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何ももらえずに異世界に飛ばされたので何かやることないですか、なんてそんなぁ。  作者: 秋野PONO(ぽの)
第一章 それぞれの出会い

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第1話 悠の事情

こ、ここまでに粘られたのはお前が初めてじゃ!


あんまりな様子に、彼女はうんざりした様子で悠を後ろ足で蹴り出し、異界へ送りだした。


 浦住悠は近所を散歩していた。

 まぶしい朝の光、見上げた太陽は、久しぶりに顔を出せたことに対する喜びで輝いているようにも見える。

 前日まで台風並みの暴風雨が吹き荒れており、散歩はおろか窓を開けるのも難しい状態だった。

もっとも、普段それほど外に出ることのない悠にとっては買い物が多少面倒だ、ぐらいの感覚だったのだが。


「おはよう!悠ちゃん!やっと外に出れる朝だね!」

 近所のおばちゃんの元気のよい挨拶が投げかけられる。

「おはようございます!ほんとですよね!私外でるの3日ぶりです」

 まぶしそうな笑顔で悠は答える。ま、雨なんてなくても2,3日外に出ないことも多いのだけどなんて言えないけど。

 うんうんと朝刊片手にうなずく近所のおばちゃん。

「すごかったもんねぇ。外、気を付けなよ。雨すごすぎてあちこち地盤が緩んでるって。すごかったのよ知ってるでしょ、はす向かいの佐藤さんちなんて。こないだ補強した傾斜地のとこ、また崩れちゃったって」

「あぁ。あそこの真っ白い壁に面した崖のとこですね。やばいですよね。あそこね~場所悪いですよね。コンクリにしちゃえばいいのに」


「そうそう、いやあそこは拘ってるからさ、自然の風合いが~なんてお洒落一筋20うん年のお宅だから、庭もコンクリ使いたくないんですって~。すごいといえばね」

 よほどしゃべり相手に飢えていたのが勢いの止まらない相手に悠は適当に相槌を返しながら、はっと何かに気づいたように装ってうまいタイミングで遮った。

「あ。ごめんなさい。おなかすいちゃっててコンビニいくところなんだ。じゃ、おばさん、今度ぜひお茶でも飲みに来てね!お母さんも暇してるので!」


 悠は、よくよく人の話を聞くのも、また聞いているように見せるのも非常にうまい。にこやかな、そこに関しては人の好さそうな顔に生まれついた者の勝利だといつも思う。

 人の好い笑顔を持っている人間の心が必ずしも慈悲深くて誠実とも限らないことは誰でも根っこの部分では理解しているが、現実の瞬間瞬間では、人は見た目100%で判断しがちな生き物だ。悠は、誠実であろう、とするだけほどには誠実でなかった。


するり、とこの、一度捕まったら容赦ない強敵の相手をすり抜け、小道を進んだ。


悠の家は坂の上にあるので、駅そばのコンビニに赴くには二つの道があった。急な坂と緩やかな坂と。急な方が早く着くが、緩やかな方が舗装されていて歩きやすい。

腹がぐう、と鳴るのだ。もうあのへんの雲とかアイスクリームに見えてくるぐらいに。

ぐう、となったお腹と、数日間も陰気に降り続ける退屈な昨日までを脱出して明るい太陽が照るこの空気に多少軽快な気分になったのだろう、悠は近道の早く着く方を選んだ。


「ふんふんふふーん」


 鼻歌を歌いながら青い屋根の家々の間に見える小さな小道に入り込んだ。


「ん?」


ほどなく、悠は耳に微かな音を捉えて足を止めた。かすかに、動物の赤ちゃんの泣くようなか細い声が消えたのだ。


しばらくあたりを見回していた悠だが、やがて道の脇により、緩やかな崖になっている側道を上から見下ろした。


「あ。」悠は手すりから身を乗り出した。

坂の中腹から側道の数メートルほどはコンクリートで補正されており、コンクリートの水を通す穴に一匹の猫がお座りでみーみー泣いていた。

「ありゃ。」穴の下は大人数人くらいは立てる舗装されてない窪み地となっているが、穴の背丈は大人1.5人分くらいはあり、小柄な猫は飛び降りる勇気が持てないでいるのかもしれない。


かわいそうに、降りられなくなったのか。簡単にやれるなら助けてやりたいが、前日までの雨で緩んだ地盤では、そこまで行くのは危険だ。


悠は猫が、大、大、大が4回つくほど大好きだ。

少し迷ったが、悠はコンクリの方に少し寄っていった。

草を踏み固めて窪み地の方へ寄っていく。

前日までの雨で地盤が緩んでいるのだ。

慎重に土の感触を確かめながら足を踏み出す。大人数人余裕で建てるとは言っても、その下は徐々に急になって何十メートルも下まで木々が斜めに生えている崖地だ。


「猫ちゃん。おいで」


悠は窪み地の穴の真下で持っていたカバンをゆっくり、上に掲げて小さな可愛らしい獣が乗れるようにした。


んー。どうだろう。逃げちゃうかな。

しかし先ほどまでみーみーと泣いていた猫は悠に気づくともう一声も発しておらず。「なんだこの人間は」と警戒する様子でこちらをジッと見ており、どうしようか迷っている風だった。

一時ののち、猫はあきらめたように一度首を振ると、悠のカバンの近づいて前足をかけた。


よかった。


悠はほっとして腕に力を入れた。そのまま道路の方にそっとカバンを移動させ猫を着地させてやる。そのまま助けた役得、とばかりに頭をなでさせていただこうとしたが、猫は声を発することもなく、だっと道路の向こうに駆け出して路地裏に消えた。


「あぁぁぁ。」


思わず声が出る。猫補充が。しばらく路地裏を見ていたがその小さな身体はどこにも見つけられない。

あきらめて悠は道路わきの草をさくさくと踏みしめてコンビニへ向かった。もう心はコンビニで買うおにぎりの予想でいっぱいだった。

悠は昆布おにぎりとミルクティーといういつもの組み合わせを手に取り、会計を済ませようとして一旦定員に会釈し脇に並べられた朝刊を一部取り出し会計台に置いた、会計を済ませて素早く店を出る。


暇な朝に、早く起きて朝食を片手に朝刊を読む、それが悠のひそかな趣味だった。

家族にはじじ臭いと毎日のように言われるがいつしか気にならなくなった。

 自分が自由にミルクティを飲んでいる今このとき、世界で何が起きているのか想いを馳せながら文字を追う、想像の世界に飛び立ってゆっくり戻ってくる、その時間が最高に贅沢だった。

 うきうきしながら帰宅の途につく。帰りも同じ道を通っていた悠は、ふと、猫を助けた路地裏に続くわき道を見た。


 そこには、まだ、猫がいた。


「あ!さっきの猫ちゃん」

悠は頬を緩ませながら声を出す。

猫は、突然視界を向けられたことにびく、と顔をこちらに向け固まっている。


「にゃんにゃーん。怖くないよ~」

まさにネコナデ声。周りに人がいないのが幸いだ。

悠はゆっくり猫に近づく。猫はしばらく、無言で悠を見ていたが、ゆっくりゆっくり悠と距離を取り始めた。だが、さっと逃げてしまわない。


悠が一歩分進めば猫も1歩分後ろにさがる、まさにそんな感じだった。


うーん。なでれるかなでれないか?


予想としては……いける!


 悠はゆっくり路地の角を曲がる。猫は民家の壁の上を悠々としっぽを立てて歩いてた。

 しかし逃げようとはしない。

 猫が少し歩を早めると悠も少し速足になる。

 猫の歩の進め方が絶妙なのだ。


 悠のことなど知りませんよ、とその顔は言っているが、しっぽはときおり誘うようにゆらゆらと揺れる。

 追いかけっこは5分ほど続いた。路地を曲がり、坂道を上り、下り、フェンスを乗り越え、気づけば悠は見知らぬ場所に来ていた。気づいたら猫は見失っていた。

 悠は少し焦る。スマホは持ってきてない。

「あれ。ここ……?」


 一瞬不安を感じたが、まぁもと来た道を戻ればと思い直し歩き出した。


 あれ?どっちから来たっけ。

 気づけば悠は道を見失っていた。別に悠は方向音痴ではない。むしろ感覚はよい方だ。それでも、猫を目で追いながら来ていたせいで、よくわからなくなっていた。

しばらく路地を歩くと、いつしか民家の終わりにたどり着いてしまった。困ったなと立ちすくんでいると、視界の端に、ちら、と動くものをとらえた。


「あっ。」

 あの猫だった。だが、猫に道を教えてもらえるわけでもない。

 猫は、こちらをちら、とみると、ふい、と目をそらし、崩れた塀の後ろに消えた。なんとその先にはさらに小さな黒っぽい毛並みの猫がいたのだ。小さい方が先ほど悠の助けた猫だ。

「まって!」

 おさわりタイム!とそれだけ言って猫は悠を追い塀をぴょん、と飛び越えた。


飛び越えて、しまった。


※※


 そこは闇だった。目が当然光を失ったような感覚。自分の影を見つける。

 しばらく目をつむり、次に目を開いたとき、悠は見知らぬ部屋の中にいた。少し薄暗い部屋だ。調度品はほとんどなく小さなテーブルにがランプの光が揺らめいてた。テーブルの前には大袈裟な椅子にチョンと座す猫。


「気が付いたのか。人間よ。」


 のちに、というか、たった数時間後に、自分の言ったことをこんなにも後悔することになろうとは、神ですらしえないことだった。


「事情は分かりました」

 怒った風に、とも取れなくもない口調で悠は言った。

 その目の前には、まさに先ほど悠が助けて、また追いかけてきた猫がちょん、と座っていた。

「つまり、私は道に迷って他界のはざま?に足を踏み入れてしまった。

 道が消えたので戻るのは難しく、このままとどまることもできない、と」


「その通り。だいたい……」

一旦言葉を切って、ずい、と悠の方に身を乗り出し鼻を衝かづけてきた。


ふん、と荒く息を吐いたせいでぷしゅ、と鼻水が飛んで悠の顔にかかる。

「ちょ……」


「なぜ追いかけてきた。いや。なぜ追いかけてこれた?

私はもともとあちらの世界から抜けて次の世界に渡るつもりだったんじゃ。

こう見えて大事なお役目があるのであっちこっちから引っ張りだこなんじゃ。

小娘よ、わが娘を助けてくれたのは感謝しよう。・・これ、大事な話をしてる最中に頭をなでるな」


 猫はぴくぴく、とひげをかすかにふるわせて続ける。ひげをぴくぴくとふるわせて目をキラキラさせながらもごもごと口を動かして人間の言葉をしゃべる猫はかわいいのだ。しかたない。猫はうっとおしそうに首を振って悠の手を噛む真似をする。慌てて手を引っ込める悠。


「これは誤算じゃ。誤算じゃ。まいったまいった。

 そもそも、この、「他界のはざま」には高貴なる我々猫族しか入れぬはずなのに、なぜ転げこんでくることができる。人間ごときが」


 ふぅと、嫌に人間臭いため息を吐いて続ける。


「戻してやろうにも、もう元の「界」の扉が閉じたのじゃ。どうしようもないことに」

「門が閉まった後しばらくは、元の世界を選ぶことはできんの。この仕組みの複雑さは、さもありなん。わしにも制御できることではない」

「なるほど?ではしばらく待てばまた元の世界の扉が開く?」


「その通りじゃ。だが、ここに長く留まることはできん。ここは世界と世界のはざま。時間間隔もなければ太陽の光も、水も空気もない。今は元の世界の感覚が身体にまだ巡っているので違和感はないが、やがて闇に侵食されて感覚や、身体さえも消えてしまう」


「やばいやつじゃん」


「そう。ひとまず私の渡ろうとしていた世界が開いているので、そこについてこさせるしかなかろう。そこでしばらく滞在し、扉の開くチャンスを待とう。」


「しかし」


「そんな貧弱ななりでは異界で耐えられるかもわからん。この空間には力が満ちている。なんでも好きな能力を一つ掠めて連れていくがよい。一人以上は体が耐えられるかわからんので一つにしておけ」


「え、なんでも好きな力を得られるの?ど……どうやって。何もないみたいだけどここ」

「一つ決めたら強く願ってみろ、力を能力に変換するイメージだ。ただし、元の世界に戻るときは返すんじゃぞ」

「なるほど。わかったようなわからないような」

つまり、何か好きな能力を思い浮かべればいいのかな。とはいえ、何を?


そんなにいきなり言われても、パッと「これで」って言える人いるのかしらん。

「となると、なんでもいいので異能を授けてくれるっていうのはそりゃありがたい話ですけど」

そこで一旦言葉を切り、ズイッと猫に迫る悠。

「どんなものを選ぶのがいいのかってなかなか難しい話じゃないですかね」


んん?と猫は首をかしげる。

「例えば、魔法の力が欲しいっていう願いがあったとして、すべての世界に魔法が存在するわけじゃないんですよね?」

「うむ。魔法?魔法か……。それはの。おぬしのいた世界のように魔法が存在しない世界もある。存在する世界もある、らしい」

「では、魔法の力をもって魔法のない世界に生まれてしまったらどうなるんです」


「それはまぁあれじゃ。魔法が使えないってことはないと思うが決まりは決まりなので、なんかしらは使えるだろう」

「が、もしかすると、人間には気味悪がられるかもしれんな」


 確かにそうですよね……悠は肩を落とした。


「ですよね。やっぱりめちゃめちゃ難しい。気合一発だけで、炎とか氷とか出せる力って漫画とかだと定番だけど、その力のせいで村八分とかにされちゃうと……。

 生きづらそうだし、じゃあ動物と話せるとかものを宙に浮かせるとかそういうのがいいか……っていうと。

 その世界の特性がわからないと使いどころとかわかんない」

「まぁゆっくり考えて決めるといい。」


猫は鷹揚にうなずいた。


※※


「……っていったんじゃがね」

 猫はつい自分の言ったことを後悔し、深いため息をついた。

 傍らにはぶつぶつと何かをつぶやいたり考え込む悠の姿があった。

「もうさすがに半日たっとるがさすがに決まったろう。何かしら自分の心にぐわっと浮かぶ能力が!」かっと目を見開いて猫は言う。


「いやいやいや・・・。そんなもん・・。自分の人生を半日で決めろって言われて従えますかね」


 悠はぶつぶつとつぶやきながら考えを巡らせてる。

 空を飛ぶとかもいいよね。

 傷ついてもすぐ治せる魔法が使えるとか

 呪文一発で大岩とか粉砕できる魔法とか。


 こんなことをずっと思いめぐらせながら考え込んでいるが、これがなかなか一つに決まらない。

 猫はしばらくあきれたように悠を見ていたが、椅子に深く腰掛けて(実際には背中からごろんと寝転がって後ろ脚を宙に投げだした体勢にしか見えない)、前足でひじ掛けにていていと攻撃しながら暇つぶしてすごしていた。


 それにあきるとぺろ、ぺろ、と全身を毛づくろいし始めた。


 しかし、それからさらに数刻もたったころ、とうとう面倒になったようだ。毛づくろいしすぎてピカピカになった前足を悠の足元にひっかけ、ぽーんと跳躍して悠の頭を後ろ脚でけり上げる。

「えーい!長すぎる!今すぐ決めろ」


「あと3分じゃ!」


「そ、そんな」焦らせると余計に絞れないのが人間というものなのである。

「もう、時間切れじゃ!そのまま行けい!」

 猫はあきれたように左手を一振りする。


「ちょ……まっ……」と途中で途切れたレコードのようにぶつり、とその声は掻き消えた。


 こうして、悠はついに迷いすぎて何にももらえないままに異世界への空間に放り込まれた。


※※※※※※※※


 かかさま。


 あの人間、すごく間抜けでしたわね。かかさまの手を煩わせるまでもありません。私がしばらくついてますわ。


 2匹の猫のひそやかな会話が聞こえたような聞こえなかったような。

とある事情で本業をの仕事を中断して、暇になって数週間。気づいたら自分の空想の中の世界で作ったキャラ達yや世界観が勝手にしゃべりまくってました頭の中で。異世界もの大好き。俺TUEEEEも大好き。せっかくなので同じように暇してる誰かにも見てもらいたい。

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