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幕末へ タイムスリップ  作者: 英 亜莉子
元治元年3月
99/506

長州人を捕縛

「ったく、冗談じゃないっ!」

 部屋でブツブツと土方さんが文句を言っていた。

「どうしたのですか?」

 ブツブツと言っているのが気になったので、聞いてみた。

「新選組が、松平 春嶽しゅんがく公の暗殺を計画しているらしいと言う噂が流れていて、それが会津藩の耳にも入ったらしい」

 春嶽公は、新しく京都守護職に就いた人だ。

「なんでそんな噂が流れたのですか? あ、もしかしたら、春嶽公を暗殺したら、容保公が再び京都守護職になるから、また以前のような感じに戻れるかもって、思ったのですかね。それにしても、誰がそんな計画を練っていたのですかね。まさか、土方さん?」

「ばかやろう。俺がそんなことしてどうなる。第一、京都守護職が誰になろうと、俺たちは容保公の下で働いていることは変わりないことだろう」

 それはそうなんだけど。

「でも、陸軍総裁職お預かり新選組より、京都守護職お預かり新選組の方がなんかかっこよくないですか?」

「そんな理由で暗殺など思いつくわけねぇだろうがっ!」

 そりゃそうだ。

「それにな、噂だ、噂。本当にそんな計画を練っているわけねぇだろうがっ!」

「火のないところに煙は立たないって言いますよね」

「お前、暇そうだな。道場で稽古してやろうか? そうだな、口がきけねぇぐらいしごいてやろうか?」

 土方さんが、手の関節をボキボキとならしていた。

「あ、巡察の時間ですので」

 そう言って私は逃げた。


「ははは。そんなことがあったのか」

 一緒に巡察中の原田さんに、さっきのことを話したら笑われてしまった。

 巡察に行くときに、私が部屋の奥からあわただしく出てきたので、何があったのか気になったみたいで、周りに人がいない時を見計らって

「何かあったのか?」

 と、心配して聞いてくれたのだった。

「それにしても、変な噂が流れるな。まさか、会津もその噂を信じないよな」

「会津藩に限って、それはないと思いますよ」

 第一、大ごとになっていたら、歴史に残っていて、有名な事件になっているはず。

 私も、今回初めて知ったぐらいだから、これで終わるのだろう。

蒼良そらどうしてそんなことがわかる?」

「勘ですよ、勘」

 それが一番あてにならないって言われるかと思っていたけど、

「蒼良の勘なら、そりゃよくあたるだろう」

 と、原田さんは笑いながら言った。

 なんか、ばかにしているか?

 そんな話をしていると、一人の物乞いが視線に入った。

 あの人、山崎さんに似ているような……

 近づいて見てみると、目をそらされた。

 怪しい。そう思って、再び彼の視界に入るところに私が移動したら、また目をそらされた。

 やっぱり、怪しいぞ。

 しばらくその物乞いとにらめっこをしていた。

「おい、蒼良、何してんだ?」

 原田さんが近づいてきた。

「いや、この人、山崎さんに似ているなぁって」

「似ているも何も、山崎だろう」

「ええっ! なんで物乞いなんてしているのですか?」

「とりあえず、向こうに行こう。ここにいたら、山崎の仕事の邪魔になる」

 私は、原田さんに物乞いから離れた場所に連れていかれた。

 山崎さんの仕事?物乞いが?新選組は、物乞いをしなければならないぐらい、財布が苦しいのか?


「なんだ、そういうことですか」

 山崎さんから離れた場所で、山崎さんの仕事の事を原田さんが説明してくれた。

 山崎さんは、物乞いになって間諜の仕事をしている。

 と言うのも、長州人医師の息子さんが、ここらへんで医師の修業をしているらしいという情報が入ったからだ。

 親が長州人なら、その子供も長州人だろう。

 長州人は、京から追放されているので、ここにいること自体、罪になってしまう。

 同じ日本人なのに、追放とかおかしいなぁと思ってしまう。

 その情報が確実なものかどうか、物乞いのふりをして調べているらしい。

「でも、物乞いの格好をしてそんなことが調べられるのですか?」

「蒼良、よく見てみろ」

 原田さんに言われて、隠れて山崎さんを見ていた。

 山崎さんの前に一人の男の人がたった。

 お金を入れてもらうために置いてある鉢の中に何かを入れた。

「金と一緒に情報も入れているんだ。小さい紙も一緒にいれてただろう?」

 なるほど、そういうわけなんだ。

「山崎さんは、そうやって情報も集めているのですね」

「奴はそれが仕事だからな。この場所も、その長州人が通るところらしいしな」

「場所も考えて物乞いしているのですね」

「蒼良、本当に物乞いしているわけじゃないからな」

 そうだった。

 そして私はいいことを思いついた。

 筆で字を書くことが苦手な私も、最近、矢立やたてと言う現代で言うと筆箱のようなものを持つようになった。

 そこから筆と紙を書いて、文字を書いた。

 書き終わると、お金をもって山崎さんに近づいた。

 山崎さんは、私が紙を持っているのを見て、驚いていた。

 何かの情報を私が手に入れたと思って驚いているのだろう。

 紙とお金を鉢に入れて、そのまま原田さんがいるところまで戻った。

「蒼良、何してきたんだ?」

「それは、内緒です」

 そう言いながら、かげから山崎さんを見てみると、ちょうど私が入れた紙を広げてみていた。

 ふっと、山崎さんが笑っているように見えた。

 作戦、大成功かも。


 土方さんに部屋に呼ばれたので行ってみると、山崎さんもいた。

「えっ、ばれたのですか?」

 私が言うと、土方さんが

「お前、また何かやったのか?」

 と言ってきた。えっ、ばれてないのか。

「なんだ。ばれて怒られるかと思いましたよ」

「そういうようなことをお前はやったのか?」

「い、いや、何もしてませんよ」

「でも、お前の口調が怪しい」

「嫌だなぁ。なんでも怪しがるのは土方さんの悪い癖ですよ」

「で、何をしたんだ?」

「私は、物乞いをしている山崎さんに、頑張ってと紙に書いてそれを入れただけですよ」

「お前、そんなことをしていたのか?」

 必死に隠していたのに、簡単に話してしまった自分にショックを受ける自分。

「じ、邪魔はしていませんよ」

「確かに、邪魔はしてねぇ。邪魔はしてねぇが……」

「副長、私が悪いのです。私がすぐわかるような格好に変装していたから」

 山崎さんが間に入ってきた。

「山崎さんの変装はわからなかったですよ。私、何回も見ちゃいましたもん」

「お前、もしかして、立ち止まってみたとか?」

「はい。じっくり見させていただきました」

「ばかやろう。それが邪魔しているんだ」

 はい、すみません。

「副長、話があったのでは?」

 山崎さんがそう言うと、土方さんが思い出したように言い始めた。

「そうだった。山崎のおかげで、長州人の修行している医院がわかったぞ」

「それは、よかったですね」

「それでだな。山崎とお前に、医師見習いとしてその場所に潜入してほしい」

「えっ、私ですか?」

「そうだ、お前だ」

「私は、医師の心得がないし……」

「そんなことは見てわかっているから、安心しろ」

 いや、安心できないから。

「で、いつから潜入すればいいのですか?」

「できるだけ早く頼む。こちらも、早く手をまわしておく」

「わかりました」

 山崎さんと土方さんで話を進めたけど、そこに私の意思はあるんかいっ!

「あっ! わかりました。なんで土方さんが私を指名したか」

「なんだ?」

「山崎さんと夫婦役で入れとか言うんでしょう?」

「いや、今回はお前もそのままで潜入しろ。女装の必要はない」

 えっ、そうなのか?

「すぐにばれますよ」

「意外とばれねぇかもしれねぇぞ」

 ほ、本当か?


「蒼良さん、この部屋は終わりました。次の部屋に行きましょう」

 医院に侵入して数日がたった。

 今回の任務は、長州人医師の息子さんがこの医院で修行してるとのこと。

 その人物が、本当に長州人かどうか確かめ、それが判明したら、捕縛をすること。

 私は、山崎さんの付き添いのつもりで侵入したのだけど、その疑惑の人物と一番接触があるのが私だった。

 と言うのも、山崎さんと私は医師見習いで修行のために入ったのだけど、山崎さんは、鍼灸師なので多少の医学の心得があるのだ。

 だから、見習の中でも、医師に近い位置にいる。

 常に先生と一緒にいるような状態だ。

 ちなみに私は、医師の心得が全くないので、疑惑の人物と一緒に見習いのそのまた見習いみたいな感じでいる。

 そんな私たちの仕事は、部屋の掃除などの雑用だ。

 医院なので、入院治療できるような部屋がいくつかある。

 今はほとんどが空き部屋だ。

 この時代は家で休養して家族が面倒を見る人が多い。

 だから、今掃除をしている部屋も、災害か何か起こらない限り使うことはないだろう。

「次は、この部屋です」

 この疑惑の人物、名前を伍助さんと言う。

 伍助さんが、障子戸を開けた。

 医者の息子なら、多少の医学の知識があってもいいだろう。

 だから、私が一緒に行動することになってしまったではないか。

 そんなことを考えながら、この日も掃除をする。

 これが終われば、ようやく先生の横について患者さんを診ている先生を見て勉強する。

 これがすごくつらくて、睡魔との戦いだ。

「蒼良さんは、医師になろうと言う気合が足りない」

 伍助さんにたまに文句を言われるが、そもそも、私は医者になるためにここにいるのではない。

 あんたが何者か調べるためにいるんだ。とっとと本性を現しやがれっ!

「ここも終わり。後一部屋です」

 伍助さんと部屋を出て障子戸を閉めた。

 隣の部屋の障子戸を開けようとしたら、伍助さんに止められた。

「どうしたのですか?」

「ここは、労咳の患者がいる」

「なら、なおさら部屋に入ってお世話しなければならないですね」

「いや、この部屋はいいと思う」

「なんでですか? 患者さんがいるのでしょ?」

「労咳はうつるから」

 そんな理由で患者を放置するのか?うつるからという理由で患者を放置する伍助さんこそ、医者になる気があるのか?

 私が伍助さんを無視して障子戸を開けようとしたら、また止められた。

「労咳をうつされたら、大変だろう?」

 それで、ブチッと私の中の何かが切れた。

「労咳が怖くて、医者になれますか? 怖いなら、医者にならない方がいいですよ」

「でも、うつったら治らないのだよ」

「うつらなけりゃいいでしょう! 私は絶対に労咳なんてならないですからっ! 失礼します」

 伍助さんの制止を振り切って、障子戸を開けて中に入った。

 BCGと言う結核予防ワクチンを打っているので、労咳にならないというのは嘘ではない。

 今、この時代にいる人間の中で、一番結核にならない人間じゃないかと思う。

 障子戸を開けて部屋に入ると、痩せこけた一人の男性が、桶を手にもって咳き込んでいた。

「大丈夫ですか?」

 私は、背中をさすってあげた。

 背中は、骨と皮だけだった。

 労咳って、こんなに痩せるのか?背中が熱かったから、熱も相当高いだろう。

 沖田さんも、こういうふうになってしまうのか?

 桶を見たら、血が入っていた。真っ赤な血だった。

 男性の咳がおさまったから、静かに布団に寝かした。

「桶の中を綺麗にしてきますね。そのあと、体でも拭きましょうか?」

「いや、あなたにも病気がうつってしまう。この部屋の外にいる人の言う通り、この部屋に入らない方がいい」

 男性は、申し訳なさそうに言った。

 伍助の野郎っ!会話が中に筒抜けになっていたじゃないかっ!もうちょっと患者に気を遣えないのかっ!

「話を聞いていてわかったでしょう。大丈夫です。私は労咳なんてなりませんから」

「何を根拠に?」

 BCGの話はできない。まだこの時代にはないのだから。

「労咳の方が私のことを嫌っているみたいです。だから、私の心配より、ご自分の心配をしてくださいね」

 私は、桶を綺麗にするために外に出た。

 近い将来の沖田さんを見ているようで、悲しかった。

 予防できるものなら、予防しなければ。


「蒼良さん」

 労咳の患者の看病が終わり、部屋の掃除も終わり、いよいよ先生の実地授業だというときに、山崎さんに呼び止められた。

「何ですか?」

「労咳の患者の部屋に入っていったって、本当ですか?」

 伍助の野郎っ!山崎さんに言いつけたなっ!って、そんなことを思う私って、小学生か?

「本当です。病気で寝ている人をほっとけないでしょう」

「でも、我々の仕事は、看病じゃなく間者です。副長からも無理はさせるなと言われているので、蒼良さんがそれで労咳になるようなことでもあれば、大変です。今後は危険なことはしないでください」

「でも、咳していて苦しそうだったので」

 私が言うと、山崎さんはなぜかふっと笑った。

「副長の言う通りですね」

 土方さんが何か言っていたのか?

「蒼良さんは、間者には向いていない。しかし、現場に潜入したら、その役を演ずるのではなく、自らその役になってしまうところがあるから、私の役に立つだろうと言っていました」

 そうなのか?

「まさにその通りですね」

 山崎さんが優しく笑った。

「でも、無理はしないでください。危険なことも。約束してください」

「わかりました」

 これ以上、山崎さんを心配させてはいけないなと思った。


「蒼良さん、あなたと話がしたい。一緒に飲みに行きませんか?」

 疑惑の人物、伍助さんから誘われた。

 飲みに行くぐらいなら、危険はないだろう。

「いいですよ」

 ところで、話って、何だろう?


 居酒屋に入った。お酒を数杯頼んだけど、飲んだのは伍助さんで、私はいつものとおり飲まなかった。

「伍助さん、話って何ですか?」

 話があるって言っていたけど、さっきから話らしい話はない。

「そうそう。昼間の蒼良さんに言われて目が覚めました」

 なんか、目の覚めるようなことを言ったか?

「労咳の話です」

「ああ、あの事ですね」

「労咳を怖がっていたら、確かに医者になれませんね。反省しています」

「いや、でも、伍助さんは労咳になることもあるので、気を付けてくださいね」

「蒼良さんがならなくて、私がなるって、その違いは何ですか?」

 なんですかと言われても……

「医学的に説明を」

 説明をと言われても……

「労咳になると思っているからなるのですよ。ならないって暗示をかければなりません」

 自分で言っていて、いい加減なことを言っているなと思った。

 これで本当に労咳にならなければ、沖田さんは絶対に労咳にならなかっただろう。

 でも、伍助さんには、労咳の患者から逃げるような医者になってほしくなかった。

「なるほど、そういうわけですね。わかりました。故郷に帰ったら、さっそく実践してみます。あ、明日からでもできますね」

 予想外に、伍助さんから故郷の話が出た。

 故郷に帰ったら……故郷って、長州か?

「伍助さんの故郷って、どこですか?」

 ドキドキしながら聞いてみた。

 長州とかって言ったら、どうすればいいのだろう。

 伍助さんは、きょろきょろと周りを見渡してから、顔を近づけてきた。

「大きな声では言えないのですが……」

 伍助さんが小さい声で言ったので、私も耳を近づけた。

「実は、長州なんです」

 ビ、ビンゴじゃないかっ!これを聞いた私にどうしろと?捕縛しろと?いや、いきなり捕縛はできないだろう。

「驚きましたか?」

 驚いたも何も、私は腰が抜けそうなのですが。で、私にどうしろと?

「あの政変以来、長州は京から追放されているので、ここに私がいるだけで罪なことになってしまうのです。でも、なんで長州人と言うだけで、医者になる修行が長州以外のところでできなくなるのでしょう。おかしいと思いませんか?」

「確かに、長州の人も同じ日本人なのに、それだけで京に入れないのはおかしいと思います」

「蒼良さんも、そう思いますか」

「しかし、それだけ悪いことをしたのだから、当たり前と言えば当たり前だとも思います」

「なんだって?」

「伍助さん、今は肩身が狭いかもしれない。でも、近い未来、必ず長州の人たちが京の町を歩けるときが来ます」

 だって、現代はみんなあたり前に京の町を歩いている。

「だから、今は故郷に帰って、故郷でできることをした方がいいと思います」

「蒼良さんは、本当にそういう日が来ると思っているのですか?」

「思っています。新選組にいる私が言うのです」

「新選組って……」

「伍助さん、すみません。伍助さんも話してくれたので、私も話します。伍助さんが長州の人間かどうか調べるために、間者として医院に潜入して捜査していました」

 土方さん、やっぱり私は間者に向かないですよ。簡単に自分の身を明かす間者なんていないでしょう?

 伍助さんは、私の告白に驚いて口もきけない様子だった。

「私は、伍助さんが長州の人間だとわかった時点で捕縛するようにと命令されました。でも、捕縛したくはありません。短い期間だったけど、一緒に働いた仲間を捕縛したくないのです。しかも、伍助さんは長州人と言うだけで悪いことは何もしていません。ここら辺を歩いている自称攘夷浪士の方が悪いことしていますよ」

「蒼良さんは、新選組なのに、変わった考えをお持ちですね。それに、間者があっさりと自分の身分を明かしてもいいのですか?」

「伍助さんが長州人だと自分で明かしてくれたから、私も明かしました。伍助さんだけ明かして、自分は黙っているってなんか卑怯じゃないですか」

「蒼良さんは、やっぱり面白い」

 よく言われます。

「わかりました。蒼良さんが言う近い未来を信じましょう」

「ありがとうございます」

 これで捕縛しなくて済むと思ったら、なんと、捕縛することになってしまった。

「捕縛して、京都奉行所に連れて行ってもらえたら、長州に護送されるでしょう。長州まで護送されなかったとしても、途中まではしてもらえるでしょう」

 それがどうかしたのか?

「旅の料金がそこまでただで行けるでしょう」

 伍助さんは、ケチだったのか?それぐらい自分で出せよ。そう思って自分で帰るように説得したけど、どうしても捕縛してほしいというから、捕縛した。

「大丈夫です。蒼良さんを恨むことはないですから」

 これで恨まれたら、私は怒るぞっ!


「蒼良が、意外にも間者に向いていたとはな」

 屯所に帰ったら、土方さんに言われた。

「向いてないですよ」

「でも、長州人を一人で捕縛したじゃないか」

 あれは、たまたま相手がドけちだっただけです。

「運がよかったのですよ」

 ドけちだったなんて言えないので、そう言ってごまかした。

「また何かあったら、間者をしてもらうかもしれねぇな」

「絶対に嫌です。もう二度と間者は御免です」

 今回は、本当に運が良かっただけ。

 自分の身分を簡単に明かすようじゃ、絶対に間者になんかなれない。

「お前、何があったのか?」

 土方さんは心配そうに聞いて来た。

 まさか、自分の身分を思いっきり明かしましたなんて言えない。

「な、何もないですけど、自分には向いていないことはよくわかりました」

「そうか。そこまで言われたら頼めねぇな。もしかしたら、お前の好きな温泉宿に潜入とかあるかもしれねぇのにな」

 えっ!そんな話があるのか?

「あ、じゃあ、その仕事だけ受けます」

 そう言ったら、ばかやろうという声とともにげんこつが落ちてきた。

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