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幕末へ タイムスリップ  作者: 英 亜莉子
慶応3年2月
323/506

意外な再会

「お前、着物こんなにもらってきて着るのか?」

 楓ちゃんにもらってきた着物をしまっているときに土方さんにそう言われた。

「私も着ないと言ったのですが、たくさんあるから持って行けと言われたので」

 女なら着物持っていないとあかんっ!みたいなことも言っていたような?

「いい着物ばかりじゃねぇか」

 え、そうなの?

「高価なものなのですか?」

「お前、知らないでもらってきたのか?」

 着物の価値なんてわからないよ。

 そう思いながら、コクコクとうなずいた。

「これは相当高価なものだぞ」

 そんなものをもらってきてよかったのだろうか……。

「返したほうがいいですかね?」

「なんでだ?」

 なんでだって、そんな高価なものをもらったら悪いじゃないか。

「もらったものなんだから、もらっとけばいいだろう」

 そうなのか?

「袖を通す機会があればいいがな」

 そう、問題はそれなのだ。

 だって、普段男装しているから、そう言う着物をなかなか着る機会がないのだ。

「もったいねぇな」

 着物を見て土方さんが言った。

「本当にもったいないですよね」

 自分でもそう思いますよ。

 このまま、たんすのこやしってやつになりそうだぞ。

「なんなら、土方さん着てみますか?」

「なんで俺が女物の着物を着ねぇといけねぇんだ?」

「だって、このまましまっちゃうのもったいないじゃないですか」

「だからって、俺が着るって言うのもおかしいだろう」

 いや、おかしくないと思うけど。

「それなりに似合うと思いますよ」

「そりゃどういう意味だっ!」

 どういう意味だって、こういう意味だっ!

 胸を張っていると、

「俺は何でも似合うに決まってんだろ」

 と、土方さんが言ってきた。

「それなら、ぜひ着てくださいよ。これ、楓ちゃんからもらったものでよかったらあげますよ」

「いらんっ!」

 土方さんがそう言ったけど、すぐに

「あ、女にやってもいいな」

 と、ニヤリと笑って言った。

 お、女だと?

「どこの女ですか?」

 いつの間にそんな女がいたんだ?

「冗談だ。いるわけねぇだろう。そんな怖い顔するな」

 土方さんはそう言いながら笑っていた。

 わ、笑いごとじゃないからねっ!

「巡察に行ってきますっ!」

「今日も行かなくていいぞ」

 え、そうなのか?

「今日は、山崎と行動を共にしろ」

 何かあったのか?

「山崎が鍼灸師しんきゅうしになってある屋敷に行くことになっている。そこに長州藩のやつがいるらしいから、一緒に行って見て来い」

 あれ?でも……

「今は長州藩は京にいても捕縛できないのですよね」

 長州征伐に負けて、幕府の方から休戦を願い出た状態だから、捕縛をした日には、負けたくせに捕縛しやがって、こちらから攻撃してもいいんだぞっ!って感じになりそうだけど。

「捕縛しろと言ってねぇだろう。次は何をたくらんでいるか知りたいだけだ」

 そうなのか?

 次は何をたくらんでいると聞かれたら、

「きっと、次は倒幕をたくらんでいると思いますよ」

「お前、よくそんなことを普通の顔で言えるよな」

 え、そうか?本当のことだから、仕方ないだろう。

「そう企んでいると知っているなら、それを阻止するのが俺たちの役目だろう」

 ああ、確かに。

「とにかく、山崎と行って来い」

「わかりました」

 と言う事で、山崎さんと出掛けることになった。


「今回の蒼良そらさんは、私の弟子と言う事で」

 行く途中に山崎さんが、どういう設定で潜入するのか説明してくれた。

 それによると、今回は山崎さんの知り合いの鍼灸師のところに来てほしいと言う依頼があったらしい。

 その依頼した人は、長州藩と関係があるらしい。

 そこで、山崎さんが頼んでその知り合いの代わりに山崎さんが行くことになったらしい。

「長州に負けたのだからもういいと思うのですが……」

 私が言うと、山崎さんは優しい笑顔になった。

「蒼良さんはそう言いますが、私たちは幕府を守らないといけないので、長州が倒幕を考えている限り、それを阻止しなければならないのです」

 そうなのか。

「もしかしたら、伊東参謀との接触もあるかもしれないですよ」

 え、そうなのか?ああ、そうかもしれない。

「副長に言われ、篠原さんも監視しています。今のところ、目立った動きはないですが」

 土方さん、私のことを信じてくれたんだ。

 数日前に、篠原さんが新選組を脱退するために動くかもしれないと一人であせっていたら、俺に相談しろと言ってくれた。

「蒼良さんが伊東参謀に目をつけたと、副長から聞きました。だから今回も蒼良さんと一緒に行くように言われたのですよ」

 そうだったのか。

「倒幕の件も関係ありますがね」

 そう言って、山崎さんが優しく笑った。

 そんな話をしている間に、その呼ばれたお屋敷についた。

「さ、行きましょう」

 山崎さんのその一言の後に、私たちはそのお屋敷に中に入った。


「なんで鍼灸師を呼んでいるのですか」

「なんで女隊士がここにいるんだ?」

「あのですね、一応、女だと言う事は内緒のことになっているので、大きな声で言うのはやめてもらえませんか?」

「ああ、それは悪かったな、女隊士」

 こ、こいつ、本当に悪かったと思っているのか?

 あれから、山崎さんとこのお屋敷に入った。

 そこで待っていた長州藩とかかわりのある人と言うのが、桂小五郎だった。

 今は、変名をして木戸貫治になってるらしいが……

「あ、蒼良さん、お知り合いだったのですか?」

 山崎さんに小さい声で聞かれた。

「知り合いも何も、この人、桂小五郎ですよ」

「えっ!」

 その名前を聞いて驚く山崎さん。

「ああ、今は名前を変えて、木戸貫治になっているがな」

 私たちの会話が聞こえたみたいで、何事もないように自己紹介する桂小五郎。

 って言うか、私たちが新選組だって知っているんだろう。

 もうちょっと警戒とかしたほうがいいんじゃないのか?

「で、なんで鍼灸師なんて呼んでいるんですか?」

「そうだ、俺は鍼灸師を呼んだのであって、新選組は呼んでないが、なんで来たんだ?」

 今頃気がついたんかいっ!

「何言っているんですか。鍼灸師ですよ」

 山崎さんはばれているのにもかかわらず、普通にそう言った。

「まあ、腕が確かなら誰でもいいがな」

 そ、そうなのか?

「あのですね、もうちょっと警戒心と言うものを持ったほうがいいと思いますよ。針であなたの心臓をさすかもしれないですよ」

 私がそう言うと、横で真っ青な顔をして

「蒼良さん、そんなことを言うと、ばれてしまいますよ」

 と、山崎さんが言った。

 ばれるも何も、もうばれているから。

「そこでこそこそ言い合ってないで、早く治療をしてくれ」

「なんの治療ですか?」

 私から見たら、充分元気そうに見えるけど。

「実は、ぐぎっと腰をやってしまってな」

 ああ、ぎっくり腰か。

「わかりました。横になれますか? 手伝いますよ」

「ああ、頼む」

 桂小五郎は、山崎さんの手を借りてうつぶせに横になって腰を出した。

 そこに、慣れた手つきで針を刺していく山崎さん。

「女隊士が刺すんじゃないのか?」

 うつぶせになって私を見た桂小五郎が言った。

「刺してほしいのなら、刺しますが」

 針を一本出してそう言ったら、

「いや、いい」

 と言われてしまった。

 遠慮しなくてもいいのに。

 針を山崎さんに返すと、山崎さんは苦笑していた。

「そう言えばお前たち、高杉晋作を知っているな? 長州に潜入したときに会ったと晋作の方は言っていたが」

 その言葉に、山崎さんの手が一瞬止まったけど、すぐに動き出した。

「彼に何かあったのですか?」

 私は恐る恐る聞いてみた。

 労咳になっている高杉晋作に何かあったとしたら、病状が悪化したとか、亡くなったとかだろう。

「いよいよ危ない」

 桂小五郎はぼそっとそう言った。

 その一言に山崎さんと目を合わせた。

「おい、手が止まっているぞ」

「すみません」

 桂小五郎にそう言われた山崎さんは謝ると再び針を刺し始めた。

「危ないって、病気が悪化したと言う事なのですか?」

 それしかないんだけどと思いつつ、聞いてみた。

「労咳だってことまで知っていたのか?」

 いよいよ危ないって話し始めたのはあんただろうがっ!

「ま、いい。晋作は、お前たちに会いたがっていた。会うならもう今しかないだろう」

 高杉晋作は、長州にいる。

 現代なら、新幹線に乗って日帰りで会いに行ってすぐに帰ってこれるけど、この時代はそれは無理だ。

 京から長州は遠い。

 長い時間、隊務を休むのは無理だろう。

 それに、敵に会いに行くなんて、土方さんが大反対をするだろう。

「無理そうだな」

 私たちの様子を見た桂小五郎はそう言った。

「そんなことだろうとは思っていた。ま、言ってみただけだ」

 そう言った桂小五郎が悲しそうに見えたのは気のせいか?

 

 桂小五郎への針治療を終えた私たちは、屋敷を後にした。

「私が最後に会ったときに血を吐いていて、悪化したと言っていたから覚悟はしていましたが……」

 そう言った山崎さんも悲しげだった。

「敵ですが、敵ながらも好ましい人でしたね」

 山崎さんが私の方を見てそう言った。

「そうですね。なんで労咳になんてなってしまったのでしょうかね」

 この時代、いい人はみんな労咳になってしまうように見える。

 沖田さんだってそうだ。

 未来ある人が労咳になって亡くなってしまう。

 早く薬が開発されればいいのに、薬が出来るのはまだまだ先のこと。

 早く亡くなってほしくない人に限って早く亡くなってしまう。

 悔しいなぁ。

「労咳はうつる病気なので、誰がいつなってもおかしくない病気なのですよ」

 山崎さんのその説明が悲しく響き渡った。

「お薬が早くできればいいのに」

 そんな私が発した一言に、

「そうですね」

 と一言、山崎さんが言った。


 暗い気分になっていた私たち。

 そんなときに、和菓子屋さんの前を通った。

「蒼良さん、こんな時に申し訳ないのですが、蒼良さんに元気になってほしいから」

 そう言って、山崎さんは私の手を引いて和菓子屋さんに入って行った。

 この和菓子屋さん、どちらかと言うと京菓子をメインに扱っているみたいで、色々な花の形をした綺麗な和菓子が並べられていた。

 その中の一つを山崎さんが指さした。

「蒼良さんは沈丁花じんちょうげが好きだと聞いたので、これを買って贈ろうと思っていたのです」

 優しい笑顔でそう言うと、

「これを全部」

 と山崎さんが言った。

 え、全部って……。

「一つだけで物足りないと言われると困るでしょう?」

 いや、別に困らないけど……いや、少し困るかな?あ、やっぱり困るなぁ。

「たくさん買っても損はないでしょ」

 山崎さんのお財布の中が損をするでしょう?

 そんなことを考えている間にも、お店の人は和菓子を箱の中に入れて包んでくれた。

 それを受け取ると、

「さあ、行きましょう」

 と言って山崎さんに腕を引っ張られた。


 それからその和菓子を二人でいただいた。

 甘くておいしかった。

 しかし、たくさんあったので食べきれず、何個か屯所に持って帰ってきた。

「お、これ、うまいな」

 そのお菓子の一つを、土方さんがお茶をすすりながら食べていた。

「山崎さんが買ってくれたのですよ。私が沈丁花が好きだから、沈丁花の形をした和菓子なのですよ」

 私がそう言うと、土方さんがゴホゴホとむせ始めた。

「だ、大丈夫ですか?」

 私は土方さんの背中をたたきながら聞いた。

「大丈夫だ、むせただけだ」

 土方さんはそう言った後、

「山崎まで……」

 と言ってブツブツ言い始めた。

 な、何かあったのか?

「お菓子のおかわりありますよ」

「もういらんっ!」

 そ、そんな怒鳴らなくても……。

「それなら他の人たちに配って来ますね」

 そう言ってお菓子をもって立ち上がると、

「ちょっと待てっ!」

 と言って私を止めた後、残っているお菓子を全部食べてしまった。

「他の奴に渡すぐらいなら、俺が食う」

 そ、そうなのか?

 その後、のどに詰まらせてまたゴホゴホとやっていた。

 そうか、土方さんがそんなにこのお菓子が好きだってこと知らなかった。

 また買ってきてあげよう。

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