近藤さんと沖田さんを救え
不動堂の屯所を後にした私たちは、伏見に移動した。
それから、山崎さんたちが伏見奉行所へ偵察に行ってから、伏見奉行所に待機することになった。
伏見奉行所の警備を言つけられていたので、ただいればいいと言うものではない。
だからいつ何があってもいいように、奉行所の中はあわただしい雰囲気になっていた。
なんか、落ち着かないよなあ。
「しょうがねぇだろう。非常事態だ」
土方さんは私にそう言った。
確かに、非常事態だ。
私たちを雇っていた会津藩や、そのもととなっていた幕府まで無くなってしまったのだから。
大政奉還をした慶喜公。
でも、これはただ大政奉還をしたというだけの話で、幕府はないけど、政治はいつも通りだからという感じだった。
それに危機感を感じたのは、薩摩と公家の岩倉具視だった。
彼らは組んで、王政復古の大号令と言うものを出した。
それは、幕府の権力を徹底的につぶすものだった。
官位と官職そして領地までとられた慶喜公は、抵抗するかと誰もが思っていたが、それをあっさりと受け入れ、大坂へ行った。
それに納得できないのは、会津藩や桑名藩を中心とする幕府派の人たちだ。
薩摩を討つっ!とまで盛り上がったのだけど、慶喜公に説得され、みんなで大坂に入った。
新選組は二条城で最後まで警備をしてほしいと言われたのだけど、それも混乱の中での命だったので、同じ命を受けた水戸藩士たちと衝突した。
こんな時にあらそっている場合じゃないんだけどね。
新選組の方も、慶喜公が大坂に入った後の重要な任務だと言う事で引き受けたから、それなりにプライドがあったんだよね。
それも、若年寄の永井さんと言う人が謝り、代わりに伏見奉行の警備を頼むと言われたので、先日、伏見に来たというわけだ。
そして現在に至る。
それにしてもあわただしいぞっ!
「そう言えば、年末なんですよね」
ふと気がついた。
年末だ。
「そうだ。年末だ」
「大掃除は……」
「却下っ! ここの大掃除をしても仕方ねぇだろう。住んでいるわけではねぇんだ」
そうなんだよね。
「あと、お餅は? 八木さんもお餅つきを待っていると思いますが……」
「却下に決まっているだろう。八木さんだってこっちの事情は知っているさ」
そうだよね。
結構な大事件だもんね、今回の事件は。
「お前、こんな時によく正月のことを考えられるな」
えっ、そうなのか?
「だって、年末じゃないですか。だからお正月のことも考えないと」
「それ考えているのは、多分お前だけだからな」
そ、そうなのかな?
そう思って周りを見回した。
みんな、バタバタと走り回っていた。
うん、そうかもしれない。
来年は年明け早々に戦があるから、その前にお正月をとも思ったのだけど、無理そうだな。
*****
退屈だなぁ。
近藤さんの妾宅である楓さんの家の天井を見てそう思った。
みんなは伏見へ行った。
当然、僕も一緒に行くつもりだった。
しかし近藤さんに、
「総司は具合が悪そうだから、後からゆっくり来い」
と言われた。
自分では具合が悪いつもりはないんだけど、周りの人間から見たら僕は具合が悪いらしい。
以前より疲れやすくなったし、たまに血を出すだけだ。
それのどこが具合悪そうなんだ?
「大丈夫です。一緒に行きます」
と、僕は言ったけど、
「ちょっと休んでから来いって言っているだろう。誰も来るなとは言ってねぇ。だから休んでから来い」
と、土方さんに言われてしまった。
「そうだ、歳の言う通りだ。休んでから来い。待っているから」
「いや、一緒に……」
「総司。今回は急なことで伏見へ行けと言われたが、どうなるかわからん。病気のお前を引っ張って歩く余裕はねぇんだ」
土方さんにそう言われてしまった。
昔からそうだったよなぁ。
近藤さんが言えないでいると、土方さんが代わりに言う。
それも、人を傷つけてしまうかもしれないことに限ってそうなのだ。
だからいつも土方さんが悪役になる。
今回もそうだ。
「総司、お前の剣の腕を期待している。だから、休める時に休んで、いざというときに動けるようにしてほしい」
そう言う近藤さんに、いつまで休めばいいのですか?と言いそうになったが、それを言ったら、また土方さんが嫌な役目を引き受けることになる。
「わかりました。僕はゆっくりと行きますよ」
そう言うと、二人はホッとした顔をした。
その次の日に、僕はここへ。
新選組は伏見へ向けて旅立った。
旅立ちが忙しいものだったというのはわかっている。
けど、報告がないのはどういうことなのかな?蒼良。
きっと、僕への報告を忘れるぐらい動き回っているのだろう。
それはわかっているんだけど、やっぱりこうやってほっとかれると寂しいもんだなぁ。
今度いつ蒼良に会えるんだろうか?今度会ったら、どうやっていじめてやろうかなぁ。
きっと、恐る恐る、そこの襖をあけてそろっと顔出してくるんだろうなぁ。
その姿を想像して、思わず笑ってしまった。
それにしても、天井をながめるだけの生活もつまらないなぁ。
次に目を覚ました時は、蒼良がのぞきこんでいるかもしれない。
そう思いながら、僕は夢の中へ入って行った。
*****
それにしても、ここはあわただしいなぁ。
そんなことを思っていると、土方さんが近藤さんを見送っていた。
「近藤さん、どこかへ行くのですか?」
馬でさっそうと出かけていったけど。
「ああ、二条城で軍議があるらしい」
そうなんだぁ。
「それにしても、護衛が少ないような気がするのですが……」
ふと、そう思ったのだ。
京は伏見から近いけど、幕府が無くなった後で治安も悪くなりつつある。
そんなところに近藤さんが行くなら、もっと護衛をつけたほうがいいと思うのだけど。
「俺も、もうちょっと連れて行けって言ったんだが、隊務に支障が出ては困るだろうからって言って聞かなかった」
そうだったんだぁ。
それにしても、なんで私が護衛が足りないなんて思ったんだろう?
何かがある……のかな?
しばらく考えていた。
「あっ!」
思い出したっ!
「なんだよ、いきなり大きな声出すな。驚いたな」
土方さんに怒られたけど、そんなことを気にしている場合じゃない。
「近藤は襲撃されるぞっ!」
私が言おうとしていたことを誰かに言われた。
誰だ?と思っていたら、お師匠様がいた。
「それは確かな情報か?」
土方さんがお師匠様につめ寄っていた。
「本当です。近藤さんは軍議を終えて二条城からここへ帰る途中で襲われます。場所は、確か……」
「伏見街道の墨染じゃ」
お師匠様、私のセリフをっ!
「墨染めって、すぐそこじゃねぇか。誰が近藤さんをやるんだ?」
確か……。
「御霊衛士の残党だ」
あ、また私の言葉を。
「くそっ、あの時残党を根絶やしにしておけば……」
土方さんは悔しがっていたけど……。
「悔しがるのはまだ早いです。近藤さん襲撃を阻止できるかもしれません」
「本当か?」
土方さんは私を見た。
私はうなずいた。
「よし、わかった。まずどうすればいい?」
土方さんは私とお師匠様を見た。
「まず、墨染めあたりに隊の人間を何人か置いておくといいだろう。そのうちに御陵衛士の残党が来るから、来たら斬ればいい」
斬ればいいって、相手は確か銃を持っていなかったか?
「わかった。今から隊士を何人か墨染めあたりに配置する」
「永倉を中心に配置したほうがいいじゃろう」
私の心配をよそに、話はどんどんと進んでいった。
そして、土方さんは永倉さんたちに墨染周辺に御陵衛士の残党が来るという情報が入ったから、見つけ次第斬るようにと命じた。
これで安心だ。
「蒼良、安心するのはまだ早いぞ」
お師匠様がそう言った。
そうなのか?
「沖田はどうした?」
「沖田さんは、楓ちゃんの所でお世話になっています」
「そこにも御霊衛士の残党が行くぞ」
あ、その話は知っている。
「でも、刺客が行ったときは、すでに出た後でいなかったという話を聞いたことがありますが」
だから、沖田さんは大丈夫だろう。
「甘いぞ」
お師匠様がそう一言言った。
ど、どこか甘いの?
「まず、歴史は少しずつだが変わっている。それを証拠に油小路の時だって、藤堂と伊東の仲間割れは実際はなかったのに、今回はそれがあった」
そうなのだ。
歴史ではとっても仲のよかった二人なんだけど、私たちが実際にかかわった時はなんと仲間割れをしていた。
お師匠様はそれは私たちが歴史を変えたせいでこっちも変わったんだろうと言っていた。
「お師匠様は、歴史では沖田さん襲撃はなかったけど、今回もしかしたら襲撃されるかもって思っているのですか?」
「可能性はあるじゃろう。歴史は変わっているんじゃから」
そうかもしれない。
どうしよう?沖田さんはいつ襲われることになっているんだ?
あわてて時間を確かめようとしたけど、何時に襲われるとかまでわからないじゃないかっ!
「落着け、蒼良。まず、馬に乗って京の楓の所に行け。馬でなら何とか間に合うじゃろう」
そ、そうなのか?
ああっ!でもっ!
「お師匠様っ! 私は馬に乗ったことがないのですっ!」
「この役立たずがっ!」
うっ、ごめんなさいっ!
と、一瞬思ったけど、お師匠様こそ何もしてないじゃないかっ!
「いいか、わしらのことを知っている隊士を連れて行け」
私たちが未来から来たことを知っている隊士と言う事だろう。
土方さんは副長だから、局長である近藤さんがいない今、連れ出すわけにはいかない。
他には?藤堂さんはもう私たちの時代に行ってしまった。
誰かいる?
あっ!
「原田さんがいました」
そうだ、原田さんは私たちの事情を知っている。
「よし、原田を連れて行け。わしは墨染の方を何とかしよう」
「お師匠様、お願いします」
いっぺんに二つのことを一人で阻止するのは無理だ。
近藤さんの件はお師匠様に頼もう。
「お前にこれを渡しておく」
そう言って渡されたのはピストルだった。
これは、近江屋事件でも使っていたおもちゃのピストルだろう。
レバーを引くと火薬がパンッとはじけるものだ。
音だけは鉄砲級だけど、玉が出ない。
でも、脅しにはこれで充分だ。
「相手は銃を持っとるかもしれんからな」
近藤さんを襲撃した犯人たちも銃を持っていた。
沖田さんの方だって、銃を持っているだろう。
「わかりました」
私はお師匠様からピストルのおもちゃを受け取った。
それから原田さんに頼み、馬に乗って一緒に京へ行った。
「原田さん、馬に乗るのが上手ですね」
いつだか、沖田さんにも乗せてもらったことがある。
あの時は、ものすごいスピードを出して行ったよなぁ。
怖かったとしか覚えがないけど。
「そうか? 実は俺も今まで馬に乗ったことがないんだ。簡単に乗れるもんだな」
そ、そうなのか?
*****
今日は少し調子がよかったから、起き上がって庭を眺めていた。
それでも暇なのには変わりない。
それにここは少し静かすぎる。
屯所にいた時は、絶えず誰かの声がしていた。
その声を聞きながら過ごすのもいいものだった。
近藤さんは静かだからここがいいだろうと言う事でここに置いてくれたんだと思うけど、静かすぎる。
「今日は大丈夫どすか?」
楓さんがお盆に湯呑置きに来た。
喉が乾いたら飲むようにとのことなんだろう。
楓さんはとても良くしてくれた。
決まった時間に顔を出して様子を見てくれる。
蒼良とは正反対だ。
蒼良は自分が気がついた時しか来ないもんなぁ。
今だって、まったく来る気配もない。
きっと伏見であわただしく過ごしているんだろう。
僕のことなんて忘れて。
そう思うと、蒼良に会った時にどうやって意地悪をしてやろうかと考えてしまう。
本当は会いたいのに。
意地悪をしても、蒼良は受け入れてくれるから、だから、安心していじめることが出来るんだけどね。
それも少し違うか。
「沖田はん?」
そうだ、楓さんに聞かれていたのだった。
「今日は調子がいいです。だからしばらく起きています」
「そうどすか。具合が悪うなったらいつでも言ってください」
そう言って楓さんは部屋を出た。
本当に、蒼良と正反対だ。
*****
京に入り、すぐに楓ちゃんの家へ行った。
そう言えば、沖田さんがこのときにお世話になる家だって、変わっているんだ。
本当は楓ちゃんの所じゃない。
だから、変な方向に歴史が変わってもおかしくないんだ。
なんで気がつかなかったんだろう。
落ち込みそうになるけど、今はそんなことを考えている場合じゃない。
家にいないでほしい。
どうか、伏見へ向かっていてほしい。
そう言う願いを込めて楓ちゃんの家の戸を開けた。
「あ、蒼良はん、いらっしゃい。今日は他の隊士はんも一緒なん?」
楓ちゃんに笑顔で迎えられた。
楓ちゃんはいい。
沖田さんはいるのか?
「沖田さんは?」
いないでほしい。
そう思って聞いたけど、
「沖田はんなら、今日は調子がええって言って起きとるよ。知らせようか?」
そう言って楓ちゃんは奥へ入って行こうとしたけど、それを止めて、私たちは沖田さんの部屋へ入って行った。
襖を開けると沖田さんが布団の上で起き上がっていた。
「なんだ蒼良か。なんで黙って開けるんだい? いつもはいますか? って聞いてくれるのに」
沖田さんは私たちを見てそう言った。
これは、例のごとく、いじけモードか?
そうだよね、挨拶もなしに伏見に行っちゃったもんね。
何も言わずにおいて行ってしまったんだから、いじけるのもわかる。
でも、今はそんなことをしている場合じゃない。
「沖田さん、今日は伏見へ行こうとかって思わなかったのですか?」
歴史は変わってしまったのだろうか?
「蒼良、会って早々に何言っているの? 言わないといけないことがあるでしょう?」
伏見へ行こうと思わなかったらしい。
と言う事はやっぱり変な方へ変わってしまったんだ。
「総司、今からかごを用意するから、それに乗って伏見へ行こう。体調は大丈夫か?」
原田さんには、これから起こるかもしれないことを馬に乗りつつ説明した。
だから、原田さんも早くここを出なければとあせっている。
「今日はどうしたの? 二人ともおかしいよ」
沖田さんが変に思うのもわかる。
だって私たちはあせっているのだから。
「説明も、弁明も、後でまとめてします。だから今は、早く伏見へ行きましょうっ!」
刺客が来ないうちに。
「あんさんら、一体なんなん?」
楓ちゃんの声が玄関の方から聞こえてきた。
もしかして、刺客が来たのか?
「蒼良っ!」
原田さんは目で来たのか?と訴えてきた。
ドカドカドカと、乱暴に歩く足音がいくつも聞こえてきた。
「三人だ」
足音で人数がわかった原田さんがそう言った。
「まったく、今日はみんな乱暴だね」
そう言いつつも、沖田さんの手には刀がにぎられていた。
「沖田さんは、休んでいてください」
ここで無理して病気が悪化したらどうするのだ?
「こんな状態で休めないでしょ」
それもそうなんだけど……。
「ほら、来るよ」
沖田さんがそう言うと、バンッと言う音とともに襖があいた。
原田さんの言う通り、三人いた。
阿部さんと内海さんと佐原さんだ。
三人とも、御陵衛士にいた人たちであり、新選組にいた人たちだ。
「人の家に来るときは、礼儀正しくって教わらなかったの?」
沖田さんはそう言いながら刀を鞘から抜いた。
原田さんも槍をかまえている。
刺客は沖田さんの言葉なんて聞いていないだろう。
それを同時にとびかかってきた。
沖田さんは一人を三段突きで倒した。
病気なのに、刀の腕は落ちていない。
思わず見とれてしまった。
阿部さんたちも、刀じゃかなわないと思ったのだろう。
同じ新選組にいたんだから、沖田さんに刀を持たせたらどれだけ強いのかわかっているだろう。
だからか、銃を出してきた。
これは、お師匠様から借りたこれの出番じゃないか?
私はふところからおもちゃのピストルを出した。
まさか、新選組から銃が出ると思わなかったのだろう。
阿部さんたちは驚いていた。
「この銃は、そこら辺にある銃と違いますよ。連打しますからねっ! 試しに撃ちましょうか?」
私はそのすきを突いてそう言ってから、引き金を引いた。
なんか、前より重さも重いような気がしていたんだけど、それも気のせいだよね。
だって、前と同じようにパンパンパンッ!と派手に音がしているもん。
「今度は本当に撃ちますよ。下手な鉄砲は数撃てば当たるって言いますよね」
そう言ってから脅したけど、相手も銃を向けてきた。
脅しが効かないみたい。
でも、おもちゃだとばれていないから、撃ってしまえっ!
私は引き金を引いた。
あっちこっちへ銃を向けて撃った。
すると、相手の銃が飛び、みんな逃げ去っていった。
銃まで投げ捨てて逃げるとは。
「蒼良、その銃、どこで手に入れた?」
原田さんは、刺客たちが投げ捨てた銃を拾いながら原田さんが聞いてきた。
「お師匠様からです。あ、でも、おもちゃですよ」
火薬付きの。
そう言おうとしたら、
「え、おもちゃ?」
と、二人とも驚いていた。
「本物そっくりでしょう? 音まで出るのですよ」
試しに撃とうとしたら、
「蒼良、やめたほうがいい」
と、原田さんに止められた。
そんなに怖いのかな?
「蒼良、本当に偽物だと思っている?」
沖田さんが私の握っているピストルを見ながらそう言った。
えっ、おもちゃだよね。
「それ、本物だ。ここを見て見ろ」
原田さんが言われたところを見て見ると、血がついていた。
「蒼良が撃った銃が刺客の手にあたり、銃を落として言ったんだ」
原田さんが血と刺客が落して言った銃を見てそう説明してくれた。
そ、そうなのか?
ほ、本物なのか?
柱を見ると、鉄砲の弾が入り込んでいた。
ほ、本物だぁっ!
お師匠様、どこでこんなものを手に入れたんだっ!
なんか変な犯罪に巻き込まれているんじゃないよね?
って、これって銃刀法違反で御用だからねっ!
ピストルを持つ手が震えてしまった。
本物だと思わなかったぞっ!
「蒼良、今になって怖がっているよ」
沖田さんが楽しそうにそう言ったけど、全然楽しくないからねっ!
いったいどうなっているんだ?
とにかく、伏見に帰ったらお師匠様に報告をして、それまでこれをどうすればいいんだ?
「これ、どうしましょう?」
ピストルを出す手もふるえていた。
「蒼良が持っていればいいじゃん」
沖田さんはあっさりとそう言った。
「そうだよな。蒼良が持っていたほうがいい」
原田さんまでそう言うのね。
わかりましたよ。
自分で管理しますよ。
そう思ってふところに入れたのだけど、本物の銃をふところに入れていいのか?
でも、行くときもこれで来たんだよね。
「ところで、蒼良に会ったら言いたいことがたくさんあったんだけど」
沖田さんが突然言ってきた。
そ、そうなのか?
「なんですか?」
何言われるんだ?どうせいいことじゃないことはわかっている。
構えていると、
「うちも伏見に行きますっ!」
と言って、楓ちゃんが入ってきた。
楓ちゃんは、なぜか鍋のふたで盾を作り、おたまを持っていた。
「いきなりあんな人たちが来て、これで叩いたろうかと思ったんや」
そ、そうなのか?
おたまで叩かれるのも意外と痛いからなぁ。
「ここにおるのが怖いって言うのもあるけど、一番は勇はんが心配や。あんな野蛮な人らを相手にしておる勇のそばにおられんのが一番不安なんや」
楓ちゃんって、近藤さんが一番なんだなぁ。
すごいなぁと思っていたら、沖田さんと原田さんが顔を見合わせていた。
「どうしたのですか?」
何かあったのかな?
「連れて行ったら、近藤さんに怒られないか?」
原田さんが心配そうな顔をして言った。
「女性を危ないところに連れて行くと言う事だもんね。ま、蒼良は別だけどね」
沖田さん、最後の一言は余計だろう。
「近藤はんはうちに甘いから大丈夫どすっ! それに怒らせへんから連れて行って」
楓ちゃんは必死に頼み込んできた。
「そこまで言うのなら一緒に行こう」
きっと、近藤さんだって喜んでくれると思うのだけど。
「じゃあ、蒼良が責任をとってね」
沖田さんはあっさりとそう言った。
そ、そうなのか?
「わ、わかりましたよ。責任取りますっ!」
「大丈夫や。そんなことにならへんから」
楓ちゃんが胸を張ってそう言った。
楓ちゃんがそう言うなら大丈夫かな。
「それなら支度してきます」
楓ちゃんが部屋を出て行った。
「沖田さん、支度を手伝いますよ」
私がそう言うと、
「いいよ。支度ぐらいならできるから。あ、でも、せっかくだから頼もうかな」
今までほっといたから、その分、何でもいいつけてください。
「そこの押し入れにふんどしが入っているから、まとめておいて」
えっ?
「着物とかじゃなくて、ふんどしですか?」
「着物は僕が自分でできるから」
それじゃあふんどしだってできるだろう。
「総司、ふんどしを蒼良に準備させるのはやりすぎだろう」
原田さんがそう言うと、押入れを開けてふんどしをまとめてくれた。
「それじゃあ、私は着物をまとめますね」
私がまとめはじめると、沖田さんは、
「まとめるのはやるから、着替えさせてよ」
と言ってきた。
えっ、そうなのか?
「おい、総司。何を考えてんだ?」
原田さんが沖田さんのふんどしをまとめるとそう言った。
「原田さん、いいのですよ。沖田さんは寂しかったのですよ」
寂しい度合いが大きいと、こうやってわざといじめてくる。
でも、嫌だなぁと思った事は少しはあったかもしれないけど、寂しかった思いを私にぶつけてきてくれていて、そうすることで少しは気がまぎれるのなら、全然かまわない。
「そんなことないよ」
沖田さんは平気そうな顔でそう言っているけど、私の考えに間違いはないだろう。
「わかりましたよ。着替えさせて満足できるのならいくらでもやりますよ。体はふきますか?」
帯をほどきながら聞いたら、
「うん」
と、沖田さんが言ったから、楓ちゃんから体を拭くものを用意してもらった。
「蒼良、俺が拭く。蒼良は外に出てろ」
部屋に入るとすぐに原田さんから体を拭くものを取り上げ、私を部屋の外に押し出した。
どうなっているんだ?
もしかして、原田さんと沖田さんって、男色なのか?
*****
蒼良をいじめすぎたかな?
「総司、やりすぎだ」
左之さんからもそう言われた。
今回はやりすぎちゃったかな。
でも、黙って行っちゃった蒼良も悪いんだから。
「ほら、脱げ」
えっ?
「蒼良の代わりに俺が拭いてやる。脱げ」
「左之さん、本気で言ってる?」
「本気だ。脱げ」
左之さんに体を拭いてもらうなんてごめんだ。
楓さんに体を拭いてもらうのだって断っているのに。
「自分でできるよ」
左之さんから体を拭く手ぬぐいを奪い取った。
「蒼良には拭けって言ったじゃないか」
左之さんの背中を向けて着物を脱ぐと左之さんのそう言う声が聞こえてきた。
「蒼良だから言ったんだけどね」
「拭かせねぇよ」
ぼそっと吐き出すように左之さんが言った。
「えっ? なに?」
聞こえていたけど、わざと聞いてみた。
寂しい思いをしたんだから、これぐらい意地悪をしてみてもいいよね。
「俺が拭かせねぇって言ってんだよ。蒼良が総司の体を拭くところなんて見たくないからな」
ちょっと怒っているような声で左之さんが言った。
これ以上言ったら、本気で怒りそうだから、ここでやめておこう。
僕は自分で体を拭いて、着物を着換えた。
*****
「お待たせ」
部屋の外で待っていると、原田さんと沖田さんが出てきた。
後は楓ちゃんの準備だけど。
「早ういきまひょ。勇はんが心配や」
楓ちゃんは準備万端で家の外にいて、かごの用意までできていた。
「あれ? かごは一つだけ? 楓ちゃんは乗らないの?」
「うちは元気やさかい、歩いて行くわ」
そうなんだ。
女性はみんなかごに乗るものだと思っていたけど、そうでもないんだね。
「これって、乗り心地が悪いんだよね」
沖田さんは文句を言いながらかごに乗った。
そうなんだよね、あんまりいいものではない。
「ゆっくり行くさかい、大丈夫や」
「でも、楓さんは早く近藤さんに会いたいんでしょ」
沖田さんがかごに乗りながらそう言うと、
「そうなんよ。でも、大丈夫や」
と、楓ちゃんは笑顔で言った。
そう言えば、近藤さんの方は大丈夫なのかな?
お師匠様が引き受けてくれたけど、心配だなぁ。
私もいたら、確実に近藤さん襲撃を阻止できるかもしれない。
「沖田さん、すみません。私たちは先に行きます」
「えっ、そうなの?」
沖田さんはかごから残念そうな顔をして私たちを見た。
「近藤さんか?」
事情を知っている原田さんは何かを察したようで、そう言ってくれた。
私はうなずいた。
「勇さんになんかあったん?」
楓ちゃんが心配そうな顔をした。
「大丈夫。近藤さんは二条城にいるんだけど、隊務に支障がてるからって、護衛をつけないで行っちゃったんだよね。京に来たついでだから、近藤さんを護衛してくるね」
楓ちゃんにそう言うと、
「蒼良はん、頼みます」
と言ってくれた。
沖田さんの方は原田さんが説明してくれたらしい。
「蒼良、左之さんから聞いた。そう言う事なら行っていいよ。ただ、後で色々とやってもらうからね」
色々ってなんだ?
それが気になるけど、近藤さんの方も気になるから、
「わかりました」
と言って、沖田さんたちに背を向けた。
近藤さんが襲撃される墨染に着いた。
襲撃されるのは確か夕方から夜にかけてと聞いた。
今はもうすぐ夕方と言う時間帯だった。
「おう、左之と蒼良。ここは異常なしだ。本当に近藤さんを狙っているやつがいるのか?」
見回り中の永倉さんに会った。
まだ近藤さんを襲撃する人たちは来ていないらしい。
いや、そんなことはない。
もう夕方で、歴史通りならここらへんにひそんでいるはずだ。
潜むとしたらどこ?寒いから外にはいない。
長時間潜んで様子を見ているはずだから、家の中だ。
でも、普通の家に潜んだらあやしまれる。
潜むなら、空家だっ!
「原田さん、永倉さん。刺客は空家にいますっ!」
「蒼良、なんでそんなことがわかるんだ?」
永倉さんは不思議に思ったのかそう聞いてきたのだけど、それを阻止するように
「蒼良は勘がいいんだよっ! ここらへんに空家はあるか? 見廻ってたんだからわかるだろう?」
と、原田さんが言ってくれた。
「そう言えば、そこが空家だな」
永倉さんが指さした空家は、すぐそこだった。
すごい近いじゃないかっ!
私は急いで駆け出した。
「おい、待て。蒼良」
私の後を追うように原田さんが走ってくるのがわかった。
空家に近づくと、外に二人いるのがわかった。
私たちがいたところから見えなかったから、わからなかった。
「篠原さん、加納さんっ!」
二人とも知っていた。
だって、新選組にいたから。
新選組にいて、それから御陵衛士になった人たちだった。
「あ、なんでわかったんだ?」
篠原さんがあわてて立ち上がった。
「あ、お前らっ!」
追いついてきた原田さんが篠原さんたちを見てそう言った。
加納さんは、空家の中にも仲間がいるのだろう。
私たちのことを知らせるために中に入って行った。
そして、中から三人出てきた。
阿部さん、富山さん、佐原さん。
みんな新選組にいた人たちだ。
「また会ったな」
阿部さんがそう言った。
こんなところでこんなふうに会いたくなかったなぁ。
しかも、二回も。
この五人の中で、阿部さんと佐原さんとは沖田さんの所でも会った。
「また会うとは思わなかったな。今度は逃がさないぞ」
原田さんが槍をかまえた。
「ここにいるのは、近藤さんを襲うためですか?」
そうとしか考えられないのだけど、一応聞いてみた。
「伊東さんの仇を討つ」
篠原さんがそう言うと、阿部さんが銃を持った。
「蒼良、銃を出せ」
原田さんが槍をかまえてそう言った。
えっ?じ、銃をか?
沖田さんの所で出した時は、偽物だと思っていた。
だから軽々しく出して、撃ちはなってみたけど、今回は本物だとわかってしまっている。
どうしよう?そんな軽々しく出していいのか?
「向こうは銃が二丁ある。一丁ぐらいなら俺一人で対処できるかもしれんが、二丁あるとこっちも自信がない」
そ、そうなのか?
でも、これ、ほ、本物なのですがっ!
阿部さんと富山さんが銃を持っていたのだけど、富山さんの銃がカチャっと音がした。
玉が入った音なんだろう。
「早くっ!」
「はいっ!」
原田さんに大きな声でそう言われたので、驚いて私もピストルを出した。
「その銃なら大丈夫だろう。総司の所でやった時のように頼む」
は、原田さん、あの時は偽物と思っていたので……。
あっ!阿部さんまで銃を構えだした。
「あの銃は危ないから気をつけろ」
沖田さんの所でこの銃の威力を経験した阿部さんがそう言った。
このままだと、こっちが打たれるっ!
「じ、銃をおろさないと、う、撃ちますよっ!」
ほ、本当は撃ちたくないんだけどっ!
「そう言われておろすと思うか?」
富山さんが銃をかまえながらニヤリと笑った。
「あ、あのですね、こ、この銃は、そ、そこら辺にある銃と……」
本物のピストルを握っただけでも怖くてふるえてしまう。
「蒼良、大丈夫か?」
隣で原田さんにそう言われた。
すると、パンッと言う音がした。
わ、私、う、撃ってないぞっ!
富山さんが撃ったらしい。
銃がから煙が出ていた。
う、撃ったなっ!危ないじゃないかっ!
「おい、銃の音がしたが、大丈夫か? あっ! お前らっ!」
永倉さんが銃の音を聞きつけてかけてきた。
そして私たちの間に立った時に銃を構える富山さんに気がついたのだろう。
指さしてそう言っていた。
「お前らが撃ったのか?」
永倉さんが富山さんに話しかけている間に、阿部さんが永倉さんに銃を合わせる。
永倉さんが、危ないっ!
私はピストルを撃ちまくった。
数撃てば当たるんだから、どこかにあたるだろう。
「蒼良、もういいぞ。やめろ」
気がつくと、原田さんに銃を持っている手をおさえられていた。
富山さんたちを見ると、五人は顔色を真っ青にしていた。
見れば、富山さんと阿部さんの間に玉が通ったのか、空家に玉が貫通した跡があった。
それと、加納さんの手にも当たったらしい。
手から血を流していた。
「に、逃げろっ!」
五人は走り去っていった。
「あ、待てっ! おい、新八、追いかけろっ!」
前に立っていた永倉さんに原田さんは言ったのだけど、永倉さんは動かなった。
どうしたんだろう?
「おい、どうした、新八?」
原田さんが永倉さんに近づくと、永倉さんは顔をひきつらせていた。
よく見るよ、ほほの所が切れたのか、血が出ていた。
なんでそんなところを切ったのだろう。
刀でやり合ってはいないと思うのだけど。
「おい、蒼良。お前は俺まで撃つつもりだったのか?」
永倉さんは、私の方を振り返ってそう言った。
えっ?
「俺はお前らの前に立っていただろうが。それなのに、お前は銃を撃ちやがってっ! 危うく俺も撃たれるかと思ったぞ」
そ、そうだったのか?
そう言えば、永倉さん前に立っていたよね。
と言う事は……。
「もしかして、ほほの傷は……」
「蒼良が打った鉄砲の弾がかすった」
やっぱりそうだったのね。
「す、すみませんでしたっ!」
頭を下げて謝った。
下手すれば、永倉さんに弾をあててしまうところだったっ!
ちょっとあたっちゃったんだけど。
「気にするな。以後気をつければいい。それにしてもすげぇ鉄砲だな」
永倉さんが触ろうとした。
「あ、危ないから、触らないほうがいいですよっ!」
だって、本物なんだからっ!
それで気がついたけど、本物のピストルを渡してきたお師匠様は、一体どこへ行ったんだ?
確か、ここはお師匠様に任せたと思ったのですが……。
「あ、お前たち。こんな時間まで見廻りか。ご苦労、ご苦労」
これは近藤さんの声だ。
伏見街道を見ると、馬の上にまたがっている近藤さんがいた。
こ、近藤さんだぁっ!
「近藤さん、怪我は? 大丈夫ですか?」
私がそう言って近づくと、近藤さんと一緒に来た人たちは驚いていた。
「蒼良、何言っているんだ? どうした?」
近藤さんは馬の上から聞いてきた。
「肩とか撃たれませんでしたか?」
「肩? 大丈夫だぞ。ほら、この通り」
近藤さんは肩をまわすように腕をまわした。
こ、近藤さん、襲撃されなかったっ!阻止できたんだっ!
「よかったぁ」
それが確認できたら、力が抜けて座り込んでしまった。
「おい、大丈夫か?」
原田さんがそう言いながら私を立たせてくれた。
ホッとしたら力が抜けてしまった。
やったぁ。
近藤さんが撃たれなかったぞっ!
歴史が変わったぞっ!
「あ、近藤さん。大丈夫か?」
土方さんの声が聞こえてきた。
振り向くとお師匠様と土方さんが立っていた。
「お、お師匠様っ!」
お師匠様に言いたいことが山ほどあるのですがっ!
「みんなしてどうした? わしはこの通り元気だぞ」
近藤さんは嬉しそうにそう言った。
「実は、近藤さんを狙ってそこの空家に御陵衛士の残党が潜んでいたんだ」
原田さんが簡単に説明した。
「そうだったのか?」
近藤さんは驚いてた。
そりゃそうだよね、今まで起こったことを何も知らないんだもん。
「で、その残党はどうした?」
近藤さんが聞くと、
「すまない、逃がしてしまった」
永倉さんが悔しそうにそう言った。
「わしは大丈夫だが、みんなは大丈夫か? 怪我はないか? 蒼良はここに座り込んでいたが、大丈夫か?」
近藤さんはみんなを心配し始めた。
やっぱりいい人なんだよね、近藤さん。
「大丈夫だ」
原田さんがそう言った。
「そうか、逃がしちまったか」
土方さんがそう言った。
その時にお師匠様と目があった。
「お、お師匠様っ!」
色々と話したいことがあるんですよっ!
「あれ? みんなそろってどうしたの?」
沖田さんの声がしたから後ろを見たら、かごの中から沖田さんが顔を出していた。
「か、楓っ!」
近藤さんは、かごの横に立っていた楓ちゃんが目に入ったらしい。
「こんなところにどうした?」
近藤さんは馬から降りて楓ちゃんに近づいた。
「家におったら、変な人らが入ってきたんよ」
そうだ、そんなこともあったわ。
「あのですね、ここで近藤さんを狙っていた御陵衛士の人たちが、最初は沖田さんを狙っていたようで、楓ちゃんの家に押しかけてきたのですよ」
私が説明をした。
「それは怖い思いをしたな。大丈夫か?」
近藤さんは楓ちゃんの体を上から下までながめながらそう言った。
「うちは怖くなかったけど、勇はんのことが心配になってここに来たんよ」
そう、楓ちゃんは怖がっていなかった。
むしろおたまと鍋のふたで戦おうとしていたから。
しかも銃相手に。
ある意味すごい。
「そうだったのか。よく来た。とりあえず伏見奉行所に行こう」
近藤さんが楓ちゃんの手を引いて去っていった。
「僕たちも奉行所に行こうよ。いつまでここにいるつもり? もう日が暮れ始めているよ」
沖田さんはそう言うとかごの中へ引っ込み、かごも奉行所の方へ去っていった。
「寒くなってきた事だし、奉行所へ行くぞ」
お師匠様もそう言って去っていった。
そうだ、お師匠様っ!
私もお師匠様を追いかけるように奉行所の方へ行ったのだった。
「お師匠様、どういうことですかっ!」
奉行所に入り、お師匠様と二人きりになるとすぐに私は言った。
「近藤さんはお師匠様に任せたのに、どういうことですかっ!」
私が完全にお師匠様に任せていたら、近藤さんは撃たれていたからねっ!
「全ては蒼良に渡したピストルが原因じゃ」
そうだっ!そのことも言いたかったんだっ!
「なんで本物のピストルがここにあるのですかっ! これって犯罪ですよっ!」
私は、ふところからピストルを出しながら言った。
現代に戻ったら御用だからね。
って、私も使っちゃったし、同罪だよね。
現代に帰ってきた途端、おまわりさんが待っていたりするのかなぁ。
「こっちを渡そうと思ったのに、間違って本物を渡してしまった。すまんのう」
お師匠様もふところからピストルを出してきた。
こっちはおもちゃのピストルなんだろう。
火薬の紙がチラッと見えた。
すまんのうって、私はこのせいでどれだけ怖い思いをしたかっ!
「本当にすまないって思っています?」
思わず聞いてしまった。
「蒼良、ひどいことを言うのう」
そう言いながらお師匠様は目をウルウルさせてきた。
そう言う顔をされちゃうと、何も言えないじゃないかっ!
「す、すみません」
全然悪いことはしていないけど、謝ってしまった。
「ええんじゃ。わしも近藤の所に行けなかったからの」
そう、その理由を聞いていたんだ。
「ピストルを見たら、おもちゃだったからびっくりしての。土方に相談に乗ってもらっていたんだ」
えっ、土方さんに?
「何を相談していたのですか?」
「このピストルなんだが、実はおもちゃで本物を蒼良が持って行ってしまったんじゃが、どうすればいい? って言ったが」
なんか、私が本物と知っていて持って行ったみたいな言い方だけど、違うからね、持たされたんだからね。
「で、土方さんはなんて言ったのですか?」
すごく気になる。
「無言じゃった」
そ、そうなのか?
きっと、色々と考え込んでしまったんだろう。
ピストルがあること自体がすごいことなのに、それをおもちゃだと言ったり本物だと言ったり、それを聞いたら訳が分からなくなるだろう。
「そうじゃ。土方が無言で何も言わなかったから近藤の所に行けなかったんじゃ」
それは違うだろうっ!
「とにかく、蒼良が近藤襲撃事件を阻止したからもうええじゃろう。終わりよければすべてよしじゃ」
なんか違うような感じがするけど、そうなのか?
お師匠様はおもちゃと本物のピストルを自分の荷物をまとめてあるところに入れた。
「蒼良、ずいぶんと弾がへっているが、撃ちまくったようだな」
だって、最初はおもちゃだと思ったのだから仕方ないだろう。
二回目は、永倉さんの命がかかわっているから仕方なかった。
私の撃った弾が永倉さんにかすったのは内緒だけど。
「弾は大事に使え」
いや、もう使いませんからっ!
そうだっ!
「なんでここに本物のピストルがあるのですかっ! これって犯罪ですよ」
これも聞きたかったことだ。
「大丈夫じゃ。ちゃんとしたルートから手に入れている」
ピストルを入手すること時代、ちゃんとしたルートじゃないと思うのですがっ!
「それに証拠隠滅すれば、現代に戻っても大丈夫じゃ」
証拠隠滅?
「この時代に置いて帰れば大丈夫じゃ。弾を全部使い切っておけば置いて帰っても大丈夫じゃろう」
そ、そうなのか?
「わしら以外は誰もこの時代には来んじゃろう」
それもそうだよなぁ。
「一回、弾を補充しに帰らんといかんかな?」
その弾をどこから補充するのかすごく気になるのだけど。
ちゃんとしたルートだと言っていたからそれを信じるしかないかな。
「そうじゃ、沖田がいたの。薬が手に入った」
そ、そうなのか?
「あいつめっ! 人をボケたと思い込みやがって。破門だっ! と脅したら、手続きをしないと薬は出せないと言っていたが、すんなりと出してきた」
お師匠様のお弟子さん、かわいそうだよなぁ。
って、私も弟子だった。
「後で沖田に渡そう。沖田は大坂城へ移動になりそうだからな。その前に渡してやろう」
そ、そうなのか?
*****
伏見奉行所に着いた。
今日は本当に調子がいいようだ。
朝に刀を握り、京からここまで移動してきた。
ここ最近の体力だったら、疲れ切っていて眠っているところだ。
そして血も吐いているかも。
でも今日は全然大丈夫だ。
むしろまだ動けそうだ。
「総司、入るぞ」
近藤さんの声が聞こえてきた。
「どうぞ」
僕がそう言うと、土方さんも一緒に入ってきた。
これはまた嫌なことを言われそうだな。
「総司、これから大坂城へ移動できるか? もちろん、総司にはかごを用意するが」
近藤さんが申し訳なさそうにそう言った。
やっぱり嫌なことだなぁ。
「あ、総司だけじゃなくて、わしも一緒に大坂城へ行くから」
えっ、近藤さんも?
「あと、楓も一緒だ」
近藤さんが付け加えるように言った。
「楓さんと一緒に大坂城へこもっていろってことですね」
「ちげぇよ。大坂城で軍議があるんだと。こんな時に軍議ばかりしても仕方ねぇと思うけどな」
土方さんが少し怒っているような感じでそう言った。
そう言えば蒼良が、今日は二条城で近藤さんは軍議をしていると言っていたなぁ。
「そう言うな、歳。慶喜公や容保公に呼ばれているんだ。名誉なことじゃないか」
「こんな時に、局長を呼びつけることもねぇだろうよ」
土方さんは近藤さんが大坂城へ行くのを反対しているようだ。
「歳、新選組の指揮はお前に任せた。わしは総司を連れて大坂城へ行く。総司、わしの護衛だ。ついて来い」
近藤さんの護衛か。
「僕じゃなくてもふさわしい人はたくさんいると思いますよ」
せっかく伏見奉行所に来たんだから、大坂城なんかへ行かないぞ。
「何言ってんだ。わしの護衛で総司以上にふさわしい奴はいないだろう。総司は強いからな。護衛は総司一人で充分だ」
そこまで言われると、何も言えないじゃないか。
せっかく伏見奉行所に来れたのに。
みんなに会えたのに、蒼良にも会えたのに、また別れないといけないんだ。
なんとか、蒼良だけでも連れて行けないか?
「護衛は病気な僕一人じゃ不安なので、蒼良もつけてください」
思い切ってそう言ってみた。
「総司、てめぇっ!」
土方さんが身を乗り出してそう言った。
蒼良は土方さんのお気に入りだから、土方さんが手放したくないのだろう。
「あいつはだめだ。大坂城なんかへ連れて行ったら何するかわからねぇぞ」
土方さんは必死で反対してきた。
やっぱりそう来ると思っていた。
蒼良を連れて行くのは無理なことなんだよね。
あきらめようと思った時、
「蒼良か。そうだな、蒼良も一緒に連れて行ってもいいな。楓も一緒に行くからちょうどいいだろう」
と、近藤さんが言ったのだ。
「近藤さんまで何言ってんだっ! あいつは大坂城になんかやらねぇぞ」
「歳、そう怒るな」
「怒ってねぇっ!」
「総司も蒼良が一緒なら来るんだろう? それなら大坂城まで一緒に来てもらい、それからここへ返してもいいだろう? それなら明日には蒼良はここに帰ってこれる。歳、一日だけ蒼良を総司に貸してやれ」
「あいつは物じゃねぇっ! そう簡単に貸し借りなんてできるかっ!」
「それなら、僕もここにいます。大坂城へ行きません」
もしかしたら蒼良も一緒に大坂城へ来ることになるかもしれない。
「歳、一日だけだからな。明日にはここに蒼良を返すから。わかったな」
近藤さんの最後の『わかったな』が効いたらしい。
「わかった。一日だけだぞ」
と、土方さんもおれた。
よし、蒼良と一緒に大坂城だ。
*****
「えっ、大坂城ですか?」
土方さんに呼ばれて行ってみたら、近藤さんと沖田さんもいた。
そして、近藤さんと沖田さんを大坂城へ送ってくるようにと、土方さんに言われた。
「送るだけだぞ。大坂城へ着いたらすぐに帰ってこい。わかったな」
土方さんはなぜか怖い顔でそう言った。
でも、それなら……
「私よりもっとふさわしい人間がいると思いますが」
要するに、護衛と言う事でしょう?
それなら私じゃなくてもふさわしい人がたくさんいると思うけど。
「蒼良に頼みたい」
近藤さんがそう言った。
「蒼良は大坂城へ行きたくないの?」
沖田さんがそう聞いてきた。
「いや、そう言う事じゃないのですが……」
私じゃなくても……。
「蒼良が一番ふさわしいから蒼良に頼んでいるんだ」
と、近藤さんと沖田さんが同時に声をそろえて言った。
そ、そうなのか?
恐る恐る土方さんを見ると、やっぱり怖い顔をしている。
「行って来いっ!」
いや、そんな怖い顔して言う事じゃないだろう。
「それじゃあ、行ってきます」
なんか納得できないけど、近藤さんと沖田さんがふさわしいと言ってくれたから、これでいいのかな。
大坂城へ行く前に、お師匠様が沖田さんに薬を渡した。
今回の薬の量はかなり多い。
「これで最後じゃ。多分これで足りると思うがな」
「あ、毒薬。これ効くんだよね」
だから、毒薬じゃないって。
「ただ、病気を治す薬じゃない。今より状態が悪くならないようにするための薬じゃ。薬を飲んでいても安静なのは変わらないからな」
そうなんだ。
この時代は労咳を治す薬はないし、現代でも、結核になったら入院して点滴治療が必要だ。
本当なら現代へ連れて行って治療をするのが早いのだろうけど、まだその時期ではない。
「わかったよ。大事に飲む」
沖田さんは薬を大事そうにふところにしまった。
「よし、行くぞ」
近藤さんのその言葉とともに私たちは出発した。
数人の平隊士の護衛と、馬に乗った近藤さん、かごに乗った沖田さん。
私は楓ちゃんと並んで歩くことになった。
本当にその人数だけだった。
何事もなく大坂城へ着きますように。
だって、このメンバーで歩いているときに何かあっても対処できないからね。
「行ってきます」
見送りの人たちにそう言って大坂城へ向かって歩き始めた。
大坂城はすぐについた。
しかし、着いた時はもう夜だった。
出た時も夕方だったもんね。
近藤さんは着くとすぐに軍議に参加した。
そんな姿を見た楓ちゃんは、
「勇はん、今日一日動いているのだから、休ませてくれたってええやないの」
と、不満を言っていた。
私も一日動いているからね。
沖田さんに用意された部屋に行くと、すでに布団が敷いてあった。
そこに沖田さんを寝かした。
「大丈夫だよ。今日は調子がいいんだ」
沖田さんはそんなことを言っていたけど、今日は沖田さんだって一日動いていたんだからね。
もう休まないと、病気が進行したら大変だ。
いくら薬があるからと言っても、油断はしてはいけないってお師匠様が言っていたし。
「だめです。休んでください」
「それじゃあ、僕が寝るまでそこにいてよ」
「いいですよ」
それぐらい、お安い御用だ。
沖田さんが寝るまで、伏見へ行ってからの話を色々していた。
そう、沖田さんが寝るまで今まであったことを報告がてら話していた、はずだったっ!
*****
最初は蒼良と色々話していた。
僕が話している時に蒼良の体が、コックリ、コックリと体が動き始めた。
どうしたんだろう?
「蒼良?」
動きがおかしいから、蒼良の肩をさわってみた。
すると、蒼良が僕の方に倒れこんできた。
えっ?
「寝てる?」
そう、蒼良は眠っていた。
そう言えば、今日は色々あり、その中心に蒼良がいたと思う。
一日動き回ったから疲れてしまったのだろう。
「蒼良」
蒼良の肩をゆすってみたけど、起きる気配がない。
このまま寝かしたら風邪ひいちゃうよね。
どうしようかな?
僕の布団をかけちゃうと僕が風邪ひいちゃうしなぁ。
僕の場合、風邪を引くと命取りになるし。
これは、一つの布団で一緒に寝るしかないかな。
「仕方ないなぁ」
僕はそうつぶやいてから、蒼良を僕の布団に入れた。
引きずったりしたのに、蒼良は起きなかった。
寝顔がかわいいなぁ。
掛け布団を上にかけ、蒼良に腕枕をした。
よっぽど疲れているんだなぁ。
全然起きない。
それどころか、
「あ、大福っ!」
って寝言を言っている。
大福の夢っていったいどういう夢なんだろう。
蒼良らしいなぁ。
明日の朝、起きたら聞いてみよう。
僕も眠くなってきた。
腕枕をしている腕は痛くなってきたけど、腕を抜くのはもったいない気がした。
このまま寝てしまおう。
朝になったら、蒼良の驚く顔が楽しみだなぁ。
「おやすみ」
おでこに接吻をして、僕も寝た。
*****
うっすらと目を開けてみた。
えっ?天井が違う。
あ、そうだ、大坂城に来たんだ。
確か、沖田さんと話をしていたんだよな……。
で……。
話を終えた記憶がないんだよなぁ。
そう思いつつ、チラッと横を見ると……
「うわぁっ!」
誰かの顔がものすごく近くにあった。
あまりに近すぎて、誰だかわからなかった。
「あ、蒼良。おはよ」
お、沖田さん?
「おはようございます」
なんで沖田さんと一緒に寝ているんだ?
それにしても、近いのですがっ!
「蒼良は、昨日僕と話しているときに寝ちゃったんだけど、覚えてる?」
うーん、そう言われるとそうだったような……。
「そのままだと風邪ひいちゃうから、布団をかけてあげたよ」
「ありがとうございます」
だから、同じ布団で寝ていたのか。
って、これって、お礼を言うところだったのか?
違うよな?
でも、布団をかけないで寝ちゃうと、沖田さんの言う通り風邪ひいちゃうから、やっぱりお礼を言ってよかったのか?
「ところで、大福って寝言いっていたけど、大福を食べる夢でも見ていたの?」
えっ?どんな夢を見たか覚えていないけど……。
なんか、大福と言う寝言しか言っていないのは、気のせいか?
「ところで、蒼良はいつまでここにいるの?」
あっ、沖田さんの所で寝ていたっ!
私はあわてて沖田さんの布団から飛び出した。
すると、沖田さんも起き上がった。
「いや、そう言う意味で言ったんじゃないんだけど。むしろ一緒の布団で寝れて楽しかったよ」
そ、そうなのか?
「いつまで大坂城にいるの? って言う意味だよ」
ああ、そっちか。
「今日中に伏見に帰ります」
土方さんがすぐに帰って来いって言っていたもんね。
しかし……。
そこであることに気がついた。
私、大坂城から伏見に帰る道を全く知らなかった。
どうしよう?帰れないじゃないかっ!
「蒼良どうしたの? 顔色が悪いよ」
私の表情が変わったのを沖田さんが察したらしい。
私の顔をのぞき込んできた。
「私、伏見への帰り方を全く知りません」
「えっ、そうなの? それならずうっとここにいればいいじゃん。近藤さんだっているんだし。なんなら、近藤さんが伏見に帰るまでここにいればいいじゃん」
そう言った沖田さんが嬉しそうに見えるのは気のせいか?
でも、私が帰り道を知らない以上、帰る方法は沖田さんの言った方法しかなかった。
近藤さん、歴史では伏見に帰らないでずうっとここにいるんだよな。
でも、あれは怪我をしたからここにいたのであって、今の近藤さんは怪我をしていないから、きっと伏見に帰るよね?
「わかりました。そうします」
私がそう言うと、
「それなら、さっそく探検しよう」
と言って沖田さんは立ち上がった。
えっ、探検?
「ほら、せっかく大坂城に来たんだから、大坂城の中身を知るために探検しないと困るでしょう?」
いや、厠の場所さえわかれば大丈夫ですが。
「それに、天野先生の薬を飲んだせいか、今日も僕は調子がいいんだよね」
「でも、安静ですよ」
薬が来たからって、調子に乗って動きはじめたら病気が悪化するかもしれない。
「大丈夫。ここの中を歩き回るだけだから」
そ、そうなのか?
「じゃあ早速行くよ」
沖田さんが部屋を出たから、私も追いかけるように部屋を出た。
大部屋のような部屋の前に着くと、その部屋の前だけ人が座っていた。
どうやら、中にいる人を守っている護衛のような人らしい。
「ここに将軍様がいるんだよ。あ、今は将軍様じゃないか」
沖田さんがそう言いながらのぞこうとした。
のぞくのか?
護衛のような人がいる前でそんなことをしていいのか?
「あ、近藤さんもいるよ」
沖田さんのその言葉に私は反応した。
近藤さん、本当に怪我をしていなかったのかな?
それが気になったのだ。
本当に歴史を変えれたのだろうか?
チラッと沖田さんと一緒に襖の隙間からのぞくと、元気に議論をしてい近藤さんがいた。
よかった、元気そうだ。
「なにしとるん?」
後ろから聞こえたその声に驚いてしまい、思わず飛び上がってしまった。
悪いことをしているときに後ろから声をかけられると、普段の倍、驚くものなんだなぁと、こんな時に実感してしまった。
「なんだ、楓さんじゃないか。僕は将軍様の妾さんかと思ったよ」
「沖田さん、そんな慶喜公の妾さんがそんなところにいるわけないじゃないですか」
きっと江戸にいると思うけど。
「それもそうだね」
と、沖田さんが言った。
「ところで何しとるん?」
そうだった、楓ちゃんにそう言われていたのだった。
「蒼良が、この中で何が行われているかすごく気になったらしくて、こうやってのぞこうとしていたから注意していたんだ」
えっ、それって逆じゃないかっ!
しかも、私が悪いことをしたみたいな感じになっているし。
「でも、沖田はんものぞいとったやないの」
さすが楓ちゃん、よく見ていたのね。
「二人とも、そんなことしたらあかんよ」
結局、私も悪いのね。
「沖田はんは病気なんやさかい、寝とかんとあかんやろう」
「今日は調子がいいから大丈夫」
沖田さんはそう言って逃げるようにその場から去っていった。
沖田さんにここで逃げられたら、私は部屋の場所がわからなくなる。
と言うのも、大坂城は広くて迷子になりそうなのだ。
「楓ちゃん、またね」
私は楓ちゃんに挨拶をしてから沖田さんを追いかけた。
「沖田さん、そんなにあっちこっち言って、自分の部屋がわからなくならないのですか?」
私はもうどうやってここまで来たかわからない。
「なんとなくわかるよ」
そ、そうなのか?
ある意味すごいなぁ。
「あ、階段があるよ。登ってみよう」
沖田さんは目の前にある急な階段を上って行った。
って、そんなところ登って大丈夫なのですか?
「沖田さん、勝手に登っていいのですか?」
さっきの護衛みたいな人が怖い顔してやって来そうだぞ。
「大丈夫だよ。誰も見ていないから」
確かに、人はいないけどさぁ。
でも、だからって勝手にうろついてもいいものなのか?
そんなことを思っている間にも、沖田さんは階段を上っていくので、私もついて行った。
ものすごく急な階段だった。
上っていて、手が次の段につくぐらい急だ。
まるで四つんばいになって登っているような感じがする。
こんな急な階段を登っている沖田さんが心配だ。
「沖田さん、大丈夫ですか?」
こんなに動いて大丈夫なのか?
階段を登りきったら血を吐いたりしないよね?
「大丈夫だよ。天野先生からもらった薬を飲んだらよくなってきたって言ったじゃない」
そう言えば、そんなことを言っていたけど。
「あれは、病気を止める薬であって、治す薬じゃないですからね。無理をしたらいけないってお師匠様も言ってませんでしたか?」
「さあ、聞いていないよ」
上から聞こえてきた沖田さんの声。
いや、絶対に知らないふりをしているだろう。
「うわぁ、すごいなぁ」
先に登っていた沖田さんの声が聞こえてきた。
沖田さんはもう上の方に到着したらしい。
私も急いで登ると、先に到着した沖田さんに追いついた。
「蒼良も見てごらんよ」
着いたところは、大坂城の一番上の部分にあたるところらしい。
先についた沖田さんは窓から外を見ていた。
「すごい眺めがいいよ」
沖田さんに誘われ、私も外を見た。
「うわぁっ!」
沖田さんの言う通り、眺めがよかった。
大坂の町どころか、遠くまでよく見える。
すごいっ!
しかも、大坂の町を歩いている人たちは米粒のような大きさになっている。
馬をひいて歩いている人なんか、馬まで米粒だ。
って、あの人どこかで見たことあるぞ。
「あ、土方さんだ」
沖田さんが大坂の町をながめながらそう言った。
「えっ、土方さん?」
「ほら、あそこ。馬を引いている人がいるじゃん」
沖田さんが指をさした人は、私も見ていた人だ。
確かに、土方さんっぽいよな。
でも、土方さんがここにいるわけない。
今頃伏見奉行所で、みんなに指示をしているだろう。
「沖田さん、ここに土方さんが来るわけないじゃないですか」
「いや、あれは絶対にそうだよ」
そうなのか?
二人でその人を見ていると、大坂城まで近づいてきた。
近づくにつれて、その人の顔とかもわかってきた。
「あ、本当に土方さんだ」
「僕の言う通りでしょう?」
なんで土方さんがここに来たんだ?
「さて、土方さんが来たことだし、色々言われる前に下に降りようか」
沖田さんはそう言うと、階段を下り始めた。
そうだね。
土方さんが大坂城に来たんだから、出迎えないわけにはいかないよね。
私も階段を下りた。
それにしても急な階段だ。
降りるときは、下の段に足があると上の段はお尻のあたり。
まるで座りながら降りているような感じだ。
「沖田さん、大丈夫ですか?」
こんな急な階段を上り下りして大丈夫なのか?
「僕は大丈夫だよ。蒼良こそ気を付けてね。足踏み外して落ちてきたら、僕も一緒に落ちちゃうから」
はい、気をつけます。
「近藤さんは、軍議の最中です」
大坂城に来た土方さんを出迎えた。
慶喜公がいるから、そう簡単に大坂城の中に入れないんじゃないか?と思っていたけど、ちゃんと中に入ってきた。
やっぱり、幕臣と言う事で簡単には入れたらしい。
でも、近藤さんに会いに来ても、軍議の最中でいつ終わるかわからない。
「近藤さんに用はない」
えっ、そうなのか?
「お前はいつ帰ってくるつもりでいるんだ?」
あ、そう言えば早く帰って来いって言われていた。
だけど……。
「早く帰ろうと思っていたのですよ。でも、帰り方がわからないから、近藤さんの軍議が終わって帰るときにご一緒しようかなぁと思っていたのですよ」
決して、帰らないつもりでいたわけじゃない。
「軍議が終わるのを待っていたら、いつになるかわからんぞ。だから迎えに来た。帰るぞ」
えっ、そうなのか?
「迎えに来てくれたのですか?」
わざわざ?
「お前を送り出した時に、お前が伏見に帰る道を知らない事に気がついた。だから俺がここに来たんだ。早く支度しろ。帰るぞ」
あ、そうだったのね。
「わかりました。支度してきます」
私は帰る支度をしに行った。
*****
蒼良は当分ここにいる。
そう思って喜んでいたら、迎えに来られちゃった。
蒼良は支度をしに行っている。
「なんで来ちゃったの?」
思わず土方さんにそう言っていた。
「さっきも言っただろう。あいつは伏見へ帰る道を知らねぇから、俺がここまで迎えに来たんだ」
「迎えに来なくても、近藤さんの軍議が終わったら、一緒に帰ると思うけど」
そうだよ、近藤さんの軍議が終わるまで待っていられなかったのか?
「さっきも言っただろう。そんなもの待ってられねぇよ。こっちだってあいつが必要なんだ」
僕だって、必要だ。
そう言おうしたら、支度を終えた蒼良がきた。
蒼良、支度が早いよ。
こういう時こそ、ゆっくり支度してくれたらいいのに。
「お待たせしました」
蒼良はそう言った。
「蒼良、帰っちゃうの?」
ここで帰らないようにいじめたらここにいてくれるかな?
僕がそう思っていると、
「よし、帰るぞ」
と言って土方さんが立ちあがった。
帰らないでと言っても、土方さんが連れて帰りそうだな。
伏見からここまで迎えに来たぐらいだもんなぁ。
「すみません、また来ます。沖田さん、安静にしていてくださいね」
蒼良はそう言って僕に背中を向けて行ってしまった。
蒼良が出た後、僕はさっき登った場所へ行った。
ここからなら、遠くまで蒼良が見える。
馬を引く土方さんと大坂の町を歩いているのが見えた。
大坂の町を抜けると、土方さんと馬に乗って伏見へ向かって行くのが見えた。
僕は見えなくなるまで、蒼良を見送った。
*****
「ところで、土方さん。伏見はそんなに忙しいのですか?」
大坂の町を抜けたら、土方さんと馬に乗った。
土方さんが私の後ろに乗り、手綱を操っていた。
土方さんの腕の間に私が入っている感じだ。
なんか知らないけど、ドキドキして緊張してしまう。
「忙しくねぇよ」
突然、土方さんがそう言ってきた。
あまりに突然だったから、驚いてしまった。
でも、よく考えたら、私の質問に答えているだけなんだよね。
なんでそれだけなのに緊張しているんだ?
なんか、私、おかしいなぁ。
「それがどうかしたのか?」
そうだ、今はそんなことを思っている場合じゃなかった。
「土方さんが迎えに来たから、私が必要なぐらい忙しいのかなぁと思いました」
「忙しいとかそんなの関係ねぇよ」
え、そうなのか?
「そんなの関係なく、お前が必要だから迎えに来た」
そうなんだぁ。
「わかりました。伏見でも仕事頑張ります」
迎えに来るぐらい新選組に執拗とされているなら、頑張らないと。
「お前、わからねぇか? ここまで言ってもわからねぇか?」
えっ?
「なにがですか?」
わからないとか、そんなことあったか?
「もういい」
土方さんはそう一言言うと、無言で手綱を握って馬を走らせていた。
なんか、気になるなぁ。
でも、質問したら怒りそうだったから、大人しく馬に乗っていた。
伏見奉行所についたら、色々と頑張らないとなぁ。




