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カニバル先輩と魔女後輩  作者: 柿の種


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Story 30 【その術とは】


魔術というものを語る時、錬金術という分野の話は度々あがる。

しかしながら、魔術と錬金術は似て非なるもの……という話は中々知っている人は少ない。


「……という事で、今回は魔術と錬金術の違いの話でもしていきましょうか」

「よろしく。といっても私はある程度知ってるぜ?元々錬金術ってのはその名の通り、金を精錬するための(すべ)だろう?」

「流石に博識ですね。そこから知らない人も結構いるんですよ?」


実際、錬金術がどういうものなのかというのを分かっていない人は多い。

そんな認識になったのはゲームや漫画といった娯楽文化が広がったから、というのもあるのだが。


「まぁまず錬金術のお話を。……錬金術っていうのは、先輩が言った通り、金を精錬する術、試みの事を言います」

「だよねぇ。じゃあよくゲームである錬金術ってのはどうなんだい?ほら、よくあるだろう?なんでもできる賢者の石、だっけ?あれとかは?」

「賢者の石とか自体はきちんと存在……というよりは現実の最大の目標として設定されてますよ。卑金属を貴金属に、人間を不老不死にする賢者の石は現代でも錬金術師の目標です」


そこまで言って、緑茶を口に含む。

久々に飲んだが、緑茶の程よい苦みも良いものだ。どこか心がほっとする。


「ほう、錬金術師。やっぱり居るんだねぇ」

「居ます……というよりは、前も言った通り」

「魔女の中の1部署みたいな感じなのか……成程ねぇ。そういえば君はどんな部署に所属してるんだい?」

「僕はそうですね……あ、言っていい?大丈夫?……なんかオーケー出たので言いますけど、魔女術……所謂ウィッチクラフトって言われる分野を専攻している部署に居ますね」


ウィッチクラフト。

おとぎ話に出てくるような魔女を想像してもらえれば分かりやすいだろうか。

アレが僕の専攻している分野の終着点だ。

(まじな)いであったり、占いであったり、製薬であったり。

それらに関連する知識、技術、そして信仰など全てをひっくるめた技術のことをいうのがそれ。


「まぁ、便利かと言われるとそこまで……なんですけどね。魔女術は」

「そうなのかい?結構凄そうに聞こえるけど?」

「言っちゃ悪いけど、汎用性がある代わりに専門化している分野には勝てないんですよ。言っちゃえば器用貧乏なわけで」


そう、だからこそ。

錬金術には何かに変換する術の精度で負けてしまうし。

自然魔術には製薬技術で負けてしまうし。

だが、それを補って余るほどの術の範囲があるからこそ、魔女術というのは現代まで生き残った分野でもあるのだ。


「まぁ、それ今は別にいいんです。錬金術の話なんで。……錬金術は、結局のところ魔術と何が違うのかと言えば」

「言えば?」

「目的が違う、としかいいようがないですね」

「目的が違う……か。ふむ、続けて」


先輩が先を促してくる為、そのまま一息吸った後に簡単に話していく。

と言っても、そこまで難しい話でもないのだ。


「魔術はそれぞれ個人の目的に沿って発展していくのに対し……錬金術の目的は1つ。賢者の石という万能の精錬素材を作り出す事なんです。個人としての目的ではないんですよね」

「魔術には集団での目的は存在しないと?」

「存在する以前の問題で、そもそも魔術を扱う魔女っていう存在自体が周りと手を組まないのを前提に動いていますから。『魔女』っていう組織ができている事自体が異常なわけですね」


そう、魔女たちは基本的に他人に配慮しない。

だからこそ、『魔女』という組織が出来たきっかけにもなった魔女狩りは起こってしまった。

人は違う者を、普通とは違う行動をする者を排除しようとするから。


だからこそだろう。

錬金術は、そういう意味では良いように世界に認められた。

誰もが夢みた、そこらの物から貴金属を作り出すという夢の術はこうして世界に認識され、そして忘れられた。

現実的ではなかったと。


「成程ねぇ……で、なんでこんな話をしたんだい?魔女後輩」

「いえ、この前知り合いから錬金術師に纏わる話を聞きまして。それを少し思い出しましてね。深い理由はありませんよカニバル先輩」


お決まりとなった合言葉を交わし、今宵の談合も終わりを告げる。


「そういえば知り合いって?」

「『決闘狂い』さんですよ。彼女が挑んだ所に錬金術に纏わるのが居たそうで」

「なぁるほど。最近区画で見ないと思ったらそんなことしてたのか。新しく作ったものとかの使用感聞きたいんだけどなぁ」


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