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魔物資源活用機構  作者: Ichen
同行者入れ替え
2963/2988

2963. 旅の四百八十三日からの一週間・初日:テリカ買い物・ミレイオ一時戻り・海辺徒手採捕・ファニバスクワン報告

 

 勝手に使わせてもらう上に、車輪を頂戴するとなると。



 工房に頼らざるを得ない事情であるとはいえ、ドルドレンはやはりお金を用意するべきだと主張し、テイワグナの両替所に頼ることに。


 ちなみに―――


 民家出発前に、レムネアクが仔牛に話した『ケルストラの町の両替所で、私が両替しても』の考えは、場の雰囲気で言い難く(※ドルドレンが真面目)、レムネアクは黙っていたし仔牛もちらっと見たものの、強要はしなかった。


 ただ、『龍の印はどんな高価な宝よりも喜ばれる』ことは繰り返したけれど、ドルドレンが首を縦に振ることはなく、イーアンはレムネアクに『気持ちの問題もある』と教えた。



 こうしたことで、イーアンが両替にテイワグナの町・テリカを頼ると決まった時点で、タンクラッドは『ミレイオに言えないか』と相談。イーアンもそのつもりで、アネィヨーハンも予定に入れる。

 町まで行くなら、レムネアクの服も購入する・・・購入と言えば=貴族(※金)。勿論、ルオロフは、このタイミングで同行を願った。


 飛べない彼を連れて行くのは・・・(※負担)イーアンは微妙な顔で、『私も』と挙手した男を見たが、ルオロフは迷惑を承知で同行理由をきちんと説明。


 自分がレムネアクの服を破ったのだから、この手で買うべきである。

 交渉には自信があるので、イーアンの手間をかけることなく両替も買い物も役に立てる。

 そして、いつも自分は世話になり、感謝を示すには態度で示したい(=金)。


 皆は、ルオロフが単にイーアンにくっついて行きたいだけ、と分かっているが、何かあれば金を出そうとする習性(※貴族)も熟知しているので、大真面目に理由を告げた赤毛の男に頷いてやった。イーアンは複雑だが、まぁ一回二回は連れて行くことになるだろう、と思っていたので無表情で了解。


 ルオロフは最近、北部の悪鬼退治を口にしなくなった。もう魔物も始まったことだから無理しなくて良いと神様に言われていたらしく、彼の用事は特にない。所詮、救える限度はある、と諦めたのもある・・・


 ということで、イーアンとルオロフの初日は、テイワグナ行き決定。



 村の教会のフーレソロのことは、一先ず後回し。タンクラッド・レムネアク・ドルドレンが行くのだが、何はともあれ、車輪交換が済んでから。ドルドレンは馬車の民で、車輪交換の手伝いくらいはしたことがあり、力もあるので、タンクラッドの補佐。


 通訳翻訳に適した褐色の騎士とその父は、こういう時に使えない。彼らは長らく放置してくれている精霊ファニバスクワンに会いに行く話で(※獅子は嫌がっていた)、そうと知ったロゼールはレムネアクを連れて海へ行く気満々。


 レムネアクを連れて行かれると、作業に使う溶剤やら接着剤やらの貼り札が読めないので、レムネアクは朝早くから工房にある材料に目を通し、タンクラッドと総長に読んで教えた。

 タンクラッドは丁寧に紙に書きつけて確認。ドルドレンは不便を部下に伝え、ロゼールは『一日だけです(※レムネアク拝借)』と言い逃れした。


 ロゼールも遊びに行くわけではない。魚という貴重な食料を捕獲する技を習う機会で、今後どこで必要となるか・・・そんな言い訳をし出したため、ドルドレンは面倒くさくなって頷くに留める。


「動けるのは今日くらいですよ。俺は明日からハイザンジェルに戻って、調べものしないといけないです。本部の資料を読んで、移動して現地に確認に行ったら、数日あっという間で」


「分かったのだ。もういい」


 行きなさい、と追い払うようにドルドレンが外へ手を向け、ロゼールは『魚捕ってきたら、食べさせてあげます』と高飛車な別れの一言を告げ、苦笑するシャンガマックたちと出かけた。


 工房に残るのは、ドルドレンとタンクラッド。

 テイワグナへ向かう、イーアンとルオロフ。

 町の先の海へ行く、シャンガマック親子とロゼール、レムネアク。

 キダド滞在の初日はこうして始まる―――



 *****



 イーアンはルオロフ付きなので、ここはミンティンを呼んだ。自分の龍気も最近補充に戻っていないし、ミンティンと一緒だと穏やかに回復するのもあり、青い龍頼み。

 やってきたミンティンは、以前も乗せた赤毛の男を乗せると(※2564話参照)、イーアンの首根っこも咥えて首元に座らせた。


「あなた。もう少し扱いを」


 クロークを猫掴みされるのは最初からだけれど、今は()()を気にするイーアン。

 イーアンも龍につままれるんだなと意外なルオロフだったが、恥ずかしそうなので何も聞かないであげた。

 ブツブツ言う女龍を無視して、龍は浮上。青い龍はテイワグナの空へ向かう。



 馬車で何日と移動する距離が、如何に遅いのかを・・・改めてルオロフは思う。眼下の光景はものの十分で乾いた大地を先に置き、海を渡る風に熱がこもった。

 龍はゆっくりゆっくり飛んでくれていて、受ける風も心地よくいられる。しかしこの速度でさえ、あっさりと出発点に着いてしまうとは。ルオロフがちょっと笑った時、イーアンの声が被る。


「アネィヨーハンへ行きます。上で止まって下さい」


 イーアンが頼み、ミンティンは黒い船の停泊する港の上まで行くと、ピタリと止まった。ここでイーアンだけが下りて、ルオロフはミンティンと待つこと十五分。戻ってきた女龍は一人で、何も言わずにすちゃっと龍の首に跨った。


「ミレイオは?」


「あとで来て下さるそうです。不承不承」


 フフフと可笑しそうに笑ったイーアンは『不承不承』と言いながらも嬉しそう。ルオロフは、ミレイオが『仕方ないわね』と言った顔が目に浮かんだ。ミレイオとイーアンはとても仲が良い。少し羨ましく思うも、考え込む間もなく・・・すぐ、町へ到着する。


「ここです。テリカの町」


 イーアンはバイラがいないと、自分もルオロフもテイワグナ人ではないからどうなるかなと考えた。早々に『自分、龍の女です』アピールが必要ではないかな~と思ったけれど、心配は不要。


 ルオロフは白人で、目の色も薄い緑。見た目20代と分かる顔だし、テイワグナ語は喋れないので、吹っ掛け対象ではある。でも彼の豪気というか堂々した感じは、客からふんだくる人々も退かせた。


 案の定、一発目で両替屋にカモられそうになる。イーアンはちょっと離れて見物・・・(※この前のところだから)。赤毛の貴族は、きれいな発音で大きめの声量。そして上から目線。



「私は共通語で喋っているんだから、あなたも理解できているはずだ。他の客にもそうして話していたのを聞いたし。ティヤー南部の硬貨をヨライデの金に換える、ここにある表はいつのものだ?最近だろう。私の両替とずいぶん違うが、正しくないのであれば相応の対処をさせてもらう。

 対処?いくつか選択は出来る。まず、あなたの店を私が買い取ること。地主は近くだろう?あなたを解雇する。そんなことすぐだ。夕方にはあなたが自分の家を探す羽目になり・・・ 」


 ルオロフは、ただの金持ちではないことも流れで話しながら、自分に攻撃意思やカモ目線を向ける周囲を見渡し、『私は多くの権力によって守られているため』と前置き。足元に転がる拳大の石を拾い、ぎゅっと握り潰した。騒めく周囲を一瞥、赤毛の貴族は『どうする』と冷たい目で両替屋に尋ねた。


 パフォーマンスが派手。

 イーアンは黙って見ているだけだが、万が一騒動になるなら、とっととルオロフを連れて飛んで逃げようと思った(※両替は改めてバイラに頼む気)。でも、ルオロフの饒舌は、貴族の威力でも発するのか、相手は面倒な客に従って両替し直し、ここは事なきを得る。


 こうした最初があったことで、さーっと噂は広まり、太陽の下で燦然と赤毛を輝かせる白人は、暑苦しいクロークをフードまで被った連れ(※イーアン)と共に、近場で難なく買い物も済ませ、終始共通語を使い、釣銭を間違えそうな相手には『釣りは〇〇だな』と先に言い、渋る相手から引っ手繰った。


 こんな具合で、レムネアクの服も買いに行き、ルオロフは母の手前、『非常に申し訳なく思っている』とわざわざ口にしてから、レムネアクの上下一式7セット分ほど買い込む。



「これだけあれば、少しは着回しも利くでしょう」


「ルオロフはいつも同じ服を着ていますが、自分のは良いの?」


「私の服は、同じ形と素材のものです。換えていますよ」


 ハッハッハと豪快に笑う赤毛の貴族に、イーアンは逆に質問され(※イーアンの服は?と)、断って服の買い出しも終了。


 そんなこんなで、この後は『イーアンの欲しいもの』を、半ば強引に買い続ける時間が過ぎ、貴族然としたルオロフの胸張る姿に付き合うイーアンは、こんな買う気はなかったと微妙な心境でテリカの町の用事を終えた。


()()で足ります?他には?あなたはもっと、テイワグナの料理を食べたいと思ったのだけど」


「大丈夫」


 屋台の匂いにつられ、イーアンが『あれ美味しかったな』と呟いた料理をほぼ買い占めた貴族に、イーアンは何も言えなかった。


 ルオロフは、荷物持ちでも全く気にしない。力もあるし、母の役に立つという名目上、両腕に抱える箱もどこ吹く風で、買い占めた料理(※木箱に入れてもらった)を一番上に載せてすたすた歩いて町を出た後も、買った縄で器用に数箱固定し、呼ばれた青い龍に颯爽と乗った。


 えらい荷物だとイーアンは思う。こんな量になる予定ではなかった。だが、伴侶や親方はテイワグナの料理を喜ぶから、早く帰ることにする。


 テリカの町を出た昼下がり。アネィヨーハン通過前にイーアンは連絡珠でミレイオに伝え、空中でミレイオと合流。『すごい買ったのね』と驚かれながら、満足げな貴族と一緒に三人はキダドへ戻った。



 *****



 久しぶりに戻ったミレイオと、買い出しの大荷物を置いて・・・ 一代目の車輪取り外し、替えの車輪を合わせていたタンクラッドたちは、休憩でテイワグナ料理を楽しみ、ミレイオとの再会を喜ぶ。


 昼下がり、午後も2時過ぎくらいの海では。



「こっちはそうするんですね!」


「場所によって」


「こっち向き?こういう具合ですか?」


「そう。もう少しゆっくり下ろして・・・今、掴んで」


 レムネアクの見極めに、さっと応じたロゼールが『掴んだ!』と一声上げる。

 勢いよく水中から上げた彼の右手に、30㎝近い魚が掴まれ、ビチビチと尾を振り抵抗する魚に満面の笑みの騎士は『岩場も攻略』と冗談めかして、僧兵を振り向いた。


 レムネアクは彼の魚を岩の上に寝かせ、『すぐに血を出します』とナイフで頭の上を切り込み、魚を殺す。


「これ、俺も正確に出来ると良いんだけど。さっきは失敗したからなぁ」


「慣れですよ。あと、気づかない内に怪我するので。大丈夫そうですか?」


「あ・・・はい。ちょっと、ところどころ切れてるけれど血が出るほどではないかな」


「魚の鰭は鋭いのもいますし、鱗も固いから、ふやけた手だと怪我もあります。注意しながら」



 レムネアク講座、海編―――


 離れた磯でロゼールとレムネアクを見守るシャンガマックは、微笑ましくて『仲がいいな』と呟く。彼の足元にべちょっと寝そべるカワウソ(※ヨーマイテス水辺版)が、碧の目を向けた。


「ファニバスクワンに報告したんだ。もう戻っていいだろう」


「うーん。でも、あんなに楽しそうだ。日が傾くまで付き合ってあげても」


「来てからずっと、()()やってんだぞ?(※あれ=魚捕り)夕方になっても帰る気がしない」


 シャンガマックはカワウソの言葉に笑い、しゃがんでカワウソ抱っこ。不機嫌カワウソの背中をナデナデしながら『たまには』と寛容に流す。

 漆黒の目が、ちらと見た方に・・・箱一つ。ヨーマイテスに貸してもらった箱(※サブパメントゥ産ブラックボックス)は、獲った魚や貝を入れてある。思った以上の収穫量で、ロゼールは元々動きも勘も良いから、レムネアクに教わっては確実に捕らえた。


「夕食が楽しみだ」


「腐るんじゃないのか」


 またそういうことを言って!と笑う息子に、カワウソは『早く引き上げろ』と恨めしそうにぼやいていた。



 ―――ファニバスクワンとの話は、久しぶりもあって長引いた。


 ティヤーに入ってカーンソウリー島で動きの許可をもらって以来(※2526話参照)、『原初の悪』が影響する『呪い巡り』、種族別『檻探し』調査を経て(※2710話~参照)、ティヤー決戦の保護(※2847話参照)と、少しずつ自分たちの扱い方が変わっていたのを、二人とも分かっていたが。


 ヨーマイテスは懸念した通り、左腕についたナシャウニットの印を尋ねられ、咎められた。


 流れが危ういと思ったが、『慎重に動け』と咎められたもののそれで終わり、ホッとする。

 ファニバスクワンは全く知らなかったようだが、何があったかを打ち明けたら(※2875話参照)、付き合いの長い精霊は『お前の思うことまで手が出せない。仕方ない』と溜息を吐き、理解したようだった。


 禁忌については短縮が決まったらしい。もう少ししたら解かれるようだが、ファニバスクワンは、獅子と騎士に自分から離れないよう釘を刺した。『原初の悪』はまだ動かないけれど、いつ動くか知れず、あの精霊が自由になった時、狙われる可能性を聞き、シャンガマックたちもファニバスクワンの保護を選ぶ。


 この一件で話し合うのは、精霊側の事情で難しかったが、シャンガマックは今後、『原初の悪』がそこかしこに根付くヨライデでどう動くべきかを相談し、この前の祠壊しについても話し・・・助言や注意事項を教えてもらい、これで長引いた―――



「シャンガマック!どうかな」


 カワウソを抱っこしていたシャンガマックは、叫ばれて振り向く。こちらに向かって歩くロゼールの両手に魚が何尾もぶら下がり、歩きながらナイフを拭くレムネアクと目が合って微笑みを交わす。


「大漁だな」


「レムネアクがここ、と教えてくれると、絶対いるんだよ。面白いよ」


 シャンガマックもやればいいのにとロゼールの笑顔を貰い、褐色の騎士がそうだなと笑うと、カワウソが馬鹿言ってんじゃないと畳んだ。カワウソ姿にも感動するレムネアクだが、とりあえず教えた『魚捕り』内容を報告し、仏頂面のカワウソは『帰る』と答えた。


 箱を覗き込んだシャンガマックは、海藻も見て『これも食べるのか』と呟き、そういえばティヤーの料理屋でもこういうのが出たなと思い出す。ロゼールは、海辺で食料を集める技を習得し、また来たいと熱っぽく話す。


 勝手に行けよとぼやいたカワウソが獅子に変わり、影一つない磯からようやく帰る。影の濃い岩の割れ目まで移動し、鮮度の良い食料付きで四人はキダドの町まで、闇を伝う。



 夕方の始まり頃に戻ったシャンガマックたちは、ミレイオに驚いて喜び、獅子はさっさと消え(※ミレイオが出たのは彼のせい)、魚や貝の調理を早々始め、レムネアクはルオロフから謝罪と共に新しい服をたくさん受け取ってびっくりし、疲れ切ったイーアンにねぎらいの言葉をかけた。


 海藻料理でイーアンもお手伝いして、工房の外で早い夕食を囲む。それぞれの報告が順番も混ざりながら飛び交って、この夜は小さな祝いのように過ぎた。

お読みいただき有難うございます。

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