第72話 異次元ガールズトーク?
ちょっとコメディ回かもです。お楽しみいただければ幸いです!
その後、いくつか形式的な手続きをして、王様の御前を退いた。
「では、ハルカ様。本日より暮らしていただくお部屋にご案内いたしますね」
「ありがとうございます」
メイドさんに従って、ふかふかの絨毯を踏みしめながら廊下を歩く。
「こちらになります。お荷物は既にここに到着しておりますから、どうかおくつろぎくださいませ。この魔法石が鍵となりますので、無くさないようにお持ちください。魔力を流すと簡易の通信魔法が発動して、わたくしたち侍女の誰かがお伺いします」
「は、はい! ありがとうございます。えっと、改めて、お世話になります……」
「恐縮でございますわ。こちらこそ、これからよろしくお願いいたしますね」
上品で穏やかなお姉様。こういう大人な女性には本当に憧れる。髪が伸び、いくらかあの夢で見たひとに近づいたかと思ったが、やはり私はまだまだ幼いというか、こういう美しい所作は真似できそうにない。
言われた通りに鍵を解除し、装飾の煌めく扉を開く。
「わぁっ……!」
こんな部屋に通されれば、女の子なら誰しも目を輝かせるだろう。もちろんこういうのを好まない少女もいるだろうことはわかっているけれど、そう思わずにはいられない。お姫様の寝室。そんな御伽噺のような言葉を、体現している。白とピンクを基調としていて、繊細なレースに施された刺繍はもはや芸術。それを透かして見える外の世界もまた、光に満ちている。
部屋の真ん中に、王室の紋章の入った鞄が居座っていた。
ドレスでは身動きが取りづらいことに気づき、クローゼットに仕舞う。髪飾りもほどいて、いつものように髪をまとめた。靴も、履きなれたものに替える。そして、あの仕立て屋さんも「一番の正装」だと言ってくれた、巫女の職業服、千早と緋袴に着替える。それから、アーティファクトを取り出して装備する。もちろん左薬指にはいつだってユーリの指輪。
いつも通りの私。物理的な場所は違っても。
ここで、戦いが始まるのだろう。
一体どれほどの逆風に立ち向かうこととなろうか。
それでも。
「ねえ、神様。ずっと、私のそばにいてくれるよね?」
《いかなることありとも、ハルカの傍らを離るることぞ、あるまじき》
「ありがとう。……私も、神様の声、しっかりと届けるから。必ず、この戦争を食い止めてみせるから」
《……コグニスにも、同じかること言いたるか?》
「えっ? ……待って、コグニス様も、ここにいらっしゃるの?!」
《宮なるハルカの務め、定めて我ならずコグニスが言を伝うることなるべし。されば、口寄せの儀式より先に挨拶し、親しかれ》
「そっ、そうだね!」
そう言った矢先。
私の目の前に、黄金色の光が現れた。それはやがて、あの聖堂で見た、ブロンドの美しい女性の姿になる。
ひと目で、あぁ、コグニス様の色だ、とわかった。慌てて跪く。
《あっはは、そんな緊張しなくってもいいのに!》
いつもの神様の声と同じように、脳内に響く声。その高さも質も、祭壇で祈りを捧げた時と同じだ。だが、あの時の厳かな声音は欠片ほどもなかった。
《そこの……地球の、ニホンだっけ? ……ねえ、いい加減名前つけて貰えば? 呼びにくいんだけど》
《わ、我は……》
神様がタジタジになっている。そうだ、確かに、コグニス様も神様なのだから、呼びにくい。
《日本の八百万の神の一介に過ぎぬゆえ、名は持たず》
「え、でも、もともと平安貴族だったんでしょ? その時の名前で呼ばれてるとか、ないの?」
《……ちとせのさきの世のこと。みな「神様」と呼びたりしかば、我が名も忘れにき》
《じゃあさ、そこの巫女様につけて貰いなよ。専属のパートナーなんだし》
「わ、私なんかが……?!」
《あのね、巫女さんは遜らなくていいのよ。私たち神にとっちゃ、命のようなものなんだから》
「そんなっ! そ、それじゃあ……」
私が、神様の――いや、親友の名前をつける。恐れ多いような、緊張するような。だが、こういうのは案外、直感の方がいいのかもしれない。
「……安直だけど、リン、なんてどうかな。燐光、からとって」
《良き、良きかな! 青白き光は、神の世にありとも我をいとよく示すものなれば》
《いいじゃん、可愛いし! それじゃ、リンと……巫女さんの名前はハルカだっけ? よろしくね》
「よろしくお願いします!」
神様、いや、リン様と、コグニス様と、3人――正確には人間なのは私だけだが――で笑い合う。
《まぁ、普段はこうやっておしゃべりできるけど……儀式の時は、口寄せしてもらうことになるかな。毎日、ハルカの体と口を借りてあの国王や王妃に言いたいこと言うわ。別にハルカを信用してないわけじゃないけど、ちょっとでも間違って伝わったら大問題だし、あの人たちにとってもその方が信憑性あるって感じるでしょうし》
饒舌というか、マシンガントーク。厳かな感じはもうない。すっかり彼女のペースだ。ステラを思い出させる。
《まあマシンガントークなのは自覚あるわよ。でもこれから私もお世話になるんだから、慣れてもらわなきゃ! あぁ、ステラちゃんとか、リヒトスタインの子供達の様子ならいつでも伝えられるわ。なんたってあそこにはふたつも祭壇があるんだもの。私ひとりのためにね?!》
どうやら私の心が読めるらしい。
《当たり前よ、神だもの》
「……はい」
《リンだって読めるわよね?》
《しかり。されど、ハルカならざるものどもの心を読むは、いささか難し》
《あー、未来視の方が得意なんだっけ》
「神の力にも、得意不得意があるんですね」
そんな他愛ない会話をしていると、自室の扉がノックされた。
「……ハルカ様? 国王がお呼びです」
「あ、はい、今参上いたします!」
この上なく怪訝そうな顔をしたメイドさんに呼び出され、再び絨毯の上を歩いた。
リン様もコグニス様も、そんなメイドさんの表情を見てクツクツと肩を揺らしている。そのお陰で、少し和んだ気分で王様のもとに向かうことができた。
さあ、これからだ。





