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何ももらえずに異世界に飛ばされたので何かやることないですか、なんてそんなぁ。  作者: 秋野PONO(ぽの)
第二章 魔物の森の白亜のお屋敷

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第26話 双頭の蛇

「リィン!」


 ラルスとヴィキの感動の再会の裏で、悠たち3人も念願の再会を果たしていた。


 そう、ラルスが乱暴に地面に放り投げたのは悠たちの「探し物」だった。

 エルフィールが慌てて駆け寄る。

 首元に手を当て、生きていることを確認する。問題無いようだ。


 ただ、だいぶ衰弱しており、身体と精神は分離するのようだった。


「ひとまず。怒られずに済みそうだ…。」

 エルフィールは急いで本を取り出すと、収容の呪文を唱え本を開く。


「帰れ、リィンザエル。」

 エルフィールの言葉でリィンザエルの身体が白い光に包まれ、消えた。


「ふぅ。3日ほど休ませます。そこのあなた、ありがとうございます。私のお荷物を助けてくれて。」


 エルフィールが男に言葉をかけると、ヴィキとしっかり抱き合っていた男ーラルスは狼狽したように自分を指さした。


「お?おれ?あ…あああ!その人な、崖の下できらきらするものがあったからさぁ。見てみたら気絶してるじゃないか。とりあえず助けないと思って担いできたのさ。…よ、よかったなお連れさんが」が見つかって。あはは!」


 まさかニンフと称して北の館に連れて行こうと思っていたなどとはとても言えない。とっさにラルスはうまくつじつまを合わせて切り抜けることにしたのだ。


「雨でだいぶ地盤が緩んでいたので、大方崖の端っこの方でも油断して歩いてたんでしょうね。起きてきたらこれでもかというほど嫌味でも言ってやろう。」


「…あ。ああ。まぁそういってやるなよ。このあたり沼地も多くてぬかるみやすいんだ。」

 なんだから自分が責められているようでいても経ってもいられない気持ちになるラルスだった。


※※

「針の蛇。だってぇ。。聞いたことないが放っておけない…!ヴィキ、大丈夫だよ。俺がそんなやつたたき切ってやるさ。」


 ラルスは勢い込んで言う。


「…逸るのは早い。ラルス殿。針の蛇だなんて聞いたこともない魔物だ。まずは情報を集めた方がいい。」

 とエルフィールは言いつつ、悠とバリュバルを手招きすると、ひそひそ、と耳打ちする。


「…とはいいつつですね。もう目的は達したので、一度屋敷に帰りません?」


「えっ。でも…。この人一人で行っちゃうかもよ。後日来てこの人の死体があったら寝覚め悪くない…?魔物が出たっていう場所だけでも確認しておきません?」

 ひそひそ、と耳打ちするエルフィールにびっくりして悠は反論する。

「そうでしょうか…。そもそも魔物の卵を食べるなら、我々には害獣ではなく益獣では?対処する必要あるんでしょうか。」


 それはそうだと悠も思う。しかし、あんなに泣いていた小さい少女が頭から丸のみされてしまうイメージが頭の中でできてしまうとなかなかうなずくことができずにいる。


 そこへバリュバルが言いづらそうに、口をはさむ。


「なぁ。エルフィール。針の蛇なんて聞いたことないよな。一応な、新種と思わしき魔物を発見した場合、「安全の確保できる範囲で外見、生態、特徴を報告せよ。」と中央大陸では推奨されてる。蛇型の魔物はとろいし小さめで脅威も少ないだろう。一応、出現した場所だけでも確認しておいてもいいと思うぞ。」


 ぐ。と嫌そうな顔をしてエルフィールは黙り込む。


「…わかりました。ヴィキ、案内してください。」


※※


ヴィキが言うには、魔物が出たのはいくつかあるニンフの産卵場所の内、水辺の数か所であるとのことだ。ニンフは水場から離れることができないらしく、すべて水辺に産卵場所は点在しているようだ。ラルスも当然のごとくついてきて、4人と1匹は産卵場所の一つに向かう。


「それ以外の場所は無事だったの?」


「うん。でももう卵無い。数年前からあまり産まれなくなった。今年は2つしかなかった。2つとももうない。でも蛇はたまにくる。もう卵無いこと、蛇にはわからない。」


 ヴィキはラルスの両手をしっかりと握ってぴったりと寄り添ってドレスを引きずりながら歩いている。時折、ネズミか何かががさ、という音を立てるがそのたびにラルスの胸に飛びこんで、ほとんど縋りつくような態勢で震えている。ヴィキはラルスの身長の三分の二ほどしかないため、ラルスが覆いかぶさると全身すっぽり隠れてしまうほどだ。


「そっか。ねぇ。ところで。あなたたち人間を、特にその舌を食べるっていう話は本当なの?」


 悠にとっては一番聞いてみたいことだった。


 「うん。食べるよ。でもヴィキ達、水草とか魚、ほかのものも食べれるし人間はもう何年も食べてない。ほんとだよ。ヴィキ達、食いだめ、できるし。」


「ほ…、ほう。食いだめ…。」


 それってつまり…。まぁいいか。


※※


「ここ…。」


葦がうっそうと茂った茂みの中にその場所はあった。


人間1人分ぐらいの形に草が踏み倒され、湿った鳥の巣ようなスペースがある。葦が何重にも引かれ、踏むとふかふかと柔らかい。


「…卵の殻がいっぱいだね。」

「ああ。このあたり…この穴が食われたあとか。」

 バリュバルが割れた卵の殻を取り上げて観察する。5つほどあったようだが、みな無残に親指の太さほどもの穴があいている。

 大きさとしては大型の鳥類ほどもあるが、殻の様子は鳥とは異なり、殻に弾力があり、手で引き延ばすとゴムのように形が変わった。


「ふーむ。殻も腐り始めているのでもう何日も前のようですね。」


「このあたりに蛇の巣っぽいのはねぇな。」


 あたりを見回っていたラルスが残念そうに首を振る。蛇型の魔物というのは基本的にそんなに遠くに足を運ばない。穴を掘って巣をつくる傾向があるため出現場所の近くを見れば巣穴がすぐ見つかるかと思っていたがそう甘くはないようだ。

「ま。そう簡単に出会えることもないですよね。ヴィキ。この卵の殻、少しだけ持ち帰らせてください。…ありがとう。」


「ヴィキ。もう夕方なので、私達一旦帰ろうと思うの。案内してくれてありがとう。…ラルスさん、どうします?」


ー一緒に…。

言いかけて悠は言葉を切った。


何か、音が…。


…悠が黙っててしまったのでラルスが不思議そうな顔をするが、ラルスも気づいたようだ。エルフィールやバリュバルも。


どこかから、かすかに空気が抜けるようなしゅー、という音がする。

「おいでなすったか。ユー。あっちの茂みだ。」

 悠が顔を向けると確かに、土色に紫がかった体躯の蛇がするすると移動してくるところが見えた。


 大きさは大人の太もも程度であろうか。喉元は大きく膨らんで黒い眼玉のような二つの黒い文様が見える。舌を出す代わりに細い牙のようなものが口から垂れ下がっている。あの牙で卵を吸うのかもしれない。


「でなすったな。…このっ!」


 ラルスが腰に差した剣を素早く引き抜くと、蛇の膨らんだ部分を断ち切った。


 すぱ、と気持ちよい音を立てて蛇が両断される。


「ふぅ。ざまぁみろ。」

 素早くエルフィールが蛇のまだぴくぴくと動く死骸を体重をかけて足で踏み、完全に動かないことを確認してから布袋でつかみ上げる。


「一匹だけでしょうか。…あっ!」


 気づけば悠の足元にもう2匹ほど。


 …そして、死角になる木の影にもう1匹はいた。


 しゅーしゅーと男を立てていたのはこの4匹目だったのである。


 一瞬だった。ラルスは首元に嫌な気配を感じ、後ろに剣を薙ぎ払った。手ごたえはあったが焼け付くような痛みを感じてラルスは剣を薙ぎ払った次の瞬間にはうずくまっていた。蛇の牙が肩口をかすめたのだ。


「でかい…!」


 後ろにいた1匹は、大人の身長ほどもあるような大蛇だった。


 ラルスに薙ぎ払われて腹の部分が半分以上千切り切れてシュー、という不思議な音を喉から出す蛇はのたうちまわりながらやがて勢いをなくしてどさりと草に倒れた。


「ふぅ。デカブツでちょいびっくりしたが、楽勝だぜ。ヴィキ、大丈夫っ…。」


 


次の瞬間、いくつかのことが同時に起こった。

「…ラルス!後ろっ!双頭だ!。」

と叫ぶエルフィール。倒れ伏した蛇の「尾」の部分から頭に針の突いた顔がぬるりと出てくる。


その尾に先の「頭」についた針は正確にラルスの胴体を狙って振り降ろされる。


 誰もが油断して反応が遅れた中、その動きをとらえていたのは、人ならざる動体視力をもったニンフのヴィキだけだった。

水からドレスの裾を乱暴に引き抜き、ヴヴ!と大きく唸ってラルスと蛇の間に滑り込み蛇の尾にかみついたのだ。


 ブシュと嫌な音がしたのはヴィキの脇腹に蛇の針が刺さったためか、彼女が鋭い牙で蛇のうろこを突き通したためだったか。



 その瞬間ヴィキは、弱弱しい少女の姿から、水色の体躯に鱗がびっしり体中生えた、巨大な魚のような全身を持った魔物に転じていた。

 水から離れたことで水の魔術が解け、本来の姿に戻ったのである。

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