Story 28 【契約とは・前】
誰からも忘れられた郊外の墓場。
最近は少し騒がしい事で思い出され始めているそこに、今日も2つの人影が現れた。
片方は魔女のような姿をした男性。もう片方はジョギングでも行いそうなトレーニングウェアを着ている女性、ではあるものの。
その手に何か大きいものを持っていた。
「おや、今日は少し早いね」
「そっちは……あぁ、成程。今日は日課の日でしたか」
「そういう事。申し訳ないけど、先に血抜きと解体だけさせてくれ」
「いいですよ、じゃあこっちはお茶とかの準備をしておくので」
夜の闇に紛れ手に持っているモノが見えなくて助かったと思いながら。
僕はいつも通り茶会の準備を始めようとして思いつく。
どうせなら、先日新しく手に入れたものを使っていこうということで。
「よし、【契約に従い、我の願いを叶えよ】」
僕がそう言った瞬間、周囲に魔力が溢れ。
同時に空気が冬には似つかわしくない水気を帯び始める。
次の瞬間。
僕の首に巻きつくような形で、水色の透き通った蛇が出現した。
「おや、それは?」
「あー、所謂精霊って奴です。つい先日契約しまして」
「ほう?」
先輩は手を止めず、しかし視線をこちらへ……正しくは僕の首に巻き付くようにして現れた蛇へと向けていた。
それはまるで獲物を見つけた獣のようで、
「ダメですよ先輩。これは食べ物じゃないです」
「あは、私は躾の出来てないペットか何かかな?」
「似たようなものですよ。……っと。水霊よ、水を出してくれますか?」
僕の言葉に軽く頷き、僕の指さしたポットの方へと首をもたげ。
軽く口を開けた。
瞬間、蓋を開けたポットの上に水球が出現しその中へと落ちていく。
「ありがとう。還ってくれ」
軽く頭を撫でるように手をかざすと、そのまま空気中に溶けるようにして消えていく。
その様子を、目を輝かせながら見てくる人物が1人。
「……で、何が聞きたいんですか?」
「契約の仕方だね!私も同じように精霊と契約したいねぇ」
「あー、はいはい。まぁそこら辺を今日は話しましょうか」
魔術によって水をお湯へと変えつつ。僕は準備の出来たテーブルに着く。
「といっても、先輩は難しいと思いますよ。存在的に」
「まぁそう言われるだろうなとは思ったよ。でも知っておく事で何か変わる事もあるだろう?」
「そうですねぇ。……まぁ、契約したい精霊によって、その契約の仕方ってのは変わります。簡単に言えば、水を司る精霊の為に用意した物を土の精霊や火の精霊に与えても喜ばれない……みたいなものですね」
「あぁ、ゲームでよくあるよねそれ」
実際の所、ゲームのように簡単にいかないのだが。
それについてはここで語っても仕方ないものなので、そのまま流しておく。
「……まぁ、まず。こういう話で面倒そうな事になる前に言っておくと、これは僕の考えた意見であって、大衆の意見ではない考えではないってのを理解しておいてくださいね」
「そんな事分かってるぜ?」
「分かってない人もいるから一度言っておかないといけないんですよこういうのは」
一息。
「はぁ……この場合の契約ってのは悪魔や天使との契約とは違い、その人の魂ではなく魔力に紐づけられるものになります」
「……ふむ。魔力ってのは魂から引き出すもの、だっけ?」
「そうです、よく覚えてますね。魔力とは所謂生命力。火事場の馬鹿力ってのはこの生命力を無意識に使い身体を強化していることから起きるものです……とと。脱線しましたが、魂はその生命力を生み出すのが仕事な所があります」
「つまりは、生産所を押さえるか生産品を押さえるかの違いだね?」
「そういうことです」
生産所である魂を押さえ、それから出る利益を全てかっさらうか。
それとも生産されたものを受け取り、それだけで満足するか。
これが悪魔や天使、そして精霊との契約の違いだ。
「なので、契約をするときはその魔力をある程度引き出せない事にはまずできないということを覚えておいてください。先輩は問題ないですけど」
「あは、最近は便利に使えるようになってきたよ。【ほら、いい声だろう?】」
「一応言っておきますけど、それ効かないですからね」
「効いてもらっても困るけどねぇ」
そう、先輩は僕の所為である程度魔力を扱えるようにはなっている。
というか、最近はその技術も上がっていて。
前までは歌声に乗せる程度しか出来なかったはずなのに、今では普通に話している言葉に魔力を乗せ、今まで以上の効果を発揮できるようになっていた。
そのおかげで僕の方の耐性の引き上げなんかも行わなければならなかったため、色々と面倒だったのは今は関係ない話だ。
「魔力を引き出せるなら次のステップです。……というか、ここが一番の難関なんですけどね」
「ほう?それは?」
「簡単に言えば、その契約したい精霊を見つけられるかどうかって話ですよ」
「あぁー……そう言われればそうだよねぇ。対象を見つけられないんじゃ別のモノが来ちゃう可能性だってあるし」
先輩は自身の身体を擦りながらそう言った。
少しだけ話を方向性を間違えたかなと思いつつ、僕は紅茶を口に含み味わう。
今日の話はまだ長くなりそうだ。




