Story 14【回りまわって】
おくれました
「先輩に聞くようなことでもないんですけど」
「ん?なんだい?」
「……厄介なファンって、どう思います?」
今日も今日とて、誰も寄り付かない墓地にて。
魔法使い然とした姿をした僕と、ちょっとしたランニングにでもいけそうな姿をした先輩は向かい合って雑談をしていた。
といっても。
ここ最近は特に何か特別な事があるわけじゃない。
僕の魔女的活動があったわけでも、先輩の殺人鬼的活動があったわけでもないのだ。
しかしながら。
「厄介なファン、というと?」
「例えば……ほら、アイドルのSNSに対してセクハラにしか取れないようなコメントを送ったりだとか。その人の名前を自分のハンドルネームにつけているのに、他人の迷惑になるようなことをしたりだとか」
「あぁ、成程」
どの界隈にも、先駆者や人気者と呼ばれる者達は存在する。
一番分かりやすいのは動画投稿サイトの実況者達だろう。
彼らの投稿した動画を見て、最終的に彼らの事を好きになったり、一緒に遊びたいと思ったり。
一部熱狂的なファンならば、実況者に直接コンタクトを取ったりプレゼントを贈ったりなどするだろう。
そんな中。
人が集まるのだから、確実におかしい人も集まってくるのが世の常だ。
「なんだいなんだい?そんな厄介なファンにでも絡まれたのかい?」
「えぇ、まぁ。誰かさんのおかげですが」
「おや、面倒な相手もいたものだね。どうだい?私に話してみなよ」
……貴女の所為だよ。
僕の通っている大学の有名人である先輩は、事あるごとに学内で僕へとコミュニケーションをとってくる。
それも明らかに他とは違い親しげにだ。
「……分かってて言ってますよね?」
「まぁ、ね。いや、すまない。正直自分の人気を甘く見てたよ。……これもアレかな?私が無意識に魔力をばら撒いてたのかな?」
「恐らくはそうでしょうね……。いやまぁ、一応きちんとお話すれば分かってくれる方々ばかりなので大事には至ってませんけど」
一応は、だ。
魔女としての能力を使っているからこそ、怪我などはしていないものの、僕がそういった力がなかったら良くて病院送り程度にはなっていたのではないだろうか。
「んー。なんとかしたいけど、私が言っても止まらないよねぇそれ。現に今の今まで私のファン?が君にアクションを起こしてるの知らなかったわけだし」
「そうでしょうね……。この前なんて帰り道に複数人でつけられてましたよ。あれは流石に肝が冷えました」
ある程度集まった人間たちは、次第に上の言う事を聞かなくなっていく。
いや、聞いてはいるのだろう。そこから独自の価値観を加え、言われたことを自分に都合の良いように改変していくのだ。
統率がとれない分、宗教よりも性質が悪い。
その行動が回りまわって、本人……ファン達が崇めている側の不利益となろうとも。
彼らは関係なく実行する。被害を受けた側がどういう対応をとるのか理解せずに。
「おいおい、警察沙汰だろうそれ。大丈夫だったのかい?……まぁ怪我もないようだし大丈夫だったんだろうけど」
「えぇ。ちょっと路地裏に誘導して神秘的にお話しましたよ。怪我もさせてないですし、してないです」
「……まぁ、残当だね。怪我をさせたら何を言われるか分からないし」
「そういうことです」
実際、僕の対応も魔女的にはギリギリなのだ。
人の心理に影響する催眠系の魔術などを使い、僕に関わらないようにする。
下手すれば違和感を持たれて、魔術の存在自体が露見する可能性がある。
だからこそ、出来るならばこういった手は次回以降は使わずにすむようにしたいのだ。
「……で、どうしたらいいと思います?」
「諦めるか、私と行動を共にするかくらいかな。実際私が居ないタイミングでそういった事が起きるなら私が近くにいればそれは起きないってことだろう?」
「いや、でもそれって最終手段すぎません?というかその二つなら諦める方を取りたいですね……更に恨みとか買いそうですし」
「仕方ないだろう?私が言って止まる程度だったら君は困ってないだろうし」
「そりゃ……そうですけど」
事実、先輩が提案した案は悪くない。むしろ最善ともいうべき案だろう。
それに伴う僕の精神的負担を考えない場合だが。
「よし、じゃあとりあえず明日あたりからやってみるかい?魔女後輩」
「……こっちの意見は聞かないんですね、カニバル先輩」
「あは、最終的にはやることにはなるんだからどっちにしろ同じだろう?」
「……そうですね」
こうして、今日も夜が明け陽が昇る。




