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魔物資源活用機構  作者: Ichen
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2982/2988

2982. 旅の四百九十日目 ~古代剣行先の帰結・オルゴールと狼男と女龍①

 

 部品があるならすぐ分解して、とはならず。


 イーアンは、明日オルゴールを預けてもらえないか尋ね、勿論ドルドレンは了解。この夜は眠りに就いた。



 馬車歌は宝であり貴重な存在だが、置き去りにならざるを得なかった状態は、シャンガマックの推測と推察により、戻れない事情の裏付けも見えて、これ以上の想像も利かないのでここまで。



 翌朝、朝食作りを手伝うイーアンは『龍気が足りない・調べものを急ぎたい・精霊とちょっと(※ダルナ)と、今日の出かける予定を話す。調べものは勿論、オルゴール。


 荷台を出たドルドレンは、扉横に立っていた赤毛を見て、足台に降ろしかけた足をそのまま、止まった。ルオロフはいつものように品良く少し会釈して『お話したいことがあります』と、待っていたのを告げる。


「分かった。すぐが良いのだな?」


「はい。起きて間もないのに、申し訳ありませんが」


 堅苦しく感じる癖だが、彼には自然体。ドルドレンは、きちっとした赤毛の貴族と、馬車の並ぶ後ろへ歩いた。


 馬が水を飲める川の近くを選びながら進んでも、今回はそう都合良くなく、ここはまだ水辺の遠い場所。早い時間にロゼールが桶を持って何度か往復して運んだ水を、馬たちは飲んでいた。

 少ない水でも桶に顔を入れて飲む姿を眺め、早めに水辺へ移動せねば、とドルドレンは呟く。ルオロフも頷いて・・・馬でも誰でも、優しく思い遣り深い総長を見つめた。


「何かあったか。アイエラダハッドで」


「はい。昨日、イーアンにも話したら、彼女は総長なら分かってくれると言って下さいました」


「いつでも理解をしようと務めている。話してくれ」


 この言葉に嘘はないのを、ルオロフも分かっている。でもがっかりさせるだろうことも、胸が痛んだ。


 言い出しにくいので、はい、と頷きながらも口は重くなる。

 昨日の雨で濡れた草の露が、ズボンの裾に染み込み、ひやっとした。総長も足元が濡れてしまうと気づいて、話しを始める。


 腰に下げた宝剣の柄に片手を乗せ、総長の見下ろす目から時折視線を外しながら、ルオロフは順を追って伝える。


 実は、神様に相談した日に、神様が提案したこと―― から、始まって。

 リチアリに会い、彼の呼び出した精霊と彼によって、宝剣の行く先を示されたこと。精霊は宝剣を維持するように言い、リチアリもそう思ったこと。イーアンにも話したら、イーアンも『必要だったらどうやっても手に入っている』と答えたこと・・・・・


「それで・・・ 」


 じっと静かに聞いてくれる長身の騎士が、うんともすんとも言わないので、ルオロフは逸らしていた視線を上げた。途中から目を見れず、独り言のようだった。総長の灰色の瞳は、アイエラダハッドの冬空のようで、だけど冷え切ってはいない。澄んだ灰色の目は理解を示し、少し微笑んで『そうか』と言ってくれた。


「お前が俺たちといることを手放したくなかった」


「はい。正直に申し上げますと、それが原因で」


「原因とは呼ばない。ルオロフ、それは愛情と呼ぶものだ」


「でも」


「お前の孤独が満たされて、俺たちを失いたくなかったのだ。剣を渡せば俺のためになると分かっていながら言えず、だが俺の言葉の重荷に悩み、しばらく辛かっただろう。もう悩むことは無い。お前の持つ剣である」


 胸の痞えが取れると同時、ルオロフは有難くて頭を垂れた。ドルドレンの手は貴族の若者の両肩に乗り、目を見て『話してくれてありがとう』と礼を言う。この人が総長だからハイザンジェルは持ったのだ、と大らかな人柄にルオロフは感じ入る。


 ドルドレンは、薄緑色の瞳で真っ白な肌の貴族の若者を見下ろし、彼がとても若くて苦労知らずにさえ見えてしまう見た目と、思慮深く誠実で苦痛に弱音を吐かない強い芯の差は、ちょっと勿体なく思う。でもこの差もまた、彼の魅力の一つかもしれない。


『あの』と無言の見つめに戸惑ったルオロフに、ドルドレンは自分が今、何を考えていたのか、関係ないけど話した。

 聞いて笑ったルオロフに、『見た目と中身の差を考えていらしたとは』と言われ、ドルドレンも頷く。


「脱線するが、フォラヴ、いただろう。彼もあの見た目である。色白で金髪も白に近く、物腰は柔らかで言葉遣いも丁寧で静か。下手すると女に見られることもあったため、行く先々でちやほやされたり、なめられたりなど絶えなかったが、あれほど芯の強い男らしい男もいない。イーアンも毎度大絶賛である」


「え」


 急にフォラヴの話が出て、更にイーアンに高評価と聞き、ルオロフは固まる。彼が好漢でイーアンに認められているのは知っているが(※2561話参照)、特に聞きたくはない。

 ドルドレンは『ルオロフもそうだ』と、お前もまた大変男らしく、悩みも苦しみも顔に出さず・・・なんたらかんたら褒めた。貴族は、複雑な胸中でお礼の言葉を伝えた。



 脱線によって、『古代剣譲渡問題』の重い空気はあっさり取り払われ、二人は朝食の場に戻る。


 ドルドレンとしては残念だし『やっぱりか』と過らなくもなかったが、しかしイーアンまで『彼じゃないんでしょ』と言ったらしき話に、これは粘っても無駄かもしれないと諦める。


 少し前に、『諦めない』と静かに決意した勇者だったが、早々と出鼻をくじかれたわけで、どこかの精霊(※リチアリ呼び出し)からも注意を受け、尚も食い下がるのはみっともなく思った。


 それに―― ルオロフは、剣を渡して離れる条件で悩み続けた、と知っては。


 違う国に行くなどの距離ではない。神様と別の世界へ移動してしまう。そうなれば一生会えないはず。三度生まれ変わった男は、自分の心に生まれた愛情を捨てたくなかったのだ。



「ああ、感動的だ」


 頭を振り振り、ドルドレンは熱くなった目頭を押さえる。列に並んで朝食を受け取った総長が、何に感動しているのか知らないロゼールは、『後ろが待ってます』と総長にどくよう言い、ドルドレンは退いた。



 *****



 朝食中、シャンガマックが側に来て、昨日の袋は何だったのかを尋ねる。イーアンは『部品だと思う』と答えたが、確定でもない。そうなのかと横に腰を下ろした褐色の騎士に、ドルドレンが『お父さんは良いのか』と気にすると、彼が聞いて来いと言った様子。


「お父さんが気にしてくれていると」


「でもないんですが。俺が気にしているので、行かせてくれたと言いますか」


 ちょっと気になることでも、お父さんとのやり取り必須・・・ シャンガマックには日常だが、イーアンとドルドレンは、こんな形(※シバリ強)で継続する愛に改めて頷いた。


「イーアンは、これをどうするつもりでいる?調べるんだろう?」


「ええ。また魔導士に頼ろうかと考えています。彼くらいしか」


「魔導士に・・・頼む?」


 穏やかな問い返しだけど、ドルドレンは部下の表情が曇ったのに気づく。何に反応しているのやらと思うが、イーアンは気づいていないので『中身を透かしてもらうの』と答えた。シャンガマックの眉が寄る。


「透かすと、作りが見えるから?」


「全く知らない作りだとしても、いきなり分解はちょっと躊躇うし」


「それなら、父でも良いんじゃないか」


「え?」 「ん」


 急に『父』が出て、イーアンとドルドレンは同時に驚く。朝食を口に運びかけていたドルドレンが『なぜお父さんだ』と聞くと、シャンガマックは不意に言ってしまったような顔に変わり、ええと、とか何とか。


「シャンガマックが頼むにしても、お父さんは拒否しそうに思いますが」


「いや。うん。いや、でも。協力してくれると思う。ちょっと聞いてくる」


 はい? イーアンが止める間もなく、立ち上がった褐色の騎士はそそくさといなくなり、ドルドレンとイーアンは目を見合わせた。


「なぜ急にお父さんなのでしょうか」


「俺が分かると思うか、イーアン。でも彼は、魔導士に頼むのを避けたいように感じたが」


 なんで?、知らないよ、何かあったのかしら、でもオルゴールに関係ないのだ、と二人が話していると、向こうから仔牛とシャンガマックが来て、機嫌斜めな仔牛が女龍の足元に止まる。

 朝っぱらからこの方とお話・・・ ちょっと気分が下がるイーアンだが、シャンガマックは微笑んでいるのでお願いが通ったと判断する。


「透かすって何するんだ。()()()()()()()ことか?」


 仔牛パンチは遠慮ない。イーアンは仔牛を見下ろし『無理にとは言いません』とやんわり断ったが、シャンガマックがすぐに口を挟み、やってみるだけでも!と仔牛に頼んだ。

 頼み込む理由は不明にせよ、仔牛は息子に弱い。ちっ、と舌打ちした仔牛(※可愛くない)が大げさな溜息を吐いて『見るだけ見てやる』と高飛車に許可。


 ドルドレンも微妙な気持ちだが、イーアンはもっと嫌な気持ち。

 別に私は頼んでいないと顔に出るが、シャンガマックが『オルゴールを』とせっつくので、仕方なし、朝食をかき込んでモグモグしながら、オルゴールを出した。



 イーアンたちが食事していたのは、荷馬車の荷台。近くには誰もいない。他のものは焚火を囲んで食べているが、イーアンはドルドレンに予定を話したかったので、ここ。


 なので、他に姿を見せることなく、仔牛の腹から焦げ茶色の大男が現れる。

 久しぶりに男版の姿を見たなとイーアンはホーミットを見上げ、ドルドレンは『お父さんは相変わらずムキムキイケメンだ』とご無沙汰な姿に感心した。


「見れるよね?」


「さあな。だが、こなせないと俺がムカつく」


 息子が見守る前で、ホーミットは金属質な肌を柔らかな朝陽に煌めかせ、太い両腕を前に出す。大きな手指が円を作り、千里眼の要領で――― 



「見えた・・・!」


 褐色の騎士の表情が明るくなる。見えた?と腰を浮かせた女龍を横に呼び、嫌そうなホーミットの一瞥を食らいつつ、仏頂面イーアンもシャンガマックの脇から大男の手の輪を覗き、目を丸くした。


「これ。これって」


「どうした?思い当たることがあるのか」


「あ、ありますが。ええと。こうなったら。エサイもいてほしいです」


 エサイ?振り向いた大男の鬱陶し気な目つきに、イーアンは『エサイにも聞きたい』としっかり頼んだ。だってこれは、オルゴールの作りじゃなくて。



 *****



 こうしたことで、イーアンは龍気回復云々あるものの、ホーミットの機嫌がこれ以上悪くならない内に、エサイの知識も必要とし、オルゴールと部品の関係を知るべく、オルゴール調べ優先。


 分解することになるなら・部品かどうか試すなら。

 馬車は揺れるので、船へ移動しようと提案したイーアンに、思った通りホーミットは非常に面倒くさがった。が、シャンガマックの後押しで不承不承、船に行く。


 シャンガマックもついて行きたかったが、ホーミットは『すぐ戻るからお前はこっちに居ろ』と自分すぐ帰ります宣言をし、エサイを置いていく前提。



 そして、イーアンはアネィヨーハンへ飛び、ぶつくさ文句が止まらない獅子は暗がりから、停泊中の船へ。

 昨日来たばかりの船の甲板に降り、イーアンがホーミットを待っていると、船の濃い影から獅子が出て来て、一言も口を利かずに右前腕を出し、灰色の煙がしゅーっと・・・ 狼男登場。


 エサイとイーアンが挨拶しようと口を開くも、無駄を省く獅子は『出せ』と命令し、真顔になったイーアンがオルゴールと袋を甲板に置く。それと同時に獅子は人の姿に変わり、エサイに『お前も見ろ』と、オルゴールの中を透かして見せた。


 エサイの顔色は変わらないが、少し首を傾げ『もしかしてこれ、()()()()とかそういうこと?』と尋ねる。毎度だが、獅子は呼び出しても用件の経緯など話さないので、エサイが気を利かせて質問する。


 イーアンがそうですと答え、ホーミットが『覚えたか』と急がせるので、エサイはじっと見て大体を記憶した。分解するならどこから外すか。どこをいじらない方が良いのか。大まかに理解して頷くと、彼の主は姿を獅子に戻し『じゃあな』の去り文句と共にいなくなった。


「よっぽど、私の用事が嫌なのですね」


「違うと思うよ。よっぽど、シャンガマックといたいんだ」


 まぁそれもそうか、と笑った女龍に、エサイも笑う。


「いいじゃん。二人きりだと気楽だし。時間はどれくらいあるんだ?」


「午前一杯は使っても、と思います。今日中に調べ切るのではなくて・・・ええとね、流れをまず簡単に話しますね」


 イーアンはエサイに、何があって、これが何で、どうしたいのかを、掻い摘んで話す。エサイは頷き続けながら、小さな箱に視線を落とし『なるほどね』と了解。


()()()()()()()()みたいだもんな」


 狼男の感想に、イーアンも同意した。


お読み頂きありがとうございます。

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