第17話 エギドとの闘い
憎悪のこもった眼差しに悠が凍り付いていると、一瞬早く割り込んだのはブロードソードを引き抜いてエギドの剣を受け止めたバリュバルだった。
激しく剣を繰り出す女のすべての剣を、かろうじて受け止めると、バリュバルは右足で女の腹に押し込むように蹴り上げる。女はとっさのことで後ろに転がるとそのまま二人はもつれるように広場の中央に転がりこんだ。
悠とエルフィールはとっさに近くの木の後ろに隠れる。
エルフィールは腰からクロスボウを取り出すと素早く組み立て、エギドの女の方に向ける。
しかし、2人が絡み合っているため、矢を放てないでいる。
2人は2,3度剣を交えると、後ろに飛び退いてお互いギリギリの間合外の距離を取った。じりじりと間合いを詰め、再度切り結びを繰り返している。
女の検圧は勢いがあり、丸太のような腕を揺らし、地面が揺れるような踏み込みで、剣を振る度に、空気が鈍く揺れるようだった。
ちょうど上段の構えのような態勢をとり、次の瞬間、獣のような咆哮を上げながら再度突撃してくる。
女の攻撃が、離れる、振り上げる、突撃する、と単調であるために、綺麗に受け止め切れていたが、力では、わずかに押し負けていることにバリュバルは気づいていた。
ブロードソードを斜めに構え、真正面から剣を受け止めると、一瞬でわずかに唾の方向に力を受け流し身体を力と逆に逃がすことで剣撃の力を逃す。そうしなければ、下手をすると剣ごと身体を真っ二つにされてしまうか、剣が圧に堪えられず折られてしまうことに気づいているからである。
それほどすさまじい、重みのある一撃だった。
長引けば体力的にも不利。
バリュバルは十分な間合いを再びとると、ブロードソードを左に持ち替えた。
そのまま曲芸のように刀身を手のひらで派手に8の字に回す。吸い付くような動きでくるくると剣が空中で回り彼の手にぴたりと収まった。刀身が光を浴びてギラギラと光る。そのまま女と同じ、やや上段に構える。
「本気でいくぞ。」
こうして対峙するとバリュバルとエギドの女の身長は同じぐらい。二人とも長身だったがやや女の方が低い。女は警戒心を露わにして輝くブロードソードを睨むと、中段の位置に剣を構えた。
『はっ!』
気合が森の木々を揺らすほど放たれ、2人は同時に打ち込んだ。
と、打ち込む直前、これ見よがしにバリュバルは手から軽く剣を放り捨てる。
「っ!」
何が起こったのかわからず動揺する女。それでも剣は止めない。そのまま突き込んでいくバリュバル。
「はったりだ。」
剣の届く寸前で、バリュバルはまるでにやりと笑ってつぶやくと、獣のような素早さで体を沈める。
そして、地面を蹴って横に飛んで女の横を駆け抜ける。
駆け抜けざま、右手で隠し持っていた短剣の柄の部分を、否、柄からむき出しにさせた毒針を女の脇腹に叩き込んでいた!
素早さでは自分の方が圧倒的に上だと切り結んだ瞬間から読み、
左に構えた剣に目を引き付け、右手ではこっそり背中に隠していたダガーの柄を抜いて暗器を取り出していたバリュバルの勝利だった。
せき込みあおむけに倒れこむエギドの女。しかし、戦いはまだ終わってなかった。
「後ろ!」
悠の目には早い段階から物陰に潜む男の姿が見えていた。
叫ぶ悠。
しかし
バリュバルも気配を察知していた。
物陰から飛び出して振りかぶった男の後ろに回り後頭部を蹴り上げて昏倒させる。目にも止まらない素早さでそのまま男の脚の腱を軽く傷つけると、女に馬乗りになり女から取り上げた剣を首にあてる。
このまま首をはねて殺してしまうか。一瞬迷うバリュバルに遠くから悠の声がかかった。
「待って!子供が!」
悠の目にはもう一人、木の陰でガタガタ震えながら様子をうかがう小さな男の子が見えていた。




