Story 32 【それを調え、処理するということ】
今宵は少しばかり、墓地の様子が違った。
というよりは周りの監視役の魔女たちの様子が、だが。
不思議に思いつつも、先輩が待っているであろういつもの場所へと近づいていくと、
「お、来たねぇ。丁度いい、座りなよ」
「……えぇっと?それは一体……?」
「あは、私特製のスープさ。最近寒いだろう?紅茶だけじゃ流石に温まらないから、こうやって作ってみたんだけど……あぁ、もしアレだったら周りの人も飲みに来ていいぜ?」
先輩が、キャンプで使うような調理器具を使いスープを作っていた。
見て見れば小さ目の鍋の中には、赤いスープが入っていて。
辛めのスープなのか、匂いを嗅いだだけで少しだけ鼻にクるものがあった。
「いや、待ってください待ってください。先輩、そのスープってどう作ったんです?」
「え?普通に作っただけだぜ?」
「……すいません、僕の質問が悪かったです。そのスープには人肉とかは入っているんですか?」
そう、先輩の料理……というよりは。
先輩が食べることの出来るものを考えると出てくる、当然の疑問。
それは、先輩が作ってくれる料理に人肉に類する……人間の材料が入っていないかということだ。
生憎と、僕にはカニバリズムの趣味はない。
一応普通の食生活をしているつもりではあるものの、先輩のように人を食べなければならないという祝福があるわけでもない。
少しばかり魔術を扱うことが出来るだけの普通の一般人なのだ。
「あぁ、そこか。大丈夫だよ、私用はこの後に作るからこれには入ってないさ」
「……良かった。貰いますね、スープ。器は出した方が良いですか?」
「出してくれると嬉しいね。……で、どうする?他の人も飲むかーい?」
先輩が周囲に呼びかけるように声をあげるものの、返事はない。
当然だ、今も僕に困惑の眼差しが向けられている程なのだ。
彼らの中から1人でも出てきたら奇跡と言えるだろう。
「しけてるねぇ。ほら、どうぞ。辛めのショウガのスープだよ。一応小さ目の普通の肉団子とか入れておいたから」
「ありがとうございます。流石にこの時期になると寒いですもんね、助かります」
「いつも色々用意してもらってるからね。これくらいはいいさ」
そんなことを言いながら新たに鍋をどこかから取り出して調理を始める先輩を見ながら、スープを恐る恐る口に運ぶ。
先輩が言ったように、辛めではあるものの、ショウガと中華風のスープが程よく身体を温めてくれる。
……普通に美味しいな……。
先輩の腕を疑っていたわけではないものの、今まで彼女の調理風景を見ていた側からすれば、味には少しだけ不安があったのだ。
それでも、ここまで普通に飲めるスープを出されてしまい拍子抜けしてしまった。
「良いですね、美味しいです。普段から料理するんです?」
「するねぇ。私の場合、確実に肉がメインの食材になるだろう?だから少しでも自分で工夫しないと飽きがきちゃってねぇ」
「成程、確かにそうですね……」
「その点、君が作ってきてくれる人肉入りのお菓子なんかは本当にありがたいよ。お腹も膨れるし人肉入りだから吐くこともないしね」
と、ここで1つ、気になることがあった。
今までスルーしていたものの、何故?というものだ。
「そう言えば、なんで先輩は人肉さえ入ってれば野菜とかでも食べれるんですかね」
「ん?あぁ、お菓子とかそういうのに入ってる他の食材か。……そういえば、何でだろう?」
「不思議ですよね。……少しだけ研究したいな」
「おいおいやめてくれよ、多分アレだぜ?人肉と混ざってるからってことで見逃されてるのさ、多分」
引いたようにこちらを見てくる先輩に、少しだけ笑ってしまうものの。
それすらも少しだけ怖いようで、後退りしているのをみて更に笑ってしまう。
「まぁ、実際日本には食材を清めるっていう調理法もあったりするので、もしかしたらそうなのかもしれないですね」
「あぁ、なんだっけ?調理人が食材に触れないように調理するって奴だろう?アレはアレで中々な調理法だよねぇ」
「そうですそうです。現代でもやってるのか分からないですし、そもそも先輩の祝福が許してくれるハードルがどの程度なのか分からないんで、推測でしかないんですけどね」
実際推測、いや……これは根拠も何もないために妄想の類。
だが、これが本当だったら先輩の食生活の幅が広がっていくんじゃないかと思い、心の中で静かに研究対象にすることにした。
当然だ、少しずつ少しずつ人肉を減らしていけるのならば、彼女の日課の量も減らせる可能性があるのだから。
「今度、身内集めて料理教室でも開きましょうか。カニバル先輩」
「お、いいねぇ。それなら君にお菓子の作り方を教えてくれた魔女さんも呼んでくれよ。魔女後輩」
「良いですよ、どうせなら人狼のアイツも呼びましょうか」
「あは、楽しくなりそうだねぇ」
そんな事を言いながら、今宵は話が進んでいく。
月はまだ天高く、しかしながら、少しずつ地平の先へ。




