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幕末へ タイムスリップ  作者: 英 亜莉子
慶応3年4月
335/506

見合いをする?

 近藤さんに呼ばれたので、近藤さんの部屋へ行った。

「失礼します」

 そう言って中に入ると、いつも通り土方さんもいて、一緒にお茶を飲んでいた。

「何の用だ? 団子はねぇぞ」

 土方さんがお茶を飲みながらそう言った。

 いつも団子を食べたいと思ってないですよ。

 お茶を飲んでいるときにたまに思うだけですよっ!たぶん……。

「わしが呼んだんだ。わざわざ来てもらって悪いな」

 近藤さんがそう言いながら座布団を出してきた。

 その座布団に座ると、近藤さんつきの小姓がお茶を持ってきた。

 近藤さんの小姓も気がきくなぁ。

 そんなことを思いながらお茶をすすった。

蒼良そらを呼んだ理由は、楓に頼まれたんだ」

 楓ちゃんに何を頼まれたんだ?

「蒼良が女であることはわかっている。で、楓が、いつまでもこうやって男装させていたら、女の幸せ逃してしまうから、早く何とかしてやれって、毎日のように言われてな」

 楓ちゃん、そんなに私のことを心配してくれたんだ。

 それが嬉しいやら、申し訳ないやら、複雑な気分になってしまった。

「わしも色々考えたんだ。考えた結果何だが、見合いをしたらどうだと思うんだが……」

 近藤さんがそう言ったとたん、なぜか土方さんがお茶を吹き出した。

 汚いじゃないかっ!

「何言ってんだ、近藤さん。別に見合いさせなくてもいいだろう」

 私もあまり見合いと言うものにのり気じゃない。

「歳、考えてみろ。蒼良も22才だぞ。隊の仕事をしているから行き遅れるのも仕方ないが、いくらなんでも行き遅れすぎだろう」

 こ、近藤さん、この時代ではそうかもしれないけど、私の時代では全然行き遅れじゃありませんからね。

「確かになぁ」

 土方さんまでそう言うことを言うのか?

「でも、見合いしなくても相手はいくらでもいるだろう。新選組には男がだくさんいるからな」

 え、この隊の中から探せってか?

 うーん、どうなんだろう?

 そんなこと考えたこともなかったからなぁ。

「実は、見合いの話を進めてしまったんだ」

 えっ、なんだって?

「蒼良、頼む。わしの顔を立てると思って、見合いをしてくれないか?」

 そ、そうなるのか?

 思わず土方さんの顔を見てしまった。

「な、なんでそんなことを勝手にしちまったんだ?」

 土方さんは近藤さんを責めるようにそう言った。

「すまん。会津藩の方でいい女がいないか? と聞かれたから、蒼良のことを話したんだ。綺麗で性格も申し分ないが、行き遅れてるってな」

 どうせ、この時代では行き遅れですよ。

「それでもいいからと言う事になって、話が進んでしまって、わしでも止められなくなってしまった」

 そんなことになっていたのか?

「わかりました」

 私がそう言ったら、近藤さんも土方さんも私の顔を見た。

「会うだけならいいですよ」

 近藤さんの顔を立てるつもりで、会うだけ会って断ればいいだろう。

「お前っ! 本気か?」

 土方さんはそう怒鳴っていたけど、

「蒼良、ありがとうっ!」

 と、近藤さんは、私の両手を握って一生懸命お礼を言っていた。

 断ればいいんだし、適当にやろう。


「勇はんに蒼良はんのことを頼んでてよかったわ」

 見合いの日、近藤さんの妾宅である楓ちゃんのいるところに行き、楓ちゃんが着物を着つけてくれて、お化粧までしてくれた。

「相手は会津藩のお人なんやって?」

 そうらしい。

 私はよく知らないんだけどね。

 他人事のようにうなずいたら、

「蒼良はん、自分のことやないの。もっと気合を入れんとあかんよ」

 気合も入れるも入れないも……。

「お見合いを断ると、近藤さんの顔をつぶすみたいになりそうだったので」

「勇はんの顔をつぶしたら、怒るでっ!」

 そ、そりゃそうだよね。

 楓ちゃんは、今は近藤さん一筋だもんね。

「だから、お見合いをするんだけど、会って断ろうと思っているから」

 私がそう話したら楓ちゃんはえっ?という顔をした。

 何か変なことを言ったか?

「蒼良はん、お見合い初めてなん?」

 初めてだけど……。

「話とか聞いたことない?」

 聞いたことはあるけど……。

「でも、わかっとらんみたいやね。お見合いは、女は断れんのよ」

 えっ?

「断ったりできるのは、男だけなんよ」

 そ、そうなのか?

 それって、男尊女卑じゃないかっ!男女平等じゃないぞっ!

 って、この時代が男女平等の時代じゃなかった。

「だから、相手が蒼良はんを気に入ったら、めでたく婚約や。蒼良はんもこれで女の幸せを手に入れることが出来るんよ」

 そ、それは非常に困るのですがっ!

 どうしよう?逃げるか?でもどこに?

 ああ、どうしよう?

「できたで」

 私が悩んでいる間にも準備ができたらしい。

 本当に、どうしよう?

「できたか?」

 土方さんが部屋に入ってきた。

「これなら相手にも気に入られるで」

 楓ちゃんが嬉しそうにそう言った。

「気に入られると困るんだがな」

 ボソッと土方さんがそう言った。

 土方さんも私と同じ意見か?

 私も、気に入られるとすごく、すごく困るのですがっ!

「行くぞ」

 土方さんは機嫌が悪いらしい。

 不機嫌な顔をしたまま、私を外に連れ出した。

 そして、ずうっと無言で歩いていた。

「ど、どこへ行くのですか?」

 恐る恐る聞いてみた。

「どこって、見合いの場所に決まってんだろう」

 そ、そうなのかっ!

 それは非常に困るのですがっ!

 本当に、本当にどうすればいいんだっ!


「はあ? 断れると思っていたのか?」

 一人で悩んでいも仕方ないから、土方さんに相談したら、そう言われた。

 この時代の見合いって、女の意思の尊重と言うものがないのか?

「で、お見合いはいつ始まるのですか?」

 料亭みたいなところに入ったけど、相手が来る気配が全くなかった。

 もしかして、早く着すぎたとか?

「もう始まってるよ」

 えっ?

 土方さんが窓際に座って外を指さした。

 相手がきたのか?

 土方さんの横から外を見た。

「どこを見てる? 向こうだ」

 そう言われて向かい側にある建物を見た。

 向かいがわもここと同じ料亭になっていた。

 そこには、男の人が二人いた。

 そして、こっちを見ていた。

 なんでこっちを見ているんだ?

「お前、見合いしたくなければ、引っ込んでろ」

 土方さんにそう言われたので、あわてて窓から遠のいた。

 土方さんはにらむようにして窓の外を見ていた。

 なんでそんな怖い顔をして外を見ているんだ?

「お前が引っ込むのが遅かったから」

 えっ?それが何かあるのか?

「相手がお前を見ちまったかもな。見合い成立か?」

 ええっ!

「だって、まだ見合いをしていないですよ。相手がいないじゃないですか」

「相手なら、向こう側にいるだろう」

 いたよ、男の人が二人……。

 もしかして……。

「こうやって、遠くで見合っているのが見合いとか……」

 これが見合いだって言わないよね?

「そうだ。知らなかったのか?」

 ええっ!本当にそうなのか?

 本当に遠くから見合っているだけじゃないかっ!

 もう一回、窓の近くに立ち、向こう側を見た。

 男の人が二人。

 一人は年配の人。

 これは見合いの相手じゃないだろう。

 と言う事は、もう一人の若い人が相手なのか?

 がっちりとした体形をしていて、首がない。

「だから、お前は出るなって言っているだろう」

「土方さん、あの首のない人が私の相手ですか?」

「どうやらそうらしいな。だから、お前を見せないようにしていたんだが……」

 思いっきり見られてますから。

 こうしている間にもばっちりと。

「もう手遅れだな」

 そ、そうなのか?

 あわてて部屋の中に引っ込んだのだけど、もう遅かったらしい。

 ああ、どうすればいいんだ?

「後は、相手がお前を気に入らなければ、見合いは流れる」

「そうなれば婚約とかしなくてもいいのですねっ!」

「そうだ」

 相手が嫌うようなことをすればいいんだ。

 どうすればいいんだ?

「お酒の一気飲みでもして見せますか?」

 大酒飲みの女なんてもらいたくないだろう。

「お前が飲みてぇだけだろうがっ!」

 そ、それもあるっ!

「もう遅い。相手は帰ったぞ」

 そ、そうなのか?

 恐る恐る窓の外をのぞくと、向かい側にいた人たちはいなくなっていた。

 この話、どうなるんだ?


「蒼良、喜べっ! 相手は気に入ったらしいぞ」

 次の日、さっそく近藤さんに呼ばれた。

 ドキドキしながら近藤さんの部屋に行ったら、近藤さんがまんべんの笑顔でそう言った。

 き、気に入ったのか?

「さっそく、婚約の日をいつにするか相談があったぞ」

 そ、そこに私の意思はあるのかいっ?

 全然ないじゃないかっ!

 この時代、見合い話は女は断れないって本当なんだ。

 改めて実感したのだった。

 って、実感している場合じゃないよ。

「すみません。私はまだ婚約できないです」

 近藤さんの顔をつぶしてしまうかもしれないけど、だからってこんな形で婚約なんてできない。

 しかも、相手のこともよくわからないのに。

 首がない人としかわからないぞ。

 首がない人と結婚なんて、嫌だぁっ!

「蒼良、ただでさえ行き遅れてんだから、ここで話を決めたほうがいいぞ」

 行き遅れていることは十分わかっています。

 でも、こんな簡単に結婚なんてできないっ!

 近藤さんの隣に座っている土方さんを見た。

 これなら、土方さんと結婚した方が全然いいぞっ!

 って言うか、結婚を考えるなら、土方さんがいいっ!

「こ、近藤さん。実は私は人には言えない病気が……」

 病気の嫁をもらうもの好きはいないだろう。

「どういう病気だ?」

 病名まで考えてなかった……。

 どうしよう?

「杉の花粉を吸うと、くしゃみと鼻水が止まらない病気です」

 か、花粉症だっ!どうだっ!

 ちなみに、私は花粉症と無縁なんだけどね。

「そんな変わった病気があるのか?」

「はいっ! 杉の花が咲く季節になると、もうだめです」

「そうは見えんが、そう言う病気なのか? 命にかかわるのか?」

「命にはかかわりませんが……」

「それなら大丈夫だ」

 そ、そうなのか?

 なんか、話がまとまっちゃいそうだぞ。

 どうしよう?

 オロオロしていると、

「近藤さん」

 と、近藤さんの隣に座っていた土方さんが口を開いた。

「こいつは、女だが武士になりたくてここに来たんだ。こいつがまだ結婚したくないと言う事は、その志が途中だと言う事なんだろう? どうなんだ?」

 志とかなんだか難しい話になっているけど、コクコクとうなずいた。

 そうなんですよっ!その志が途中なのですよっ!

 もう、この婚約話が飛ぶのならなんだっていいわっ!

「そうか、そうだったのか。蒼良は、隊の中で一番男らしいな」

 そう言われてしまった。

 これっていいことなのか?

 恐る恐る土方さんを見たけど、無表情だった。

「わかった。相手にはわしから断っておく。蒼良の志を大事にしたいからな」

 もしかして、婚約話が無くなったのか?

 土方さんを見たら、うなずいてくれた。

 よかったぁ、無くなったよぉっ!


「お前が安易に見合いなんてするからこうなるんだ」

 部屋に帰ったら、土方さんにそう言われた。

「まさか、拒否権がないなんて思わなかったので……」

「わけわからねぇこと言ってんじゃねぇよ」

 もう、話が無くなっただけで嬉しいから、今は何を言われてもいいわ。

「土方さんなら、結婚してもいいと思いますが、あんな首のない人は嫌ですよ」

 私のその一言に、土方さんの動きが止まった。

「俺なら結婚していいと言ったな?」

 そう言ったような?

「よし、今からするか? 近藤さんも喜んでくれるぞ」

 ち、ちょっと待て。

 そんな簡単に結婚なんてしていいのか?

 でも、土方さんなら別にいいかな?

 そう思いながらチラッと土方さんを見ると、ニヤリと笑っていた。

 もしかして……

「冗談とか……」

「そんな簡単に出来るわけねぇだろう」

 やっぱり冗談だったのかっ!

 少しでも、結婚していいかな?なんて思った私がばかだった。

「土方さんのばかぁっ!」

 座布団を土方さんに投げつけ、私は部屋を出た。

 もう二度と見合いなんてしないぞっ!

 ちなみに、結婚話もしないからねっ!

 それなりの年齢になるまでっ!

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