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魔物資源活用機構  作者: Ichen
騎士修道会の工房ディアンタ・ドーマン
91/2987

90. セダンカ・ホーズの胸中

 

 会議室での問答が終わった後、イーアンを作業部屋に先に戻したドルドレンは、セダンカとしばらくの間、何やら話をしていた。


 本部の2人は、応接室(執務室とも言う)で待機させられていた。始めの勢いは消え、疲労が彼らを包んでいた。

 結果から言えば、彼らは問答の途中でドルドレンを怒らせ、会議室の外に追い出された。それを見ていた騎士の数名に八つ当たりしたところ、『風紀を乱すイーアンの排除』の言葉に騎士たちをも怒らせた。


 イオライの負傷者だった騎士もいれば、ドルドレンの部隊の者もいた。彼らは『お前たちが俺たちを、命懸けで救ったことが一度でもあったか』と法務部で危険と関係なく暮らす老人を責めた。


『死ぬ気で戦ったことのない人間が、騎士修道会にいるとは』そう吐き捨てて、『馬鹿な想像している暇があるなら、下らない規則を変えるくらいの仕事をしてみろ』と怒鳴りつけた。


 法務部の二人は、想像以上にイーアンが騎士の士気に浸透していることを知って、排除理由 ――女性がいると風紀が乱れて、騎士に悪影響―― が曖昧になってしまい、返す言葉がなくなった。



 間もなく、ドルドレンが執務室に戻ってきて、セダンカとの話が終わったことを告げた。セダンカは『近い内に』とドルドレンに声をかけ、本部の年配者2人を連れて帰っていった。




 作業部屋の窓を閉めたイーアンは、作業机に寄りかかって外を見ていた。お昼を食べそこなったが、それは気にならなかった。考えていることは、自分が何をするべきか、ということだった。


 ――本部の人たちは私を追い出したかった。それは規則上、女性がいる例外を作りたくないから。そして、性的な役目以外は役に立たないと酷い言い方で、私がここにいるのも遠征に加わったのも、それが理由かと言っていた。


 ドルドレンが本気で怒ったけれど、傍から見ればそう思うのだろうと感じた(実際ドルドレンとは発展したが)。



 この世界へ来てから半月くらいで、遠征に2回出ている。ついこの前、倒した魔物を使えないか・・・と考えたばかり。作業部屋を借りたのも最近。すぐに役に立つ、少しでも戦闘が楽になるような、騎士の人たちが使える武器や防具や道具を作りたいけれど、考案も試作も時間が少なくて出来ていない。


 ヨライデへ旅立つ日も――いつかは分からないけれど――必ず訪れる。


 それまでに、この国の人たちが、魔物を相手にしても大丈夫な状態を作れたら。剣と弓で戦う以外の方法を見つけて、誰もがそれを使うことで身を守れたら。人口が減っているから、何かの形で利益も出せたら。


 騎士修道会に女がいる・・・・・ そのことで、必死に命懸けで戦う、彼らの評判を落とすことがないように。


 この全部のことを繋げて、今、自分に何が出来るのか。何をすべきなのか。イーアンはそれを考えた。




 ドルドレンは訪問者が帰ってから、セダンカとの会話を思い出していた。


 あの日。セダンカは王都会議の後に、『自分の合図が出たら、騎士修道会全体と地方の国民を連れてテイワグナ共和国へ向かい、テイワグナの国民として生き延びるように』――そうした案を話していた。


 なぜなのか、ハイザンジェルが魔物だらけになっても、王都だけは魔物が未だに出ていない。壁の外には出ているらしいが。国民の間で、王都に引っ越す者もいるにはいたが、居住人数も仕事の制限もある限られた空間の中には、入れる者と入れない者が出てきた。入れない場合は、安全を選ぶなら他国へ移るより他ない。

 本当は王都で抱えられれば良いだけの話が、それは出来ない。そうすると他国へも行けない国民は、魔物に怯えながら、いつ死ぬのかと日々暮らすことになる。王都の周辺まで魔物の勢いが増してきた時、王都内に移り住める者の条件が一気に増えた。あぶれた者は死んでくれ、という所だ。


 それならば、と意を決したセダンカは、自分が提案した緊急案を、秘かにテイワグナに託して進めていた。



「その話で、本部の者に付いてきたのかと思えば」



 ドルドレンは溜息をついた。

 セダンカがいるのを見て、とうとうその合図が来たのか、と思った。ドルドレンはイーアンと出会ってから、自分たちと魔物の状態が逆転する可能性を感じて、もう少しイーアンを含む戦歴をつけたら、セダンカに話しに行こうと思っていた。


 それがたった2度の遠征で、まさかセダンカが目を付けるとは思わなかった。


 イーアンを見てもいない男が。イーアンの存在を、紙の上でしか分からないはずの男が。セダンカは、イーアンを見定めに来たのだった。自分の目的に適う人物かどうか。



『どんな人物か、彼女は何をしようとしているのか』


 セダンカは、ドルドレンと2人になった時にそれを訊いた。


 ドルドレンは、イーアンが記憶もなく、一人で森を彷徨っていたから保護したこと、彼女が恩に感じて役に立とうと知恵を絞ること、彼女の知恵は独創的で戦闘を有利に運ぶこと、また、非常に頭の回転が速く、魔物の質と戦場の条件を組み合わせて、勝利に導く指示が出せること・・・・・ を話した。


 そして、遠征に連れて行った理由は、イーアンが保護初日に、支部で不憫な目に遭いかけたことが理由であり、過酷と知っていても遠征へ同行させると、倒した魔物を目の当たりにして、その特性を利用して、それを騎士のために使う方法を考え始めた、と伝えた。



『魔法使いではなく?』


 セダンカの疑問は分かる。ドルドレンも最初は魔法かと思うくらいだった。だが違った。彼女が言うには、彼女の以前の世界の開示された知恵を知った上でのこと、という話だった。これはセダンカには言わなかったが、イーアンがディアンタの僧院にある知恵と同じレベルの知恵を知っていることは伝えた。


『それで彼女の作業部屋に、古代の物と書物があったのか』


 ほんの少しの間しか、イーアンの作業部屋にいなかったセダンカがそう呟いたことに少し驚いた。若くしてその地位に居るだけのことはあるのだろう、と思った。



 セダンカは、これ以上、見込みがなく被害速度が増すようであれば、もう合図を出そうか、と考えていたらしい。


 王都会議後日。各地の魔物被害の報告書に目を通していた所、北西の支部の遠征報告イオライを見つけ、そこに何故か『被保護者イーアン』の名前が載っていた。その年齢も性別も分からないが、戦闘方法が印象的で、話を聞いてみようと思ったという。


 被保護者だから、いつまでも居るとは思っていなかったため、都合の良い日程で早めに訪問を計画したらしい。


 しかし、次の週の遠征報告に、即、訪問することを決めた。

 北の支部がてこずり、死者2名を出してようやく戻った遠征報告書は、王都に至急で届けられた。そこにもイーアンの名前が載っていて、翌朝届けられた北西の援護部隊の報告書にもイーアンの名前があった。


 戦闘方法は前回同様、これまでにない戦い方。また一番重要視したのは、負傷者が減り、死者が出ていないことだった。


『この人物が、どのような目的で動いているのか。内容によっては、力にも破滅にも繋がると思った』


 セダンカの言葉は、ドルドレンに響いた。確かにそうだ、と思った。

 もし本当に善人なら、ハイザンジェルを救う協力者として扱い、悪人ならどこかで留めなければと。



『しかし、彼女と話すには、実に酷い初対面の状況を選んでしまった』


 そう笑っていた。もう自分の話に聞く耳など持たないかもしれない、と若干の後悔を混ぜて。


 騎士修道会の法務部で、戦闘に貢献した人物が女性であることに討論が起こり(北の支部の報告書に記入)、それで『怪しからん』だか、何だかで・・・『即、追い出しに行く』と聞いたセダンカは、これを機会とばかりに同行したらしかった。



 ドルドレンは、セダンカがイーアンに何をさせようとしているのか、それを尋ねてみた。


 しかしセダンカ自身も『今回は、善人か悪人かの判断を求めて来た』と前置きし『実際に協力者として認めてから話し合わないと、こちらの要求を一方的に伝えたところで、それが可も不可も分からないだろう』と心の内を吐露した。



 こうした内容で、セダンカは『近い内に』と言い残したのだ。


 次は一人で来る。もしくは王都へ来る際に同行させてほしい、と希望していた。この話をドルドレンから伝えてくれ、とセダンカは頼んだ。『私も国民を救いたいのは同じだ』と目を伏せ、小さな声が落ちた。



 ――今夜にでも彼女に伝えよう、とドルドレンは思った。


 嫌な思いをさせたから、無理は言えなくても。セダンカがどう動くつもりか分からなくても。イーアンは理解してくれる気がした。





 馬車で街道を走る、王都までの帰り道。


 馬車の中では、疲れたのか、老人2人が(いびき)をかいて寝ていた。


「うるさいったら、ないな・・・・・ 」


 セダンカは山間に落ちていく夕陽を見つめて、止まない騒音に溜息をつく。

 このまま走れば夜中には王都に入るだろうが。護衛を2人付けてはいても、出来れば夜が深まる前に辿り着きたい、と願った。魔物の報告書を読んでいるので、どれほど恐ろしいかを書面から感じていた。



「イーアン、ね」



 その名をボソッと呟いてから、嫌われたな、とセダンカは鼻で笑う。


 変わった雰囲気の女性だった。この世界にああした人種がいたのか、と思い出しても珍しく感じる。

 一瞬、男か女か分からない風貌だったが、中性的というか、どちらも兼ねていると分かった。


 話してみれば、なるほど、と思う。


 こいつら(老人)の言い方に丁寧に答えてはいたが、決して自分から情報を与えなかった。彼女は彼らに『会話の順序』を促がしたが、こいつらの凝り固まった頭には、それは難し過ぎた。


 これでは同類と見做(みな)されかねない・・・と思って、とりあえず、礼儀を持って挨拶したつもりだったが。こいつらの後では、私の聞きたかったことも似たような言い回しで、さぞ高圧的に映っただろう。

 彼女は答えようと考えていたらしいが、こいつらのせいで叶わなかった。


 クローハル隊長や騎士が、彼女に対して親密に見えたのは、彼らが無意識にでも、彼女を守ろうとしたからか。私たちがいても、彼らは全く臆することがないどころか、私たちを『場違い』といった具合にあしらっていた気がする。



 ドルドレンも。イーアンのことになると恐ろしく殺気立った。

 どう見ても、イーアンを被保護者以上に捉えているが、そのことについては別にどうであっても、私に関係ないから聞かなかった。

 とは言え、ドルドレンの怒り方は本当に恐ろしかった。こいつらの無遠慮で無礼な物言いに(誰もが閉口するとは思うが)、あっという間にこいつらの胸倉を掴んで、扉の外へ投げつけた。あの力で魔物を倒すのか、と内心震えた。


『二度と俺とイーアンの前に現れるな。次は殺す』



 彼女は黙っていたな。酷い言い方をされたと言うのに、他人事のように頬杖を付いて。

 傍観しているような目つきで、怒りもせず泣きもせず。侮辱された、と蒼白になる事もせず。受け入れるわけでもなく。

 まるで。 ――まるで、知恵の遅れた世界を、こいつらを通して観察しているような目で見ていた。


「あんな目で見られたくないな」


 思い出して、首を振る。ドルドレンを見上げる目は、全く違う優しい目だった。


 そういえば、ドルドレンが何かを話すと、彼女はいつも微笑んでいた。彼女もドルドレンが好きなんだろう。雲泥の差が目つきに表れる人だ。ああ、騎士たちと話している時も微笑んだり笑ったりしていた。


 笑うと、ますます年齢や性別が分からなくなる。

 うちの奥さんと同じくらいの年ではないかと思ったが、笑うと子供のようだし、少年のようでもある。

 美しい服に身を包まれ、知恵を包んだ眼差しを持ち、性別も年齢も越えている不思議な印象だった。




 次に会う時に、どちらの反応があるだろう。


 うるさい鼾をかいて眠る、この荷物は今回で懲りた。こいつらは能無しだ。

 次に会う時は、味方になってもらえるように動かないと。




 窓の外の夕陽はとうに沈み、山並みの上にぼんやり光を放つ星が見え始める。


 無事に王都へ着くのを祈りながら、セダンカは今後のことを考えていた。


お読み頂き有難うございます。

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