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魔物資源活用機構  作者: Ichen
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2973/2988

2973. 一週間 ~道具と動機・念集めと知恵始末と『僧兵』談・5~6日目

 

『幽鬼の入った魔物と、悪人共が何らかの手を組んだんだろう。手を組むのが死霊じゃないのは、この国らしくないが、似たようなもんだ』―――


 血の祠の歌以降に現れた、幽鬼混ざりの喋る魔物。

 妙な暗示の道具を使う、『念憑き』。



 脅威から遠い、地味な印象を受けたイーアンは、もっと仰々しく嫌な攻撃を想像していただけに、紐解いてゆくうち、何したいの?の疑問が膨れた。


「起きた出来事の流れを見たけれど。残っている人を洗脳するというか、操る必要が全く見えてこない」


 数秒考えて瞬き多めの女龍が、どう理解するべきかと呟くと、魔導士はさらっと答えた。


「んなもの、いくらでもあるだろ。お前らの邪魔して仲間割れさせるとか、残ってる人間も集めて一国立ち上げるとか」


「国を立ち上げる?」


 へ?と呆れたようなイーアンに、ラファルが『ははぁ、なるほど』と頭を掻いた。ぱっと振り返ったイーアンに『時代が時代だ』と教える。


「時代?」


「元の世界でもあったことだ。植民地を増やすとか。その手の発想じゃないのか」


 ラファルに言われてイーアンは止まったが、ああ~!と大きく頷き、そっち!と大声で納得。


 ヨライデは侵略を繰り返した国であり、ここは中世に近い感覚であることを忘れていた。そういう考えの人間もまだいておかしくはない。


 イソロピアモはティヤーで一旗揚げ、逃げ帰ったヨライデで軍を動かす気だった(※2596話参照)。だが人間が激減し、方針が変わって・・・ティヤーの宗教神話にあの大陸が出てきたのを、もしイソロピアモが『開拓する未来』と捉えていたら。


『念』はあの大陸を通過してきているし、別の世界・・・要は新大陸認識で別世界へ行く・力を増して戻ってくる、など考えるかもしれないのだ。人間集めも指示に従う者を求めていると、思えなくない。



 ―――人間が消えるかもしれない未来は、彼らに伝えられていないのだし。


 イーアンは視点に拘らず理解を広げたいと思うが、世界の行く末や選択肢などを知る立場にいると、『そんなの普通は知らない話』であるのを、忘れてしまう時がある。


「残ったヨライデ人を集めて、最初の王国を創る・・・本気で狙う人間がいても、変じゃない」


 ラファルが話しかけ、『そうですね』とイーアンも答える。

 魔導士としてはこの場合、理由云々は問題でもなく、敵が紛らわしくなり、イーアンたちの旅の邪魔をする方が気になるので、それを注意する。


「憶測はそこまでにしとけ。この状況がお前たちにどう影響するか、そっちに重点を置いて考えろ。イーアンは対処出来ても、他の仲間も同じとは限らん。『念』が離れている悪人もいれば、操られて()()()()なった善人もいる。道具を作る余裕があるってことは、既にそこそこ人数もいるわけだ」


 バニザットのまとめで、イーアンも意識する。動機や行為を探るのはここまで・・・対、人間は、アイエラダハッドでもあった。喋る魔物もいた。自我を持つ魔物は、存在を理解して保護対象になったが、この国ヨライデではまた違う。

 丸きり人間の姿をして近づいてくる、魔物雑ざりとなった今。


「気を付ける。皆にも、対策を」


「早く手を打て」



 魔導士の部屋がある空に雨は降らず、イーアンはラファルと魔導士相手に少し話し込んでから、戻った。

 場所を隠されるので、帰りも魔導士付き。魔導士たちは日々『念』を追い、消してしまうこともあるが、『まとめて提供する』ために幾人か()()()()()とも知った。


 どう集め、どこにいると、バニザットは言わなかったけれど、念憑きがいれば知らせろとイーアンにも伝え、イーアンも了解。それから、魔導士の質問。


「残留思念に出た、お前んところの()()()は何だ。新しいやつだろう」


「レムネアクって名前で、ティヤーの僧兵だった人」


 これまで―― レムネアクが同行後・・・魔導士は馬車近くまで来たことは何度かあったが、レムネアクの話に触れなかったので、イーアンは彼がどんな人物か教える。


 示唆の模型船については特に話さず、『お告げで』と曖昧にし、レムネアクを連れるに至ったと話すと、魔導士は軽く首を傾げ『裏切らないなら良いが』と言った。そこは大丈夫・・・イーアンはレムネアクの性質性格が、自分たちを裏切る気はしない。そう答えたら、魔導士が鼻で笑った。


「信じ込むと、裏切られた時がきついぞ」


「信じて裏切られたことなんか数えきれないし、私が裏切ったこともある。でもレムネアクはそれを選ばない」


「信用が早い」


「信用じゃなくて、彼は()()だから」


「それを信用って言うんだろ。僧兵なんざ、裏切って当然の」


()()()()()()()()()()()()()し、龍相手に裏切ることは無いよ」


 魔導士は黙り、イーアンを見つめ、二人の間にそぼ降る雨が落ちて行く。


 魔導士も生前、『誰でもやり直す機会はある』と言い続けた言葉を、ここで聞くと思わなかった。イーアンは沈黙の雨越し、緋色の魔導士をじっと見て『そうでしょ』と呟き、バニザットも『そうかもな』と答えて話は終わる。



 イーアンは魔導士とここで分かれ、キダドの町へ戻る。


 戻りながら、あの女がレムネアクをもしも暗示に掛けていたら、あの後に魔物が来たのだろうか?と少し過った。魔物が嗅ぎつける要素を運ぶ、洗脳された人々・・・ 


「どこまでも、きつく。制限なく、酷くなっていく。良い人たちまで」


 工房へ降りるイーアンは、明かりが消えた深夜、外の荷馬車にそっと入る。ドルドレンは起きず、イーアンも濡れたクロークと靴を置いて眠りに就いた。



 *****



 次の日とその翌日で、馬車の車輪交換が終わり、タノに作ってもらった新しい部品で補強も出来、点検も済んだ。

 勝手に借りている工房だから、早く退出するべきなのだが、何だかんだで一週間使った。



 ロゼールは毎夕戻って来て報告したが、『倉庫を巡って魔物製品と材料を処分』するのは難しいと言い続けた。何が難しいかと言うと、聞けば当然のことなのだけど、関係者がかなり多い。

 彼らの数と業務内容と名前などが管理表にあるにしても、誰がどのくらいの賃金を得ていたかなどは、ロゼールに調べ切れなかった。


 どこもかしこも多くの人材を使って倉庫を管理しており、ロゼールは『この人たちが戻った時、お金を渡す保障だけでは足りないでしょう?』と、仕事の心配を話す。


「相当な人数を解雇状態に追い込むことになります。斡旋できる仕事がないテイワグナでは特に」


「無責任、と」


 イーアンも彼の言いたいことが分かり、そうですよねと頭を掻いた。


 独り者であれ家族持ちであれ、戻って仕事が消えていたら、幾ら保証が出ますと言われたって、支給までの生活費も代わりの仕事もない状態で、どうなることか。


 運送業者などは外部で連携もあるけれど、貴族の敷地を借用した倉庫などは直接雇用で、現地で仕事を得た人がとても多い。

 いかに世界が掛かっていても・・・・・(悩)

 どうしたら良いのか。分かっていたけれど、やっぱり目前にするとイーアンも困る。


 ロゼールは『もう少し待てるなら、出来るだけ良い方法を考えてからにしませんか』と持ち掛け、イーアンも了解した。


 ドルドレンたちもこの話を聞いているわけだが、『世界の決定・女龍の仕事』と理解していようが、やはり人々に苦しいものを押し付けるのは望めないので、解決策は一緒に考える。


 馬車にあった分とイーアンが所持していた魔物製品は消滅。一週間前に即処分した数だけが、今のところの結果となった。



 怪しい道具のことも、翌朝にイーアンから皆に話し、道具自体は魔導士に預けてきたため、図を描いて説明した後、仮にこうしたものを持っている人物が来たら、状態にもよるが危険と見做してほしいと頼んだ。

『念』が離れて、別人にとり憑くことも起きているようだし、暗示にかかった人間が敵に回ると見分けにくいので、よくよく注意すること。


 レムネアクは『そんなものが』と、外から来た思念体の入れ知恵に驚いていたようだった。

 あの女以降は不審者もなく、警戒しつつも工房は無事だったし、ミレイオも知り合いになったタノの工房に通ったが、あちらでも魔物や不審者は見かけなかった。



 流れた話で薄れていた『森のお供えは誰が置いたか』・・・は。


 ドルドレンは、タノの話から推量して、その人物はもう殺されてしまった可能性も・・・と話すと、皆も何となく殺されているのではと感じていたので頷く。イーアンも、町付近を何度も飛んでいるが、生きた人間の気配はない。それに、あの日レイカルシは『もう一人は十日前に死んでいる(※2969話参照)』と言っていたし。

 この話も、ここまで―――



 シュンディーンと話したシャンガマックは、ミレイオにだけ伝えたのだが、ミレイオから『皆にも言って』と頼まれて、精霊の子の現状を伝えた。


 彼はもうすぐ戻ってくるだろうが、心を痛めており、いつとは決まっていない・・・ 褐色の騎士が控えめに報告すると、ドルドレンは『彼は今、乗り越える難関にいる』と理解し、シュンディーンの成長を見守ろうと皆にも促した。



 そして、ミレイオはどうするのか。6日目の夜の集まり―― 


 明日(※7日目)はヤイオス村でフーレソロを見ようと決まり、午後、馬車を出すのだが。ミレイオが戻るか、残るか・・・誰もが気にした。


 ちらと見たタンクラッドがミレイオに『お前がいないと困ることが()()()()』と呟いて、ミレイオが笑った。皆も一緒になって笑ったが、笑い声は続かない。ミレイオは『どうしようね』と呟いて笑みを抑え、目を逸らす。


 イーアンは無理を言えない。でも一緒に居たい気持ちは、何にも変わらない。ミレイオがいないと困る、ではなくて、いてほしくて頼みたいのだが、ミレイオの気持ちが大事なので黙っていた。


 タンクラッドだって『いないと困る』は直結的にせよ、実際はここまで一緒に旅したわけで、母国にいる時から友達のミレイオが抜けるのは、心配もすれば、寂しさもある。ただ、これは言わない。


「ここにルオロフがいたら」


 そう呟いたのはドルドレンで、ミレイオは瞬きし『彼が何か伝言してた?』と尋ねた。ドルドレンは首を横に振り、焚火の明かりで銀色に見える瞳を馬房へ向けた。


「馬にも頼んだのだ。ミレイオがいてくれると心強く、その感情と考え方にどれほど救われているか、お前たちからも伝えてほしいと」


「あんたが今話してることって、ルオロフに何の関係があるの」


 大真面目な総長にミレイオが笑いそうになって我慢し、イーアンも吹き出しかけて急いで呑み込む。レムネアクは総長と馬の相談を見ていたので、顔を押さえた(※笑う)。


 ドルドレンは『彼に馬の通訳を頼むつもりだったのだ』と言い、我慢できないミレイオは笑いながらドルドレンの横へ行くと、彼の大きな体を抱きしめて『ルオロフじゃなくても伝わるじゃないの』と背中を叩き、生真面目な男の顔を見る。


「あんたはやっぱり総長って、いつも思うのよ。いい男よね」


「ミレイオほどにはなれない。俺では足りないことを、あなたは埋め続け、守っている」


「はー・・・そう口説かれるとねぇ。どうしよう、イーアン」


「口説いてはいない。事実である」


 ハハハと笑うミレイオに、イーアンも可笑しくて笑い、『ドルドレンは本心で頼んでいます』と先に伝えてから立ち上がってミレイオの横に座った。


「ルオロフが戻りません。どこにいるかを知ることも出来ません。彼と連絡を取る手段はなく、頭数が気になります」


「うん。その時はって、私は言ったわね」


「ええ。頭数が減るのは私も懸念です。でもそれ以外で、私は常にミレイオを愛しているし、常に側に居てほしいと思っています。その姿が見られないと、いつも空にあなたを重ねて思い浮かべるしかないです。とても辛い。悲しいし、恋しいし」


「あんたまで口説いて」


 笑い続けるミレイオは悲しそうに微笑む女龍を抱き寄せて、二人はぎゅーっと抱き合う。よしよし、角を撫でながら『バイラに船の鍵を渡してくるか』とミレイオは決めてくれた。


 この一言で、ドルドレンたちは『ミレイオはアネィヨーハンにいたのか』とやっと知った。何となく、そうかなと思っていた。ミレイオも気にしておらず、両腕に包んだ女龍にちょっと笑った。


「一週間留守にするとは思わなかったからさ。食料と水はとりあえず片付けてきたけど、船の鍵は私が持ったままなのよ」


「一緒に行きます」


「そう?じゃ、一緒に行こう。明日・・・大丈夫かな。午前中、行って戻って」


 ミレイオがドルドレンに顔を向けると、ドルドレンは微笑んで『もちろん』と答え、タンクラッドも焚火向こうで嬉しそうだった。


 シャンガマックもこの場におり、後でヨーマイテスに教えてあげたら喜ぶだろうと(※別に)満面の笑みで、ミレイオの戻りに感謝。ロゼールもミレイオが馬車に来るのは嬉しいこと。何だか立て続けに仲間が減っていく気がしていたから・・・ 


 黙って会話の場にいるレムネアクは、ミレイオという人物が謎めいていて興味が尽きない。彼は絵を描いているのではなく、全身に刺青を入れていて、明るすぎる金色の瞳は人間には見えなかった。

 ロゼールの瞳も大きくて紺色なので、彼も違うのだろうと思うが、根掘り葉掘り聞く気はないため・・・ その内、彼らの正体を教えてもらえる時を楽しみに待つ。


 ミレイオも加わると分かり、レムネアクは楽しみが増えた。

 それに、話に上がった『シュンディーン』という名の精霊・・・ その精霊も馬車に来る様子から、楽しみなのだけれど。


 そもそも、ミレイオが離れた理由を知りもしないレムネアク――― 


 自分が僧兵であるために離れた、とは。

 レムネアクにとって、例えそれが蒸し返されたとしても大きな問題ではないが、その時はまた穏やかに済むとは限らず。この話はまたあとで。



 翌朝は、船に戻る前にミレイオがタノの工房に挨拶し、その後でテイワグナ。イーアンも一緒。

 ドルドレンとタンクラッド、レムネアクの三人は、村の教会へ向かう。

 シャンガマックとロゼール、獅子が留守番で、午後に出発予定。馬車は試しに動かして問題なく、工房に置いていくお代と手紙も完了。


 元からいる馬たちの水と食事は、馬房の裏手に自由に食べられる草があり、どこから湧いているのか、小さな泉が敷地にあったので、これは精霊の守りと知ったドルドレンは、彼らの無事を祈る。



 こうして、キダドの町一週間滞在は終了する―――


お読みいただき有難うございます。

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