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幕末へ タイムスリップ  作者: 英 亜莉子
慶応3年7月
349/506

大手組と幕府歩兵隊

 七月になった。

 現代で言うと八月の中旬から下旬あたりの気候になる。

 京は盆地だから暑い。

 それでも、現代に比べるとまだ涼しいと思えるのだけど、暑いものは暑い。

 冷房とまでは言わないから、せめて扇風機がほしい。

 そう思いながらうちわをパタパタとあおいでいた。

「お前みていると暑い」

 土方さんが書き物をしていた手を休めてそう言ってきた。

 私見ていると暑いって、どういう意味だ?

「自分ばかりあおいでねぇで、俺にもあおいで風を送れ」

 仕方ないなぁ。

 私は土方さんに向かってパタパタとあおいだ。

「もう少し、優しくあおげねぇか? 紙が全部飛んでいくだろう」

 注文の多い人だなぁ。

 少し優しぐあおいであげていると、鉄之助君がお茶を持ってきてくれた。

「蒼良先生、私がやりますよ」

 鉄之助君はうちわをあおいでいる私を見ると、そう言ってうちわを取り上げて土方さんをあおぎ始めた。

「お前はいいぞ。他に仕事があるだろう?」

 土方さんが鉄之助君にそう言った。

 って、私にはうちわであおがせて、鉄之助君はやらなくていいってどういうことだ?

「いえ、これが私の仕事ですから」

 そう言って鉄之助君はうちわでパタパタとあおぎ始めた。

 私もそのおこぼれにあずかろうと思い、風のあたる場所へ移動した。

「お前、移動しただろう?」

 移動しましたが、何かいけなかったか?

「私だって、風にあたりたいですよ」

「蒼良先生もどうぞ」

 私がそう言うと、鉄之助君は私にも風があたるようにあおいでくれた。

「鉄之助、こいつはいいから」

 土方さん、なんてことを言うんだっ!

「いえ、蒼良先生も私にとっては土方先生と同じぐらい大事な人ですから」

 そ、そうなのか?

 その言葉に感動をしていると、

「お前は俺の小姓で、こいつの小姓ではないからこいつにまで気を使う事はない」

 そりゃそうなんだけどね。

 でもでもでもっ!

「私だって暑いんだから、風にあたりたいですよ」

「わかった、わかった。そんな泣きそうな顔をして言うな」

 泣きそうな顔をしていたか?

「仕方ねぇから、こいつにも風を送ってやれ」

 土方さんがそう言うと、鉄之助君はくすっと笑って風を送ってくれた。

 少しだけ涼しくなったような気がするっ!

 でも、扇風機がほしいよなぁ。

 それにしても……。

「なんでこんなに暑いんですかね」

 暑くて、朝から何もする気がしない。

「夏だからに決まってんだろう」

 そりゃそうなんだけど。

「夏でも涼しい夏と暑い夏があるじゃないですか。今年は暑いような感じがするのですが」

「いつもと同じ夏だろう」

 そう言われるとそう感じる。

 クスクスクスと、鉄之助君が笑った。

「どうした?」

 土方さんが聞くと、

「お二人のやり取りを聞いていると面白くて」

 そう言って鉄之助君が再びクスクスと笑いだした。

 そ、そんなにおかしいのか?


「お、蒼良、ちょうどいいところにいた」

 夕方になり、少し涼しくなったから外に出ようと思っていたら、永倉さんに声をかけられた。

「今日は暑かったな」

 原田さんが隣にいて、私の頭をポンッとなでてきた。

「暑かったですね」

「こういう日は飲みに行くのにかぎるんだ。と言う事で、蒼良も一緒に行くぞ」

 永倉さんが私の肩を抱き寄せてきた。

「ど、どこに飲みに行くのですか?」

「島原だってよ」

 原田さんが教えてくれた。

 島原かぁ。

「よし、行くぞ」

 私の返事を聞くまでもなく、永倉さんに引っ張られたのだった。


 久しぶりに牡丹ちゃんに会った。

「最近、楓はんどう?」

 楓ちゃんは牡丹ちゃんと一緒に島原で働いていたけど、楓ちゃんはめでたく近藤さんと結ばれて身請けされた。

 今は近藤さんの別宅で暮らしている。

「幸せそうに暮らしているよ」

「それはよかったわ。近藤はん、お妾はんが多いやろ? 楓はん苦労しとるんやないかと、心配しとったんや」

 そうだよね、私も心配だったもん。

 だって、近藤さんは江戸に奥さんもいるのに、京であっちこっちにお妾さんを作って、京の生活を謳歌しているもんね。

「私もそれは心配していたけど、楓ちゃんは楓ちゃんで楽しんでいるよ」

 たまに楓ちゃんを見かけると幸せそうに見える。

「よかったわぁ」

 牡丹ちゃんはホッと肩をなでおろしていた。

 本当に心配だったんだなぁ。

「おい、蒼良。今日は左之のおごりだから飲め」

 えっ、原田さんのおごりなのか?

 それをなんで永倉さんが言っているんだ?

「新八っ! 誰もおごるなんて言ってないぞ」

「左之、そうケチるなよ」

「じゃあ、新八がおごれ」

「俺、金がねぇんだよ」

 そ、そうなのか?

 それでよく島原に行こうと思ったなぁ。

 あれ?と言う事は、誰がお会計をするんだ?

 原田さんを見ると、

「俺も金がない」

 と言った。

 ええっ!

「私も手持ちがないですよ」

 どうするんだ?

「つけだ、つけっ! つけで頼む」

 永倉さんがそう言った。

 つけか?出来るのか?

 それがあっさりとできてしまった。

 というのも、幕臣になったから信頼があるらしい。

 現代で言う所の公務員と言う事なんだろう。

「幕臣になってよかったと、初めて思ったよ」

 原田さんがいたずらっ子のような笑顔でそう言った。

「今日はつけだから、心置きなく飲めっ!」

 永倉さんがそう言いながらお酒をそそいでくれた。

 つけだからって、それってちょっと違うと思うのだけど……。


 思った通り、永倉さんは酔いつぶれた。

 そして、原田さんが永倉さんを背負って帰ることになった。

「原田さん、大丈夫ですか?」

「いつものことだ」

 原田さんはそう言って慣れた手つきで永倉さんを背負った。

 そして外に出ると、外がにぎやかになっていた。

 いい方のにぎやかならいいけど、悪い方のにぎやかで、殺気だっていた。

「何かあったのか?」

 原田さんが外に出ながらそう言うと、喧嘩のような声が聞こえてきた。

「喧嘩ですかね?」

「島原で喧嘩と言ったら、女がらみか?」

 そうなのか?芸妓さんの取り合いとかか?

「ちょっと見てきますね」

 喧嘩なら止めたほうがいいだろう。

 京の治安を守るお仕事をしているのだから。

「危ないから俺も行く」

 原田さんがそう言ってきた。

「永倉さんはどうするのですか?」

 私が聞くと、背負っていた永倉さんをそのままおろした。

「置いて行く。ここに置いておいても、こいつなら大丈夫だろう」

 うん、こんなところで亡くなる人じゃないから大丈夫。

「行こう」

 と言う事で、原田さんと一緒に喧嘩が行われている方へ行った。


「大手組と幕府歩兵隊が衝突しとるで」

 喧嘩の場所が近づくとその詳細が分かってきた。

 どうも、大手組と言う所と幕府歩兵隊が衝突しているらしい。

 なんでだ?

 それにしても、大手組って何?

「原田さん……」

「大手組か? 火消しだ」

 私が聞こうとしたことがわかってくれたらしい。

 火消しかぁ。

「なんで火消しが幕府の歩兵隊と衝突しているのですかね」

「さあな。単なる喧嘩だから、帰るか」

 えっ、止めなくていいのか?

「止めて変なふうに巻き込まれても困るしな」

 そうなんだよね。

 変にかかわって、変なふうに巻き込まれて悪評だけが残るって言うのが、だいたい今までのパターンだよな。

 もとの場所に戻ると、相変わらず酔いつぶれている永倉さんと、不安そうな顔をした牡丹ちゃんがいた。

「なんか騒々しいけど、何かあったん?」

「喧嘩みたいだよ」

 私が言うと、

「またなん? いややわ」

 と、牡丹ちゃんは眉間にしわを寄せて言った。

 牡丹ちゃん、帰り道一人で大丈夫かな?

「送って行こうか?」

 私が言うと、

「大丈夫や。番頭はんがおるから。蒼良はんたちも気を付けてな」

 と牡丹ちゃんに言われ、見送られた。

 永倉さんを背負っている原田さんと一緒に、この日は島原を後にした。


「おい、出動要請がきた」

 次の日、土方さんがそう言った。

「どこへですか?」

「東寺だ」

 えっ、東寺?

「東寺で何かあったのですか?」

「最初は島原で悶着があったらしいんだがな」

 もしかして……。

「幕府歩兵隊と大手組の衝突ですか?」

「知っていたのか?」

 やっぱりそうなのかっ!

 しかも、場所が東寺に移っているよ。

「大手組400人が東寺にいる幕府歩兵隊の所に行き、発砲したらしい」

 ええっ、発砲?

「それを止めに行けと幕府から来た」

 えっ、止めに行くのか?

「危ないじゃないですかっ!」

「危なくとも幕府から命令がきたなら行くしかねぇだろう」

 昨日は、幕臣になってよかったと思ったけど、今は、幕臣って大変なのねと思ってしまった。

「ところで、なんでお前は知ってたんだ?」

 え、何をだ?

「大手組と歩兵隊の衝突をだよ」

「ああ、昨日、島原で衝突をしているのを見たのですよ」

 なんで止めなかったとかって言われそうだなと思ったけど、言われた言葉は、

「大丈夫だったか?」

 という心配の言葉だった。

「土方さんこそ、大丈夫ですか?」

 思わず言ってしまった。

「なにをだ?」

「珍しく私のことを心配したので……」

「何言ってんだっ! 俺はいつも心配してるんだっ! しかも、昨日は死者も出ているんだぞ」

 そ、そうなのか?

「お前こそ知らなかったのか? 一名の死者を出しているんだ」

 そんな大きな喧嘩になっていたのかっ!

 だから、400人で押し寄せるような大事になったんだよね。

 やっぱり、あの時止めておいた方がよかったのか?

「お前がかかわらなくてよかった」

 土方さんはそう一言言った。

 そうなのか?

「こういう時は、変にかかわらねぇほうがいいんだ。よく無事で帰ってきたよな。お前のことだから、真っ先に行って止めていると思ったぞ」

 そうなんだよね。

 止めようと思ったけど、原田さんに止められたのだ。

 大事になってしまったけど、自分を守るためにこれでよかったんだなと、実感した。

 それから東寺に出動して、必死になって仲裁をした。

 昔だったら、誰かがブチ切れててとっくのとうに斬り合いになっていたんだろうなぁ。

 新選組も仲裁をする方になったとは、新選組も成長したなぁ。

「やめねぇと斬るぞっ! 俺は二日酔いで機嫌が悪いんだっ!」

 そんな声が聞こえてきたので見て見ると、永倉さんが必死に刀を出そうとしているところを、平隊士の人たちに止めらてていた。

 うん、あまり成長していないかも……。

 

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