第19話 エギドの移住
3人はうーん、と首をかしげた。
「このまま何もなかったことにして通りすぎるのはちょっと…。」
悠はすっかり同情してしまっていた。ギギ達3匹の座っている後ろを見てしまったのだ。
石が積まれているもの、木を指したもの、形はいろいろだったが、すべて墓標だった。
つたなく積み上げられた石は寂しい風情で、枯れた花が、時折吹く強い風に舞っていた。人間に近い風習を持つエギドにとって埋葬場所は大切なよりどころだそうだ。
5年前まで100匹以上いたエギドは、もう15匹程度しか残っていないと悲しそうにギギがつぶやく。
悠の目は、少し離れた木の影で不安そうにこちらをうかがういくつかの気配をとらえていた。
「てか。ここ、魔法で入口わからなくしてたはずなんだけど、なんであんたらずけずけ入ってこれたんだよ。」
「ごめんなさい。それ犯人私かもしれない。私の…目・・・?」
悠は申し訳なさそうに言う。なんだか隠されているものを自動的に拾って暴いてしまう装置かなにかのようだ。決して悠にはそんな気はなかったのに。
「おー。なんかあんたの目を見てると変な気分になるんだよな。ちょっと怖い?みたいな。邪眼ってやつかな。あの魔法を暴いちゃうのか。あの昨日見た白髪の長い髪の兄ちゃんにちょっと似てるけど、あっちは聖眼だ。たぶん。ソワソワしないし。いい気分になるし。」
うんうんとうなずきながら言うギギに、エルフィールが食いついた。
「ちょっと!白髪の長い髪の男ですって。白髪白い服のいけ好かない顔した長身の男ですかね。リィンですね。きっと!」
「い…いけ好かない顔かどうかはちょっと我々の判断基準では…わかんないかな…。ま、まぁあんちゃんがきたぞ。靄が何とかとかなんか見せられた気がするけど、ごめん…。ちょっと気がたってたからさ。しらんし、ってけんもほろろに対応しちゃった。ニンフにも聞いてみるって言ってたような…。ごめんよく覚えてないけど。」
「あいつは襲われなかったのかよ。この違いなに?」
バリュバルが納得いかないように吐き捨てた。
「あいつはちょびっと精霊の眷属の匂いがしたんだもーん。俺たちは牙向けないよ…。ちょびっとあんたからもするな。」
クンクンとエルフィールの匂いを嗅いでギギは言う。
「でも俺はあんたが一番好きだ。強い男は大好きさ。ほっそいのになんであんなに力、強いんだ。髪も肌もつやつやだな。強い男の証だ。なぁあんた今晩泊ってけよ。交尾しようぜ。」
ギギがバリュバルの服の裾をツンツンついての、あけすけな物言いに一同が異口同音に口を開く。
「ちょっとギギ。オレの立場…一応婚約者…。」
「あ。それはいいですね。どうぞ。お貸しします。悠殿、せっかくだし、交流を深めてもらうってことで、彼、おいてかえりましょっか。」
「何この会話…。バルさん、何めっちゃ悩んでるんですか。当初の目的…。」
「え。だだだって。いや魔物はちょっと…。いや、いけ…る…かな。いけそう、胸も尻もなかなか…。」
「悠殿の前で品のない発現よしてもらえません。食いちぎられても知りませんよ。」
「…ナニヲ?」
「ナニを…。」
こわっ。悠もバリュバルも、なんなら発言した当の本人のエルフィールさえも、ひゅっ、と、心かわからない何かを震わせた。
※※
「エドは町に行ってたんだ。人間に紛れて暮らしていけるかどうか。」
ギギは自分の服の裾を噛みながら言う。
「俺たち、少しなら幻影魔法が使える。この顔をごまかせば、十分町で人間として暮らしていけるだろう?あんたたちどう思う?そりゃよく見りゃわかるかもしれないが、それでも、ここにいちゃ1年持たずにみんな全滅だ。香りが日増しに強くなってる気がするんだ。」
「それは、北の領界との境界線で村人の警戒が強くなってるからでしょうね…。警備を強化すると言ってましたし。うーん。でもこの香を使わないっていうのもむずかしいです。夜間の守りの要ですからねぇ。。。。」
悠はうーむと首をひねる。
「ここねぇ。風向きが問題なんだよね。ちょっとバルさん、地図かして。ここ、村と領主の屋敷がこう…でしょ。東西に。その真ん中からちょうど真北がここ、エギドの住処なの。この一帯、南から北向きの風が街道を突っ切って吹くでしょ。…で、」
「あぁ。確かに…。この高い山に当たって吹き下ろしてますね。ここ一帯はちょうど風が溜まります。これじゃあ、街道の風がモロにこの一帯に…。」
「うん。だから…。こっち側に、移住してもらえばいいんじゃないかなぁ。。」
悠は地図の西側、屋敷の西の地帯を指さす。
「そうだな。ここなら、街道もないしめったに人も立ち入らん。その先はもう海だしな。」
バリュバルがうなずく。
「なるほど…。でも、サナニエル公が許可しますかね。ここ、作物の栽培地帯ですよ。」
エルフィールが難しい顔をする。
「でも、この上の辺とか、ほんとにちょっとの場所でいいわけだし。お願いしてみようよ。町に行くのもいいと思うけど、手は多い方がいい。一生懸命頼んでみるよ。」




