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リスタート、それから

 こちらの世界に戻って来てからおよそ1年。私は、普通の女子高生として過ごした。


 もはや学校中が「神隠し事件」を知っていたのには驚いた。狭い世間じゃ、噂の回りは恐ろしく速い。


 ずっと西洋風の世界にいたので、いくつか日本での慣習や振る舞いを忘れてしまっていた。そのことが余計に、噂に信憑性を与えたみたいだ。それでも、数日もすればすぐこちらの生活に馴染み、普通に暮らしていた。


 私にとっては皆3つも年下であり、なんだか幼い。向こうにとっても私は老けて見えているのだろうか。そう思うと、変な感じやら、悲しいやら。髪はまたボブにしたけれど、顔は時間に抗えない。それでも幸い、みんな前までと同じように接してくれている。……多分。


 ちなみに、勿論ユーリの指輪は一瞬たりとも離さずに薬指につけていた。場所が場所なのでからかわれるけれど気にしない。


 そうして、3年生になった。


 新学期。クラス替えがあって、ショートホームルームが始まるまでは「また一緒のクラスだー!」「うわー、離れた」のお祭り騒ぎである。私は、仲良しグループの子達と一緒になったことに安堵する。受験があるが、彼女たちと一緒なら乗り切れるだろう。



 ――あれ? おかしい、指輪が光を帯びている。……まあいいか、多分灯りが反射しているだけだ。



 やがてチャイムが鳴って、新しい担任の先生が入ってきた。


 若い男の先生……って。



「あっ!!」



 私は、彼を見るなり思わず叫んで立ち上がってしまった。


 すぐ我にかえり、恥ずかしくなりながら席につく。


 向こうもまた、驚いたような顔でこちらを見ている。


 あの顔。私にとっては、見間違えようがない。



「この春ここの学校に異動して来て、このクラスの担任をすることになった、氷室(ひむろ)祐凛(ゆうり)です。授業は数学を担当させていただきます」



 いくらか大人の顔つきだし、水色だった髪と瞳は柔らかい茶色になっている。だが、顔も声もユーリそのものだ。


 なるほど。だから私の指輪が光っていたのか。これは彼の存在に反応するから。


 表情の起伏は少ないが、誠実そうな立ち居振る舞いに整った顔立ち。クラスの男子は嫉妬の視線をぶつけ、女子はキャアキャアと騒ぐ。


 私は、なんとしても彼女らに取られまいぞと対抗心を燃やす。


 しかし、その心配は全くの杞憂であった。


 ホームルームが終わって、始業式に向けてクラスメートが移動し出したとき、私はこっそりと彼を呼び止めて話しかける。



「ね、ユーリ……だよね?」


「そうだ。……びっくりした、またここで会えるなんて……」


「それはこっちのセリフよ。……転生したの?」


「ああ。向こうでは、()()()()()になって寿命が来るまでずっと、魔法理論と魔道具の研究をしていた。生まれ変わった先が、まさかハルカの居るところだとはな」


「そういうことね……」



 時間軸がどうなっているのか、私には全然わからないけれど。



「俺たちは、どんな形であれ、また出会う運命だったんだろう」


「私もそう思う! ……この世界では、あの世界のこと、内緒ね? だけど、いろんな話、また聞かせて欲しいな」


「ああ、勿論だ」



 先生と生徒という立場に隔てられた関係だが、またこうして話ができる。それが何よりも大きい喜びだった。


 彼と私しか知らない。


 私たちが、どうやって巡り合ったのか。


 私たちが、どんなに強い絆で結ばれているのか。


 だからこそ――彼は、他でもないここに来たのだ。



「……ねえ。また、あのときみたいに……恋人という関係になってもいい……?」


「当然だ。俺たちは、初めから夫婦になるべきふたりだったんだからな」



 彼の言葉に、私は頬を真っ赤に染める。


 クラスの女子からの眼差しが痛い。仲良したちからの揶揄も痛い。


 そうだった。彼は基本的にクールで不器用だが、傍若無人ともいえるほど無遠慮に愛情表現をしてくるのだ。――それも、あの日々と変わらない。



「若くってー、年上でー、何でもできちゃう『先生』がいるー……って言ってたの、氷室先生だったんだねーっ」



 友達がそう言ってきた。……あれはリン様のことを隠すためのカモフラージュだったのだけれど、まさかその通りになるとは。というか、あんな昔の発言をまだ覚えているなんて、色恋沙汰に関する女子高生の記憶力は恐ろしい。


 ちなみにその後、ユーリ先生とは、校長にバレないようコッソリと連絡先を交換した。それからは毎日チャットしている。


 ☆


 それから、さらに少し経って。



「このクラスに、転校生が加わります」



 高校で、しかも3年生で転校生なんて珍しい。ひょっとして訳ありなのだろうか……なんて呑気に考えていると。


 再びクラスが騒がしくなる。今度は男子が騒ぐ番だ。


 一方で、私はまたもや声をあげて立ち上が……りそうになって、なんとか直前で止めた。



(さかき)(りん)……姓が『さかき』、名前が『りん』です。よろしく」



 優しい鈴のような声。烏の濡れ羽色をした長髪。深く、どこまでも深く透き通る碧眼。すっと通った鼻筋。


 誰がどう見ても美少女だ。


 そして、リン様そのままだ。十二単ではなく、この学校のセーラー服を綺麗に着こなしているけれど。


 そうか……神としての立場こそ失ったが、人間として戻って来たのか。



「リン様!!」


「ハルカ。『様』は要らず……いら、ナイワ。もう私たちは、対等な友達だし……変な目で見られるかも知れない、でしょう?」


「そ、そうだね。よろしくね――()()



 ふたり抱き合って、大親友との再会に大号泣した。


 ひとしきり、色々と語り合ってから。



「まだちょっと、こっちの言葉に慣れてないのかな? なんかカタコトだよ」


「そんなことなし! ハルカよ、……びーえふえふ……ならん……なろう!」



 その言葉で、異世界に転移したばかりの時のことを思い出した。


 ベストフレンドフォーエバー。幾度も世界を隔てられそうになったが、それでもなお、いま私たちはともにいる。


 ☆


 戻ってきた日常。


 大きく変わった生活。


 あんなに苦手だった数学の授業が、ユーリ先生が担当になってからは何よりも楽しみだ。それはもちろん、自分の恋人だからというのもあるし、いつでも質問できるからというのもあるが、そんな特殊な事情を抜きにしても、彼の教え方は抜群にわかりやすい。それに加えてあの美貌。ゆえに多くのファンがいる……というのは、異世界でもこちらでも、私の悩みの種だけれど。


 古典のテストは、今ではリンが毎回満点をとるので首席の座が奪われてしまった。仕方ない。……ちなみに彼女は、理数系……というか国語と日本史以外の科目は私より酷い。試験のたびに点数を見せ合っては笑い合う。


 平和な世界。


 戦いがなく、命が重い世界。


 特になんという事件もなく過ぎゆく日常。


 しかし、あの世界での日々は、出会いは、この優しく和やかに輝く日々に埋もれることなく、私の中で生き続けるだろう。



「ハルカー、リンー、行くよー!」


「うん! ちょっと待って!」



 ――これから先、ずっと。

ついに……ついに、完結です!

ここまでお読みくださった皆様、本当に本当にありがとうございました!!!

このような異世界ハイファンタジーを書いたのは初めてで、完結できたのが信じられません。

書き切れたのは、ひとえに皆様の応援のおかげです!!!!


これからの創作の勉強になるので、アドバイスとかおかしいところとかあればご遠慮なくご指摘ください。

ブクマや評価を入れていただけると、大喜びします。

ご感想をいただけると、舞い上がります。感想欄は、なろうユーザーでない方々にも開放しております。

レビューをいただけると泣き咽んで歓喜します。


物語は終わりましたが、ハルカ、ユーリ、リン、そして愉快なクラスメートたちの生活はずっと続いていきます。これからも彼ら彼女らの幸せを願っていただけると嬉しいです。

そして、今後とも、まるぱんだをよろしくお願いいたします。


皆様との出会いに祝福を。そして、もう一度、ここまで読んでくださった皆様に最大限の感謝を……!

本当に、ありがとうございました!!

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