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くまくまもちもちとちびふわ




その日、ウィームにある小さな泉で新種の妖精が発見されたという一報がリーエンベルクに入った。



出張任務明けで夜のスリフェア研修もあり、半日休暇を貰ったネア達は、興味本位でその妖精を見に行くことにし、春の訪れに賑わうウィームの街を抜けて妖精が発見された場所に向かった。



ちりんと、鈴の音が聞こえる。

魔術儀式がどこかで行われているに違いないのだが、何かに気付いたようにディノが視線を向けた足元に、ネアの可動域では魔術の痕跡を見付けられない。


そこには、小さな青い小花を咲かせた茂みがあって、なだらかな勾配を下る、青みがかった砂色の石造りの階段が続いている。



「まぁ、大賑わいですね…………」

「種の派生は祝福とされる事が多いから、それを授かりにきたのかな」

「………バンルさんと、フェルフィーズさんが奥の方にいるようですので、エーダリア様を見に来た方も多いのかもしれません。むむ、エルトさんもいます…………」



エーダリアがヒルドを伴い、その新種の妖精の派生観測をしているからか、現場となった博物館通りの並木道奥にある小さな泉には、街の騎士達を含め、大勢の人たちが集まっていた。



エルトに会いたいけれど、フェルフィーズの履歴を考えるとあまり接触しない方がいいのだろうなと考えながら、ネア達がそんな野次馬の輪に加われば、気付いたエーダリアが、こちらにやって来る。




(あ、…………間に合わなかったみたい………)



エーダリアがこうして現場を離れられるという事は、残念ながら既に魔術的な登録作業などは終わってしまったらしく、ネアは、エーダリアの詠唱を聞き逃したことにがっかりした。


魔物が荒ぶるといけないのでそれも目当てなのだとは言えなかったが、同じ屋根の下に暮らしていてもなかなか聞けないエーダリアの詠唱は、ネアのお気に入り詠唱の一つなのである。



リーエンベルク騎士に扮した恐らくは塩の魔物に違いない護衛に付き従われ、ネアのところまで来たエーダリアは、ネアの首元を見て微かに途方に暮れたような目をする。


けれどもネアは、せめて新種の姿は押さえねばなるまいとそわそわしていたので、その視線については触れずにおいた。



「エーダリア様、新しく派生した妖精さんはまだいますか?」

「お前達も来たのか。…………ほら、今、アメリアの前にいるのがその妖精だ」



そう示され、ネアは慌ててそちらを見る。

すると、泉の近くに膝を突いて身を屈めているアメリアの側に、奇妙な丸い物体がぽてりと落ちているのが目に入った。



「なぬ…………あれは、以前に狐さんがボールとして持って来てしまったもちもちくまさんではなく…………」

「薄っすらとではあるが、毛並みがあるのが角度によって見える筈だ。ウィームでは、既存の種そのものが多く、まだ詳細が分からない生き物も多い。こうして新種登録をしたのは久し振りだな…………」



そう感慨深く呟いたエーダリアの傍らで、ネアは、アメリアの足元に転がっているくまさんボールにしか見えない生き物を凝視していた。


一瞬、落し物かと思って見過ごしてしまいそうだったが、確かに誰にもつつかれていないのに揺れているし、薄い毛並みが見えるような気がする。



(でも…………)



とは言え、こちらがその妖精なのだと教えられて見てみても、そこに揺れているのは、ウィームで一昔前に流行ったというもちもちくまさんボールそのものにしか見えなかった。


以前に銀狐な義兄が興味津々に見ていたので記憶にあった造形のそのままなのだが、ネアとしては、妖精でありながら手足などが見当たらない事に不安を覚える。


どう動き、どう生活してゆくのかあまりにも大きな謎を投げかけてくる生き物ではないか。



(でも、ギョームの魔物さんも転がるだけだから、それでもいいのかな…………)



ぎりぎりと眉を寄せて考え込んでいたネアに、羽織りものになって一緒に覗き込んだディノが珍しいねと呟く。



「元の品物が、よほど大事にされていたのだろう。種としての妖精が人間の品物から派生するには、本来は随分な時間をかける必要があるんだよ」

「品物から派生した妖精さんということは、あやつめは、くまさんボールの妖精さんということなのでしょうか………?」

「そういうことになるかな………」



ディノは妖精の派生については語れるが、目の前のくまさんボールの妖精はあまり得意ではないらしい。

ボール妖精がゆらゆらと揺れると、ぴっとなってしまい、じわじわと後退しているのがその証拠だ。



「エーダリア様、あのくまさんボール妖精は、どうして妖精さんだと判明したのですか?」

「…………背中に薄く畳んだ羽があるのだ。その形状や妖精の粉の有無を確認の上、最後にヒルドに確認をして貰った。シーには、初めて見る同族でも、妖精かどうかの区別がつく事が多いからな。………ただ、あの羽で飛べるかどうかはまだ判明していない」

「…………むぅ、浮かない気しかしません……」



護衛として佇んでいるきっとノアの筈の騎士は、微笑んでこちらを見ているが、騎士の擬態に徹しているからかお喋りには加わらないようだ。



実は今朝、春市場の一つであるスリフェアにあえてエーダリアを連れて行かなかった事が露見してしまい、ノアは膝から崩れ落ちた。


連れて行く事は出来ないと判断した理由は尤もなものであるし、たくさんのお土産を買って来ていたのでエーダリアは怒ってはいないのだが、ノアとしてはかなりそれでも嫌われてしまわないか心配でならないのだろう。


容赦なくその秘密を明かしてしまったダリルからしてみれば、隠す必要もない事を隠しておいて、後々おかしな方向に拗れる方が問題だと考えているらしい。



(でも、そんな背景を踏まえれば、喋らないのではなくて、頑張って守護しているというアピールでもあるのかな………)



そんなネアの考えを読んだように、エーダリアが淡く苦笑したようにも見える。


エーダリアは確かに、ノアとネアのお土産の魔術書を手に暫く固まっていたくらいに魔術書大好きっ子だが、スリフェアには近付いてはならない理由をきちんと説明すれば、それでも拗ねるような事はするまい。


寧ろ、時折抜け出して危うい古本市に出かけて行ってしまう事もあるので、立ち入ってはいけない場所こそ、予め話し合っておいた方がいいのは確かだろう。



「騎士さん達が沢山いらっしゃるからには、獰猛な妖精さんだったりするのでしょうか?」

「いや、当初は個体登録かと思われたが、新種としての登録になったので、取り零しのないようにしているのだ」



派生した新種は、種としての派生が保証されないと正式登録にはならないらしい。


何しろ様々なものに不思議な生き物が派生しては消えてゆく世界なので、その全てを登録していたら大変なことになってしまう。


一時的な顕現や派生でも種として登録されるふわまるのような特別な生き物以外は、各領地ごとに管理される記録帳と言われるものに発見者が簡易的に記録し、追って調査がされるかどうかはガレンの判断なのだそうだ。



(つまり、発見早々に新種登録がされているこの生き物は、複数個体の派生が確認されているという事で、あの騎士さんの数は、他にもあの妖精さんが潜んでいないかどうかを調べる為でもあるのだわ…………)



脱脂綿妖精事件以降、集合物に対しての警戒心が強くなったネアは、一つであれば可愛いかもしれないこの妖精が、集団になった時のことを考えてしまいぞわりとした。


ネアがこのウィームに来るより以前に流行りものだったくまさんボールは、何種類もの季節限定デザインが発売され、にぎにぎもちもち出来る質感が爆発的な人気を呼んだものの、人間という残酷な生き物の気紛れさ故にあっという間にその流行は終わってしまったのだそうだ。


しかし、ある程度の領民たちに品物が行き渡ってから去ったブームであるので、新商品が売れなくなっても購入済みのくまさんボールは各家庭で大事にされた。


手持ち無沙汰な時にふと、もちもちのくまさんボールをにぎにぎしたくなるそうで、リーエンベルクの騎士にも愛用者がいる。

保温魔術が内蔵されており、春から夏の間に太陽の光に当てておけば、秋冬はじんわり温かいというのだから、大事にされた理由も分かるというものだ。



「エーダリア様、ここにいるのは一個………一匹だけですが、他にもいるのですか?」

「ああ。この泉は送りの泉と言われていてな。生き物には効果がないくらいの穢れを落とす効果がある水が湧いているので、愛用された品物を捨てる際に最後にここで洗うと良いと言われているのだ。なので、この品物を捨てる際に泉で洗った者が多かったのだろう。昨晩あたりから派生が始まり、現在は十二の確認が取れている。元になったボールの絵柄が違うので、同種になるのかどうかは今後の調査次第だ」



言われて覗いてみれば、確かに美しい泉には泉結晶の小さな碑のようなものが建てられていて、領民達の生活に根付いた魔術の場の一つなのだと見て取れる。

その碑にも、泉の利用方法や注意事項などに加え、視認で結ばれる魔術誓約の序文が刻まれていた。


刻まれた序文は、この誓約文を見た者は泉を損なう事が出来なくなるという魔術なのだが、ウィームのような魔術の潤沢な土地でしかこのような使い方は出来ないのだそうだ。


そんな泉の淵に立ち、宝石を削ったような羽を畳んだのはヒルドであった。

木の上などに他の個体が隠れていないかを調べる為に、直前まで泉の周囲の木の上を調べていたのだという。


周囲にはそんなヒルドの姿に胸を押さえているご婦人方もいるので、やはり、新種の妖精よりも、エーダリアやヒルドの姿を見に来た者達も多いのだろう。



ネア達に気付き、ヒルドもこちらに来てくれる。

木漏れ日を受けて落ちた影の縁取りは、森と湖のシーをこの上なく美しく際立たせていた。



「森などであれば記録だけ取ってそのままなのですが、今回は人間の道具から派生しているので、先に派生した者達は、話し合いの上保護しております。どのような環境での暮らしが向いているのか、自然への悪影響などはないのかを確認の上、野生での生活が可能であればそのまま放すことになるでしょうか………」



だからこそ、森で見付かった野生種の新種とは扱いが違うのだと得心し、ネアは、仕事の邪魔にならないように少し離れた。


最後の一匹も保護された後は、泉の周囲に認証魔術を敷き、また新しい個体が派生した場合にはすぐに保護しに来られるようにしておくのだそうだ。


その最終作業があるので、野次馬なだけの同居人は邪魔をしないように下がっていよう。



魔物な羽織りものを解除させ、ディノを連れて少し離れると、ネアは、普段は長閑な泉の周囲を少しだけ歩いてみる事にした。



「この辺りは、普段はあまり来ないところですね………」

「あえて人を集め過ぎないような、隠者の魔術が働いている土地のようだね。泉に穢れが溜まらないように、必要な者だけが訪れる仕組みになっているのだろう」

「新種の妖精さんを見に来たのですが、思いがけず素敵な風景を見付けてしまいましたね。もし今度、捨てなければいけない品物が出たら、ここに洗いに来てみましょうか?」

「…………捨てない」

「むむぅ、溜め込み過ぎてしまうと、新しいものが買えなくなってしまいますよ?消耗品は入れ替えてゆくことも賢い利用法ですからね」

「…………ご主人様」



溜め込みたい魔物はめそめそしたが、実はそろそろ買い換えたい靴拭き布があるネアは狡猾に話を進めた。

買い換えの為のお出かけも楽しいのだと諭されてしまい、ディノはしょんぼりしたままではあるがこくりと頷く。


溜め込み欲と、二人のお出かけを天秤に乗せてきた邪悪な人間の前に敗退してしまったのだ。



さわさわと、木々の枝が風に揺れる。

芽吹いたばかりの新芽は柔らかく、そんなご馳走を狙った栗鼠妖精が木の枝の上を走っていったが、その木の妖精だと思われる緑の小鳥に手荒く追い払われていた。



(小さな土地だけれど、綺麗なところだわ…………)



この泉の周囲は、地下から湧き出した清らかな水の効果で大きな木々が茂っている。

そんな木々にくるりと周囲を囲まれ、木々の根元にはしゃわしゃわと光る緑色のチューリップのような泉の花がたくさん咲いている光景は、絵画のようで美しい。


この場所に咲く泉の花は、花びらにあたる部分が淡いミントグリーン、花びらの奥の部分が優しいピンク色をしていて、何百種もある泉の花の中でも優しい春の色を思わせる花で人気が高いのだとか。


魔術の潤沢で清らかな泉の傍にしか咲かず人気のある花なので、心無い観光客が手折ろうとすることもあるようだが、ウィームの泉の花は魔術純度が高いので素人にはその茎を折ることは出来ないそうだ。


この場所の泉の花については、特別な許可を得た、専用の泉鉱石の花切り鋏を持った妖精達だけが、摘むことの出来るようになっている。



「ふむ。思いがけない観光も満喫しました。私達は、そろそろ失礼しましょうか」

「うん。郵便用の紙袋を買うのだろう?」

「綺麗な黄緑色の紙封筒に、撥水魔術を施したお気に入りのものがあるんです。うっかり在庫を切らしてしまったので、十枚セットのものを買って帰ろうと思います」



新しい妖精を見る事は出来たので、ネアは、妖精の保護を終えて、今度は派生を助けた泉の調査を続けるエーダリア達と別れて、次の目的地である職人街の紙屋に向かおうと体の向きを変えた。


トトラにあげようと買い溜めたポストカードをそろそろ送ろうと思っているのだが、選びきれずに複数枚買ってしまったものもあり、うっかり溜め込んでしまった。

このまま何枚も送りつけて何回も返事を求めることになるよりは、まとめて送った方が人道的だろう。



(帰ったらトトラさん宛ての郵便を作って、お昼を食べた後は午後の仕事をしてから、夕方には郵便を出しに行けるかな………)



リーエンベルクにも郵便の回収はあるが、ブナの森のトトラの家宛ての荷物は、配達人が毎日行く場所ではないので、森の獣などに奪われないように特殊な郵便魔術をかける。

そうなると、街の郵便局まで出向かなければいけないのだが、また夕方に街に出ることを二度手間だと思わずにいられるのは、水曜日の夕方にだけ出る果物屋台があるからだった。


ウィームでは珍しい新鮮な芒果が買えるので、ゼノーシュにもお土産に買って帰ろうと企むネアは、既に愛くるしいクッキーモンスターの微笑みを思い描いて幸せな気持ちである。



その時のことだった。



不意にがさがさっと頭上の枝葉が揺れたかと思うと、はっと身構えたネアの頭の上に何かがぽこんと落ちて来たではないか。

けれどもネアの頭頂部に触れる前に、髪の毛の中からしゅばっと飛び出した生き物のアタックを受けて軌道を変え、落下物はぽこんと足元に落ちる。



可愛らしいくま顔のボール状の生き物に、ネアは目を見張った。



「フキュフ!」

「まぁ、アルテアさんなちびふわが、頭上落下物を打ち返してくれました」

「…………先程の妖精かな………」

「ええ、そのようですね。…………ここにも潜んでいたようなので、早速エーダリア様に報告してきますね。ディノはこやつを見張っていてくれますか?」

「ネアが虐待する…………」

「ほら、私は頭の上に頼もしいもふもふがいますので、安心して下さいね」



ネアの頭の上には、ちびちびふわふわしたお馴染みの生き物が乗っている。


近くなったウィリアムの誕生日用のカードに悪さをしようとした、悪い魔物のお仕置き中の姿なのだが、亜種ちびふわ符を温存しておくべく今回は通常ちびふわ符で運用しているので、これといった特徴のない堪らなく可愛いだけの生き物だ。


ネアはそんなちびふわに周囲の人が驚きの白さで驚いてしまわないよう、お出かけ用に春らしい桜色に擬態させている。


アルテアなちびふわをこの色にする際、ディノはとても困惑していたのだが、アルテアの瞳の色をちびふわの白で薄めたような色合いだと宣言したネアの策略によって納得したのか、そのまま受け入れてくれた。




「エーダリア様、妖精さんがもう一匹いましたよ」



ネアは頭の上のちびふわをそのままに、泉の周囲で最後の魔術展開を始めようとしていたエーダリア達のところに走ってゆくと、伸び上がって声をかけた。


ウィーム領主の詠唱を心待ちにしていた人たちの輪に隠れてしまい、ネアは見えないかもしれないが、頭の上には桜色ちびふわという素敵なアクセントがある。



はっとしてこらを見たエーダリアが、慌ててヒルドに何かの指示を出し、こちらにやって来る。



「魔術を閉じようとしたところだったので、見付けてくれて助かった。まだ残っていたのだな」

「はい。あちらの木の上から落ちてきました!」

「…………木の上……………?」



そう呟いたエーダリアが訝しげな顔になるのも当然だ。


ネアは、つい先程までの自分が、この妖精はどうやって動くのだろうと考えていたことを思い出してぎくりとする。


二人は顔を見合わせ、ネアが落下物に遭遇したところまでやって来ると、怖々と木の上を見上げた。




「ぎゃ!」

「…………まだこんなにいたのか」




そこには、木の枝の上に保護色で身を隠していたくまさんボールの妖精達がみっしり乗っているではないか。

どうやら泉から離れた場所なので、ヒルドも見落としたようだ。



エーダリアも慄いたように瞳を揺らしていたが、ネアは木の枝の上に積み重なってこちらを見下ろしているくまさんボールに震え上がってしまい、同じように怯えているディノのところに慌てて戻る。


地面に転がって揺れていたくまさんボール妖精を見張っていてくれたディノも、木の上の集団はとても怖かったのか、すぐさまネアにへばりついてきた。



「ご主人様…………」

「こ、これはぞわりとします。…………エーダリア様、我々はとても大切な用事があるので、お先に失礼しますね…………」

「あ、ああ。…………隠れていた者達を見付けてくれて助かった。後はヒルド達と回収するので問題ない」




その時だった。




ざざんと、一際強い風が吹き、大きくしなって揺れた木の枝から、何個ものくまさんボール妖精がばらばらと落ちて来たのだ。

元々木の上で暮らす生き物達とは違い、くまさんボール妖精は枝に掴まる力が弱かったのだろうが、ネアはあまりのことに凍りついてしまった。



(くまさんボール妖精まみれになってしまう!)



そんな恐怖に凍り付き、抱き締めてくれたディノと硬く身を寄せ合った。




「フキュフ!」



救いの声が、そんな恐怖を切り裂いたのはその直後だ。


ネアの頭の上にじっとりとした目で座っていた桜色ちびふわが、見事な体術で飛んだり跳ねたりしつつ、ネアに当たりそうだった全てのくまさんボール妖精を弾き飛ばしてくれるではないか。



「ちびふわ!」

「フキュフ!」



目を輝かせて安堵に微笑んだネアに、くまさんボールからご主人様を救ってくれたちびふわは、腕のところまで下りてきて魔物である本体を想像させる高貴さで、どこか得意げな顔を見せる。


しかし、こちらを見ていた野次馬達からも、おおーと声が漏れ、自分がとても注目されてしまったことに気付いてしまうと、みっとけばけばになってしまい、慌ててネアの髪の毛の中に潜り込んで隠れてしまった。

桜色の尻尾がはみ出ているが、これは収納のしようがないので、このままにしておくしかない。



幸い、エーダリアの上に落ちてきたものは、ヒルドと、ノアの扮する騎士とで全て捕獲したようで、そちらも無事だったらしい。


一拍の間の後、ネア達は無言で頷き合うと、エーダリア達はそのままくまさんボール妖精対策を続け、ネア達は買い物に行くべくその場をそっと離れる。




「…………危機一髪でしたね、ディノ。一匹なら良いのですが、あんなに群れるとなるとちょっぴり苦手な妖精さんかもしれません。何しろお顔が虚ろ過ぎますよね…………」

「うん……………」

「そしてアルテアさんなちびふわは、羞恥心に身悶えて、私の肩をちびこい足でばしばしするのはやめるのだ………」

「アルテアが……………」

「……………フキュフ」




その後、無事に買い物を済ませてリーエンベルクに帰ったネアは、銀狐のボール籠からこちらはただのボールなもちもちくまくま仕様のボールを取って来ると、やっと肩から降りて、部屋の中をててっと走っていたちびふわに、これが元になった商品なのだと見せてやった。



フーッと威嚇したちびふわに首を傾げた邪悪な人間が、そのもちもちくまさんボールを先程の妖精に見立ててよしよしと撫でるふりをしてみると、荒れ狂ってじたばたしているので、ちびふわは、くまさんボール妖精とは仲良くなれないのかもしれない。



ちびふわは余程そのボールが癇に障ったものか、最後は体当たりでもちもちくまさんボールを遠くに転がしてしまうと、午後にお仕置き擬態が解けるまでは、頑なにネアの側を離れようとしなかったのだった。







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