鉄鍋と王と宰相
「おお、煮えてきたな」
「……………執務室でパスタを煮込んでいるのか。白葡萄酒がないだろう」
ことこととパスタを煮込んでいる鉄鍋を覗き込み、よりにもよってのところで部屋を訪れたフランツに眉を寄せる。
これから昼食なのだ。
おまけに、自分の手で料理した温かな料理を食べようとするところで、この友人に邪魔をさせる訳にはいかない。
「念の為に聞くが、飲み物の心配をするという事は、よもや、一緒に食べる気でいるんじゃないだろうな?これは私の昼食なのだが」
「じゃあ、私は何を食べるんだ?」
当たり前のようにそう返され、呆然とする。
なぜ私が、フランツの昼食の世話までしてやらねばならないのだろう。
無言でカトラリーをこちら側に引き下げると、皿を取り上げられそうになり、慌てて奪い返す。
この宰相には、遠慮というものがないのだ。
「…………私に尋ねられても、勝手にここに押し掛けて来たんだろう」
「仕事だからだ!」
「いいか。それなら、王妃が出席予定のガーウィンの式典の調整を進めてくれ…………。頼んでから、四日間も進捗がないのはなぜなのだ」
「…………お前は、本当に自分の妃の名前を呼ばないな。一度ぐらい呼んでみたらどうだ?」
「必要もないのにその名前に触れて、本気で虐殺や蹂躙を楽しいと思う女の何かを揺らしたらと思うと、怖過ぎるだろう!!晩餐でほんの少し会話を持つだけでも、どうしようもないくらいに怖いのだからな?!」
拳を握ってそう主張したせいで少しぜいぜいしてしまい、はっと我に返ってから鍋のパスタに視線を戻した。
くつくつと煮えていた水分がなくなっていたので、木べらを使って具材と軽く炒めるようにする。
これは、鍋に水と塩胡椒、そしてオリーブ油と具材と、手で折ったパスタと香草類を一気に入れて蒸し煮にした海の男達が好む調理法で、味付けには魚を発酵させて作った調味料と大蒜を使い、風味を良くする為にバターなども入れてある。
(今日は、良い貝類が手に入ったからな。どれどれ、…………うん。いい味に整っている)
ウィーム経由でしか塩を手に入れられないヴェルリアでは、塩味を足す為に、ただの塩以外にも多くの調味料が使われているが、バーンディアが最も好んでいるのはこの調味料であった。
だが残念ながら、まっさらな塩を多用出来ることを誇る傾向にある王宮での食事には、あまり使われないのだ。
だからこそ、こうして時々、執務室で自分で料理を作る。
この料理は小さな鉄鍋一つと火の魔術の素養さえあれば出来るので、信用に足りる側仕えや近衛騎士達の手を借りてこっそり材料を手配させていた。
「…………どれ。味見をしてやろう」
「今すぐに部屋から出て行ってくれないかな?!」
「お前は、食べ物への執念の強さは息子そっくりだな。お前の息子は、また、うちの息子を連れてどこぞの食堂の、限定の料理を食べに行っていたんだぞ」
「…………お前が根に持っているのは、その日の昼食は、あわよくばウォルターと一緒に出かけようと思っていたからだろう」
「当たり前だろう!!ウォルターは、滅多に私と二人で食事に行ってくれないんだ。昼食時に予定が重なる事は少ないんだぞ?!」
「…………文句があるのなら、ヴェンツェルに言えばいいだろう。あの子は優秀だからな。時にはそのくらいの息抜きをしてもいいとは思うのだが………」
「子煩悩か!お前こそ、最後に二人で食事をしたのはいつだ?」
その問いかけに記憶を辿り、少しだけ悲しくなったバーンディアは途中でその作業を止めた。
今週はあれこれと頭の痛い案件が詰まっている。
国王としての仕事に差し支えてもいけないので、これ以上考えてはいけない。
「そうだ。ヴェンツェルは、あまり表情に出ない子だが、内心では密かに父親に憧れている筈なんだ」
「面と向かって尋ねてみろ。違う答えが返ってくるかもしれないぞ」
「…………その場合は、………そうだな。半年くらい旅に出るか。旅先をカルウィにすれば、あの子も心配してくれるだろうか……………」
「国を滅ぼすつもりか…………」
王らしくはないと思うが、手作りのあつあつのパスタを頬張りながら、直近で動かす案件の駒の配置について思案する。
同時に、現在動かしている案件の進捗について集まってきた情報を精査し、調整が必要かどうかを再考することも忘れない。
不安は、国を育てることで解消するのが一番だ。
その為にこれ以上ない椅子を得ているのだから、今日も楽しく、邪魔な駒の剪定と廃棄を進めておこう。
「フランツ、西の法案はどうなった?」
「あれは、保守派の議員達に任せてある。口ばかりで頭の硬い連中だが、人脈を生かした根回しは上手い。目を離すと怠けるばかりだが、成果を国民に開示する形で事業を進めると思わぬ働きをするな」
「ふうん。では想定通りだな。どうせ、お前の大嫌いなあの伯爵を、馬車馬のように働かせているんだろう」
「五年間も椅子に座って接待されるだけの楽な仕事をしてきたんだ。その間に蓄えた賄賂守りたさに、死ぬ気で働くだろう。何しろ、今回の件で仕損じれば、前評判との比較で、前の五年間にも監査が入ると知っているからな」
「まぁそれでもいいさ。どれもこれも元はそれなりに優秀だったのに、どうして途中から働かなくなるのかは謎ではあるが」
「代理妖精が優秀過ぎるんだろう。だが、今回は山間部の事業だからな。あの妖精は使えんぞ。ははは!ざまぁみろだ!!」
「私怨による任命は本当にやめてくれ…………」
悪辣な高笑いをしているフランツを一瞥し、溜め息を噛み殺した。
最近の友人は、いかに邪悪な人選で、最高の成果を挙げるかを楽しんでいるとしか思えない。
余程、ウォルターとの昼食会の予定が潰れたのが悲しかったのだろう。
約束すら出来ていなかったのにだ。
「ところで、最近のこの一手は何だ?ウィームには、手を出さないんじゃなかったのか?」
「はは、まさか。恐ろしい事を言わないでくれ。私が調整をしているのは、二つの商会とこの王都の関わりについてだけだよ。…………ほら、アクス商会についてはある程度有利に商談をしておきたいが、山猫商会については、ヴェルリアの海軍や船乗り達との相性が良過ぎる。これは、あまり出入りさせたくないなぁ」
「……………まぁ、確かに。勝手に商売を広げられては困るな」
「山猫達はともかく、砂猫との繋がりが強過ぎるのでね。ウィームのように、直接あの組織の代表を抑えておける人脈がないヴェルリアでは、旨いところだけ盗み食いされかねない」
「…………だから、宝物庫の妖精なのか。…………いや、こちらは別の思惑だな。まさか、一度でどちらも片付けようとしたのか」
そう指摘され、やれやれと肩を竦めながら頷いた。
そう言えばフランツは、ガーウィンの視察に出ていて、あの日は王都にいなかったのだった。
仕方なく、最近起きたちょっとした行き違いから、下の息子が父親を殺せる武器を入手しようとしている経緯を説明すれば、フランツは呆れ顔になる。
ここで、心配する様子すら見せないあたり、付き合いが長いからこその反応とも言えた。
「ディートハルトは、周囲を使う事に長けた利口な子供だが、残念ながらまだ子供だ。紅薔薇の女王がもう少し上手く抑止として機能するかと思っていたが、いささか苦労しているらしい。………王子としての執務を見て気になった事を暗に指摘しただけで、この振る舞いだ。このまま我が儘が過ぎるようだと、私の奥さんに叱って貰う事になるかもしれないね」
「…………お前は、自分の正妃を最終兵器のように扱うのはやめたらどうだ」
「仕方がないだろう。どっちも怖いんだよ!ディートハルトも、あの歳で周囲の女達を誑かして、女絡みの線を辿ってロゴ商会経由で宝物庫の妖精達まで繋げるとか、普通の子がやると思うかい?!まだ、父親に抱っこされていてもいい年頃だよ?!」
「そもそもお前は、ディートハルト王子を抱き上げもしないだろう」
「しないさ!あの子は怖いからね!!」
にこにこと無邪気に笑って見せながら、女達に何かをお強請りしているディートハルトを見ると、バーンディアは我が子ながら背筋が寒くなる。
幼少期に負った心の傷や孤独が、その子供の人格形成を歪ませるという学説を文献で読んだ事はあったが、図らずも我が子でその症例を見る羽目になってしまった。
これで王女であれば、狡猾さからそれなりに使い勝手も良かったものの、王子では利用価値としてはあまり高くない。
長男が優秀で優しい子過ぎたからか、エーダリアもオズヴァルトも賢い子供だがよく分からないし、ジュリアンは役割としては需要があるが優秀とは言い難い。
あまり子供には恵まれなかったようだと空を見ていると、フランツが、こちらが手をかけていた案件の一つに斜線を引いた。
「それは、消さないでくれるかな。近い内に、ガゼッタとの交渉をもう少し進めておきたい」
「夏まで待ってくれ。ウォルターが、アクテーのバタークッキーに興味を示していたんだ。代理妖精に頼んだんだが、まだ買いに行けていない」
「そんな理由か!!」
「その政策を進めると、個人的な思い入れがあると議会で突かれないよう、向こうとの行き来に気を使うようになる。ウォルターには、是非後を継いで貰いたいんだ!可愛いしな!」
「何の主張だ!!」
大真面目にそんな理由を主張するフランツだったが、ガゼッタの案件には、交渉を有利に進められる時期がある。
ガゼッタの国民にとって、苗植えの時期に起きた大雨を伴う気象性の悪夢の縦断は軽視出来ない被害を齎しており、これからがちょうど国庫を圧迫してくる頃合いだ。
交渉にはその中身に応じて進め時があり、相手が追い詰められている時にこそ、決して進めてはならない物もある。
だが、今回進めている案件は輸出入における関税の再調整交渉なので、相手の足元が少しばかり不安定になっている時にこそ有利に働くものなのだ。
(ここ二年の関税を緩和するという条件を付けた上で災害の見舞金を弾み、ヴェルクレアとの交渉を優先的に進めさせよう。幸い、まだあの悪夢についての情報はカルウィ側には流れていない筈だ。国力が落ちれば国防の隙となる。ガゼッタ側も必死に隠しているからな…………)
だが、当面の課題はやはり、ディートハルトの引き起こした問題の尻拭いだろう。
誰がその武器についての情報を愚息の耳元で囁いたのかは定かではないが、調査が済み次第、その者の排除も進めなければなるまい。
(だから、愚かなのだ……………)
それがただの保険のつもりでも、そんな品物を取り寄せようとした段階で、こちらも相応の対応策を打たねばなるまい。
子供らしい我が儘さと無謀さで、もしもの時の為にと保険になるような武器を手元に置こうとしたのだろう。
それが冷静に国の未来を見据えた上での野望であるのなら賞賛にも値するが、手にした知識や情報の取捨選択も出来ないただの癇癪では救いようがない。
なまじ、頭が回るだけに、こちらも徹底的にその芽を摘んでおく羽目になるだけだ。
「…………やれやれ。紅薔薇の妖精の一族は階位を落としかけている。今迄のように隣に立てる事で、無理をさせるなと窘めただけだったのだけれどなぁ」
「それで、父殺しの槍を手に入れようとするのか。恐ろしい子供だな」
「……………なぜ笑顔で言うのか、尋ねてもいいだろうか。まさかとは思うが、自分がウォルターとの昼食の機会を逃したからなのか?!」
「さて、どうだろう。…………で、やはり、お前の息子との取引に応じた宝物庫の妖精王の首は挿げ替えか」
「幸い、女狂いの軽薄な王子に見えてあの息子は出来がいい。動線は作っておいてやったから、後はあの王子が自分で答えを出すだろう」
「やれやれ、恐ろしい奴だな。くれぐれも妖精の恨みだけは買うなよ」
「既に塩の魔物の呪いをかけられているんだ。そんな余裕はないよ。……………それに今回は、ヴェンツェル経由で、統括の魔物にも助力させている。失敗しようもないだろう」
自信満々でそう告げたところで、側仕えがウィームからの一報をこちらに届けた。
案の定、エーダリアの代理妖精であるダリルからの正式な書簡で、ここで正式な書簡を送ってきたという事は、恐らくヴェンツェルには既に報告が入っていると見て間違いない。
だが、それでいいのだ。
相変わらずウィームは有能でほっとする。
「さて、上手く転がっただろうか。……………ぐほっ?!」
「おい、咽せるなよ。この年で咽せると、最近の若者達は眉を顰めるばかりで少しも案じてくれないのだからな。お前は幸いにもまだ顔がいい。もう少ししゃんとしていればまだまだ……………ん?どうした?」
「……………ウィームの歌乞いが、山猫の金庫に落ちた」
「……………いいか。私は今日、ここには来なかった」
「つ、冷たいぞ、フランツ!!何で逃げようとしているのだ?!ウィームから見たら、お前と私は一蓮托生ではないか!!」
「なって堪るか!安心しろ。ヴェンツェル王子を、我が息子共々しっかり支えてゆくと約束する」
「崩御前提にするのはやめてくれないかな!!」
部屋から逃げ出そうとしているフランツの腕をがっしり掴み、慌てて衛兵達に、扉を絶対に開けるなと命じた。
これから早急に、この想定外の事態を収拾するべく幾つかの手を打たねばならないのに、今、フランツに逃げ出されては困るのだ。
「一人でどうにかしろ!…………あの、砂糖の魔物はどうしたんだ?こんな時こそ、力を借りるべきだろう」
「今はそれよりも、こちらの手を幾つか…………、いや、さして手を変える必要はないのか。…………このダリルの文章だと、こちらが噛んでいる事までは察していないとも取れるな。まぁ、大方察した上で逃げ道を作ってきたんだろうが、あくまでも、宝物庫の妖精達の処遇についての確認に留まっているようだ」
「だとしても、あの歌乞いの魔物がいるだろう!ウィームには、塩の魔物もいるんだぞ………」
「それについては、彼のかけた呪いが証人になってくれるさ。はは、…………それがなかったら、殺されていたかもしれないけれどな……………」
(………ウィームの歌乞いくらい、識別出来なかったのか!)
忸怩たる思いで、こちらでも把握していた作戦を決行した者の愚かさを呪う。
だが、ダリルからの書面に目を通し、その商会の男が妖精の浸食を受けていた事を知ると、それで計画が狂ったのかとがくりと肩を落とした。
「こちらで操作したのは、あの槍の在り処と、王の一派に、王子の欲している物が何なのかを敢えて取り違えさせただけなのだけれどなぁ…………」
「思いの外、妖精達が意欲的だったという訳か…………。張り切り過ぎて行き過ぎるのは、一番の悪手ではないか」
「そうだな。絶対に失敗出来ないと考えたのか、あの商会の連中が思っていたよりも使えなくて、方法を変えざるを得なくなったのか…………」
「まぁ、………あの商会の連中は、あまり頭は良くなさそうだな」
「…………ああ。そうだったんだろうな………。だが、妖精の頭も良くない。歌乞いを自分達の入れ物にして、魔物の報復をどう躱すつもりだったんだ………」
「おいおい、愚か者ばかりじゃないか。駒の質が悪いんじゃないのか?」
「…………まさか、ここまで使えないとは思わないだろう」
幾つかの動線を見直したものの、どうやらこちらで新しく打てる手はなさそうだ。
それどころか、動けば却って悪手となりかねない。
こちらでは、ウィームからの書状に文官を通して返事をしておき、捕らえた妖精の処遇は宝物庫の妖精王との交渉も含めそちらに任せると返すに留め、ヴェンツェルの陣営には、近い内に宝物庫の王が替わる事をそれとなく知らせてやろう。
(ヴェンツェルは、恐らくディートハルトの失策については調べ上げているだろう…………)
それが父親に対する保険として手に入れようとする物であれ、銘のある武器を手元にと画策する動きは第一王子派を警戒させるのは間違いない。
であれば今回の一件は、元凶となった理由も含め、あの統括の魔物に共有されている筈だ。
「……………行けるな。これで誤魔化せそうだ」
「何を誤魔化すつもりなのだ?!」
「っ?!いきなり背後に現れないでくれないか!!」
不意に耳元でそう問いかけられ、飛び上がってそう詰ると、どこからか部屋に入り込んだ白樺の魔物は、幼い容姿ながらもどこか妖艶に見える美貌を顰めてみせた。
「また悪巧みか。退屈しておるのだ。何か余興をやれ」
「突然?!」
「バーンディア、もう一人ではないので安心だな。私は、………そうだな。王妃様のガーウィン行きの案件を詰めてこよう」
「フランツ!!………っ、いつの間に扉が………。……………もしやとは思いますが、また衛兵達を追い払ったりはしていませんよね?」
「追い払ったぞ。邪魔ではないか」
「あああ!またそれだ!!」
「………煩いぞ。耳元で大騒ぎをするな。そうだな、今日は天気が良い。あの、海沿いの店でトルテッリを食べるとしよう」
「っ、ま、待って下さい!なぜ私に擬態を…………っ?!」
「さぁ。行くぞ。お主もたまには、息抜きをするといい」
「……………っ、ま、待って下さい!まだ、早急に返事を出さなければいけない書簡が…………あああ!」
王妃怖さに、この魔物には転移を許していた事が裏目に出たようだ。
こうして強引に連れ出されるのは初めてではないし、王の不在はフランツが従僕たちに伝えるだろうから騒ぎにはなるまいが、よりにもよって今日と思わずにはいられない。
そもそも、昼食は食べたばかりだ。
「……………おや、あなたも昼食ですか?珍しいですね」
おまけに店には、こちらの擬態など容易く見破るであろうヴェルクレアの第一騎士団の騎士団長、人間に擬態して暮らしている剣の魔物の姿があった。
無理やり店に引き摺り込まれ、あれこれ注文を任されている情けない姿を見られてしまい、ますます気分が急降下する。
「ふん。オフェトリウスか。目障りな奴め、さっさと帰るがいい」
「勿論帰るさ。休憩時間がもう終わるからね。君も程々にしてあげないと、彼が過労死してしまうよ?」
「知った事か。この男と契約をしておるのは、お前ではない」
「はは、それは違いない」
そんな魔物達の会話を聞きながら、ヴェルリアの海を一望出来る店のテラス席から、この地で暮らす限りは目にしない日はない祖国の海の青さと、眼下に広がるオリーブの木や春の花々を眺めた。
(……………今日は、確かにいい天気だな)
そう考えると、少しだけ想像せずにはいられない。
もしここにいるのが可愛い長男で、息子と二人でお忍びで食事をしに来たのなら、どれだけ幸せだっただろうと。
しかし現実では、目の前に座っているのは、なぜか最近人間の食事なども嗜み始めた白樺の魔物なのだ。
はぁぁと深い溜め息を吐くと、彼女は擬態で青くしている瞳を眇め、ふんと鼻を鳴らす。
「お主は、女を楽しませるような気の利いた会話の一つも出来ないのか」
「……………はは、凄く辛い……………」
「ほお?」
悲しくなって出された白葡萄酒を飲みながら、がみがみと文句を言ってくる白樺の魔物の言葉を聞き流し、頭の中でウィームに戻す書簡の草案を練った。
これはもう、狙いを定めていた隣国の事業の一つでも毟り取って来なければ、疲れが取れそうにない。




