第20話 リィンザエルという男
「すみません。私はリィンを探しています。このまま、ニンフの住処にいきますので、お二人はどうぞお帰りください。サナニエル公にご相談もありますよね。」
エルフィールがバッグを片付けながら言う。
「え、明日で良いのでは。魔物避けの香もないですし。」
「…いえ。魔物はまぁなんとでも。リィンを早めに見つけないといけないのです。まぁいろいろ…、事情もありまして。」
「あのニィちゃん、精霊の眷属だろう。2.3日くらい別に大したことでもないんじゃないの?」
訝しげに問うギギに、エルフィールは渋い顔をする。
「いえ、精霊、ではない、と言えなくもないのですが。」
エルフィールは、ギギと悠、バリュバルに準々に目を向けて、最期のバリュバルのところでたっぷり10秒は考え込んで、やがて何かを振り払うように首を振った。
「まぁ、いいでしょ。いずれ分かりますしね。リィンザエルは精霊の眷属ではないです。これから呼び出した精霊を媒体にした、亜人間です。」
バッグの中から分厚い茶色い想定の本を取り出す。
「精霊辞典?」
バリュバルが表紙の想定を読む。
「ま、表紙は偽装のための適当な本の表紙なんです。詳しい話をするのもなんなんですが、要はこの本、精霊の寝床っていう技術を使ってまして。精霊界につながっております。ただ、リィンザエルは精霊の体を、媒体?というか本体にしてそこに天使、失礼、彼らは天使と呼ばれたがっているもので、今の正式名称は、「天の上の人」ですね。まぁとにかく、オリアルラの一部族の人間の、意識を憑依しているもの、なのです。すごく簡単にいうと精霊の身体と、人間の魂をくっつけたもの、それが今のリィンザエルの正体です。」
「…オリアルラが精霊を使ってさまざまな実験をしてることは知ってるぞ。巷でも。第4の人類のような奇妙なものを作ろうとしてるとかエグ•リリラの赤ん坊をさらってきて半分に切ってライブリアと合体されるとか噂はとにかくたくさんあったな。」
「そんな気持ち悪いことはしてない、と思いたいですね。私もオリアルラの血が流れてますし。今の王都含めメディナの貴族は大なり小なりですが…。まぁとにかく、我々人間よりも存在の薄い精霊と人間の融合はこの「精霊の寝床」に限らずいくつか成功してます。それももちろん、依代になる精霊とオリアルラの意識が明確な合意をしていないと無理ですよ。無理矢理行うことはできません。」
「どうだか。」
「戦争が終結して20年。オリアルラの意識もだいぶ変わりましたよ。昔は貴方達はただの侵略者という意識でしか無かった。今は、まぁ表面的にしろ、この大地を分け合う同胞、と、捉える人も増えましたよ。ま、本筋から外れたので、この話はそれくらいで。とにかく、この技術にも欠点、というか制約ですかね。そういうものもありまして。「精霊の寝床」に3日に一回ぐらい返して休ませてやらないといけないのです。」
「あー。何かちょいちょいいないと思ったんです。リィンさん。精霊の寝床で休む、なんてちょっと可愛いですね。」
「あいつに限っては可愛いとかそういう感じでは…。ま、まぁそんな感じです。」
「あぁ。最初に村で武装蟻と戦ってたときいなかったもんな。」
「はい。あのときはちょっと油断してました。そろそろ村だし、と。」
「で、どうなるんだ。その、寝床?で3日に一回休ませないと。暴走するとか?」
「そんなことにはならないですが、精霊もリィンの方も双方衰弱します。まぁ、死ぬことは、ない、と思いますが、融合はとけて、最悪2つの存在に分裂するでしょうね。リィンは直ちに王都の方に戻るでしょうね。2,3ヶ月はまともに動けないかも。そうすると私がめちゃくちゃ怒られます。兄に。リィンは兄の契約精霊なので。まぁ王の探し物の捜索のためなので、それで許して貰えると算段してはいますが。」
その話を聞いてバリュバルがとたんに渋い顔になる。
「ちょっと待て。王の探し物。もしや、あの「運命の星」が、とかのくだらない話の件かな。」
「…く、くだらない。王のご命令を。まぁそれです。せっかくだからお話しますが、貴方達、この探し物がどれだけ大変なことか、私にとってではにいですよ。国の存続にとって、どれだけ大変か…」
「まぁそれはどうでもいいだろ。俺たちにとって。な、悠?俺の目的は石を手に入れるとこと。悠は紹介状を探して王都に行くこと。」




