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133. 美味しい薔薇をいただきます(本編)




「さて、そろそろ向かいましょうか」

「はい!…………じゅるり」

「まだ食べられそうかい?」

「はい!薔薇のアイスですので、つるんといただきますね」



スコーンの楽園が終わり、優雅な所作で椅子を引いてこちららに来てくれたのはヒルドだ。

今年の薔薇の祝祭では、ヒルドの薔薇はもう貰ってしまっている。


いつものようにリーエンベルクの部屋での薔薇の授与がない代わりに、ネア達はこれから特別な薔薇の祝祭のアイスクリームを食べに行くのだ。


椅子から立ち上がりぴょいと弾んだネアに、ヒルドはほわりと蕩けるような優しい微笑みを浮かべてくれる。



「ヒルドさんからの薔薇を持って行きたいのですが、その場所では普通の薔薇は枯れてしまうのですよね………」

「ええ。ですので本日は、薔薇とはまた別の機会とさせていただきました。私と一緒にいれば、手袋などは結構ですからね」

「はい!リーエンベルクの中にそんな素敵な雪薔薇の畑があるだなんて、わくわくが止まりません………」



二人が出かけるのは、リーエンベルクにある氷室の姉妹部屋で、森と湖に雪と氷の魔術を組み合わせた特別な畑なのだ。

雪苺などの他にも、美味しい蜜を蓄える様々な花々も育てられており、今年は蜜薔薇の出来がかなりいいらしい。



なので、収穫する際にだけ楽しめる特別なデザートとして、そんな蜜薔薇のアイスクリームがいただけるのだ。


たっぷりと蜜を蓄えた蜜薔薇の花を、指で優しくとんとんと叩けば、とろりと花蜜がこぼれ落ちる。

収穫の瞬間だけとろりとしている花蜜は、常温に持ち込むとかちりと凍ってしゃりしゃりになってしまう。

また、収穫してからの僅かな時間で、同じようにあっという間に凍ってしまうのだ。



(収穫から、数分くらいで凍ってしまうのだから、胃の中で凍らないのが不思議だけれど………)



ぱくりと食べてしまえば、もう凍らない優秀な花蜜を求め、これからいよいよの冬森の畑を訪問する。

期待のあまりに少しだけはぁはぁしてしまい、ネアは心不全などが起きないよう、胸を押さえて息を整えた。



「ネア、…………苦しいのかい?」

「蜜薔薇のアイスが楽しみなあまり、はぁはぁしてしまいました。この世界には、心が弾み過ぎてしまう美味しいものが多いのです………。美味し過ぎるという事も危険なのだと、初めて知りました」

「もし、………美味し過ぎて、胸が苦しくなり過ぎたら……、ヒルドに言うのだよ?」

「はい!儚くなってしまわないように、気を付けますね」



伴侶な魔物とそう約束をし、ネアは、ヒルドのエスコートで会食堂を出た。


エーダリア達が出かける迄はまだ少し時間があるので、ディノやノアは一緒に会食堂でお留守番だ。

また少し待ち時間なので、ネアは伴侶な魔物が心配だったが、貰った薔薇を嬉しそうに見ているので問題ないかもしれない。


念の為に、ディノが飲む紅茶をネアが注いでおいたので、魔物はまたしてもずるいと呟いている。

後はもう、暫くはもじもじしながらお待ち下さいとしておいた。




「昨晩の、ノアからの贈り物は届きました?」



リーエンベルクの廊下を歩きながらそう尋ねたのは、義兄な魔物が、エーダリアとヒルドに贈る薔薇を作るのに試行錯誤していたのを知っているからだ。


きりりとした涼やかな薔薇か、ころんとした可憐な薔薇かで散々迷い、結局は昨年とは印象の違う可憐なものの方にしたのだという。



実はその薔薇の置物は、昨年のものと合わせて枝にする事も出来るらしい。



なんと、二輪の薔薇の置物を重ねると一本の枝のようになるので、今後たくさんの薔薇の置物が集まった暁には、薔薇の木の置物のように変化してゆくのだそうだ。


何十年も先のリーエンベルクの領主執務室には、様々な形の薔薇の花をつけた塩結晶の木があるのかもしれない。

そう思うと何だかにっこりしてしまい、ネアはこの日が来るのを楽しみにしていた。



(その場合、ヒルドさんのお部屋にも同じものがあるのかな…………)



そう考えてむふんと微笑み、ネアはこちらを見たヒルドにもにんまり微笑みかけておいた。

邪悪な人間としては、仲良しぶりを想像してにやりとしただけなのだが、ヒルドはなぜか目元を僅かに染めている。


しかし、ネアがおやっと首を傾げると、苦笑して何でもないと言われてしまう。


「ネイが今年もあの薔薇を用意している事を、ネア様はご存知だったのですね」

「ふふ。ノアが、どんな薔薇がいいのかと悩んでいたんですよ。ヒルドさんやエーダリア様の事が大好きなのですね」

「私の部屋は、リーエンベルクとは言えさすがに無人の際には施錠しているのですが、自由に入れるようにいつの間にか侵食魔術を敷いてあったようです」

「なぬ。そこは、………魔物なノアの仕業でしょうか?」

「そこまでは、計画的だったのですがね。エーダリア様の執務室の事は失念していたようで、扉の前で暴れておりましたよ」



その時の銀狐が、お腹を出してのムギャムギャ大騒ぎだったと知り、ネアはくすりと笑った。

何だったら、その場にいて壁の影から見ていたかったくらいではないか。



やがて二人が辿り着いたのは、リーエンベルクの一部の区画にある地下の備蓄庫の隣の空間で、忌まわしく悲しい記憶のある氷室の隣にもあたる。

氷室は中庭から下に降りる階段で入る倉庫だが、こちらの畑の部屋は地下室として、リーエンベルク屋内からの入り口なのだそうだ。


畑の管理の為に氷室の魔術も引いてあるそうで、森と湖も移築してあると聞けば、ネアはこてんと首を傾げて瞬きをした。


どうやらその辺りから、説明の様子がおかしくなってくるようだ。



「古く清廉な土地を選び、畑作りに向いた場所にしたようですね。森は木の影と枝葉の彩りだけのようですが、湖では時折、氷鮎が釣れるそうですよ」

「…………屋内、なのですよね?」

「ええ。風景を移築した併設空間のようなものですね。勿論、自然なものでありませんので管理には手間がかかります。エーダリア様の調べでは、統一戦争後は敷かれた魔術が壊れていた事もあるようだとか」

「まぁ。となると、どなたかが修理して下さったのですか?」

「かもしれませんね。統一戦争後にその部屋に入った外部者は、仕入れの牛乳商人と、備品の交換で訪れたアクス商会の配達人、備蓄庫への搬入でジッタも来ております。先代の領主は、そのあたりは業者に任せきりだったようですから」

「…………既にもう、どなたが修理したとしても不思議はありません」

「ええ。それに統一戦争後ですと、ネア様もご存知の剣の魔物も訪れたかもしれませんからね」 



その中の誰が、一度は壊れた部屋を整えたのだろう。

エーダリアがリーエンベルクに戻ったときにはもう、その部屋はひんやりと雪を積もらせ、湖は清廉な水をひたひたと湛えていたそうだ。



そこに、ダリルや家事妖精達の意見を取り入れ、雪苺や花蜜が取れる薔薇を植えたのは、エーダリアなのだとか。


最初の蜜薔薇から蜜が取れた時に、エーダリアは、今回のネア達のようにアイスクリームを楽しんだらしい。



「その時は、ヒルドさんもご一緒だったのでしょう?」

「あの時は、二日間の休暇でウィームに来ておりましたから。あの方は、その成果を私に見せる為に収穫時期を合わせようと、密かに温度管理を徹底したそうですよ」

「ふふ、エーダリア様らしいです」



それは、エーダリアがリーエンベルクに来たばかりの頃の思い出の一つで、エーダリアがヒルドに花蜜を食べさせようと奮闘していたのを明かしたのはダリルだったそうだ。


仕事が終わると畑に走ってゆくので、やれやれと思っていたと話していたらしい。


とは言え、当時は今よりもずっとエーダリアに厳しかったというダリルが止めなかったのだから、ダリルダレンの書架妖精も、エーダリアがヒルドの為にその日に備えるのを許してくれたのだろう。



「いつか、ネア様にも召し上がっていただこうと思っていましたから、今回は良い時期に蜜が整いました」

「ふぁ。………いよいよです!そして、この扉がとても綺麗で、入り口でもう胸がいっぱいになってしまいますね」

「湖の祝福石と、夜明けの光の魔術の扉ですね。戦時中は略奪を防ぐ為に、茶色に塗られていたそうですよ」

「そのお陰で、ここに残っていてくれた素敵な扉なのですね。こうして見る事が出来て、良かったです」



ネアがそう言った途端、その扉はしゃりんと綺麗な音を立てた。



「まぁ!お返事してくれたのです?」

「おや、ネア様を気に入られたようですね」

「そんな素敵な扉さんを抜けて、美味しい蜜薔薇のアイスクリームを食べるだなんて、ますます贅沢な時間になりそうです。…………じゅるり」



後はもう扉一枚となると、ネアはすっかりお口の中が薔薇の蜜をたっぷりかけたアイスクリームになってしまい、その尊さに小さく足踏みした。


優しく微笑んだヒルドが差し出してくれた手を取り、この特別な畑の中では離れないようにする。

畑に敷かれた魔術の最上位に近しいヒルドの隣にいれば、冷気などの影響を受けないのだ。



美しい扉の鍵穴に差し込まれた鍵を見たネアは、小さく息を飲む。

それはどこか、ウィームやリーエンベルクに相応しくない、もっと南方の森林の中の神殿にでもありそうな意匠のものであった。



(……………この畑の部屋を修復したのは、誰なのだろう)



或いは、この部屋を最初に作ったのは誰なのだろう。



そんな小さな謎に想いを馳せてしまうのだが、よく考えれば、エーダリアやヒルドがそもそも管理しているものだ。

違和感を覚えたり謎があれば、もう少し前に話題に上っていてもおかしくはない。



(となると、この鍵をあるがままに受け止めているのか、最初からどのようなものなのかを知っているか、なのだと思うけれど…………)



「おや、どうされましたか?」



かちゃりと鍵が開き、ヒルドがこちらを振り向く。

開いた湖水結晶の扉から差し込む冷気が霧のようにたなびき、ネアは初めて理解した。



(この扉……………)



淡く透けるような水色だと思っていた扉は、内側の冷気を蓄え、白くけぶって見えていただけだったのだ。

実際には、ヒルドの瞳のような深く艶やかな瑠璃色なのだ。


ただし、透明度が高いその扉の内側を氷が覆っているので、水色に見えるらしい。




「ほわ…………」



そして、ネアが、ヒルドの質問に答える余裕もなくなってしまうくらい、扉の向こうは不可思議な場所であった。



(……………森が、)




雪の大地の向こうに広がるのは、樹氷の森だ。

左奥にははっとする程に鮮やかなエメラルドグリーン混じりな水色の湖があり、湖畔には淡い黄色の花が咲き乱れている。


その花が途切れたところで、畝をつけて整えられた畑があり、瑞々しい青緑色の葉を広げた茂みには真っ赤な苺が実っていた。


そして、右手に広がるのは、白瑪瑙にも似た石製の装飾柵のようなものを支柱として整然と整えられた、見事な薔薇の畑である。



「……………ふにゅ。畑ではありません。もっと、壮大で明らかにお外です」

「景色そのものを移築しておりますからね。一説には、白夜の精霊の領域から盗んできたものだとも言われております」

「白夜さんは、精霊さんもいるのですか?」

「現在も存命なのかは存じ上げませんが、その時代にはいたようですね。足元までの白斑に真紅の髪の乙女で、その鳴き声は大地を汚泥に変えたそうです」

「…………もうお亡くなりになっている事を祈るばかりです」



ネアはふるふると首を横に振り、この部屋を作った人は一体何者なのだと遠い目をした。

明らかに災厄の呼び手に相応しいその精霊から盗んできたのかもしれない壮大な景色は、絶賛、苺の育成に貢献中なのだ。



以前は、冬芋というジャガイモの一種もここで育てられていたらしい。

それを聞いたら、白夜の精霊も同じ表情になるだろう。



「この鍵を見ておられたようですが、気になりましたか?」

「は!そ、そうでした。お部屋の中の光景に圧倒されて失念していましたが、その鍵の意匠が、少しウィームとは異なる文化圏のもののような気がしたのです」 

「ああ、この鍵と扉はゴーモントの意匠なのだそうです。材を蓄える宝物庫の魔術は、その辺りの土地が起源だからという事らしいですね」

「まぁ、違う文化圏の魔術を使ったものだからこそ、見慣れない形をしていたのですね………」

「ネイも驚いていましたが、その時代の魔術を知る者が、ウィームで再現したものである事は間違いないそうです。白夜の精霊から奪った土地を隠す為に、ここまで頑強な扉としたのかもしれません」

「むむむ、畑を守る為にはあまりにも凄い技術ですが、美味しい苺とこれからいただく花蜜の為には、きっと必要な措置だったのでしょう」



この世界に於いても代え難い、食というものの尊さを守る為に必要な保管庫のようなものだとしたら。

そう考えると、過分など一つもないなと結論が出てしまい、ネアは厳かに頷いた。

美味しい冬の味覚を守る為に、時として世界の秘宝のようなものも必要なのだろう。



ヒルドの腕に手をかけると、舞踏会のパートナーのようにエスコートされ、収穫の為に整えられた薔薇園に足を踏み入れる。



さっそく見えてきた薔薇園では、淡い水色の薔薇が満開になっていた。

こちらも実際にはくすんだ青色の薔薇で、氷雪の魔術を纏って白がかった水色に見えているらしい。



「…………とても綺麗なのですが、リーエンベルクの庭園の薔薇や、ローゼンガルテンのものとは少し違うような気がします」

「こちらの薔薇は、系譜の領域としては作物に近いものですからね。薔薇の系譜には階位の高い者が宿りやすいので、こうして敢えて階位を落とした薔薇も作られているようです」



そう教えてくれたヒルドが、ひょいとネアを持ち上げて、薔薇の茂みの足元を流れている小川のようなものを渡してくれた。


さくりと雪を踏んで薔薇畑の中に下ろして貰えば、森と湖の最後の妖精王の手に現れたのは、華奢な水晶のデザート皿だ。


お皿には丸く盛り付けられたバニラアイスが鎮座しており、器が冷たくなるので、四つ折りにした布ナプキンの上に載せて手に持つといいらしい。

また、指先が凍えてしまわないよう、木のスプーンが用意されている。




「では、私が失礼しても?」

「は、はい!蜜薔薇さんをお願いします!」


待ち焦がれた瞬間に、ネアが興奮のあまりぜいぜいしながら頼めば、ヒルドは艶やかに微笑んだ。


離れないようにと、ネアには自分の腕に掴まらせておき、片手の指の背で、近くにあった大輪の薔薇の花をこつりとノックする。



(あ、……………!)



そうすると、しゅんと項垂れた大輪の薔薇から、とろりと琥珀色の花蜜が流れ落ちた。

美味しそうなバニラアイスにとろとろとぷんとかかる様子は、ネアが待ちきれずに口をもぐもぐさせてしまうくらい、至高の光景とも言えよう。


メープルシロップであれば少し甘いかなというくらいにたっぷりとかかっているが、この薔薇蜜は、酸味があってさっぱりしているらしい。

ちょうどいい量のアイスを用意して貰っているので、これでいいのだった。



どきどきしながら、ネアが手を伸ばそうとしたところで、ヒルドがふっと微笑みを深めた。



スプーンを持ち替え、薔薇蜜のかかったアイスをすくうと、どきりとするような甘やかな仕草で、こちらに差し出してくれる。



「…………むぐ」

「如何ですか?」



樹氷の森と湖に囲まれた畑の中で、いつの間にか宝石を削いだような青緑色の羽を広げた妖精に、美味しい美味しいアイスを食べさせて貰う。


ネアは、これが物語だとしても少々贅沢過ぎるのではと思うお世話を受けつつ、ぱくりと食べたアイスの美味しさに目を丸くした。


そんなネアの最初の一口を食べさせてくれたヒルドは、どこか満足げな微笑みが冴え冴えと美しい。



「……………こんなに美味しい花蜜アイスがあるだなんて」

「今年の薔薇の祝祭の、良い思い出になると良いのですが」

「ふぁぐ!こ、これはもう、本日のご機嫌で幸せな思い出の上位に躍り出るしかない、初めての美味しさです!………薔薇の香りが微かにするのに、なんて爽やかで美味しい花蜜なのでしょう。果物のような酸味と優しい甘さで、アイスクリームにぴったりです!」

「そのように喜んでいただけると、お連れした甲斐がありました。…………こうして、ネア様に特別なデザートをお渡しするのは、私の得意とする分野ですしね」

「……………む。こなこな………」



ネアはここで、うっかり大事な家族の一人を美味しい妖精の粉として見つめてしまい、慌てて首を振った。

淡い微笑みを深めたヒルドは、もしかしたらネアのそんな邪な眼差しにも気付いていたのかもしれない。


羽を襲われないように、危険な人間はアイスクリームに釘付けにしておこうと思ったものか、その後もヒルドは手ずからアイスを食べさせてくれた。


身勝手な人間は自分の手で好きなように食べたいかなとも思ったのだが、ヒルドの手つきはたいへん巧みであり、スプーンを取り返す程ではなかった。




「……………む。いつの間にかお皿が空っぽに……………」

「祝福が多く含まれているものですので、本日はここ迄としておきましょう。ですが、またいつでもお連れしますよ」

「ふぁい。…………またすぐに、いただきに来たいです」

「この並びの薔薇も明後日くらいまでは、薔薇蜜が収穫出来そうですね。あちら側の蜜薔薇は、来週くらいが収穫時期でしょうから、その頃でもいいかもしれませんね」 



アイスクリームが入っていたお皿は、現れた時と同じようにふわりと消えてしまい、すいっと伸びてきた手が、その人差し指でネアの唇の端を拭う。

蜜がついていたかなと慌ててむぐむぐしたが、幸いにも口元を汚してはいなかったようだ。



ただ、その指先を唇に押し当てたヒルドの様子からすると、そちらにすっかり貰われていったのかもしれない。



「甘い、………ですね」

「………むぐ、綺麗にして貰いました」

「構いませんよ。あなたのお世話をするのは、私の喜びでもありますから」

「エーダリア様にも…」

「おや、あの方は男児ですから、自分の身の回りの事は自分でしていただくべきでしょう」



そう笑い、白夜の精霊の領域から切り出したかもしれないこの場所でも、容易くその魔術を従えさせた森と湖のシーは、優雅に身を屈めてネアの頬に柔らかな口づけを落とした。



その羽の中に閉じ込められ、どこか密やかな祝福を授けられたネアは、耐え難い欲望と闘っていた。


さすがにここで、どれだけヒルドの羽がきらきらしていても、その妖精の粉を盗むような事はするまい。

本日の美味しいデザートはもう、このアイスで打ち止めとしよう。




周囲を取り囲んだ美しい雪薔薇が、ほろりと花びらを広げる。




美しく艶やかな薔薇の祝祭のその日に、これだけ美しい妖精と特別な薔薇に囲まれていても素晴らしいデザートの事しか考えられない強欲さに、ネアは、己の罪深さを見たのだった。











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