Story 39 【声に出さずとも】
<--CNVL:お、これで見えてるかな?-->
<--Magi:見えてます見えてます。こっちも大丈夫ですか?-->
<--CNVL:大丈夫だね、いやぁこういうのもたまにはありだねぇ-->
いつも通りの墓場。
そして、いつも通りの時間。
天には月が輝いている、ものの。
僕達はお互いに言葉を発さず、スマートフォンに向かって指を動かしていた。
<--Magi:目の前にいるのにチャットで話すってのも中々ですけどね-->
<--CNVL:ほら、今じゃ少ないけれどネット弁慶っているだろう?-->
<--Magi:もしかしてそれってアレです?僕がネット弁慶的なものだと?-->
<--CNVL:あは。まぁ目の前に本人がいる状態でそうなったら面白かったけどねぇ-->
声を出さずに笑いながらこちらを見る姿に、少しだけ目を細めてしまう。
別に僕達2人のどちらかが声を出せないほどに喉がやられてしまったわけではない。
先輩のいつもの思い付きで「チャットで会話しようぜ」と言われたからそうしているだけなのだ。
個人的には、彼女の声には色々と乗せられているため……ただ話すだけならばこちらの方がありがたいということもあり、了承した。
チャット。
今使っているのはスマートフォンに入っているメッセージアプリではあるものの。
相手のアカウントさえ知っていて電波さえ通る所ならば、世界中どこでだってやり取りが出来るコミュニケーションツールだ。
僕が子供の頃はまだメールが主流だったことを考えると、時代って変わったなぁと少しだけ思ってしまう。
<--CNVL:一応聞くけど、コレって周りの監視の人たちどうしてるんだい?-->
<--Magi:視力を強化したり、僕が見ている視界を見たりと、色々な方法でこのチャット内容を確認してますよ。いつも以上に静かなんで眠そうにしてる人も多いですけど-->
<--CNVL:それはそれは。いやぁ、毎日申し訳ないねぇ私の為に-->
周囲から圧力のこもった視線が僕に突き刺さっているものの。
事実であるために、正直あまり威圧感はない。
<--Magi:そういえば、こうやって先輩とチャットで話すってのはあんまりしたことなかったですね-->
<--CNVL:あー。まぁ私達は基本的に会って話すか通話するかだしね。そっちの方が楽だし-->
<--Magi:確かにそうですね。レスポンスも早いですし-->
面と向かって話したり、声を聴ける通話をする。
僕と先輩のコミュニケーションは基本的には声を聴いての事が多い。
……うん、どっちかと言えばありだなぁ。
なんとなく、そう思う。
こうやって目の前で返信を書いている姿を見る事が出来る。
普段は見れない姿だからだろうか、それがとても貴重なものに感じた。
<--CNVL:うん、君も色々と満足そうだし、たまにはこういうチャットだけの日を作ってみようか-->
<--Magi:顔に出てました?-->
<--CNVL:出てたねぇ。もしかして君って、女の子がちまちまっとした作業をしてるの見るのが好きだったりするかい?-->
<--Magi:どうですかね……新鮮だからってのもあるかもしれないです。別に豪快な事してる人も好きですし-->
偽りない本音だった。
別に好きというわけではない。
ただ、これが定期的に行われるというのは賛成だった。
だって、
<--Magi:定期的にチャットで話すなら、その日は喉を練習で潰しても問題ないですよね-->
そう書いた瞬間、先輩が目を見開いて焦ったように周囲へと視線を動かしているのを見て、笑ってしまう。
「あっ、おい!声を出すのはルール違反だよ、魔女後輩!」
「ふふっ、すいません。カニバル先輩の反応が面白かったんで、つい」
「……定期的にチャットはするけど、練習はいつも通りの量にしてくれよ?」
「善処します」
静かだった墓場に、いつも通りの騒々しさが戻ってくる。
やっぱりこっちの方が良いな、と先輩の話を聞き流しながらそう思った。




