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幕末へ タイムスリップ  作者: 英 亜莉子
慶応3年2月
320/506

またまた罰掃除

「お前は今日の巡察に行かなくていい」

 土方さんがそう言いだした。

「何かあったのですか?」

 巡察に行かなくていいって、なにがあったんだ?

「お前は西本願寺に行け」

 えっ?

「な、なんで西本願寺なのですか?」

 嫌な予感しかしない。

「この前、総司と平助と沈丁花じんちょうげをとろうとして西本願寺に入っただろう?」

 いや、とろうとしていない。

「とろうとしていたのを止めていたのですよ」

「でも、中に入ったのは間違いねぇだろう」

 確かに。

 見つかっちゃったし。

「あれから大変だったんだぞ。坊主に呼び出されて延々と説教されたんだぞ。延々と説教を聞く俺の気持ちを考えたことがあるか?」

「すみません、ないです」

「なんだとっ!」

 あまり考えたことが無かった。

 また説教をされるのだろうなぁとは思っていたけど。

「いつ終わるかわからない、愚痴やらなにやらわからないようなことをずうっと聞いてんだぞ。お前も一回聞いてみるか?」

「いや、遠慮します」

 そんな暇もない。

「遠慮しなくてもいいぞ」

「いや、遠慮させてください」

 絶対に嫌だ。

 土方さんの説教聞いていた方が数倍ましかも。

「なんだ、人がせっかく誘ってやったのに」

 ところで……。

「なんで私だけ巡察しないで西本願寺なのですか?」

 なんか、話が飛んでいるような気がするのですが。

「そうだった。お前がまた西本願寺に入ったから、また掃除しろって言ってきた」

 そういえば、前もそんなことがあった。

 私と藤堂さんと沖田さんが隊の中でも一番多く西本願寺に入りこみ、見つかった回数が多いらしく、罰として掃除しろって言われて、藤堂さんと二百何畳?だかある畳の部屋を掃除した記憶がある。

「沖田さんは安静だから、また私と藤堂さんでお掃除ですね」

「いや、平助は今回は無理だ」

 えっ?

「あいつは巡察に行く」

 ん?ちょっと待て。

「私は巡察に行かないで掃除しろって言って、藤堂さんには巡察に行けって、どういうことですか? もし選べるのなら、私も巡察がいいのですが……」

 私がそう言うと、土方さんが私をにらみつけてきた。

 う、怖い。

「お前に選択権があると思っているのか?」

 えっ、ないのか?

「あるわけねぇだろう」

 そ、そうなのか?

「じゃあなんで藤堂さんは……」

「今回は、お前をご指名だ」

 ええっ!

「ご指名されているのですか?」

「ああ、女っぽい方って言われたから、お前だろう」

 い、いや……。

「お、沖田さんも女っぽいと思いますが……」

「あんなばかでかい女がいるかっ!」

 確かに、沖田さんはこの時代の人にしては背が高い。

 でも、現代では背の高い女の子が普通にいますからね。

「じゃあ、藤堂さんは?」

「平助とお前だと、お前の方が女っぽいだろう?」

「い、いや、女っぽくないですよっ!」

「って言うか、女だろう、お前」

 た、確かにっ!

「と言うわけだから、頼んだぞ」

「一人でですかっ?」

「他にいねぇだろう」

「土方さんも一緒に……」

「俺は忙しいんだ。頼んだぞ」

 土方さんは私の肩をポンッとたたいた。

 い、行くしかないのね……。


 西本願寺に行き、お坊さんの嫌味をたっぷり聞いた後、例の二百何畳の畳の部屋に案内された。

 今日はこの部屋を一人で掃除するらしい。

 終わるのはいつになるのだろうか……。

 大部屋を見回してため息をついてしまった。

 とにかく、掃除するか。

「お前、何やってんだ?」

 外から声が聞こえてきたので見て見ると、なんと斎藤さんがいた。

「なんで斎藤さんがいるのですか? もしかして、手伝いに来てくれたのですか?」

 そうだったら嬉しいなぁ。

「ただ通っただけだ。ここから行くと近道だからな」

 近道って、しかも通っただけって……。

「いつも通っているとか……?」

「通っているが、何かあるのか?」

 何かあるのかって……。

「なんでいつも通っているのに、お坊さんに見つからないのですか?」

「逆に聞くが、なんで見つかるんだ?」

 えっ、聞かれても……。

「お坊さんの耳がいいのか、すぐ見つかってしまうのです」

 私がそう言うと、斎藤さんがニヤリと笑った。

「それは違うだろう」

 えっ、そ、そうなのか?

「お前の運が悪いからだろう?」

 ……そうなのね、私の運のせいなのね……。

 って、本当か?

「それで、掃除をしているのか?」

「はい」

 私は止まっていたほうきを動かして、畳を掃きはじめた。

「真面目だな」

 真面目だなって言われても。

「やれって言われたので、仕方ないですよ」

「俺ならやらないがな」

 そうなのか?

「そんなもの、やったかやらないかなんてわからないだろう?」

 そうなのかな?

「いいからこっちへ来い」

 斎藤さんに言われたので、ほうきを持ったまま近くへ行った。

「ほうきは置いて来い」

 そう言われたので、ほうきを置いて再び斎藤さんの所へ。

「よし、行くぞ」

 斎藤さんに腕を引っ張られてしまった。

 ど、どこへ連れて行かれるんだ?


 連れて行かれたところは、東北院と言うところだった。

 私たちの上の組織にあたる京都守護職の本陣がある光明寺の近くにあるお寺だ。

「お前、沈丁花が好きらしいな」

 えっ、そう言うことになっているのか?

「嫌いではないです。いい香りがするし、この香りをかぐと、春が近い感じがして嬉しい気持ちになるのです」

「それは好きって言う事と同じだろう」

 そうかもしれない。

 そう言われると、この東北院は沈丁花がちらほらと咲いている。

 いい香りがしたのはこれだったんだ。

 本当に、春が近づいてきたんだなぁ。

「本当に好きなんだな」

 斎藤さんにそう言われてしまった。

 好きか?って聞かれると、好きなのかも。

 あれ、もしかして……。

「斎藤さんは、私が沈丁花が好きと聞いてここに連れてきてくれたのですか?」

「今頃気がついたのか。相変わらず鈍いな」

 うっ、どうせ鈍いですよ。

「あ、ありがとうございます」

 私のためにわざわざと思ったら、嬉しかった。

「巡察でたまたま見つけただけだ」

 そうだったのか。

 みんなよく巡察でこういういいところを見つけてくるよなぁ。

「どうすれば巡察中にこういういいところを見つけられるのですか?」

 思わず聞いてしまった。

 私はいいところを見つけられないぞ。

「それは、それなりに巡察に手を抜いているからな」

 え、そうなのか?

「お前はやめたほうがいい。手を抜いたらすぐに土方さんにばれそうだからな」

 うっ、そうかもしれない。

「私は、真面目に巡察をすることにします」

「そうしたほうがいいな」

 斎藤さんは笑顔でそう言ったのだった。


 沈丁花を堪能し、ルンルン気分で屯所に帰ったら、お坊さんが二人ほど仁王立ちになって待っていた。

 あ、掃除をしていたのだったよな、私。

 思い出したわ。

 それで、抜け出して行ったのだよな、確か。

「お前、本当に運が悪いな」

 斎藤さんは嬉しそうにそう言った。

 全然嬉しいことじゃないですからね。

「どこいっとったんやっ!」

 仁王立ちになっているお坊さんに言われてしまった。

「あの、ちょっとト……厠へ」

 現代では、さぼった時にトイレと言うと見逃してくれるかもしれない……。

「ずいぶん長い厠やな」

 それも現代でよく言われる嫌味かも。

「まさか、掃除せんで抜け出してきたわけやないやろうな?」

 お坊さんたちのあまりの迫力にブンブンと首を横にふった。

「そ、そんなことないですよ。ちょっと厠へ行っただけですから」

「二人で厠か?」

 にらみながらお坊さんに言われてしまった。

「つれしょんって言うじゃないですか」

「はあ?」

 斎藤さんにもそう言われてしまった。

「言いませんね、すみません」

 はあ、掃除しないと。

「掃除はとっくに終わったぞ」

 ため息ついている私の横で、普通の顔で斎藤さんが言った。

 えっ、終わったっけ?

 いや、終わってない。

 終わってなかったぞ。

「ずいぶん早いなぁ」

 お坊さんがにらんでくるのですがっ!

 思わず斎藤さんに目で助けを求めてしまった。

「だったら見て見ればいいだろう。文句があるなら、見てから言え」

 そ、そこまで言ってしまうのですかっ!

「行くぞ」

 斎藤さんに言われ、お坊さんににらまれつつその場を去った。

「さ、斎藤さん、嘘を言って大丈夫ですか?」

 嘘がばれたらどうするつもりなんだ?

「あんな広い部屋、掃除したかどうかなんて、わかるわけないだろう」

 そ、そうなのか?

「坊主たちもそこまで見ないだろう」

 そう言うものなのか?

「あんなところ掃除しろと言われてまともに掃除するのはお前ぐらいなものだろう。だから、坊主もお前を選んできたんだろ」

 そうだったのかっ!

「そう言われると、そうかもしれないです」

 思い当たるふしがありすぎるほどある。

「お前は真面目だからな。少し手を抜け」

 斎藤さんはそう言いながら私の頭をポンッとなでた。

「でも私の場合、手を抜くとなぜかばれてしまうのですよね」

 どうすればうまくやれるんだ?

「ああ、お前の場合そうだよな」

 なんか、変に納得されてしまった。

「俺が手の抜き方を教えてやるさ」

 斎藤さんは笑顔でそう言ってくれた。

 手の抜き方って、何なんだ?


「おい、西本願寺の掃除、ずいぶん早く終わったらしいじゃねぇか」

 土方さんにそう言われて、ドキッとしてしまった。

「お坊さんたち何か言ってましたか?」

 部屋が綺麗になっていないって文句を言ってなかったか?

「いや、短時間でよく綺麗にしたって、ほめてたぞ」

 なんだ、そうなのか。

 斎藤さんの言う通り、あんなに広い部屋のすみまできちんと見ないのかもしれない。

「また頼もうかなって言っていたぞ」

 えっ、そうなるのか?

「今度こそ、遠慮しますっ!」

 私のその反応を見た土方さんは笑っていた。

「そうだろうと思って、断っといたぞ。あいつらのことだから、お前が掃除していなくてもそんなに見てねぇだろう」

 ん?掃除していなくても?

「土方さん、私が掃除していないとでも?」

「してねぇんだろ?」

 なんでばれてんだ?

「お前が短時間で掃除を終わらせられるわけねぇだろう」

 そうなのか?

「坊主には黙っといたから、感謝しとけ」

 ありがとうございます。

「で、掃除さぼってどこに行っていた?」

「斎藤さんと東北院と言う所へ沈丁花を見に行っていました」

「な、なんだとっ!」

 いけなかったのか?って、掃除さぼって行っているんだから、だめだろう。

「す、すみませんっ!」

 思わず謝ってしまった。

「い、いや、大丈夫だ。そうか、斎藤と行ったのか。あいつめ、そ知らぬ顔しやがって……」

 その後、ブツブツと文句を言っていた土方さん。

 斎藤さんの何が気にくわなかったのだろう?

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