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幼馴染の彼女にしておく  作者: トマトクン
第四章 『そして、姫君が救出されていく』
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「まかせて。みどちゃん。これ以上、律くんの暴走に振り回されることはないように。私がばしっと言ってあげる。携帯が繋がんないなら、おうちに電話すればいいしね。うん。明日まで話をつけてくるよ」


 由美ちゃんに話を振ってみた。すると、二つ返事でオッケー。はたして、これで問題解決となるんだろうか。だとしたら、あまりにも話が上手くいきすぎだ。由美ちゃんで始まり、由美ちゃんで終わる。結局、ストーリーは始まりへ回帰。めでたしになってほしい。


 ところで、文化祭の方はつつがなく一日目が終了。見つけた問題点は、明日に向けての改善へ。反省会も活発に行われた。さらに、私のドジから発展したサービス。これが一気に広がる。もはや、コスプレ喫茶の基本へと変化した。


 そして、マクのこと。あのマクの描いた看板がとても好評らしい。元々、描く予定だった人から原案を受け継いだマク。それに少しだけアレンジを加えて作成。非凡なセンスが追加されている。やっぱり、誰が見ても感動するレベルの作品だ。ブランクはあまりなかったと思う。少なくとも腕の方は。たぶん、自転車に乗る技術と同じなんだろう。ずっと錆びることのない技巧。そういう類の技だった。


『マク。なかなかタイミング会わなかったね』


 私は今日の締めにマクへ電話。すでに、十五分以上会話してる。就寝の準備は完璧に整えた。なので、私は布団の中でぬくぬく状態。薄いタオルケットをかけて横へ。服装もラフな格好だ。


『そうだなあ。おかげであれだよ。翠の言葉が聞けなかったさ。昨日、たぶん話すとか言ってたやつ』


 やっぱり、そこへ踏み込んできたか。私でも気がかりになりそうな発言。マクも気になってたらしい。でも、案外気にしないことの方が多いのに。結構、気まぐれだなあと思う。


『べつにたいしたことじゃないし。電話で言うことでもないから』


 実はたいしたことある。単に言えないだけ。私を離さないで捕まえてて。むりっ。言えるわけがない。トレンディードラマのヒロインじゃあるまいし。


『じゃあ、適当に時間が合えばいいのか。そうしたら言ってくれるんだね。まあ、僕が期待しておくことでもないんだけど』

『ううー』


 私、墓穴を掘ったかな。なんか、逃げ場がなくなってる。どんどんと深みへはまっていく。


『だから、その話はもういいの。終わり。蒸し返さなくてもいいよね。だって、私は気が向いたタイミングでしか言わないもん』


 結局、強引に収束。ごまかしも甚だしい。ただ、マクはこういう展開を暖かく見守る。私の都合が悪くなって切り返し。そこをやれやれ、なーんて表情をして受け入れる。まったく。マクのくせに。その時のマクは、それなりに包容力があって苦々しい。私の複雑な感情も困ったものだ。


『てかね、もっと大事な話があるの』

『ん? なに?』

『律くんのこと』


 そこで一つ思い出す。マクが加絵先輩と相談をしてた事実を。


『一応、勘違いはしてないよね。私がマクに恋の相談をするとかじゃないから。幼馴染のよしみとかいう理由で』

『まあ、うん。なんとなく、おかしいと思ってたし。翠と律くんのフェイクは』

『そうそう。って、そんなことじゃなかった。マク、聞いてよ』

『んん? なに?』


 マクがあいづちを打った。なので、私は想いの丈をぶつける。もちろん、律くんが企んでる文化祭最終日の計画だ。


『へえ。そういった状況になってたとは』


 電話越しで感心してる。そこはそんな反応ではないと思う。


『そうなの。だから、大変なんだって。あの後、いつのまにか律くんは逃げ出してるし。電話なんかも繋がらなくてさ』

『律くんもなかなか思いっきりがいいな』


 マクは鷹揚な態度のまま。声で分かってしまう。


『そういえば、去年のキャンプファイアーもすごかったね。山内先輩が一つすごいことをして一気に盛り上がった。やっぱりさ、生徒会長を目指す人はこうでないと』

『だからって、私をだしに使うことないと思う。本当にまさかだよ。青天の霹靂? そんな感じかも。彼の中では、私がマクに告白することになってて』


 思わず、言ってしまった。まあ、勢いで適当なことを口走ってる。などと考えてくれるはず。


『それはまた。でも、翠が律くんのプランに乗ったらこうかな。僕は即座にオッケーする。昔のお姫様みたいな感じで言ってくれたらね』


 また、マクがからかう。ほんと、最近のマクは図に乗ってるなあ。特に、私を大切にしたいと発言してからだ。今は精神的な余裕も影響してる。一つ自分の中でケリをつけた。けじめである過去との決別。絵を描く禊。


 マクだっていろいろと前へ進んでる。だったら、私も思い切ったことすべきかな。うーん。やっぱりむりだ。結論はあっけなく出た。


『てか、なに言ってんのさ。マクまで。私、そんなことしないからね。たとえ、マクが大好きだとしても絶対にありえないもん。全校生徒に報告してるのと同じだし』

『そこが肝なんじゃない? その手法がありだとしたら』

『えー。やめてよ。マクのばか。意味分かんないな』


 私は憤る。仮にそういう機会があったとしたら逆。二人だけの空間にしたい。それでこそいいムードが熟成されていく。


『まあね、うん。たださ、翠。話戻すけど、どう対処するの? 律くんとは接触できた?』

『ううん。それがね――』


 引き続き、律くんの経過を話す。ピエロと劇。相変わらず雲隠れ。最終的に由美ちゃんの権限を活用。大枠でまとめればこうだ。三つくらいで事足りてしまう。


『唐橋さんかあ。でも、彼女だって丸めこまれるんじゃない? 唐橋さんの陽気さからして』


 ここでの意味は陽気でない。脳天気だろう。上手くぼかしてある。


『そうだよね。でも、あれなの。二人に明確な力関係があるらしいから。どうも、律くんは由美ちゃんに頭が上がらないみたい』

『それは僕と翠の関係と同じ?』

『まあね。とはいえ、最近のマクは私をやりこめようとしてるからなあ。頻繁に昔の話を持ち出してくるし。結論として、マクはひどい。だめ』

『すごい言われようだ。てか、あれなんだよ。昔の感覚を取り戻そうとしてるせい。もちろん、昔とは二年半前よりもっと後。その頃を思い出すとね。だって、僕は翠と張り合ってたし。さらに、翠はお姫様っぽかった。いろんなところが』

『ううー。べつにそんなことないもん。と断言できないのが嫌だなあ』

『だよね。とりあえず、最近の僕は自分のことで精一杯だった』


 それを言うなら、私はマクのことで精一杯。こんなことは絶対に言わないけど。


『でも、少しずつ解決へ向かってるんだ。それも目に見える形で。精神的にだって上手く折り合いをつけた。三波後輩。山内先輩。そして、僕の家族。それぞれが違う結末だったけど。結果としては関係ないんだ。僕には優先順位ができたから。これを維持していけばいい。必死になってね。そうでないとさ、うん』


 マクがその先の言葉を濁す。たぶん、その辺りが私の一番聞きたい言葉。はっきりと示してほしい。でないと、ぬか喜びしそうで怖い。その後の落胆は想像するだけで恐ろしい。


『まあ、電話で離すことじゃないんだ。とにかくさ、翠。律くんの件はもう大丈夫なんじゃないかな。唐橋さんが話をつけるんだし。てか、僕はどっちに転んでもいいんだけどね』

『それはないし。逆の立場で考えてよ。ほら、マクが全校生徒の前で私に告白。しかも、次期生徒会長と目される人物の紹介で。もう、前座扱いだよね。なのに、やることの難易度は高め。だいたいさ、好意を伝えるやり方として確実に間違ってるよ』


 マクに私の怒りは伝わったらしい。頷きの返事が絶えず聞こえた。


『たしかにね。そんなに愉快な話じゃないな』

『でしょ。マクなら分かってくれると思ったよ。さすがはマク』

『なんか、僕を持ち上げたり落としたり。翠のやることはえげつないよ』


 ともあれ、律くんの件は話した。これで予防線は張ったことになる。仮に私がそのような事態にあったとしても大丈夫。問題はないだろう。もちろん、いち早く律くんを見つけて説得。いや、その必要はないかもしれない。由美ちゃんと律くんの関係ならば。


 それから、私とマクはもう少し話をした。内容は毒にも薬にもならない会話。文化祭の話題が多かった。誰々が何をしてたとか。あの人がこんな格好をしてたとか。一面を切り取っていくだけでも楽しい。これは普段と違うことをしてるせいだ。


 やがて、私の睡魔がやってきて通話終了。最後は眠すぎて、変なことを言った可能性もある。なんか、そんな記憶がうっすらと残ってたし。あるいは、私の思いこみか。そうであってほしい。でも、その辺は分からなかった。

 










 文化祭二日目。本日も快晴。この時期は晴れてる日が多いと思う。たぶん、そういうタイミングで行事を入れてるはず。なにも、雨が降りそうな日にやることはないんだから。


 ちなみに、今日はマクと一緒に登校。私が家の扉を開けた瞬間にマクが通りすぎた。なので、せっかくだからご相伴。会話は昨日の続き。時間だと結構経ってるのにな。睡眠を挟むとそんな気はしない。


 さて、本日の予定はどうか。私はフル稼働。間違いなく昨日よりも忙しい。なぜなら、今日は休み。訪れる人だって多くなると予想。昨日でさえ大変だったのに。本当に上手く回せるんだろうか。あまり確証は持てない。


 ところで、私とマクは今日も休憩時間が合わない。困ったものだ。てか、マクは覚えてるのかなあ。文化祭を一緒に回る約束。高校に入学する前だったと思う。たしかに言った。とはいえ、私自身も半分以上はノリでの発言。忘れられても仕方がなかった。


「さあ、翠。朝の早いうちに見つけだそう。律くんを」


 学校へ到着。そして、下駄箱で靴を脱いでる最中だった。


 マクがいきなり言い出す。びっくり。そんな話なんてしてなかったのに。どういう思考回路でこうなった。それとも、マクの中では前もって決まってたことなのか。だとしたら、早めに教えてほしい。おかげで、私は不自然な体勢で固まってしまう。わりと足を高く上げてたので大変。バランスを崩しかけてた。


「えっと、マクはそこまで乗り気だったっけ?」


 ようやく落ち着いて一言。マクの反応はこれいかに。


「当たり前だよ。僕の幼馴染をそんな扱いにしようとするなんてね。一言くらいは物申さないといけないぜ」

「な、なんか、急に頼りがいのあるふりをしてきたし」


 思わず、つっけんどんに言い返す。


「それはないよね。翠」


 まあ、私もそう思うけど。でも、なんとなくこうしたい気分だった。


「とにかく行こう」

「分かったから」


 と、私たちが一年生の教室へ行こうとした瞬間。ちょうど、階段を降りてくる最重要人物。ではなく、次に重要なキーパーソン。我らが由美ちゃんだ。るんるんと機嫌がいい。てか、いつ見てもそんな感じ。彼女を見てて、愛嬌の大切さを実感する。


 で、その由美ちゃんだが、私たちを見つけると破顔一笑。とことこと駆け寄ってきた。こうして、由美ちゃんも合流。どうやらいい報告がありそうな予感。律くんにびしっと言ってくれたんだろうか。そうすれば万事解決。預かり知らない困った出来事を防げる。これで平穏無事に文化祭も過ごせるはず。


「みどちゃん、おはよー。聞いて聞いて。報告があるから」

「うん。待ってた。おはよう」

「待ってたかー。後、篠原くんもおはよー」

「おはよう。唐橋さん」

「おおー。篠原くんとあいさつしたよ。てか、篠原くん。ちゃんと睡眠取れてる? みどちゃんが寝かせてない可能性もあるし」

「そんなわけあるかあ」


 私は由美ちゃんをどつく。少しの衝撃だけどよろめいた。きっと、体重が軽いせいだろう。私の押す力が強いわけでない。たぶん。


「まあまあ、うん。モーニングジョークだよ。そこまでむきにならなくてもねー。あ、はたちゃんと佐々くんだ」


 振り返れば、畠山ちゃんと佐々木くんが後ろに。おかげで大所帯。階段前なので立ち話も良くない。だから、ラウンジへ移動。ついでに、佐々木くんへ事情を話した。


「ああ、京極律。あいつか。知ってるぜ。普通の人に見えてへんな奴だ。いろいろと話も聞いてるし。なんたってあれだ。俺の直接のライバルだからな。生徒会長を挟んでさ」

「ただし、十馬身くらい差がついてるけどね」


 マクのツッコミ。私の幼馴染は意外と厳しい。


「しかし、あいつも策士だな。皆目を集める場所で山内先輩に告白。成功したら想いの成就。失敗したら次期生徒会長へのパフォーマンス。どっちに転んでもオッケーじゃないか」

「そうだよねえ。佐々くんの言うとおりだなあ。恋のバトンは届きませんでした。でも、生徒会長のバトンは受け継ぎます。なんてね」

「ほうー。そういうことだったんだね。それならなんでかな。はたちゃんの感じだとあれじゃない。みどちゃんまで巻き添いにする必要がないし」

「たしかにね。なんで翠が巻き込まれてんだ? どういう意図なんだか」


 みんなが口々に述べている。でも、分からない。律くんの気まぐれに近いから。


「でさ、結局どうなったわけ? ほら、由美っちが一年坊を問いただしたんだよな」

「あ、そうだったよ。そのこと。私、事の重要性をあまり理解してなかったみたいで。今の話を聞いて、ちょっとまずいかなって思ったの。それは律くんにある提案をされたせい。文化祭の最中に、彼を見つけ出せたら計画は解消。鮫島先輩の言うことだってなんでも聞きます。なーんて提案で押し切られちゃったの」


 ということは、ますます事態は複雑化。律くんは雲隠れする気満々だ。しかも、私を利用して悪目立ちを企んでる可能性も。ただ、見つかったら私の言うことを聞くとは。どういうことだろう。


「てか、由美ちゃん。どうしてそうなっちゃったの? いつもの力関係はどうしたのさ」


 そこは期待してただけにがっかり。由美ちゃんに不平を言う。


「まあ、そうだよね。でも、大丈夫。律くん言ってたから。鮫島先輩の嫌がることは絶対にしませんと。それをふまえてのゲームだよ。だったら、なんか面白い方がいいよね。って、思考回路になっちゃって」

「そんなの口約束かもしれないぜ」


 佐々木くんの指摘。たしかに。ただ、律くんはそんなタイプじゃないと思うけど。それでも、価値観の違いというのは如実にある。いきなり踊りだすくらいの感性だ。


「佐々くん。律くんはそんな男の子じゃないよ。私が保証する。てか、今からこんなゲームを解消すればいいね。私が連絡する」


 由美ちゃんが携帯を取りだす。しかし、律くんに繋ごうとしてもだめ。昨日と状況は変わらない。やっぱり避けてるんだろうか。


「そっかー。携帯はだめだった。そういえば、昨日聞いておけば良かったよ。電話繋がらないって。まあ、とにかく大丈夫。私が言っておいたし。律くんの言葉を信じても問題なし。律くんだからね」


 すごい信頼。てか、そこまで由美ちゃんが言うなら大丈夫かな。律くんだけを見るとやってしまいそうだけどね。でも、由美ちゃんとセットで考えればいい。しかも、由美ちゃんはしっかりと言ってくれた。何の問題もなさそうだ。


「えっと、みなさん集まってどうしました?」


 ここで加絵先輩が登場。事の経緯を聞いてくる。なので、みんなで説明。もちろん、律くんの出方だった。


「そうですよね。私が昨日捕まえたんですけど。でも、逃げられてしまいました」

「へえ。そうだったんですか。生徒会長らしくない失態ですねえ」

「畠山さんのおっしゃるとおりで。その時、翠さんと話に熱中しすぎちゃったんですよ」


 結局、各自で連絡を取り合って探す。こんな感じで落ち着いた。私は畠山ちゃんと時間が合う。なので、文化祭を楽しみながら捜索。その活動も楽しんですればいい。そこまで深刻にならなくてよさそうだ。由美ちゃんの情報を信じるならば。


 というわけで、私は文化祭を楽しむことにした。昨日と同じように。いや、昨日以上に。早々と切り替えだ。律くんの提案はかくれんぼ。私は鬼。彼は逃亡者。さあ、道化のピエロを探しに行こう。そして、見つけたらわがままをたくさん言わないと。一応、律くんとは偽のお付き合い関係。何を言っても許されるだろう。そもそも、これは律くんがやり始めたことだから。

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