールの肩口を指さす。

「その紋。良く見たな。王都で。わざわざお名前の名札付けて出歩くんだなお貴族様は上品ですばらしい。そしてこのダガー。名は無いようだがかなりの業物だ。持ち主が見合ってない気はするが。どっかのお貴族様の物見遊山旅の典型だな。」

「ちっ。この紋はですね。虫よけみたいなもんですよ。田舎のごろつきに絡まれでもしたら面倒ですからね。」

「なるほど。追いはぎしてくださいと宣伝しながら歩くんだな最近のお貴族様は。見分けやすくていいな。」

「あいにく、優秀な従者がいますのでご心配にも及びません。」

「おお。優秀な従者どの。さっきはいかがされたのかな。お手洗いかな。腕の見せ所だったのでは。」

どんどん空気が悪くなってくるのを感じている悠だった。

悠同様、口を挟まず、あきれた顔をしていた従者と言われたリィンザエルと目が合う。

「あの。リィンザエルさんですっけ。」

「はい。主がとんだご迷惑を現在進行形でかけており謝罪の言葉もございません。」

「い。いえ。それはまぁ。なんか難しい空気になっちゃいましたね。」

「そうですよねぇ。うちのバカ坊や、じゃなかったおぼっちゃまは魔の国の方がものすごくお嫌いでして。すぐ我を忘れちゃうんですよね。

「自己紹介もできませんでしたね。悠と言います。んで、バルさん起きたし、今日はここに泊まりますよね。今のうちにベッド、食事等いろいろ考えようかなと思います。あっち、お任せしてもいいです?」

険悪な雰囲気を隠そうともしない二人の方を指さす。

「そうですよねぇ。ええ。ここにご厄介になります。屋根のある場所で眠れるのも久々ですので。二階は悠様がお使いください。鍵がかかりそうな部屋でしたので。」

悠は扉の方に向かった。

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