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魔物資源活用機構  作者: Ichen
十二の面、戻りし人々
2877/2988

2877. ショショウィ付き引っ越し・魔導士ヨライデ拠点・夜間二度目の開放

※明日の投稿はお休みです。どうぞよろしくお願いいたします。

 

 イーアンが黒い船に帰った頃。

 ずっと離れた小島では、その小島を()()()()魔導士が扉を振り返って―――



「おい、行くぞ」


「俺はいつでも」


「ショショウィ。お前はそこじゃなくて、()()


「あ~・・・ショショウィは。俺が抱えていくのは。ダメか?」


 都合で呼んでいた、テイワグナの白いヤマネコ(※地霊だけど)を見たラファルは、ようやく()()()()相手にも触れる体になったものだから、ショショウィがいると側から離れなくなった。


 指輪で呼び出すと縮んだ状態で来るのだが、それでもヤマネコそこそこの大きさはあるため、ラファルの足元に座っていると、少し特別な()()野生動物状態。この野性味も、ラファルの気に入ったらしき部分。


 魔導士が目を離している隙に仲良くなり、気づいてみれば、ショショウィがラファルに撫でられて(※仰向け)いる時間は増えていた。ラファルが楽しそうだから、邪魔せずに放っておいたのだが。

 引っ越し移動で寄り道でもしようかと考えていた魔導士は、離れない具合に悩む。



「ショショウィは、あんたの指輪の側なら大丈夫だろう?」


「まー・・・ そうだが」


 抱えていくよと白いヤマネコの両脇に手を入れ、ラファルはよいしょと右肩に持ち上げる。ヤマネコもラファルの両肩に巻くようにして乗りかけ、その不釣り合いに魔導士が止めた(※猫じゃない)。



「待て待て。無理だろう、それは。お前の頭が隠れている。ショショウィは猫と違う。さすがに不自然だ」


「いや・・・俺の故郷にも、このくらいの猫はいた(※本当)」


 本当か~と眉を寄せる魔導士にラファルは笑って、顔横に並んだ頭を撫で、緑色の大きな目に『落ちるな』と伝えると、魔導士に『重くないから』と斜めな返事をする。そうじゃなくて()()()戻してまた呼べばいいだろう、と魔導士がぼやいても、ラファルは聞いていなかった。



 こうして――― 魔導士たちは引っ越し。


 世話になったティヤーの小屋を、ちらっと見たラファルに、魔導士は『また来たいか』と訊いてみて、彼が微笑んだので、ここは思い出になったのだと分かった。


 この小屋でラファルは変化を遂げたことを思うと、また連れてきても良い気がする。デカい襟巻のように白い地霊を乗せた彼は、以前とずいぶん違うのだ。


 魔導士は緑の風に変わり、地霊付きのラファルを空へ連れて上がる。とはいえ、このショショウィは本体ではないため、引っ越し先に到着するまでだと言い聞かせた。


「次はヨライデだろ?ヨライデの隣の国が、ショショウィの国に地続きと話していたな」


 ラファルが地図を思い出して尋ね、風は『そうだが、距離はある』と答える。なんとなく、『近いなら急がなくても』的な意見で、彼が猫を手元に置いておきたいとひしひし・・・ こんな話題が出るようになったのも、良いことではある。でも。



「着いた。ショショウィ、戻れ」


 えー、と白いヤマネコが言いかけたまま、しゅーっと煙に変わって指輪に吸い込まれた。挨拶もなく、猫を収集されたラファルと目が合うが、魔導士は視線を逸らして歩き出した。


 ラファルは文句を言わない男なので、黙って彼の後を歩き、初めて足を踏み入れるヨライデの森林を眺める。森というよりも、傾斜がついている斜面なので、山道と呼ぶ方が合う。


 こうして歩くのも珍しい行為で・・・これは、魔導士が環境を教えるためか、とラファルは思った。いきなり現地=いきなり住まい、ではない道のりの時間は興味深い。


 サクサクと落ち葉を踏みながら思い出す。誰もいない夜の森林風景は、母国の森と似ていた。大きな木が間隔を取って生える様子などが似ている。これほど大きな木は見たことがないなと、巨木の樹種に感心した。天を突くと表現したら似合う、逞しい大きさ。針葉樹の見た目はどこでも一緒、そんな印象も受ける。


 傾斜面が少し角度を変えると、振り向いた背後の遠くに、海らしき黒い横線が見えた。ヨライデは山と海があると聞いていたが、こうして見えると本当に近い。


「おっと」


 後ろを向いて数歩進んだため、前にいたバニザットの背中に接近しており、顔を前に戻すやラファルは足も一歩戻した。肩越しに振り返った魔導士に『ここだ』と大樹を示され、彼の後ろから一際太い木を見上げる。


「木の中か」


「いいや。そんなに()()()()()()じゃない」


 可笑しそうに返した魔導士が指を鳴らすと、幅5mくらいありそうな大樹の樹皮に、金色の魔方陣が現れる。


 暗い夜の森に明るく鮮明な金色は、実に神秘的。魔方陣の文字を、不規則な順で魔導士の指が数回トントンと叩いて、掌を真ん中に押し込む。動きに合わせて中心から広がった魔方陣は金のヒマワリのようで、真ん中にぽっかりと開いた通路、奥には庭が見えた。


「あんたといると、驚かされっぱなしだ」


 呟いたラファルに、魔導士も少し笑って『お前は驚いている風に見えない』と返し、中へ招く。


 大樹は門の役割で、そこから先が魔導士の()()。入った庭から先も、同じような風景があったが、振り向いても大樹自体がない違う空間。異時空か?と訊くと、魔導士は『ちょっと違うな』とだけ答え、詳しい説明はしなかった。


 実は、アイエラダハッドの部屋の一つも同じ感じだが、ラファルはその時、風景を変えられていたため、状態を知らない(※2140話参照)。とにかく、念には念を入れる魔導士の『拠点』は、世界のどこに在っても安全性が高いし、魔物その他、招かれざる客を通さない強さは通常完備。


 夜の淡い明るさの中、小さな花が咲く野原を歩く。その続きに一軒の小屋がぽつんと待っており、ラファルは魔導士に先を促されて中へ入った。

 小屋と言える見た目、薄いスレートを重ねた石造りの壁、切妻屋根、煙突と小さな窓、質素な雰囲気満載だが、ラファルは中へ一歩入って納得する。魔導士の趣味(※趣向とも言う)。


「やっぱり、あんたの家って感じだな」


「そうか?」


 気にしたことがないと呟く魔導士が、通路沿いの部屋の扉をノックしては埃が消えて、扉にワックスの艶が戻る。きれいに戻ってゆく扉の雰囲気や意匠にも目を止めるラファル。壁に並ぶ燭台は小さくても、オレンジ色に通路を照らす。木目の特徴的な板張りが、この明るさに似合う。


 通路の終わりまで来て、アーチ形の梁が壁を分ける部屋の前で、魔導士が指を鳴らすと、床から天井までの全体が急に明るく変わった。そして、扉のない居間に呪文を一つ呟いて完了。

 真っ暗な部屋に暖炉の炎が上がり、窓にかかるボロボロの布が一枚布に戻って、良い具合に経年変化した褪せた淡い紫の風合いを見せる。


 天井を覆う大きな絵が、どこかの歴史の物語を伝え、足元に広がる楕円の絨毯には朱色と黄色の花模様が息を吹き返し、大きくしっかりした机と、どっしりした古い一人掛け、三人掛けの椅子が、燭台の明かりで煌めいていた。

 壁の一角には、魔導士の部屋に必ずある据え付けの書架が並び、居間の続きは壁と扉のない小部屋。アイエラダハッドもティヤーの小屋も似た雰囲気だった、とラファルは共通点を見つける。



「あんたの、家だ」


「ハハハ。何度も言うことか?俺の時代に在った物が、そのまま残ってるだけだ」


 暖炉は要らんな、と指を鳴らして炎を消し、魔導士は代わりに天窓を開ける。

 天井の端についた天窓が、人差し指を曲げた動きに合わせて、きいと軋んだ音を立て、空に向けて開くと、暖かな風が流れ込んだ。


「ヨライデでも山間は気温が低いものだ。今のお前は人間の体に近い。ティヤーとの温度差で、最初のうちは風邪や体調を崩すなんてこともあるだろう。暖炉は夜明けに使うか」


 外は、夜。もちろん、ここも夜。ラファルは開いた広めの天窓の下に立ち、外の温度と室内の温度差を感じる。今は薄着で丁度良い気温だが、確かにこのまま気温が下がれば、明け方は冷えそうに思った。


 魔導士は6人掛けほどの大きさの机に、宙から取り出した分厚い書物をドサドサと積み、灰皿や煙草入れも並べる。彼の引っ越しは、()()()()()()()()持ってくるのかと、ラファルは興味深く眺めた。


 お前の着替えはこれ、お前の寝室はそっち、台所は後で案内する、煙草の替えはここに入れる、酒はそっちの棚、と配慮のまめな魔導士はてきぱき教え、ついて来いと言われて手洗いと風呂場も見せてもらう。


 一通り、間取りと部屋の案内を受けた後、魔導士は居間に戻って、火をつけた煙草をラファルと自分に出し、ようやく一服。まだこれから、魔導士は自室のセッティング(※魔道具諸々)があるそうで、ラファルには寝るように言った。



「リリューが分かるだろうか」


「あん?サブパメントゥだぞ?お前を追ってどこまでも来る。だが、今はまだ落ち着かないようだからな・・・その内、会いに来るだろう」


 引っ越し先を特に告げていないけれど、心配するリリューはどこまでも来るはずだと魔導士に言われ、それもそうかと納得する。ショショウィのこともついでに話に上がり、元々、一定の場所を動けない地霊だから、そう長い留守は許されない話も知る。悪いことをしたと反省するラファルに、魔導士は『俺が様子を見て返す』と今後の付き合い(?)の管理を申し出た。



「じゃあな、ラファル。しっかり眠れよ」


「いつもの言い方じゃないな。何かありそうだ」


「朝が来たら、朝食を食べて、『念』を狩りに行くんだ」


 あ、と瞬きしたラファルに、一人掛けの側に立った魔導士が頷く。


「俺と、お前の仕事の場所は、ここだ」


「・・・そうだな。一足先に、こっちで」


「そういうことだ」


 休んでおけと会話を〆て緋色の魔導士は、居間を出て行った。



 *****



 この時間からもう少し進んだ頃――― 日付が変わり、真夜中。



「出てきたな」


 白い髭を蓄えたウェシャーガファスが、荒野の治癒場の前に立つ。桃色の優しい光が治癒場から伸び上がり、紺色に星をまぶした空へと帯を引いた。帯の上には、今日も人形が並ぶ・・・・・


 治癒場から戻される、二日目。

 テイワグナとティヤー東では、二度目の開放が始まった。その中に―――




 バサッと、上掛けを撥ね上げたオーリン。眠っていた船室の暗い室内を見回し、急な目覚めに呟いた。


「ニダ」


 ()()じゃない、と独り言を続け、弓職人は目覚めた勢いで部屋を出て行く。ニダが戻ってくる、と感じたオーリンは、ニダが消えた船ではなく、そして、カーンソウリー島でもないと分かり、見当を付けていた場所へ急ぐ。


 ガルホブラフを呼び、誰に声をかけることもなく、龍の民はある一ヶ所を目指した。


「見に行っておいて良かった・・・!模型船が伝えた、あの浜だ」


 午後に確認へ出かけた、ある小さな島(※2874話参照)。

 バサンダの生家があるイヒンツァ・セルアン島より先で、海鳥の聖地があるアマウィコロィア・チョリア島からも離れた島。アマウィコロィア・チョリア一帯ではあるが、妖精エンエルスがいる島(※2713話参照)の向かい。


 模型船を頼りに探したその島は、人が住んだ気配がなく、何かの儀式に使われていたと分かる遺跡が点々とあった。あるのはそれだけで、家屋や道などもない、低い広がる島。

 博物館で聞いた伝説の件にはない詳細部分か・ここから小舟を出したとしたら、ニダをここまで連れてくるべきか、と思いながら・・・戻ったのだが。



「あそこなら、エンエルスの島まで()()()だ」


 夜の海を探すオーリン。エンエルスの島は、浮上しないと見ることも出来ないが、模型船が教えた島はちゃんと―――



「あれだ」


 ガルホブラフに教え、満ち潮で小さく見える島の表面へ滑空する。

 オーリンが島へ滑空するのと入れ違いに、反対方向へ桃色の風が抜けてゆく。海水に見え隠れする島には、少し高さの出た遺跡がある他、()()が一人。まるでそこにいるべき人物と、証明するような。



「ニダ!」 「オーリン!」


 滑空する龍の民が、片腕を伸ばす。足元を濡らしたニダがその手を触った。ぐっと力強く握りしめた弓職人が、細いニダをポンと上に放り、わっと声を上げたその体を、両腕で引き寄せて抱えた。


「オーリン!良かった・・・!ここどこか、私も分からないのに」


「俺は、()()()()()って言ったぞ」


 しがみついたニダは笑い、少し涙が滲む。ニダを両腕で抱えたまま、オーリンは龍に『船へ戻ってくれ』と頼む。

 無事、ニダの保護を完了―――


お読み頂きありがとうございます。

明日の投稿はお休みします。投稿が落ち着かなくて申し訳ないです。どうぞよろしくお願いいたします。


追伸 :読み直して、笑顔のマークに気が付きました。温かさを有難うございます。本当に嬉しいです。次も頑張ります。

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