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幕末へ タイムスリップ  作者: 英 亜莉子
慶応2年10月
297/506

近藤さん写真を撮る

「近藤さんがとるらしいぞ」

 土方さんが突然そう言ってきた。

「なにをとるのですか?」

 とる物って色々あるぞ。

 あ、もしかして……。

「さ……銭入れをとるのですか?」

 財布と言いそうになった。

「そりゃスリだろうがっ! 近藤さんはすりじゃないぞ」

 それはわかってますよ。

「じゃあ何をとるのですか」

 私は近藤さんがとるらしいと言う事しか聞いてないぞ。

「ああ、なんかよくわからんやつだ」

 な、何だそりゃ。

「近藤さんの顔の絵を描くって言うものでもねぇしな。最近祇園にできただろう?」

 最近祇園にできて、顔の絵を描くと言うものではないところ……。

 でも、顔が関係するのか?

 最近祇園に写真館が出来た。

 もしかしたら……。

「写真ですか?」

「それだ、それっ!」

 土方さんがそう言った。

 そうか、写真か。

 そう言えば、近藤さんの写真も残っているもんね。

 きっとどこかで撮ったとは思っていたのだけど。

 ここで撮ったんだ。

「その写真ってのはなんだ?」

 あ、土方さんは知らないんだ。

「魂を抜かれるらしいですよ」

 冗談で私が言うと、

「そう言えば、そんな話を聞いたことがあるぞ。それは本当の話か? 近藤さんを止めねぇとっ!」

 と、土方さんは急いで部屋を出て行こうとしたので、あわてて袖を引っ張って止めた。

「なんだ、止めるなっ!」

「魂なんて抜かれないですよ。冗談です、冗談」

「はあ?」

 土方さんは、私の方を見て怖い顔になった。

「お前、それは冗談にならねぇからな。脅かしやがって」

 そう言うと、ドスンッとその場にあぐらをかいて座った。

「まさか本気にするとは思わなかったもので」

 だって、土方さんだって、蝦夷に行ったらとるんだぞ、魂……じゃなかった、写真。

「何でも、良順先生の知り合いらしいぞ、その写真師」

 そうなんだ。

「それで、近藤さんも良順先生に勧められてとるらしいぞ。俺は反対だがな」

 え、そうなのか?

「なんで反対なのですか?」

「魂を抜かれるかもしれねぇだろう」

 土方さんが真顔で言ったので、思わず吹き出してしまった。

「それは、さっき行った私の冗談じゃないですか」

「いや、そう言う話も聞く」

 この時代の人たちはそう思ったかもしれないよなぁ。

「でも、近藤さん以外にも、写真を撮った人はたくさんいると思いますよ」

 確か、たくさんいたぞ。

「誰だ?」

「坂本龍馬とか、高杉晋作とか、中岡……」

「お前……、全部倒幕派でお尋ね者になっているやつらじゃねぇか」

 あ、確かに。

「あ、でも、と……一橋慶喜公とか、 松平容保公とかも撮ってますよ」

 多分。

「そうなのか? その中にうちの近藤さんも入るのか。これはいいことなのかもしれねぇぞ」

 さっきまで、魂を抜かれるかもしれないと騒いでいたのに。

 急にいいことかもしれないとかって言ってるし。

「なんだ、文句でもあるのか?」

 また顔に出ていたか?

「いや、何でもないです。土方さんは写真を撮らないのですか?」

 いいことだと言っているのだから、土方さんもとってもらえばいいのに。

「俺は、遠慮する」

 もしかして、やっぱり怖いのか?

「大丈夫ですよ。魂抜かれませんから」

「うるせぇっ!」

 やっぱり、怖いらしい。

「とにかく、行くぞっ!」

 と言う事で、近藤さんの写真をとるお供をすることになった。


 祇園にある写真館についた。

 着くなり、近藤さんは顔を白く塗られた。

「な、なんだ?」

 土方さんも真っ白になった近藤さんの顔を見て驚いていた。

「顔をこうやって白くしないと、綺麗にうつらないのですよ」

 写真館の人が説明してくれた。

 現代に残されている近藤さんの写真は、何事もなかったかのようにうつっていたけど、本当はこんな苦労があったのね。

「女性は使いますか?」

 写真館の人にそう聞かれた。

 えっ、女性?

「うちでは、一緒にうつす女性を用意しているのですよ。だいたいが、祇園の芸妓なんですがね」

 そ、そうなんだ。

 そう言えば、坂本龍馬の友達の中岡慎太郎が女性とうつっていた写真もあったなぁ。

 二枚あって、もう一枚の方も一緒に写っているとされているのだけど、黒く塗りつぶされているんだよね。

 後で調べたんだけど、この写真館、その中岡慎太郎も撮っていたらしい。

 これを土方さんが知ったら、絶対に隊士を数人ここに潜入させていただろうなぁ。

 知ったのは後のことなので、仕方ない。

 で、近藤さんは、喜んで女性をつけると思いきや、

「いや、女性はいらない。わし一人でいい」

 と言った。

 どうしたんだろう?

「近藤さんは一応妻子がいるからなぁ。そんな写真を撮った日には家族に見せられねぇだろう」

 土方さんがそう言った。

 そうだった、妻子持ちだった。

 女性とニコニコとうつっている写真を見せた日には、家庭崩壊の危機が訪れるってわけか。

 そして、近藤さんは写真機の前へ。

 表情が硬いのは気のせいか?

「近藤さん、緊張しないで自然体で行きましょう」

 私が声をかけたけど、よけいに緊張させてしまったらしい。

「緊張させてどうすんだよ」

 土方さんに怒られてしまった。

 それから写真撮影が始まったのだけど……。

 現代の感覚で言うと、あっという間に終わりそうな感じなんだけど、さすが江戸時代、あっという間に終わらなかった。

 写真を写すのに、十秒ぐらい動かないでジイッとしていないといけないらしい。

「しばらく動かないでください」

 と言われ、なぜか私たちまで息を止めてしまった。

「あ、息は止めなくてもいいですよ」

 そう言われて、三人でそろって息を吐き出すと、

「動かないでっ!」

 と言われてしまった。

 写真を撮るっと言うのも大変なんだなぁと思った。

「動かないでいると言うのも大変ですね」

 私が土方さんにそう言ったのだけど、それが写真館の人にも聞こえたみたいで、

「これでもまだ短くなったほうなのですよ」

 と言われてしまった。

 そ、そうなのか?

 後で調べてみたのだけど、なんと二分ぐらいかかっていたらしい。

 二分も動けないなんて、考えられない。

 そんな人のために、首おさえと言って、首を動かないようにおさえる道具もあったらしい。

 すごいな、江戸時代。

 そんなわけで、近藤さんの写真撮影は無事に終わった。


 屯所に帰ると、なんと、お師匠様が来ていた。

 しかも、近藤さんの部屋でお茶を飲んでいた。

「な、なんでいるのですかっ!」

蒼良そら、師匠に向かってそれはないじゃろう」

 だ、だって、あまりに突然だったから、驚いたじゃないかっ!

 何かあったのか?

「今日は、いいものを渡そうと思ってじゃな」

 そう言って、白い紙を近藤さんと土方さんに配り始めた。

 なんだろう?

 土方さんの横からのぞいてみると、なんと、近藤さんと土方さんがお茶を飲んでいる写真だった。

「なっ! 何だこりゃっ!」

 土方さんも近藤さんも驚いて、同時にそう言っていた。

「俺はここにいるのに、ここにも俺がいるぞ。どういうことだ?」

 土方さんは写真を見ながらそう言っていた。

 近藤さんは、驚きすぎて固まっていた。

「写真ですよ」

 突然、こんなものを持ってこられても驚くよね。

「写真だとっ! いつの間に撮ったんだ? しかも、場所は写真館じゃなく近藤さんの部屋じゃないかっ!」

 今度はお師匠様の顔を見て土方さんが言った。

「この前来た時にスマホで撮ったんじゃ。よく撮れているじゃろ?」

「すまほ?」

 お師匠様、スマホはこの時代にありませんから。

 ちなみに、この写真もここにあってはいけないんじゃないのか?

 というわけで、私は近藤さんと土方さんの手から写真を回収した。

「ちょっとお師匠様と話をしてきます」

「な、なんじゃ、蒼良っ!」

 嫌がるお師匠様の手を無理やり引っ張り、近藤さんの部屋から退出した。


「わしがせっかくスマホで撮った写真を印刷したのに」

 それって、現代に帰らないとできないことだろう。

「もしかして、現代に帰りましたか?」

「この前、スマホの充電をしに帰ったぞ」

 スマホの充電ぐらいで帰るとは、この人は、私がこの時代にとどまって苦労しているのに、何回現代に帰っているんだ?

「タイムマシン、壊れませんか?」

「わし以外の人間がのると、壊れやすくなるんじゃ」

 そ、そうなのか?

「もしかして、しょっちゅう帰ってます?」

「いや、たまにじゃ。スマホの充電が切れた時だけじゃ」

 それって、しょっちゅう帰っていると思うのですが……。

「あのですね……」

 一言文句を言ってやろうと思い、口に出したのだけど、

「それより、なんで写真を回収したんじゃっ!」

 と、逆に怒られてしまった。

「あれは、近藤さんたちに刺激が強すぎますよ」

 ただでさえ、魂が抜かれるとか騒いでいたんだぞ。

「そんなにいい出来じゃったか?」

 ほめてないからっ!

「とにかく、写真はだめです。うつすのもだめですよっ!」

「わしが個人的に楽しむ分にはいいじゃろう?」

 ま、それぐらいはいいか。

「いいですよ」

「よし、じゃあさっそく新しい写真を撮ってこよう。そう言えば、沖田の写真がまだなかったな」

 お師匠様は、喜びながら再び屯所の中に入って行った。

 人の話、聞いてたか?


「あれは、何だったんだ?」

 部屋に戻ると、土方さんがすごい勢いで近づいてきた。

 思わず後ずさったら、壁にぶつかってしまった。

「あ、あれですか? 写真です」

 土方さんは私が未来から来たことを知っているから、話しても大丈夫だろうと思い、話した。

「未来では、誰でも簡単に写真が撮れるのですよ」

「写真って、近藤さんが今日撮ったやつだよな?」

「そうですね」

 簡単に言うとそうなるかな。

「あんなにはっきりとうつるのか。近藤さんの写真が出来上がるのが楽しみだな」

 いや、今日写した写真はあんなに綺麗にできていないと思うのですが……。

 そう言おうと思ったけど、土方さんが嬉しそうな顔をしていたので、言えなかった。

 ま、いいか。

 

 お師匠様は、沖田さんの部屋に行った後、私のところに来た。

「沖田に、薬を渡しといたからな」

 薬って……。

「結核の薬ですか?」

「そうじゃ」

 よくもらえたなぁ。

「現代に帰った時に、わしの弟子で医者をしている奴に沖田のことを話したら、快く協力をしてくれて、薬を調達してくれたんじゃ」

 私たちのことを話したのか?

「よく信じてもらえましたね」

 普通に話したら、ぼけたかと思われるだろう。

「わしの弟子じゃからな。じゃあ、わしは帰るぞ」

 そう言ってお師匠様は帰っていった。

 私は、薬をもらった沖田さんが気になったので、沖田さんの部屋へ行った。


「確かにもらったよ。毒薬」

 いや、毒薬じゃないから。

「でも、前回の毒薬と違うんだよね」

 えっ、そうなのか?

「見せてください」

 沖田さんは、私に薬の袋ごと渡してきた。

 袋は現代でもらうあの薬の袋だった。

 中を見ると、カプセルの薬は一緒なのだけど、色が違った。

 前回のカプセルは赤色だったような……。

 今回はオレンジ色だった。

 なんでだろう?薬が変わったとかって聞いてないよなぁ。

 お薬の袋の中をのぞいてみると、説明書も入っていた。

 その説明書は、現代の薬局でもらうものだった。

 オレンジ色のカプセルの薬の写真があり、その横には、効能が書いてあった。

「痴呆症……」

 その効能の文字を思わず口に出してしまった。

「ちほうしょう? なにそれ」

 沖田さんに聞かれてしまった。

 要するに、お師匠様のお弟子さんであるお医者さんは、私たちの話を聞いて、とうとうこのジ……いや、お師匠様もぼけたかと思って、この薬を出したんだろう。

 全然信じてくれてないじゃん。

「沖田さん、薬を間違えたらしいですよ。これは私が預かります」

「そうなんだ。前と違う毒薬なんだね」

 だから、毒薬じゃないから。

「ところで、ちほうしょうってなに?」

 沖田さんに聞かれた。

 私は、薬が使えないとわかって落胆して説明するのが面倒だったので、

「うちのお師匠様みたいな人のことを言うのですよ」

 と言って、沖田さんの部屋を後にした。

「ふうん」

 沖田さんの部屋の中から、その一言が聞こえてきたのだった。

 わかったのかなぁ?

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