第29話 呪物
「エギドの移住ですか?」
サナニエル公はあまり良い顔はしなかった。
「あのあたりは畑があるので作物被害が心配ですが…。」
しかしそれをやんわりとたしなめたのはジャイルーンだった。子供が次々と流産して亡くなってしまう話はあと1か月ほどで授かった新しい命を産む彼女には、哀れを誘う話だったんだろう。
「うーん…。そうですね…。わが森に古くから住むエギドとニンフは神の使い。しかし…。そうだ。悠殿、その頼み、聞き入れる代わりに、お願いしたいことが…。」
※※
「「書庫にたまった、呪われていると思しき雑多なものたちの確認と可能であれば解呪してほしい」ってか。それは、また高くついたな。」
「そうなの?」
「ああ。俺は長いこと中央大陸を旅したんで、骨董品や屋敷なんかによく飾ってある古い品をそこそこ見たが、いわゆる呪われた品、骨董品屋なんかによく、隅の方に、触るな危険って書いて展示されてるやつ。」
「結構よくあるのそれ?」
「いや、たまーにな。あとアホなお貴族様が間違えて屋敷に飾ってたり。お貴族様は案外迷信深くて、災い避けに屋敷の扉入ったとこのホールに甲冑とか武具とかなんやかや置きたがるやつ多いよな。あれに呪いの品が混入してて、本人家族まで正面から入りづらくなっちゃって裏口から出入りしてる奴とかいて…っと。すまん話がそれたな。とにかくな、この話の要点は、呪いの品ってやつは普段は何気ない美術品のふりしてるんで、多少魔力があるくらいじゃ気づけない。あと、一括りに呪いっていっても色々敬経緯や段階も違うんだよなぁ。解呪と言われても、専門者でないと判別もつかん。」
「おおむねその通り。でもちょっと違います。ってかなんにでも詳しいのですね。魔物から市井の骨董品やら貴族の屋敷やら。あなたが何者なのかに興味がわいてきますね。」
開け放していた書庫の入り口からリィンザエルが顔を出す。
「リィンさん。もう大丈夫なんですか!?」
「はい。ありがとうございました。あなた達に本当に大きなご恩ができてしまいました。なんなりとお手伝いさせていだきますよ。聖眼の扱いなら多分ご教示できるかと。」
顔を覗かせていたのはリィンザエルだけではなかった。リィンザエルは、近くの部屋から持ってきた椅子を部屋に運び込んで、奥に立つ女性を座らせた。
「ジャイルーン様!」
大きなお腹を抱えたジャイルーンがニコニコと笑みを浮かべている。
「私も少しだけど魔力があるので、何かの役に立てないかと来たの。最もこんな状態なので、役に立てるか怪しいけど。」
リィンザエルとジャイルーンは悠にどうやって魔術指南をするかについて熱心の話始める。
「場所を、移動したほうがいいのかな。」
書庫では狭いような気がする。大人四人が入った書庫はギチギチで机を置く隙間もない。
「まぁ、どうせ教えるといっても、どうせみんな知識しかないんですけど。悠殿。呪い、ですね。」
リィンザエルが言うには、呪いと言っても大きくわけて2種類あるそうで、時間の経過などで淀んだ瘴気が溜まってしまい汚染されてしまった「汚染物」と、呪術で汚れてしまった「呪物」であるとのことだった。
「おそらく呪いと言っても、ここにあるのはほとんど汚染物なんじゃないかと思うんですよ。バリュバル殿のさっきおっしゃったような呪物なんてめったにお目にかかれないので。だ、たどちらにしろ、専用の修行をつんだものか、それこそ悠殿のように特殊な目を持つ人間にしか判別はつきません。例外的に、呪物であれば力が強いもの、その力が発揮される瞬間には普通の人間にも気づくようです。汚染物は目での判別はお手上げです。効果も、「なんとなく気分が落ち込む」とか「長く使ってると病気になる」とかそういう曖昧なものなので、難しいんですよ。」
「そうですね。私も、ここに来ても何も感じませんわ。最もこの部屋に来ることなんてないんですけど。古物に興味がありませんので。」




