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魔物資源活用機構  作者: Ichen
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2985/2988

2985. タンクラッドの『歌の波』探し、始まり・ビルガメスの詮索・イデュと尾根の神殿

 

 歌の波とは何だ。


 そもそも石なのであれば、鉱物がどこかにある。


 タンクラッドは、二つめのオルゴール馬車歌は示唆を与えてくれた気がした。

 だが、これだけの情報では、さすがに思い込みだと言われかねない。探すには、もう少し要素が要る・・・・・



 奏でたオルゴールの終了と共に、『歌詞は、歌の波についてでは?』と喉元まで出かかったが、黙る。

 イーアンは全体の印象を捉え、すぐドルドレンに尋ね始めた。タンクラッドの意識は、歌の波たる鉱物の在り処に向きながら、二人の会話を聞く。



「ドルドレンに託された歌が、全体で見るヨライデ馬車歌の()()()()としたら。このオルゴールは『馬車歌1』から、『馬車歌真ん中ら辺』、にある気がします」


「ヨライデ馬車歌前半、と」


 託されたオルゴールは確かに焦点が『馬車の民の未来』しか当たっていなかった。全人類、無視。となると、他の人々が歌に出てくる時点で、ヨライデ馬車歌の前半部と解釈しても変ではない。


「ええ。今の歌では、馬車の民に限らず、存在する人間全員を対象にしているようでしょう?『地に人は立ち』の箇所が、この世界に残ると言っているみたい。立ち去るのは『乱れを撒いた者』で」


「『念』憑きだろうか。現状で当て嵌めるならそうだ」


「そうかもしれません。でも・・・引っ掛かりますよね。『人』と『撒いた者』に、別がある雰囲気です。後者は『人』ではない可能性もあります」



 ドルドレンと話しながら、イーアンはふと左下に視線を向け、思い出したかのように黙る。でも違うことは口にせず、次に気になった『龍』が登場する箇所を挙げた。


「龍が『岩に焼き付く影』ですが、いろいろ解釈できますね」


「アイエラダハッド同様、ダルナの絵があるのかと思った」


「・・・絵」


「最初の馬車歌は、魔物も勇者も無視、龍も出てこなかったのだ。イーアンが言う通りで、最終章の見方もある。昨日見つけた馬車歌は、『人』がどうするべきかの段階で、『龍』が登場した。影だけだとしても、やはりダルナのような存在を示す場所とも」


 ダルナですか、彼らの解放は今でこそまさに希望と思う、もしそうならもう少し歌詞にあるのでは、続きの歌がそうかもしれない・・・・・

 ドルドレンとイーアンが進める内容に、タンクラッドも勘が働く。


 場所―― 龍の影が焼き付く、それが比喩ではなく現実にあるとしたら目印、と考えた時、イーアンが『思い当たる』と呟いた。



「影ではなく、絵ですね。山の中に旧教の神殿で」


「山?雪があるか?」


 割り込んだタンクラッドに、イーアンは彼の反応にピンとくる。


「はい、山脈の走りですから、先に雪もあります」


「いくつも?龍の絵は、雪山にある神殿に、いくつか」


「いいえ。私が見たのは一つだけです。でも、タンクラッド。()()とは限りませんでしょう」


 知っているのは一つだけ。決めつけるには早いので、イーアンが止めると、タンクラッドは何か言おうと口を開けかけて、閉じた。『調べたい』の一言を飲み込む剣職人は、『どの辺りで、どんな絵か』の質問を続ける。


「北ですよ。でも人が歩いて行けるような場所ではないので、なぜこんなところに神殿?と不思議でした。それもかなりの高さ、山肌を削り出して造られています。

 壁には実に簡素な龍の絵があり、それのみ。絵と呼ぶよりも、象形文字の方が近い印象でした。余計を省いた影の印象なので」


「なるほど、()と例えるのがしっくりくる絵」


 興味深そうにつぶやいたドルドレンに、『言われてみてそう思った』とイーアンも頷く。


「『虹の下に』あるかどうかは別です。光が当たる時間も短そうなところで、全然関係ない気もしますし・・・ 」


「そうか。でもそこも、最初の候補であるのは大事だ」


 答えたのはドルドレンではなく、タンクラッド。イーアンはこの時点で、親方が行きたがっているのを感じるが、彼が留守にするのはあまり乗り気ではない。ちらっと見ると目が合って、目つきで確信。


「行きたいんですか」


「何も言っていない」


「・・・私が見てきましょうか」


「頼めるなら」


 ドルドレンは親方の表情が変わらないので、さほど行きたそうには思えなかったが、イーアンは見抜いており、タンクラッドを連れていくと二人分の抜けが出る=私が一人で行こうと、先回りした次第。

 それでもいいと頷いたので、やっぱり調べたいんだと思い、調べてくるならご希望をどうぞと促した。


「そうだな。俺が現地に行って調べるのが一番早いが」


「ちなみに神殿は、絵しかない雰囲気でした。龍の絵が奥の壁に描かれているだけで、なーんにもありません」


 降りて隈なく見たわけではないが、ぱっと見はそうだったのを伝えるイーアン。だが、親方は首を横に一振り、咳払いで話し始める。



()()()()()ように聞こえるな。だが、上下も調べたか?高所に造られたからには、人力なら何かしらの痕跡があるだろう。崖の下に落とした岩があるとか、作業に使った楔跡とか、摩耗・崩壊しているにせよ、天然の状態じゃないはずだ。もし痕跡を見つけたら、その線でさらに調べるんだ。

 これが人力ではないとなると、精霊が関わるはずだ。旧教の神殿であれば、それこそレムネアクの教えてくれた『ガイダナの樹脂』やら、祈祷に使う部屋、他何かしらが近くにあると思って探す・・・ 」


 タンクラッドは息つく間もなく『俺ならこうする』案を喋り続け、イーアンは途中から面倒でうんうん頷きながら往なした。ドルドレンも奥さんが面倒臭そうなのを見て、タンクラッドを連れて行った方が楽ではないかとすら思ったが、それで現地調査が長引く可能性もあり、口を出さず。


 一通り、希望を伝えた後、タンクラッドは聞いていたドルドレンに『お前の剣も近いうちに作るつもり』と、忘れていない旨を伝え、ドルドレンは『()()()は数日留守でも待つ』と、制作に使う日数への理解で答えた。



 *****



 そして、イーアンは早速出発―― 


「夜。戻れよ」


「はい」


 仔牛の命令で送り出され、女龍は逃げるように飛んだ。


 タンクラッドの調査委託(?)は、本日の予定の追加。まずはイヌァエル・テレンで龍気を回復して、それからダルナ二頭を外へ連れて、彼らを戻してから、タンクラッドの用事。


 遅くなる前に戻れると考えていたら、どこで聞き耳を立てていたのか、トコトコ仔牛が後ろから来て『いつまで引っ張る気だ』といきなり文句を言われ、何のことかと思ったら勉強だった。


『文字の勉強』と皆には言ってあるが、記号を介して文字を覚える勉強で、シャンがマックとホーミットからでなければ学べない。

 イーアンもその後の展開で、学びの重要さはよく理解したので(※2952話参照)了解した。が、夜も縛りがあるのは気持ち的に沈む。



「シャンガマックだけなら良いけれど、お父さん付きだと神経が削られる。お父さんの皮肉と嫌味は、永遠に慣れない気がします」


 お空に飛んだイーアンは、夕食後の勉強がどれくらい長引くのか、他の用事さておき、そちらの方が気になりながら、まずは空入り。


 イヌァエル・テレンで龍の島へ行き、少ししてビルガメスが来て、久しぶりだと何か言われると思いきや、案の定言われて、休んだ気がしないと思いつつ、早めに切り上げて逃げた。


「何時間?せいぜい2時間かしら。小石も返してしまったし(※2817話参照)もうちょっと休みたかった。でも、ビルガメスの質問は食い込んでくるから、ふとするとバレる。隠しにくい」


 どういうわけか。

 ビルガメスは最初だけ『またお前は来なくなって』と愚痴だったのが、すぐさま『母の記録が中間の地にあると思うが』と雲行き怪しい方向になり、聞いていたら『どうも母が顛末まで関わっているようでな』ときた。


 始祖の龍の遺跡で、ビルガメスは何度か気になる歴史を探っていた。


 中間の地に関わることを調べたのは、イーアンへの親切心らしいが、流れで始祖の龍が統一の日手前まで、()()()()()()()()()と感じ、今日イーアンに話を振った次第。


 そんなことイーアンが分かるはずないのだけれど、聞かれるままに答えてしまうと、精霊サミヘニの話や、ロデュフォルデンにも触れかねない。

 核心迫るビルガメスを相手に、まだ話せないことを隠し通すのは難しかった。


 粘るくらいなら、切り上げた方が英断~ でも龍気がまだ半端、とぶつくさ言うイーアンは、地上の空に入った次に、アイエラダハッドの森へ向かう。



 イーアンの書庫は安全。二頭を迎えに行き、彼らを連れて表へ出る。レイカルシもイデュも、もう『他の仲間を探す』と言わなかった。気配が感じ取れない・・・のかなと思うと、すまない気持ちになった。


 レイカルシは白い花畑を出して、生存者情報と死者の情報を集め、イデュは感知する音に『歌』がないかを気にしてくれた。


 レイカルシの情報により、旅の馬車が進む先の海付近は、ちょっと怪しいところに差し掛かると知る。


「別時空?」


「じゃないけど。それほどでもない。まやかしなのか、魔法がかっているらしいね」


「魔法と言いますと、精霊とか、妖精とか」


「いや。()()()()()だと思うよ」


 ずいぶん前からあるみたいだけどねと、鉤爪でこめかみを掻く赤いダルナに、イーアンは詳細がまだないか尋ねたが、『呪い的なものと思っておけば』と軽く言われて終わる。どちらにせよ、龍に通じないんだから、と結ばれて頷いた。


 それからイデュに、サブパメントゥの歌は?と訊くと、何もない様子。イーアンは、ホッとする。ここで、ちょっと過った()()こと・・・



「関係ない話だけど、『歌の用事』で、これからですね」


 違う歌か、と聞き返した茶色いダルナに、昨日見つけたオルゴールの話をする。

 歌を入れる石なるものが、この世界にあるようで、今から探しに行くこと。歌が入っているか、空っぽか分からないし、探す目安も想像であること。


 話すだけ話して、じっと見ているダルナに、『あなたにどうしてほしいとか、そういうのではなく、歌繋がりで話したこと』とイーアンは微笑んだ。


「ちょっとした、雑談でした」


「これから行くのか」


「はい。あなた方を送ったら、歌詞に出てきた場所と似ている風景をまず探します」


「一緒に行こう」


 イデュはちらっと赤いダルナを見て、彼が頷いたので、イーアンは特に断らず、ダルナの同伴を了承した。


「全く当て外れかもしれないのです。それでも良いですか?」


「関係ない。探すなら、()()()()()()()()]


 すんなり信じてくれた上に、手伝ってくれる気前良いダルナに感謝し、イデュたちとヨライデ北へ移動する。人間の影がないか、それも気にしながらだったが、ダルナ二頭と動くと会話がちらほらあるため気が逸れる。


 なんだかんだと話していたら、ミンティンが連れてきてくれた山脈前まで来た(※2922話参照)。

 あの場所は、奥へ続く山脈の端っこ。だが標高が高いため、雪はうっすらと残り、風も冷たい。改めて訪れたが、人が足を踏み入れるような場所にやはり思えなかった。


「あれか」


「ええ。あの神殿の絵」


「じゃ、ここからイデュだ」


 ん・・・? 尾根がくり貫かれ、柱で支えられたように見える埋め込み神殿前、レイカルシが彼に前を譲る。イデュは神殿に入るのかと思いきや、周囲の風に顔を向けた。


 すぐ、風から音が消え、音は半透明の固形に変わって落ち始める。


 目を丸くするイーアンは、彼が何をしているのか理解が追い付かなかったが、少ししてイデュが振り返り、左へ首を傾けた。示された後についていき、神殿前から左に移って、雪ばかり残る山影で彼は止まる。そしてまた、風の音が固形に変わって落ちる。


 イデュはこれをこの後、二度ほど繰り返した。真っ逆さまに落ちてゆく『無数の音』を黙って見送った後、他に神殿はないのかとイーアンに聞いた。


「私はここしか知らないのです。でも、あると思うのだけど」


「音が吸い込まれたら、そこに歌の石があるかもしれない」


 はた、と止まる女龍に頷いたダルナは、一周した山の神殿に『音を拾っている』と言った。


「拾う?神殿が」


「いくつかの音が、神殿のある方へ傾いていた。『歌の石』とやら、そのものではなくても神殿に音を拾う何かある気がする」


「神殿に。音を拾う何か」


オウム返しのイーアンに、レイカルシが『あの龍の絵がそうかもよ』と囁いた。



 *****



 イデュがいて良かった調査。だが、今回はこれといった収穫なし。

 とりあえず、龍の絵の神殿は可能性あり、とする。


 死者の声があるなら聞こえるかも、とレイカルシが能力で探ってくれたが、神殿に名残はなかった。恨みつらみ未練その他はない場所、と彼は言い、清らかな空気が印象的なこの場所だけにイーアンもそう思った。


 ということで、イーアンの『歌の石』もとい『歌の波』探しは本日終了。

 イデュが手伝ってくれたことは、タンクラッドに伏せるが、言い訳くらいどうってことはない。信頼できるお友達(※精霊関係)と言えばいいのだ。


 頼もしいダルナに感謝して、イーアンは二頭を書庫の世界へ送り、ヨライデへ戻る。


「思っていたより、がっちり調べられそう。イデュ、レイカルシ、ありがとう~ それに時間の無駄もなかった。まだ夕方だし、少し休んで勉強なら頑張れる」


 イーアンはダルナの存在に感謝し、旅の馬車へ到着。夕方になる頃で、馬車はまだ移動しており・・・ 迎えてもらってすぐ、イーアンはレイカルシ情報『この先の()()()()()』を話した。レイカルシ経由、は伏せておく。



 人間の魔法使いがかけた、まやかし。


 女龍の情報に、ドルドレンは前方を見つめる。イーアンが戻ったと分かって荷馬車横に来た仔牛も、耳に入った『魔法使い・まやかし』にぴくっとした。そして女龍に話しかけることなく、一度下がる。


 シャンガマックが御者をする食料馬車に並び、どうだった?と笑顔で尋ねた息子に教えてやった。彼は少し不可解そうに前を見て、『呪いかな』と首を傾げる。


「俺が回ったこの前、ここは関係なかったけれどね」


「精霊がらみの呪いじゃなければ、フェルルフィヨバルも相手にしない。反応しないだろ」


「ああ、それもそうか。そう・・・人間の魔法使いの、まやかし。呪い。思い出すな」


 思い出すのは、テイワグナで戦った墳墓の―――



「ヨーマイテス。あの時を思う(※1133話参照)」


「だからお前に教えてやったんだ。お前が行ってこい」


「・・・何か、ありそうか?」


()()()()お前のものになるだろ」


 フフフと笑った騎士に、仔牛は鼻を鳴らす。


「この時代まで巣食ってやがる魔法使いの縄張りなんざ、大体は守るもんがあってこそだ」


「そうだね」


「そして、大体は『渡す相手を待っている』」



 仔牛の見越しは―― シャンガマックに好奇心と挑戦心を生む。


 夕方の光を浴びる三台の馬車は、ロゼールの誘導で川岸近くまで進み、今夜はここで・・・と思ったら。道が中央部に続く流れにあるからか。あ、と気づいたロゼールは、近い海の水平線が輝く風景と、海に繋がる手前の川と平地を交互に見て、総長に伝えに戻る。


「何?停留所と」


「ええ。馬車が停まる場所だと思います。このまま直進すると海岸線に出るじゃないですか。その手前にもう一本道が横切っていて、往来の馬車がここで一泊するとかあったかも。って言っても、人間用の宿があるわけじゃないですよ。見れば分かりますが、ちょっと小屋がある程度です」


 でも、馬には丁度良いですね、とロゼールは荷馬車の馬センの鼻を撫で、馬車を案内した。



 旅の馬車が、だれも使っていない停留所に入る。

 そこは往来の休憩所だと思って。


 仔牛はそう思わなかったが。

お読み頂きありがとうございます。

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