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【全5巻】婚約破棄された替え玉令嬢、初恋の年上王子に溺愛される【コミックス2巻発売中】  作者: 榛名丼
第三部.光の花嫁

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第135話.大公と第一王子

 


 ルキウスと再会を果たした、その翌日。

 早朝から、ルイゼはフィアンマによって謁見の間へと呼ばれていた。


 ルイゼが初めてムシュア宮に来たときも案内された場所である。

 そこには既に、フィアンマとナイアグ、ルキウスとイザックが待ち受けていた。


「すみません。遅くなりました」

「これで役者が出揃ったな」


 思わせぶりな言葉と同時、フィアンマが玉座から立ち上がる。

 笑顔でルキウスの胸を指差すと、彼はこう言い放った。



「お前に決闘を申し込む、ルキウス」



 思いがけない言葉に、ルイゼは衝撃を受ける。


(エ・ラグナ公国での決闘は、申し込まれた時点で相手は断れない)


 アルヴェイン王国では手袋を投げつけ、相手がその手袋を拾い上げた場合に決闘が成立するのだが、公国にまどろこしいルールはない。


 しかしこの事態を予測していたか、事前に聞いていたのだろうか。ルイゼ以外の面々は顔に動揺もない。

 決闘を申し込まれた張本人であるルキウスも、それは同じだった。


「オレが勝ったら、こいつはオレのハレムに入れる」


 こいつ、と言ってフィアンマが見るのはルイゼだ。

 その視線から守るように、ルキウスがルイゼの前に立つ。


「そもそも保護したのはオレなんだから、その権利があるだろう?」

「微塵もありません」


 きっぱりと言うルキウスに、フィアンマが口角をつり上げる。


「ルキウス。いずれ王になるべき人間が、恋人を追いかけて他国にまで来てどうする」

「……!」


 ルイゼははっとした。フィアンマの言動の理由が理解できたからだ。


(大公として、ルキウス殿下の行動を窘めている……)


 ルイゼをハレムに入れるなんて、本気ではないのだろう。ただルキウスを挑発しているだけ。

 フィアンマはルキウスの行動を問題視して、諫めようとしているのだ。

 ルイゼに見せる姿は、威厳も何も感じられないものだったが、玉座から見下ろすフィアンマの笑みには慈愛がある。


 自国の民を導く、光たる者。

 今のフィアンマは、上に立つ人間としての風格を感じさせる。


「お前の手足となって働く人間はいくらでも居る。自分の感情を優先して動くな」

「それを俺に言い聞かせたいがために、決闘を?」

「そうだ。剣で斬り合うでも、魔法をぶつけ合うでも構わないが、どうする?」


 ルキウスが眇めた目で、玉座のフィアンマを見やる。


「では、どちらも」

「いい覚悟だ、ルキウス・アルヴェイン」

「ただし俺が勝った場合、二度と彼女に近づかないでください」

「いいだろう」


 フィアンマたちに本当の名前を名乗らないように、とルキウスに言われたルイゼは口を噤んだままだ。

 侍女たちは今も詳細を知られていないようで、ルイゼのことをシャロンと呼ぶ。


(私の名前を大公殿下たちに隠すのに、どういう意味があるんだろう……)


 シャロンの【通信鏡】を持たされていたから――というだけでは、もはや理由としては成立していない。

 ルキウスの考えたことなのだから、必ず何か意味がある。しかしその理由はなんなのか。


 悩むルイゼには気がつかず、フィアンマが侍従長であるナイアグを見る。


「練武場を使うぞ。いいな、ナイアグ?」

「はい。準備は整っていますので」


 礼をとったナイアグ。

 フィアンマに先導され、一同は庭園の奥に設けられた練武場に向かうことになった。

 ルイゼは何度も話しかけようと思ったが、フィアンマの隣を歩くルキウスになかなか声がかけられない。


(もともと私が悪いのに)


 シャロンをマシューから助けたかった。

 苦しそうなエリオットにシャロンと再会してほしかった。

 間違ったことはしたとは思わない。だがルイゼの手際が良ければ、むざむざ公国行きの船に乗る羽目にはならなかったのだ。


 ルキウスの後ろを歩くイザックに、ルイゼはそっと声をかける。


「タミニール様。フィアンマ様はお強いのですか?」


 本当は明るく笑い返してほしかった。そんなことはない、と。

 しかしイザックさえも、このときばかりは眉を顰めている。


「……そうだな。さすがに、無傷では済まないと思う」


(そんな……)


 イザックがそんな反応を見せるということは、それほどフィアンマが強いということだ。


「決闘を止める方法はありませんか?」

「ない。とにかくオレたちは見守ろうぜ、ルイゼ嬢」


 そうイザックは取り成すように言うものの、ルイゼは頷くことなんてできない。

 ルキウスが傷つくのを黙って見ているなんてできないのだ。


 そんな会話が聞こえたのかどうか、ルキウスが後ろを振り返る。

 灰簾石の瞳と目が合ったとたん、ルイゼは我慢できず彼に駆け寄っていた。


「ルキウス様、ごめんなさい。私のせいで」

「ルイゼは何も悪くない」


 なんでもないように、ルキウスはそう言ってくれる。

 しかしルイゼの顔色が優れないのに気がついたのか、こう続けた。


「……伝えるのが遅れたが。シャロンは、君に感謝していた」

「カリラン様が?」

「本当なら自分が公国に向かい、直接謝りたいと。体調が優れないから、エリオット・エニマに止められていたが」


(二人は、ちゃんと再会できたんだわ)


 いろんな誤解があったけれど、強い絆で結ばれた二人だから、きっと大丈夫なはず。

 ルキウスが教えてくれた言葉は嬉しいものだった。だからといって、満面の笑みになれるはずもないのだが。


「大丈夫だよ、ルイゼ。俺は負けないから。だからそんな顔をするな」


 ルキウスは表情も変えずに言ってのけるが、彼だって本当は不安なはずだ。

 相手はフィアンマ。エ・ラグナ公国の頂点に立つ大公なのだ。

 金色の瞳を持つ彼には、ジャラ民族の血が流れているのだろう。ジャラ民族は特別に身体能力が高いとされる。いくらルキウスでも、無傷で済むはずがない――。


 そのときだった。

 ルキウスが無造作に、ルイゼの耳に顔を寄せる。


「肩の印が消えたら、もう一度更新しないといけないからな」


 ひっそりと、色っぽい声で囁かれて。


「…………っ!」


 一気に赤くなったルイゼは、ブラウスに包まれた肩を隠すように手のひらで覆う。

 服の下に隠れたその痣は、ルキウスが与えたものだ。


 湯浴みのときや着替えのとき、侍女に見つけられてどんなに恥ずかしかったことか。

 みんな「虫に刺されたのかも」と口々に言ったが、本気でそう思っているならば、にまにまとした笑みなんて浮かべなかったはず。


「い、いけません。こんな目立つところに」


 彼の独占欲が感じられて、嬉しくないと言えば嘘になる。

 しかしまた同じところに痕ができてしまえば、肩を露出する王国のドレスはほとんど着られなくなってしまう。


 恥ずかしがるルイゼの腰を、ルキウスがおもむろに抱き寄せる。


「目立たない場所ならいい?」

「っルキウス様!」


 今はそんなことを言っているときではないのに。


「俺は冗談は言わない」


 くすくすと笑うルキウスは、あるいはこんなやり取りで緊張を解しているのだろうか。

 そう思うと、ルイゼは何も言えなくなる。ルキウスがリラックスできる一助になれているかもしれないから。


 そのまま一行は練武場へと到着する。

 ナイアグの言う通り、人払いされた広い空間には人気がない。

 上着を脱いだルキウスが、兵から武器を受け取る。木刀ではなく真剣だ。

 フィアンマも同じものを手にしている。その光景を見ただけでルイゼの顔から血の気が引いた。


「大丈夫か、ルイゼ嬢」


 横に立つイザックが声をかけてくれるが、返事もできない。

 広い練武場の中央で、両者が向かい合う。


「覚悟はいいな、ルキウス」

「ええ」


 短く答えたルキウスが、剣を構える。

 フィアンマは誘うように剣の切っ先を揺らす。鋭い睨み合い。


 ルイゼたちが息を呑んで見守る中。



 ――勝負は、一瞬で決着した。




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新連載です→ チュートリアルで死ぬ令嬢はあきらめない! ~死ぬ気でがんばっていたら攻略対象たちに溺愛されていました~
短編を書きました→完璧超人シンデレラ
【コミック2巻】12月15日発売!

替え玉令嬢C2

【完全書き下ろしノベル最終5巻】12月15日発売!(電子限定配信)

替え玉令嬢5カバー
― 新着の感想 ―
[一言] ルキウス様がぁぁ!!フィアンマさんはルイゼちゃんに惹かれてないということになるんでしょうか…?うーん…惹かれて欲しいけど惹かれて欲しくないですね!!(え)侍女さんたちはまだシャロンちゃんだと…
[良い点] ドキドキします! 一瞬で決着なんて! 毎回の更新、楽しみにしています。 あまりご無理をせぬよう、でも、楽しませてくださいませ。
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