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幕末へ タイムスリップ  作者: 英 亜莉子
慶応3年10月
371/506

いざ京へ

 捨助さんに、

「新選組の入隊許可が土方さんから出ました」

 と、報告しに行ったら、

「本当に? 本当に新選組に入っていいの?」

 と、何回も聞かれた。

「歳の気が変わらないうちに入ってしまえ」

 隣にいた源さんがそう言った。

 私もそう思う。

 入りたいのなら土方さんの気持ちが変わらないうちに……。

 って言うか、条件があるんだよね。

「でも、よく歳が入隊許可を出したな」

 おっ、源さんが鋭い所に気がついたぞ。

「実は、条件があるのです」

「条件?」

 源さんと捨助さんが声をそろえてそう言った。

「21日には出立したいから、それまでに新入り隊士をそろえろっと言う事です」

「なんだとっ! ずいぶんと急だな」

 源さんは驚いていた。

「幕府にとって色々とあったからだと思うよ」

 捨助さんがそう言ったので、

「事情を知っているのですか?」

 と、聞いてしまった。

「だいたいわかるでしょう。だって、大政奉還があったんだよ。近藤さんが京にいるなら、それが心配でしょう」

 捨助さんはそこまでわかるんだ。

「なるほどな。捨助の言う通りだな。で、隊士を集めるのか?」

 本当は、私たちがやる仕事なんだよね。

「当たり前じゃないか。だって、隊士になれるんだよ。なんだってできるさ」

 捨助さんは、仕事を押し付けられたのにも関わらず、隊士になれるということがうれしいのか、喜んでその仕事を引き受けてくれた。

「私も手伝いますからね」

「もちろん、俺も手伝うぞ」

「二人とも、ありがとう。そんなにまでして俺を隊士にしたかったんだね」

 いや、それは違うと思う。

「本当は、私たちの仕事なのですよね」

 捨助さんに聞こえないように小さい声で源さんに言った。

「そうなんだけどよ、まさか、捨助に仕事を押し付けたなんて言えないだろう。ここは黙って捨助の手伝いをしてやろう」

「そうですね」

 私たちの会話が聞こえていない捨助さんは、

「だから、俺を早く隊士にすればよかったんだよ。今頃後悔しているぞ」

 と、自分の幸せに浸っていた。

「よし、そこまで言うのなら、隊士になりそうな人間を多数知っているってことだよな?」

 源さんがそれなら楽勝だっ!という感じでそう言った。

「えっ……。いないかも?」

 捨助さんは、一瞬黙ってからそう言った。

 えっ、そうなのか?

「あのですね、同じ道場の人とかいませんかね?」

 そこら辺が一番手っ取り早いと思う。

「同じ道場って、俺も天然理心流だから、みんな京に行っちゃってるよ」

 あ、そうだよね。

「それなら、他の道場の友人とかいないのか?」

 源さんが少し焦ってそう聞いた。

 ここで隊士が集まらないってなったら、捨助さん、入隊どころの騒ぎじゃないですからね。

「俺さぁ、普段は家の手伝いしてたから、他の道場とかって行ったことないんだよね」

 そ、そうなのか?

 捨助さんはあてにできないってことか?

「捨助、隊士になりたいんだろ?」

「当たり前じゃないかっ!」

「よし、それなら俺たちで隊士を集めよう。俺達のつてをたどっていけば、隊士の一人や二人、すぐ見つかるさ。なぁ、蒼良」

 話をふられて驚いた。

「す、すみませんっ! 私もつてとか全然ないですっ!」

 江戸に知っている人なんていないに決まっている。

 私なんて、捨助さんより江戸にいる歴史が短いですからね。

 江戸には一年どころか、数カ月しかいな買ったんじゃないか?

「わ、わかったっ! 俺が何とかするから、心配するな」

 あははっ!と、源さんは笑っていたけど、泣いているようにも聞こえたのは気のせいか?

「源さん、私も手伝いますから」

「俺もっ!」

「捨助のためにやるんだから、お前は当たり前だろう」

 源さんは捨助さんを軽くたたいた。

「とにかく、隊士を集めるぞ」

 源さんのその一言から、隊士集めが始まった。


 隊士を集めるのは大変そうかなと思っていたのだけど、近藤さんの道場へ行ったら、数人が集まっていた。

 なんだろうと思って聞いてみたら、張り紙を見てきたという人たちだった。

 そう言えば、隊士募集の最初の方は、色々な道場に隊士を募集しているからという張り紙をして回っていたんだよね。

 これが吉と出たらしい。

「ただ、集めただけだと歳に文句を言われるから、一応、入隊試験をするか」

 源さんがそう言った。

 入隊試験って何をするんだ?

 源さんによると、お互い剣の試合をさせて、勝った方が一次試験通過らしい。

 わかりやすくていいなぁ。

 と言う事で、試合が始まり、半分が隊士に決まった。

「強いだけじゃ意味がないから、人格も見るぞ」

 という源さんの一言で、面接試験が始まった。

 試験官は源さんと捨助さんと私。

 こんなこと勝手にやって大丈夫か?

「歳がまかせてきたんだから、やっても大丈夫だ」

 源さんに聞いたら、胸を張ってそう言われた。

 それなら思う存分試験をしてやるっ!

 試験をする方になったことは何回もあるけど、それを見る方になるのは初めてだ。

 そう言うワクワク感もあり、面接試験は楽しくてすぐに終わったような感じがした。

 新選組は幕府の組織なので、そこに倒幕派や反幕府の人間が入ってきたら困るので、そこだけはしっかり見ようと言う事で、それ以外の普通の人たちはみんな合格にしたので、隊士は二十人ぐらい集まった。

「これだけ集まればいいだろう」

 源さんは新しい隊士たちを見て満足そうに言った。

 そうだよね。

 一応試験もしたし、これで土方さんが文句を言ったら、豆でもぶつけてやろう。

「捨助さんは、本当に隊士になって大丈夫なのですか? これからは新選組も大変ですよ」

 これだけが心配だったので、捨助さんに聞いた。

「そんなことわかっているよ。大政奉還で幕府は無くなったから、幕臣である新選組だってこれから大変だろう。でも、大変だからこそなりたいんだよ」

 そうなんだ。

「捨助っ! それでこそ男だっ! 見直したぞっ!」

 源さんは捨助さんの背中をたたいてそう言った。

 よし、土方さんに報告だっ!


「そうか、集まったか。で、いつ出発できる?」

 やっぱり、京に帰ることしか考えてないよ、この人は。

「21日って言っていたので、みんなにも21日って言いました」

「もっと早くてもよかったんだぞ」

 いやそう言うけど、みんな準備とかあるだろう。

「土方さん、落ち着きましょうよ」

「俺は落ち着いているぞ」

 と、土方さんは言っているけど、言っているそばからそわそわしているからねっ!

「大丈夫ですよ。待っていれば21日は来ますから」

 永遠に来ないわけじゃないんだから。

「あたりめぇだろうがっ!来ねぇと困るっ!」

 ある意味、来ないと困るよね。

「そうですよね」

 あははと、笑いながら部屋を後にした。

 今の土方さんは、京へ行くことしか考えていないぞ。


 21日、品川宿の釜屋と言うお店に、新入り隊士と見送りの人たちと一緒にいた。

 出発と言う事で、ここでみんなで食事をした。

 お酒はなかったけど、この時代では高級品のお刺身があった。

「お刺身ですよっ!」

 お刺身なんて、最後に食べたのはいつだ?

「そんなに興奮することもないだろう」

「だって、お刺身ですよ。高級品じゃないですか」

「そんなもの、裏の海で取れるから出しているんだろう」

 そう言えば、釜屋の後ろは海だった。

 源さんは、新入り隊士の人たちにお小遣いを配っていた。

 冗談で手を出したら、源さんはにっこりと笑顔でくれた。

 金額は五両だった。

「ありがとうございます」

 五両を受け取ったら、土方さんに

「お前に渡したんじゃねぇ。返せ」

 と、怒られてしまったので、源さんに返した。

「なんだ、蒼良の好きなものを買っていいんだぞ」

「源さん、これは新入り隊士の分だ。こいつの分じゃない。お前だって、幕府から給金もらってるだろうがっ!」

 はい、すみません。

「歳はケチだなぁ」

「ケチとかの問題じゃねぇ」

「まあまあ二人とも落ち着いて」

 ここで喧嘩されても困るのよ。

「誰のせいだと思ってるんだ?」

 はい、すみません。

 私のせいです。

「蒼良は悪くないぞ。俺はこれを配ってくるからな」

 源さんは私の頭をなでてから、お小遣いを配りに行った。

「まったく、源さんはお前に大甘だな」

 そうなのか?よくわからないが。


 そして、いよいよ出発と言うときになった。

 源さんは、実家からお見送りが来ていたので、その人たちと話をしていた。

 捨助さんも見送りが来ていた。

 こちらは入りたかった新選組にようやく入ったので、胸を張っていた。

 土方さんも、日野から何人か来ていたので、その人たちに挨拶をしていた。

 私は特に挨拶する人とかいなかったので、その様子をながめていた。

 すると、土方さんが私に気がつき、私の所に来た。

「お前、寂しくないか?」

 うーん。

「特に知り合いがいないので……」

 だから、こういう状態にも慣れたというか……。

「そうだよな」

 そんな話をしていると、佐藤源之助さんが近づいてきた。

 佐藤源之助さんは、土方さんのお姉さんの旦那さんである佐藤彦五郎さんの子供だ。

 以前、彼を新選組に入れるの入れないので、土方さんのお姉さんと大騒ぎになったことがある。

「蒼良さん」

 その源之助さんが、私に話しかけてきたので驚いた。

「はいっ」

「今度はいつ江戸に来れそうですか?」

 いつぐらいになるんだろう?

「来年の一月ぐらいに来れそうです」

 戦に負けてくることになるから、いいことじゃないんだよね。

「お前、縁起でもねぇこと言うな」

 土方さんに怒られてしまった。

 そうだった。

 未来に起こることだから、あまり言ってはいけないことだった。

「なんて、冗談です」

「そうですよね。来年の一月なんてすぐですから」

 源之助さんがそう言ったから、何とかごまかせたらしい。

「そんな早くに来るわけねぇだろう。また当分会えねぇぞ」

「そうですね。蒼良さん、お待ちしていますから、また来てください」

「あ、はい。ありがとうございます」

 私がお礼を言うと、源之助さんはにっこりと笑って行ってしまった。

「お前、源之助に何かしたか?」

 何かって、なんだ?

「なにもしていませんが」

「じゃあなんで、お前にだけあんなことを言うんだ?」

 そんなこと知りませんよ。

「源之助さんに聞いてみますか? そっちの方が早いと思いますよ」

「ばかやろう、そんなこと出来るかっ!」

 そ、そうなのか?

「源之助の野郎、まさかあいつも……」

 その後、土方さんはブツブツと言っていた。

 いったい何なんだ?


 その後、土方さんが旅の諸注意を言い、それから見送りの人たちとお別れをし、品川宿を出た。

「よし、京へ向かうぞ」

 土方さんがはりきって歩き始めた。

 早く京に着きたいのだろう。

 その足取りは早かった。

 そう言えば、私、何か忘れているような……。

「あっ!」

 忘れてたっ!

「なんだ、突然大きな声を出しやがって」

「そばを買うのを忘れていました」

「そば?」

 源さんと土方さんが聞き返してきた。

「沖田さんにそばを買って来るって約束したのですよ」

「そばって、京に着くまでに腐るぞ」

 源さんがそう言ったので、この時代は乾燥しているやつはなかったのかな?

「それなら、せめてお土産を……」

「江戸に遊びに来たんじゃないんだぞ。隊士募集しに来たんだ。何が土産だ。総司にはいいものをもらってきただろう」

 ああ、人中白……。

 あれって、お土産になるのか?私だったら、あんなものもらったら嫌だぞ。

「なんだ、総司だけずるいな。俺もほしいな」

 源さんが言ったから、土方さんは人中白を出してきた。

「こ、これは……」

 源さんもなんだかわかったらしい。

「なんでこんなものがここにあるんだ?」

 源さんは顔を背けてそう言った。

「沖田さんのお姉さんのおみつさんが持ってきたのです。労咳に効くらしいですよ」

「そんなもの、効くわけないだろう」

 源さんもそう思うらしい。

「おみつさんが持ってきたんだぞ。源さんは断れるか?」

 土方さんが源さんに聞くと、

「うーん、それは無理だな。あの人怖いしなぁ」

 と言った。

 沖田さんのお姉さんって、そんなに怖いのか?

 

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